第十章「水賊」23


「いいですか、愛とは二人で培った時間に比例してより深くなっていくものなのです!」
 今回の水賊討伐の一件で長時間に渡りあたしを散々取り調べてきた担当の騎士が、突然そう切り出してきた。
「私はあなたを取り調べるにあたり、ありとあらゆる事を聞いてまいりました。そして二人きりで同室する事、既に数十時間に達しております!」
「はぁ……それで?」
「つまりぃ! 私とあなたの間に生まれた愛の芽生えはお互いを知り合い、時間と空間を共有することでより確固たるものとなったでしょう。ずばり、今ここに私はあなたと変わらぬ愛を抱いて一生涯を共にする事を宣言いたしますぅぅぅ!」
「全力でごめんなさいだあァァァ!!!」
 つまりはあたしに気があるから無理やり長時間の取調べをしてきたわけか。……職権乱用もここまで度が過ぎると完全に憎しみに変わってしまいそうだ。
 もちろん、そんな求愛は鞘付きショートソードを顔面に叩きこんでお断りした。愛の欠片も芽生えているはずない。違法に疑いをかけられて、違法に取調べを受けて、違法に長期間拘留されて、それでも相手は一国の騎士なのだからと我慢していた鬱憤を叩きつけられた男は、キッスを求めて突き出していた顔の真ん中にカウンターを食らって後方へと仰け反り、そのまま一回転して床へ落っこちた。
「テメェ、一人でなに先走って血迷ってのた打ち回ってやがる!」
「この裏切りモノがッ! 騎士団の恥さらしめ! 抜け駆けしないと誓い合ったのを忘れやがって!」
「男所帯の俺たちのすぐ傍に五人もこんなに可愛い子がいてくださってるんだぞォ!」
「たくやちゃんが機嫌損ねたらどうしてくれる!」
「レディーの扱いを知らない貴様なんか今日の晩飯全員分奢りだ、馬鹿野郎!」
「よし今日は宴会だ、飲むぞ歌うぞとことん騒ぐぞォ! どんだけ飲んでも、払いは全てこいつ持ち!」
「オォノォォォ! それがしはそれほどお金を持ち合わせてないでござるよォォォ!!!」
 その後、仲間内で集団リンチさながらに取調官は殴る蹴るされ……あたしへ掛けられていた嫌疑も晴れる事になり、ようやく今回の事件の何もかもが解決する。
 そしてその夜、宿では慰労を兼ねた無礼講の宴が催されることとなった―――



「お待たせしました。ガンモ鳥のサツマ魚の唐揚げ、二十人前追加です」
 宴会と言っても、やると決めたのが昼を過ぎていた時点だったので準備なんてろくに出来るはずもない。場所はあたしや騎士団の人たちが宿泊している宿の一階の食堂でいいとしても、お酒はともかく料理は量を優先したあり合わせの皿を用意するのがやっとだった。―――が、宿屋の女将さんだけでなく綾乃ちゃんも料理を手伝っていると知れ渡るや否や、騎士たちは大皿がテーブルに置かれる前にまるで奪い合うかのように料理へ群がっていく。
『うぉおおおおおおおっ! 綾乃ちゃんは俺たちの女性不信を癒してくれる清涼剤さぁあああああっ!!!』
 そう叫びながら料理を貪る騎士たちの背後で金色の髪がざわめくほど魔力を昂ぶらせた美里さんが剣を抜いてるけど……あたしはあえて何も言わない。その足元に蹲る、酒の勢いに任せて不埒な行い――と言うほどでもない親しみを込めた接触コミュニケーション――を働いた末に全身をビシバシ叩かれ足の裏に踏まれて恍惚の表情を浮かべている騎士数名の姿を見てしまうと、とてもじゃないけれど声をかける勇気を絞り出せなかった。
 その一方で、大きなメガネがチャームポイントである恵子さんはパートナーである美里さんとは対照的に上手く男性陣とコミュニケーションをとっているようだ。
「うん、フライなのに脂っこくなくて、素材の美味しさがよく出てる。どうです、皆さんも食べてみません?」
『は〜〜〜い♪』
 ………女性に弱いにも程があるぞ、騎士さんたち。
 恵子さんが座っているテーブルには貢物の如く料理とお酒が並んでいるけれど、それ以上に目を引くのが恵子さんとの“何か”を期待する騎士たちの目だ。魔道師ローブの下はそれほど露出のある服ではないものの、料理を口に運び、グラスを傾けるたびに腕に当たってプルプルしているボリュームのある膨らみには、今にもボタンが弾けるんじゃないかとか、グラスのワインがこぼれてビチャビチャに濡れて透けて見えるんじゃなかろうかと言う、傍から見ればくだらなくても男からすれば大マジ真剣な期待を抱かずにはいられないものがある。
 ―――にしても……舞子ちゃん、まだ姿を見せないんだな……
 見知った顔と言うと、食堂の隅っこで「我輩はかわいいお嫁さんが欲しかっただけなのである…」と空っぽの財布を握り締めて落ち込んでいる取調官の騎士がいるけれど、あれはひとまず論外だ。
 今夜、あたしの部屋で……そう約束をした後、舞子ちゃんは宿の破壊はそのままに慌てて街へ出かけていたようだけれど、この宴会には現れていない。もっとも男性嫌いで女性が好きな舞子ちゃんが男性社会に生きる騎士たちの人生を掛けたアプローチの場ともいえるこの場所に来ると考える方がおかしいのかもしれない。
 それでも舞子ちゃんと楽しく食事できる機会はこれが最後かもしれないかと思うと、顔を見れないのが少し残念だ。なにせ明日になったら……もう顔もあわせてくれなくなるのだから。
「どうしたね。浮かない顔をしているが、悩み事でもあるのかね?」
 にぎやかな雰囲気には似合わない感情が顔に出ていたのだろう、同席していた騎士団長さんにそう言われ、あたしは悩んでいる素振りを押し隠してワインの瓶を手に取った。
「団長さん、お注ぎします」
「これはどうも。キミのような美人に酌をしてもらうと、飲みすぎてしまっていかんな」
 お酒の酌は娼館で練習させられている。感情と表情を切り離して笑みを浮かべながら差し出されたカップに瓶を傾ける。
「……ワシのような老人には若者の気持ちは理解してやれぬかも知れぬが、悩みは一人で背負い込むものではないぞ」
 ―――さすがに。この人には上辺だけの笑顔じゃ誤魔化しきれないか。
 人生経験の差なのだろうか、あっさり笑顔の下の感情を読み取られてしまうと、怒ったり悲しんだり悩んだり、そんな風に思うことも馬鹿らしくなってくる。あたしはため息を一つ突いて肩から力を抜くと、あっという間に空っぽになった団長さんのカップへもう一度お酒を注いだ。
 もっとも団長さんと相席させてもらっている事で、悩みの一つは解消されている。いくら無礼講だからといって、一番偉くて怒ると恐い騎士団長さんのすぐ傍であたしを口説きにかかってくるほど勇気ある騎士もいない。それに団長さん自身も人間が出来ているので、一緒に食事をして会話をしても特に不快に思うことは無く、むしろ楽しく安心して料理に舌鼓を打つ事が出来ていた。
 ―――心の余裕があるからこそ、舞子ちゃんのことが頭から離れないのだろうけれど……
「そんなにあたしって悩んでるように見えます?」
「……水賊の首領の逃走、フジエーダの街を襲撃した首謀者はいまだ見つからず、なぜか宿の二階の廊下がボロボロになっておる。そのどれもが原因のように思えるが原因ではなく、となれば……部屋にこもったままの彼女のことかね?」
 そこまで読みきるか!?……あたしの心の中を読んでいるのかと疑ってしまいそうなほど的確な言葉に驚きが顔に出てしまい、それを見た老騎士が少々意地悪そうな笑みを口元に浮かべてワインを飲む。
「これでもわしはああいった部下たちと三十年接してきているからな。よく似とるよ、女のことで悩んどる時の顔とね」
「えう………ど、どちらかと言うと騎士さんたちに迫られすぎて困ってるから悩んでるとか判断しません? あたし一応女なんですけど……」
「しかし目が階段に向いておるよ。上には今、一人しかおるまい? なに、そういった感情が出るのは若い証拠じゃ、恥ずかしがる事もあるまいて」
 だけどそこまでズバズバ刺激されるとき恥ずかしくなってくる。取調べでは口を割らなかったのであたしが元々男だと知らないだろうから、女と女で……と思われているせいだからだろうか。
「……で、やはり連れてはいかんつもりかね? 話では随分と慕われておったのだろう? それにキミも、命を賭けて水賊のアジトから彼女を救い出した。……二人旅が三人旅になるだけの事。しかも女三人だと楽しくにぎやかになると思うぞ」
「でも……あたしと一緒だと、また危険な目にあわせちゃいそうだから……って、とっくに一人、そう言う目にあわせてるのに言う台詞じゃないですよね」
 あたしと舞子ちゃんの関係が恋愛や愛情の類なのかは別として、悩みはただ一点、連れて行くか行かないかだ。―――既に自分の中で結論を出しているのに、悩みは消えずにいつまでもあたしの心の中にわだかまってしまっている。
「あたしはひどい事をしようとしてて、きっとそれで舞子ちゃんは泣いて、悲しんで、スゴく傷つくと思います」
「そこまで分かっているなら連れて行ってやればいい。そう決めたのが本人なのだから、例え傷つこうが命を落とそうが、それはキミが責任を負うことではあるまい」
「でも……あたしは傷ついて欲しく無いって思ってます。それに……舞子ちゃんは、何も知らないから」
 あたしは自分のカップを満たす液体に口をつける。程よい酸味と甘味が唇と舌と喉を湿らせる……酔わないためのオレンジジュースだ。
「綾乃ちゃんはあたしの事を“知って”付いてきてくれてます。でも舞子ちゃんはそれを“知らない”。口では言えなくて、もし言ったら……正直に言っちゃうと、嫌われるよりそっちを知られたく無いって思いの方が強いんです、あたし」
「……やはりまだ秘密を抱えておられたか。モンスターを呼び出し、たった一人で山賊と水賊の両方を壊滅して見せた力……只者ではないと思ってはいたが」
 洞察力の鋭いこの老騎士なら、あたしが取調べでも話さず隠している事があることぐらいは読んでいただろう。―――その事を追及されるのも覚悟の上で心中を吐露したのだが、騎士団長はカップをテーブルに置くと大きく身体を伸び上がらせ、口を開いた。
「むぅ……いかんいかん。美人の酌でついつい飲みすぎてしもうた。これでは明日の朝には今夜聞いた事は全部忘れてしまっておるだろう」
「団長さん……」
「悪いがワシは先に休ませて貰うとするかの。アジト跡の調査でいささか疲れもたまっておるし―――どれ、最後にいっぱい注いでもらえんか?」
 その言葉を断るはずもない。差し出されたカップにお酒を注ぐと、年齢を感じさせない豪快さで一気に煽り、人の良い老騎士は中身を飲み干してしまう。
「いや、久しぶりに上手い酒だった。たくや殿、このたびの貴殿の活躍により部下から一人の死者も出さずに終えることが出来た。改めて感謝するよ」
「いえ……あたしも財宝を知らずに隠し持ってたりして、話をややこしくしてすいませんでした」
「かまわんかまわん。むしろ水賊どもに持ち出されなかったのだから全て良い。―――ではこれから先の旅の無事を祈っているよ………酒は〜飲んだら〜酔っ払えぇ〜〜〜っとくらぁ」
 ほ、本当に酔ってるのか?……お世辞にも上手とは言えない陽気な酔っ払い歌を歌いながら、騎士団長さんは階段を上がって自室へと引き返して行く。
 ―――さて、あたしはどうするか。
 千鳥足の老騎士の背中が見えなくなるまで追っていた目を周囲にめぐらせると、既にあたしの周囲にはお酒や料理を手にした若い騎士たちが詰め寄っていた。
 ………これを全部相手にしなくちゃいけないわけ?
 いっそあたしが男だとここでぶちまけてしまいたい……だけどこれ以上のトラブルもゴメンだ。真実を口にした途端、この場に巻き起こるカオスが想像できない以上、できるだけ平穏に平静かつ穏便に事を済ませてしまいたい。
「はぁ……しょうがないなぁ……」
 と、口から漏れた諦め気味の言葉を了承と受け取ったのだろう、騎士たちから歓声が上がると、我先にとテーブルに貢物ならぬ料理の山が出来上がり、乱戦さながらの席取りゲームが繰り広げられる。
 そんなに女に飢えているのかと、普段は国と民衆の溜めに戦う騎士たちを軽蔑の目で見つめながら、あたしはポツリとつぶやき甘い妄想を打ち砕く。
「言っとくけど、おさわり厳禁だからね」








 ―――ふぅ……ちょっと飲みすぎたかな………
 しつこい騎士たちが全員酔いつぶれるまで宴会が続いたので、自室に戻ったときには日付はとっくに翌日になっていた。
 騎士たちも今ごろは階下の食堂で空瓶を枕にイビキをかいていることだろう。あたしよりも先に自室へ引き上げていた綾乃ちゃんも料理と給仕の疲れで隣の部屋で寝息を立てており、もう一つ上の階に泊まっている美里さんと恵子さんは……二人一緒の部屋なので、ついつい口では言えないようなシーンばかりを想像してしまう。
 ―――口では言えないような事をし世としてるのは、あたしも一緒なんだけど……
 「今夜、あたしの部屋で…」と舞子ちゃんと約束をしており、準備もすでに整った。……だけどどうにも落ち着かず、舞子ちゃんが部屋に来るのを待っているだけでそわそわとしてしまう。
 考えてみれば、女の子を部屋に呼ぶなんて言う一大イベントは初めてなのだ。意識するなと言う方がおかしい。
 アイハラン村で生活している頃、同世代の周囲の男女が次々と結ばれていく中で、そんな恋愛関係のイベントとは無縁な生活を送っていた。それが人生どう間違ったのだろうか、身体が女になった途端に王女様の静香さんには部屋で待ち伏せされて、美由紀さんには温泉で迫られて……あたしの人生、どこかで道を踏み間違えてしまっているような気がしてならない。
 けれど今回は、あたしの人生における嬉し恥ずかしの一大事件であるにもかかわらず、気分はかなり重たい。その理由は、舞子ちゃんに“嫌われなければならない”からだ。
 ………女の子に好かれたいと思ったこともあるけれど、嫌われようとするなんて……ううう、なんて罰当たりな。か、神様はどうしてこんな意地悪を……
 あまりの不運と自分の下した決断にため息が止まらない。あたしの“男に戻るための旅”に舞子ちゃんを連れて行く事は出来ないし、舞子ちゃんには“もう一人のお姉様”に会うと言う旅の目的がある以上、共に旅をしていくにはかなりの無理があるのだ。
 だからと言って、一緒に旅をしない方がいいと説明をしても舞子ちゃんは聞いてはくれないだろう。それどころか、昼間のように暴走してしまう危険性だってある。裏返せばそれだけあたしが慕われていると言う事なのだけど、素直に喜べずに胸を締め上げられる苦しみに耐えているのが現状だ。
 ………だから嫌われて、舞子ちゃんの方からあたしから離れるように仕向けて……だけど、本当に女の子へこんな方法しちゃっていいのかな……
 「女の子に嫌われる方法を教えて!」と言って、いかにも女王様っぽくて経験が豊富そうな美里さんにいくつか手段を教えてもらったけれど、それを舞子ちゃんに対して実行しなければならない……のだけれど、正直気が進まない。確かに嫌われはするだろうけれど、一生ものの心の傷を舞子ちゃんに与えてしまいかねないからだ。
「あんなこと……本当にしてもいいのかな……」
 迷いながらも頭に思い描く光景に興奮し、考え事をしながらそっと股間へ指先を滑らせていた。
「ん………」
 お酒の酔いの火照りか、それとも舞子ちゃんが来るのを目の前にして昂ぶっているのか、ズボンの下では大きな脈動が繰り返され、軽く触れた場所からジィン…と痺れにも似た疼きが広がっていく。布地を押し上げる盛り上がるのラインを下から上へとなぞり、気分の重さとは裏腹に脈打つ“それ”の節操の無さにため息を突いてしまうけれど、往復する指先は動きを止める事が出来ず、ズボンを小山のように押し上げている存在をくすぐり続けてしまう。
「くふぅ……! ひ、久しぶりだから………ぁ……んゥ………!」
 待ちきれずに一人で始めてしまう恥ずかしさを下唇を噛み締めて押し殺す。もう片方の手を男性にはとても見えないふくよかな乳房へ滑らせると、シャツの上から指を食い込ませる。
「んゥウウうううウッ!」
 半球状の膨らみはもう既に完全に張り詰めていた。指を押し返す心地よい弾力もさることながら、乳首もビンビンに勃起し、服越しにもしこり具合を確かめられるほどに存在を主張してしまっている。その突起を二本の軽く挟んで軽く弄ぶと、重たい快感が背骨を反り返らせ、待ちきれずに燻ぶっていた身体が自慰で感じてしまう恥じらいの中で急速に燃え上がってしまう。
 ―――舞子ちゃんに“しちゃう”事を想像して……そろそろ落ち着いてないと、このまま触ってたら本当に暴走しちゃいそう……!
 けれど手の平は吸い付くように乳房へと押し付けられ、重たい膨らみを押し上げる。悩ましく鼻息を漏らし、舞子ちゃんを待つイヤらしい身体をくねらせても、もう完全に火の付いてしまった興奮は抑えきれない。―――そしてそんなタイミングで、得てして扉はノックされるものなのだとすぐに思い知らされる事となった。
「ふあぁ…いッ………!」
 コンコンと扉を叩かれる音を聞いた瞬間、反射的にわななく唇を離してしまい、喘ぎ声と緊張とが混ざり合って微妙に裏返った声が出てしまう。
 絶対に舞子ちゃんには聞かれただろうな……始まる前から早速かいた恥ずかしさを、我に帰って咳払いをしてとりあえずなだめる。それから深呼吸をキッチリ三回してから、はやる心の手綱を引きながら扉へと歩み寄ると、震える指で鍵を開ける。
「お……おまたせ、舞子ちゃん――――――へ?」
 扉を開けると、なぜか目の前は妙にギザギザした壁だった。何で急に壁が?……首をひねりながら視線を上に向けてみると、廊下の天井ギリギリの高さから、鼻と口とが大きく前にせり出した爬虫類に似た恐ろしい顔があたしの事を見下ろしていた。
「……………………………化け物ォォォおおおおおおおおおお!!?」
 夜分遅くに大声を上げて申し訳ありません。とは言え、あまりに突然の出来事です。
 目の前にいるのがモンスターだと気付くや否や、あたしは後ろの壁まで全速力で後退さっていた。
「なんで? どーして!? どーゆーわけでこんなところに迷い出たぁああああああっ!!!」
 背中が壁に触れると、足元にはまとめて置いておいた荷物一式が。そこからショートソードを掴み上げる。
『ちちち違うんですぅ〜! 舞子ですぅ〜! お姉様、落ち着いてぇ〜!』
「………へ?」
 剣を鞘から躊躇無く引き抜き、魔力剣の一撃で吹っ飛ばそうと両腕を振り上げた直後、舞子ちゃんの声が謎のモンスターの中から聞こえてくる。
「少しだけ待っててくださいぃ〜……あ、あの、出来ればこっちを見ないでいて欲しいんですけどぉ……」
 それはちょっと無理な話と言うものだ。とりあえずモンスターが襲い掛かってくる様子はないけれど、単に部屋の入り口から入ってこれないだけかもしれない。男の人に襲われるのとはまったく別の意味での身の危険を感じている以上、いくら舞子ちゃんの声が聞こえてきていても目を逸らすわけにはいかなかった。
 ―――あれ? なんかあのモンスター、どこかで見覚えが……
 部屋の灯かりが小さなランプ一つと言うこともあって認識に少々時間がかかったけれど、扉の前にいるのは昼間に舞子ちゃんが竜鱗と竜玉で組み上げたリザードマンもどきだ。―――確か、舞子ちゃんの言葉によると“ドラゴンニュート(竜人)”らしいけど。
 それが何であたしの部屋を訪れたのかと訝しがっていると、リザードマンもどきの表面を覆う竜鱗がポロポロと剥がれ落ちていく。まさに呼び名どおり、ウロコのように一枚一枚剥がれていく竜鱗は床に落ちる事無くランプの灯かりを反射してキラキラと輝いている。そのきらめきが増えるに従い、次第にリザードマンもどきの腹部に大きな穴が空いていき、空洞の胴体の中には………なぜか舞子ちゃんが入っていた。
「………サプライズにも程があると思うんだけど。そんなにあたしを驚かせて楽しい?」
「違います、違うんですぅ〜〜〜! あの、舞子、お姉さまのお部屋をお尋ねしようと思ったら、緊張しすぎて足が動かなくなって、それにこの格好で廊下に出ようと思ったらやっぱりあの、は…恥ずかしくて………」
 つまり動けないから運んでもらったのか……簡単にまとめてそう解釈するあたしの目の前では、喉元から腹部にかけて完全に開放されたリザードマンもどきの中から舞子ちゃんが外へ出ようとしていた。けれど緊張と恥ずかしさでまだ足が上手に動かないらしい上に、舞子ちゃんの足が床に届くにはリザードマンの足の方が少々長い。そのせいで足を真下に伸ばして四苦八苦している内に透けるほど薄いネグリジェがめくれ上がり、舞子ちゃんには不似合いではないかと思うほどきわどいデザインにショーツに包まれたお尻が丸見えになってしまっている。
「舞子ちゃん、大丈夫?」
 本来であれば美味しい光景だと観察させてもらいたいところだけれど、このままだと舞子ちゃんはひっくり返りそうで放っておくわけにもいかない。剣を鞘に収めてから近づくと、こちらに背中を向けている舞子ちゃんを後ろから抱きかかえて床へと降ろした。
「あ、あの、あの、ありがとうございます、お姉様ぁ……♪」
 舞子ちゃんにとってはあたしはさしずめ、危ないところを助けてくれた王子様……ならぬお姫様と言うところだろうか。両足で床を踏みしめると舞子ちゃんの口からは大きなため息がこぼれ、決してランプの灯かりのせいではない赤みを帯びた顔であたしの方へと振り返った。
「安堵してるとこ悪いけど……これ、どうするの?」
 疲れとお酒で宿内のほとんどの人がぐっすり眠り込んでいるのか、先ほどの騒動でも誰も起き出してきてはいないのは幸いだけれど、廊下にこんな恐ろしげなリザードマンもどきを放置しておいていい理由にはならない。
「片付けなさい」
「でもぉ……ふ、二人でいるところに誰も来て欲しくないし……」
「もう一度言います。片付けなさい」
「はぁい……」
 反論を許さないしっかりとした口調で言うと、舞子ちゃんもしぶしぶと頷いてくれる。それが切っ掛けになったのか、亜人の形を保っていた無数の金属片はバラバラになり、ふよふよと宙を漂い、横へ―――舞子ちゃんの部屋のほうへと移動していった。
 ―――厄介ごとが一つ片付いたけど、それにしても……舞子ちゃん、とんでもない格好で……
 竜鱗と竜玉を部屋へ戻すためなのだろうけれど、舞子ちゃんは扉を軽く占め、隙間から顔だけを覗かせてあたしへはお尻を向けている。けれどその後姿は、寝巻きと呼べないほどに丈が短く肩も露わにむき出しにしているネグリジェに包まれており、あたかもあたしを誘惑しているようでもある。普段の幼い印象からは想像できないほどにお尻はいい形をしており、ピンクのネグリジェとピンクのショーツとに彩られて実に扇情的だ。ウエストにも太股にも無駄な贅肉など一切無く、それなのに胸やお尻のボリュームはグラマーだと言ってもいい。
 ほぼ理想的と言えるボディーラインを目の前に無防備に見せ付けられ、あたしの下腹にズンッと重たいモノが流れ込む。舞子ちゃんはまだこちらを振り向かない……生唾を飲み込み、一歩前へと踏み出したあたしははやる胸を押さえつけジッと時間が過ぎるのを待つ。
「お姉様、終わ―――キャンッ!」
 綾乃ちゃんが振り返ろうとしたのが始まりのタイミングだ。
 女性は乱暴にすれば……部屋に来てお風呂にも入らせずに襲い掛かられるのがイヤなのだと美里さんに聞いているけれど、それとは別に沸き起こる衝動に、あたしは身を委ね……油断している舞子ちゃんを扉へと乱暴に押し付けてしまう。そしてそのままネグリジェをめくり上げて後ろからショーツの中へ手を差し入れる。
「や、お姉様、そんないきなり……あ、ああ……ん…えっち……い、ひあっ………!」
 舞子ちゃんの足首の内側に自分の足を差し入れて強引に膝を開かせると、あたしの指は股間の下を通って割れ目に触れる。小柄な体には十分すぎるほどボリュームのある膨らみを扉に押し付けさせて腰を後ろへ突き出させ、触れる前から湿り気を帯びていた舞子ちゃんの大切な場所へ指先を滑らせると、お尻のお肉がキュッと締まって唇から可愛らしい喘ぎ声がこぼれてくる。
「敏感だね……ふふっ………」
 始まってしまうと、舞子ちゃんを待っている間ずっと胸にわだかまっていた重たい気持ちは消え去ってしまい、代わりに全身がゾクッと震え上がるような高揚感があたしを支配していく。ショーツをズリ降ろし、熱のこもった割れ目を割り開くように指を滑らせ、往復するたびに内側の粘膜へと少しずつ擦りあげ……深い場所へ指が至るほどに舞子ちゃんは細い背中を震わせてむせび泣き、ショーツからむき出しにされたお尻を震わせる。
 どうやらエッチな気分になっているのはあたしだけじゃないらしい……嫌われなくちゃいけない状況で喜んでいいのかはわからないけれど、沸々と込み上げてくる感情は抑えようが泣く、あたしは空いている手でぎこちなくズボンのチャックを下ろしながら、責める手の指四本を舞子ちゃんの秘所へあてがい、円を描くように撫でまわした。
「きゃふぅん! ま…舞子の割れ目が、ひ、広がっちゃいますぅ〜!」
 四本の指の段差が横へと動けば陰唇とクリトリスが連続してはじかれ、縦に動けば割り開かれて露わにされた粘膜を一気に擦りたてられる。
 時に激しく荒々しいほどに舞子ちゃんの綺麗な形をした秘所をこね回し、時には包み込むようにやさしく揉みしだく。特にクリトリスには念入りに愛液を塗りつけ、二本の指で形作る長い溝の間を滑らせると舞子ちゃんの背中がググッと反り返り、あたしの手の平にシャワーのように愛液をお漏らししてくれる。
「あぁ…こんな………舞子ぉ……お姉様のお手手でイっちゃうますぅ〜……と、扉に押し付けられて、立ったままイっちゃうんですぅ〜……!」
 唇からは自分の状況に酔いしれるような言葉が溢れ、細い腰がくねり悶える。
 そろそろ頃合かな……そう判断したあたしは舞子ちゃんの耳元へと唇を寄せると、扉に押し付けて体を支えていた舞子ちゃんの左手に自分の手を重ねる。
「指なんかじゃイかせない……舞子ちゃんはもっと気持ちのいいものでイかせてあげるから……」
 囁かれた言葉に、アクメを迎えようとしている舞子ちゃんの表情から笑みがこぼれる。そこであたしは蜜だらけになった右手を秘所から引き離し、激しい愛撫から開放されて一息ついた舞子ちゃんの手を取り……あたしの股間へと導いた。
「………え? こ…これ、なんですかぁ〜……?」
 舞子ちゃんの少し間延びした声がわずかに硬くなっている。けれどそれも仕方ないだろう。位置からしてあたしの秘所に触れると思っていた手の中に、硬くて、熱くて、ビクビクと舞子ちゃんのアソコに負けないぐらい大きく脈打つものを握らされたのだから。
「ふふっ……なんだと思う? 乱暴に扱っちゃダメよ。形を確かめるなら優しく、そっと……ね」
 ―――女の子にこんなことさせてるのに……頭がおかしくなったんだろうか。ものすごく……興奮しちゃうよ……
 ただ軽く握り締められているだけなのに、舞子ちゃんの手の中の“モノ”は先端をさらに膨張させてしまう。もう耐える事も限界かと感じているのに、舞子ちゃんの手指で作られた筒を犯すようにあたしの腰は前後に動いてその“モノ”を出し入れしてしまう。
「ヒッ…!?」
「そんなに恐い? 見てもいいんだよ。舞子ちゃんには……ずっと黙ってたあたしの秘密、見せてあげるから………」
 きっと舞子ちゃんの頭の中にも“モノ”が何かはある程度想像できているはずだ。だけど「あたしの秘密」と言う言葉に心を揺さぶられると、手から離す事の出来ない“モノ”へと恐る恐る視線を向けていく。
「………な、なんで……お姉様、どうして………!?」
 舞子ちゃんの顔に浮かぶ表情に次第に恐怖に彩られていく。その変化を目の当たりにし、今まで感じた事もないような高揚感に包まれたあたしは、驚き動きを止めた舞子ちゃんの耳元に駄目押しの言葉を囁いてしまう。


「今夜はあたしのおチ○チンで、舞子ちゃんのお望みどおりに可愛がってあげるから……寝かせてあげないよ………♪」


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