06「あなたになら…」


 じっくり時間を書けて熟成させた恋愛感情よりも、一目見たその瞬間から互いに意識しあって短時間で結ばれてしまう場合、勢いに任せて盲目的なまでに激しい行為に陥る危険性がある。
 雷に打たれたような衝撃に導かれるまま、一気に好き合ってしまった相手が裸で目の前にいても、頭の理解が追いつかないのに加えて、昂ぶった感情が理性をすぐには修復できないほどに崩壊させてしまう……普段はグリグリ瓶底眼鏡をかけているせいで女の子にもてた経験なんて一度もなかった神奈は当然のようにそんなパニックに陥ってしまったのだけれど、ここにもう一人、神奈に負けず劣らず緊張して困惑して混乱している人間がいた。
 神奈に組み伏せ荒れるようにベッドに仰向けになっている高菱弥生、その人である。
(わ…わかっています。愛し合う男性と女性がどのような事をするかなんて、最近なら幼稚園児だって知っていますわ!)
 まずはめしべとおしべをくっつけて、受精して、お腹が大きくなったら赤ちゃんが出来て……と、弥生の頭の中では、肝心なところは幼稚園児が描いたお絵かき並みのリアリティーでしか表現されていない性知識がエンドレスで反復再生されているだけで、一人の男と一人の女がどういう体勢でチョメチョメするのかと言う具体的かつ実践的な知識は何一つとして想像できないでいた。
(わたくしは、た、高菱家当主、高菱弥生です! そ、それが、だ、男女の営みなどと、そんなことで何を困惑しているのですか!)
 高菱家と言う誇りを胸に、弥生は自分に強くそう言い聞かせる。……が、緊張しすぎて今にも目をまわして倒れてしまいそうな神奈の表情を見てしまうと、激しい胸の高まりと共に愛おしさが溢れ出してしまい、それ以上何も言えず、何も行動できなかった。
(は、恥です、何も出来ずにお見合いし続けているだなんて……メイドたちを可愛がる時には、一度もここまで緊張したことなんてなかったのに……)
 今にも張り裂けそうな胸の鼓動をなだめつつ、自室のベッドの上でご褒美として、そしてお仕置きとしてメイドたちの身体を弄んだ記憶を、パニックが酷くなっている頭の奥から引っ張り出す。紺色のメイド服をやさしく脱がせ、期待に膨らんでいる乳房を思うがままにこね回し、指と舌、時にはバイブなどの道具も使って何人も可愛がってきたのだ。
 それなのに神奈の小さな身体に覆いかぶさられただけで、例え相手が首相だろうが大統領だろうが物怖じしない弥生の心は、年頃の女の子となにも変わらなくなってしまう。好きな男の子と肌が触れ合うだけで顔を赤くして緊張して、口も聞けなくなって、それなのにその先を……ただ好き合っているだけでは満足できずに、肉体的に結ばれる事を求めてしまうのだ。
『あ、あの―――』
 何とか振り絞った弥生の声が、それまで一言も声を出さなかった神奈の声と重なり合う。それほど二人は息があっていると言う事なのだけれど、弥生はカーッと顔を赤くすると、神奈の顔を見ていられずにプイッとそっぽを向いてしまう。
「な……なんですの、神奈。先におっしゃいなさい」
「え、で、でも、先輩……じゃなくて、や…弥生さんも……その……」
「わ…わたくしのものになると了承したのは神奈なのですよ! だから、わ、わたくしが先にと言ったら先に言うんです!」
 思わずそう叫んでから、神奈を物扱いする気持ちなんて欠片も持ち合わせていなかった弥生は激しく後悔してしまう。生まれてからこれまで未経験の恥ずかしさを神奈に気づかせないために口走った言葉だったのだけれど、気付いた時には、
「ご…ごめんなさい……」
 と、高菱家の邸内にいる誰もが聞いたこともないような素直な声で、謝ってしまっていた。
「謝られたら、僕が困りますよ……弥生さんは悪くありませんし……」
「でも……」
「それに………い、いけないことしようとしてるの…僕のほうだから……」
 二人ともすぐ目の前にいる相手の顔がまともに見れずにチラチラと目を向けながら恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。そうして何度も弥生が小さく喉を鳴らして唾を飲み、露わになっている豊満な乳房の前で手を組んだまま神奈が口にした「いけないこと」をしてくれるのを恐さ半分期待半分で待ち続けていると、神奈は前髪で目元が隠れるほど俯いてから意を決して顔を上げる。
「僕……今、頭の中で物凄くエッチな事を考えています」
「――――――……ッ」
 それは一体どんな事なのだろうか……女同士で弄ぶ側ならまだしも、知識も経験もない男女の営みでの「物凄い事」なんて弥生には想像もつかず緊張感が身を包み、けれどそれと同時に神奈にそれほどまでに愛してもらえるのだと言う確かな喜びが込み上げてきてしまう。
(そんな……と、当然です。わたくしは、わたくしが愛した相手から求愛を受けるぐらいで、よ、喜んでなんか!)
 主導権を握られ、神奈の言葉と態度に一喜一憂する自分が許せない。歯を食いしばって唇を閉じると、そっぽを向いて神奈にイジワルしようと思い、そう決めたのに、絡み合った視線を逸らす事も出来ないまま、神奈に触れる事を拒むように胸の前で絡み合わせていた両手の指を解いて、これでもかと真上に向けて盛り上がっているたわわな膨らみを差し出し、端正な美貌を強張らせる。
「神…奈……」
「もう……止めたって止まりません。僕だって……お、男の子なんですから……」
 好きな女性を前にして、それでも恥ずかしくて、嫌われたくなくて、頼りない知識をフル動員して上手くする方法を探してみたけれど何一つとして思いつけず、ついに我慢の限界の方が先に来てしまった神奈は、わずかしかなかった弥生との距離をさらに詰め、柔らかくも熱い唇を情熱的なまでに強く押し付けてきた。
(か…神奈の唇が……先ほどキスはしたばかりなのに……)
 密着した二人の唇がよじれて絡み合い、唾液に濡れる粘膜が小さくも卑猥な音を響かせて擦れあう。求められている……それならいっそこのまま蕩けあう事も、いっそ神奈になら食べられてしまっても良いとさえ思い始めるほどに少年との口付けに酔いしれていると、弥生は唐突に全身を固く強張らせる。
 神奈の右手が弥生の乳房に指を食い込ませていた。普段は絵筆を持ってキャンパスに風景画を描いている神奈の手の平は、とても手の平に収まるはずもない膨らみを、その弾力を確かめるように何度も握ってはこね回す。
「………、ッ〜〜〜〜〜!」
 今まで乳房に触れた事がないとは言わない。メイドたちとの戯れの際にも幾度となく揉みしだかせて快感を楽しんできたけれど、自分たちの主人の身体を乱暴に扱うことなどできるはずがないメイドたちの愛撫は繊細そのもの。美術品を扱うかのような手つきでやさしく弥生にご奉仕してきたのだが……それと比べれば、神奈の手つきは乱暴と言っていい。五本の指を駆使してたっぷりと中身の詰まった乳房の形が変わってしまうほどに揉みたて、指と指の隙間から乳肉が絞りだされるほど強く握り締める。
「あっ……あァ………ぅんん……なにこれ…ひッ……んゥ〜……!」
 次第に鼻息を荒くしながらGカップの膨らみを押し上げ、今度は膨らみの頂点で怯えるように小さく震えている突起を指先に摘まんだ神奈は、弥生の唇から離れた口でお腹をすかせた赤ん坊のように勢いよくむしゃぶりつき、右の乳首も根元から先端へスリスリ擦りあげながら、本来“吸い付かせる”ためについている固く尖った先端を顔を乳肉にうずめるように押し付けながらジュルルルッと音を響かせてすすり上げた。
「ひあァん! そんな、げ…下品な……んクゥ! か…かんな……やめっ…んッ! んあぁぁぁ!」
 卑猥な乳房愛撫に感じる強烈な羞恥心で頭の中を焼き焦がされながら、弥生は身体をよじらせ、反らせた喉から喘ぎ声を迸らせる。
 今まで一度として白い肌に指を食い込まされたり乳首が取れてしまうかと思うような吸引を受けた事のない弥生は、同時にメイドたちによって性感をある程度開発されてしまっている。何も知らない乙女のままであれば見せる事もなかった恥ずかしい姿も、聞かせる事もなかったはしたない声も、何もかも神奈の前にさらけ出し、全身に雷のように駆け巡る鋭い快感美に何度も繰り返して背中と声を跳ね上げてしまう。
「こんなの……わたくしじゃありません! わたくしは、こんなに、は…はしたなくなんて……いッ、いや、もうやめて、神奈、それ以上はもう…も、揉まないでぇ………!」
 金髪を揺らめかせてイヤイヤと首を横へ振る弥生だけれど、そんな年上の美女をチラチラと見上げながらも神奈は乳首から口を離そうとはしなかった。学園の男子であれば誰もが目を奪われ、女子であれば誰もがうらやむ早熟の豊乳は、神奈が揉めば揉むほどに負けじと弾力を増して指を押し返し、蕾が開いたかのように甘い香りを漂わせ始める。身体をよじるたびに二つの膨らみはプルンプルンと肉感的に弾み、それを無理やり押さえつけて乳房全体の大きさと比べればとても小さな乳輪を頬張ると、股間で暴発寸前にまで昂ぶっている男の本能が更なる刺激を受け、どれほど弥生が懇願してもやめるにやめられないでいた。
「かん…なァ………」
 その上、学園では才色兼備の完璧な淑女である弥生が、強気な態度を保とうとしながらも恥ずかしそうに身悶え、今にも泣き出しそうな声を上げるのだ。そんな弥生を前にすれば、神奈でなくても襲わずにいられるはずがない。けれど色事に疎い金色の髪の麗嬢はその事を理解しておらず、今はまだミルクの出ない乳房を搾りたてられ、唇と舌とでチュウチュウレロレロと乳首を弄ばれるたびに、羞恥に打ち震えながら色っぽく懇願の言葉を搾り出しては、さらに神奈を勢いづかせてしまう。
「そんな…に……あああァ…! ああッあっ、わ…わたくし……あ…も…もう……か、神奈、神奈ァァァ!」
 弥生の乳房へ顔をうずめるように唇を左右に往復させ、二つの膨らみを唾液まみれにされた弥生がそう叫んでしまった瞬間、神奈は屹立した乳首の根元を甘噛みしながら噴出すように先走りを溢れさせている肉棒をグリッと押し付けてしまう。幸か不幸か、二人の下半身の間には神奈が着ていたシーツが挟まっていて局部が直接触れ合う事はないものの、固く大きく充血した肉棒が突き破らんばかりにシーツを押し込むと、いやが王にも弥生は下腹部にも意識を向けざるを得ない。そうして愛しい神奈の名前を何度も繰り返しながら腰をくねらせていると、弥生の反応が次第に熱を帯び、時折ヒクン…ッと身体を震わせ、恥ずかしくて口には出来ない喜びと快感に股間からトロリと濃厚な粘液を滲み出させてしまう。
(どうしてこんなに、乱暴に扱われてわたくしが感じてしまうの!? 神奈だから……神奈だからこんなに、こんなにィ………!)
 決して男に媚びる事などしない弥生だけれど、おもむろに乳房から顔を上げた神奈が両乳首を同時につねり上げた瞬間、激しいと思っていた今までの乳房愛撫が夢心地であったかと思うほどに吊り上げられた膨らみの先端から強烈過ぎる快感が神経を掻き毟る。
「ふァ――――――――――――――――――!!!」
 やっと胸への刺激に慣れ始めていたところへ突然の鋭い痛みに、ベッドへ押し付けるように後頭部を反り返らせ、一回り大きく張ってしまった膨らみを打ち震わせる。大きな釣鐘のように乳首の一点で吊り下げられた乳房に涙を滲ませるほどの痛みを感じるけれど、小刻みに乳首をひねられ、乳房の下側の付け根に神奈が顔を押し付けて舌を滑らせると、今度は一転して声を震わせるほどの気持ちよさと、思わず神奈の前で痛みに屈した声を上げてしまった恥ずかしさに、背骨に火箸を突き刺されたみたいに瑞々しい身体を熱く火照らせ、痛みが即座に快感に変換されてしまうようになる。
(そ…そんなのおかしいですわ! 痛いのに気持ちがいいなんて…そんな……そんなこと、あるはずが……あ…ああああああァ!!!)
 尖りきった乳首を高い位置で固定されたまま乳房に神奈の舌と唇が滑ると、口付けの感触が生々しいまでに刻み込まれた膨らみの内側で血管が波を打つ。そして乳房の先端を摘み上げられた時と同様に突然指を離された乳房はたゆんと弾んでから元の形へ戻るけれど、ネットリと唾液を唾液を塗りたくられた曲面に十本の指を食い込まされ、ニュルンニュルンと繰り返し絞り上げられる感触に、弥生は声も出せず、神奈の為すがままに身を委ねながら快感のスロープを駆け上って行く。
(胸だけでイかされる……そんな、信じられ…やぁあ……ッ! 神奈…わ、わたくしは……違うの、淫らな女などでは、決して、いや、ダメ、ふッ…はぁあぁぁぁ―――――――――ッ!)
 生まれて初めて“男”の手に触れられて、誰にも見せたことのない戸惑いの表情を覗かせながら、腰を跳ねるように浮き上がらせる。そんな弥生の腰の上から左側へと下半身をずらした神奈は硬くしこった乳首を捻りあげては引き伸ばし、母乳の噴出孔のコリコリとした感触を思う存分味わいながら、
「そ、そこは――――――!?」
 弥生の下半身を覆うシーツの上から、女の子の一番大切な場所に左手を押し込み、つぷりと指先を秘唇に押し込んだ。
「ひあ、んッ、あ…はウッ! そ、そこ…んはあァ、やめ……んっんんんゥ……ダ…メ……ダメぇぇぇ…!」
 秘唇に触れたはいいが、そこからどうやって女性を喜ばせればいいのかまでは神奈には分からない……が、布を纏わせた指でスリットを上下になぞると次々と愛液が溢れ出して布に染み込み、蜜の爆ぜる淫靡な水音とムワッと立ち上る湿り気が弥生の太股の間に充満し始める。
「お…お願い…もう…わたくし……神奈、ダメッ! あ…だめ…だめえぇ、あ、あぁあああァ………!!!」
 迸った絶叫を唇に右腕を押し当てて強引に押し殺したのと同時に、それまで必死に堪えていたオルガズムが一気に爆発する。神奈の左手を股間に挟んだままではあるけれど、とっさに太股を締め付けながら右へと身をよじり、自分の恥ずかしい瞬間を出来るだけ見せないようにと背中を向けるが、
「ひッ、か…んなァ……そこは、そこは触っちゃ、あァ―――――――――ッ!!!」
 逃げるから追う……それは当然の摂理だ。弥生に夢中になっていた神奈は弥生が大きく身をよじった訳に気付きもせず、膝を伸ばして左乳房の乳首を咥えたまま弥生の背中を追いかける。そして行き場をなくした右手を弥生の金色の髪を抱きしめるように背中へと回すと、そのまま脇とベッドの隙間へと手を差しいれ、尖った乳首を押し込むように右の膨らみへ左手を押し付ける。
「神奈、あ…ああアァ…! もう…わたくしは……わたくしは……あああァ! あはあぁあぁあぁァァァァァ!!!」
 トドメとばかりの神奈の指先がクリトリスを捉え、乳首と同じと思ったのか、シーツを巻きつけるように人差し指と中指で挟んでキュッとひねりを加える。それが引き金になって涎を滴らせる唇と膣口とアナルとを激しくわななかせると、お尻に押し付けられた神奈のペ○スを意識しながら、緊縮させてしまった膣口からまるでお漏らししたかのように愛液を噴出してしまう。太股の内側とシーツはグッショリと濡れてしまうけれど、愛撫に集中している神奈は薄布の下の絶頂噴出にすぐには気付けない。膝をよじらせ、虚空に焦点の定まらない瞳を向けて絶叫を迸らせる弥生は、オルガズムの最中にも破裂寸前のように膨らんだ乳房を揉みしだかれ、唇で甲虫に吸い上げられた乳首を舐め転がされ、噴射に連動してビクビクと震える股間の肉芽を二本の指に弄ばれてしまい、ついには涙を溢れさせながら神奈の頭を抱き寄せて泣き悶えてしまう。
「許して、許してぇぇぇ! わたくし、もう、壊れ、るゥゥゥ〜〜〜〜〜〜!!!」
「へ……? え、あ、うわぁ!!!」
 少し遅れて、神奈が弥生の様子がおかしい事に気がつくと、慌てて両手の愛撫を止めて離れようとする……けれど、弥生の左腕で乳房に押し付けるように頭を抱きかかえられており、右手も弥生の体の下では、簡単には離れることも出来ない。弥生を押しのけでもしなければ離れられないのなら……それならばと、絶頂に打ち震えている弥生の体に腕を回すと、弥生とは比べ物にならないほど薄い胸を背中に押し付ける。
「弥生さん……」
「かん、なァ……んッ、〜〜〜………ッ!!!」
 背中いっぱいに神奈の存在を感じた弥生はだらしなく開きっぱなしになっていた唇をキュッと引き結ぶ。何度も何度も身体を弾ませ、自分の身を案じてくれている神奈と肌を擦り合わせると、弥生は身体を逆によじって神奈をベッドに仰向けに押し付け、無我夢中でその唇にむしゃぶりついた。
「んん、んゥ、んんん〜……………」
「んむゥ……ふふふ、今度は弥生さんがキスで落ち着けたみたいだね……♪」
 長いオルガズムがようやく収まったばかりで、神奈の可愛くからかう言葉にも言い返す余裕がない。自分よりも小さな神奈の胸にドクンドクンと脈打っている乳房をギュッと押し付けて首に腕を回すと、喘ぐ唇を耳の裏に押し付け、好きになった人の香りを胸いっぱいに吸い込んで呼吸を落ち着ける。
(………あんなに乱暴に扱われて一方的にイかされてしまうなんて……それなのに、ちっとも悔しく感じないどころか嬉しくさえあるのが……やっぱり悔しいですわ)
 耳たぶの裏に吐きかけられる吐息にくすぐったそうに身をよじる神奈をさらに困らせるように腕に力を込め、たっぷりと弄ばれた乳房を強く押し付ける。すると弥生の思惑通り、神奈は顔を真っ赤にして何も言えずに動けなくなる。それでほんの少しだけ自尊心を回復させた弥生は、
「ッ〜〜〜………!」
「………? 弥生さん、どうかしたんですか?」
「な、何でもありませんわ。神奈は何も気にせず、わたくしに従ってればいいんです!」
「は…はぁ………」
 言えない……神奈には知られてはいけない。
 一旦身体を起こそうとした弥生だが、強引に神奈の疑問を封殺して再度ギュッと抱きついて話を誤魔化す。神奈の肩に顎を乗せるように密着しているのでばれていないけれど、今の弥生の顔は興奮よりも困惑と恥ずかしさで真っ赤になっていて、先ほどからしきりに太股をニュルルルっと擦り合わせていた。
 そう……自分でも信じられないほどの量が噴き出してしまった愛液は、お漏らし同然に弥生の股間を濡れそぼらせているのだ。
 ある意味、神奈と一つに繋がる準備はもう出来あがっているけれど、神奈に弱みを見せたくない弥生にはビショビショに濡れてしまっている股間をさらけ出す事なんて出来るはずがなかった。
 密かに何かで拭おうかとも考えたけれど、ベッドの上にあるのは弥生の絶頂液を受け止めたシーツだけ。ティッシュはベッド横のテーブルに備えてあるけれど、神奈と抱き合っている位置からは手が届かないし、それに何より、
(拭きたくない……と思っているわたくしはどうかしてしまったんでしょうか?)
 神奈に感じさせられた証でもある股間の湿りを拭ってしまうと、そこで“何か”が一度終わってしまうような気がしてならない。一旦区切りを迎えてしまうと、勢いのままにここまで進んできてしまった神奈との関係までが切れてしまいそうで、その思いが弥生の心に葛藤を生んで、気づいた時には進む事も引く事も出来なくなってしまっていた。
 それに……
「んっ……ま、まって、もう少しだけ休ませて……」
 顔を真っ赤に火照らせている神奈にとっても、今の状況は生殺しもいいところだ。胸には育ちの良過ぎる豊満なGカップが横にはみ出るほど押し付けられており、弥生の艶かましい吐息に耳からうなじをくすぐられっ放しなのだ。身動きの取れない状況で興奮だけが天井知らずで昂ぶり続け、思わず両手を伸ばして弥生の尻を鷲掴みにし、プリプリの尻肉を性衝動のままにこね回そうとした矢先に制止されてしまっては、
「そんな……ぼ、僕、弥生さんに、う…あうぅ………」
 と泣き出してしまうほどに情緒不安定になるしかなかった。
(わたくしだって………か、神奈になら…私の全てを見せてもいいと、そう決めたのは、わたくしなのだし……大丈夫、神奈にだったら……わたくしは………)
 涙に震える神奈の声を耳にした弥生は、自分に何度も「大丈夫だから…」と言い聞かせながら、緊張の面持ちで顔を上げると、ふと視線が神奈の訴えるような涙目と絡まりあい、ズキューンと胸をピストルで打たれたかのように衝撃を受けてしまう。
「………泣くほど…私と“したい”の?」
 問うと、神奈はグッと涙がこぼれるのを我慢して、それでも恥ずかしそうにコクンと頷いた。その返事に喜びで胸いっぱいになってしまうと、恥ずかしさよりも神奈と結ばれ一つになりたいと言う欲求の方が上回り、身体を起こそうと膝に力を込める。
 ………だが、


『ちょ〜っと待ったァ――――――――――――!!!』


 たしか誰も入ってこないようにとしっかり鍵を掛けておいたはずの客間の二枚扉がババンと勢いよく左右に開け放たれる。
「ご主人様にご奉仕せよと、メイドの矜持が迸る!」
「恋の悩みもまかせて安心、呼ばれて飛び出てメイド隊!」
『濡れ場も修羅場も何のその、ご期待通りにただいま参上!』
 ………
 ………
 ………
 突然の乱入者である詩雨と蓬がビシッと伸ばした腕をクロスさせて入り口のところで格好よくポーズを取っている……が、
「ああっ!? な、なんか空気が寒いです! ちょっとこれどういうことよ、詩雨、あんたが言うから恥ずかしいのを我慢して台詞も覚えて決めポーズまでやったのに!」
「おかしいですね。内気で眼鏡で小柄なチェリーボーイだから九分九厘アニメやヒーローが大好きな男の子だと思っていましたが。高菱家メイド隊の情報網を駆使してもなおリサーチ不足だったとは」
「れ、冷静に何言ってるのよ!? あ、あわわわ、ご主人様が恐い目でこっち見てるし、え…えと、か…神奈くんまでもが悲しい人を見るような目で〜〜〜!」
「落ち着きなさい、蓬。私たちがここにきた理由を、もう忘れたの?」
 いざ神奈に濡れてしまっている股間をさらけ出そうとしていたところで思いっきり邪魔されて、弥生は睨むだけで人が殺せそうなほど強烈な殺気を込めた視線を詩雨と蓬に向ける。その視線に武芸百般に通じていながら完全に気圧された蓬は神奈の前で恥をかいた事も相まってしどろもどろになるけれど、詩雨のほうは落ち着き払って扉を閉めてから主人である弥生へと振り返り、紺色のスカートを摘まんで恭しく頭を垂れる。
「弥生様、お手伝いに参りました。ええ、何も言わずとも詩雨には分かっております。―――ではこの詩雨と蓬が、我が主であらせられる弥生様のため、お二人の初体験を見事に成功させるため、早速全力でご奉仕させていただきます」


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