ToLOVEる二次創作小説「トラブル138の11Pあたりから」-前


 ・身体から煙が立ち昇り始めた…!?
→・身体は何事もなく、お礼を述べてその場を立ち去ろうとするけれど…?




 時間も夕食時。女性化したリトが古手川唯の兄、古手川遊(ゆう)に助けられてすぐに日が暮れ、あたりはすっかり暗くなってしまう。
 リトにとっては、触れられるだけでもおぞましい最強の変態である校長の魔の手から救ってくれたのだから、遊には当然感謝しているのだが、あまり女性化している事を人に知られたくない気持ちが先に立ってしまう。さばけた性格の遊ならリトのことを知ったとしてもあまり気にしない、むしろ逆に相談に乗ってくれそうではあるが、女装しているような気恥ずかしさや、胸の辺りの圧迫感や股間の辺りの喪失感も重なっては、とてもそれどころではない。今はヤミに見つからないように一刻も早く家にたどり着き、ララにもとの男の身体に戻してもらうことが最優先事項なのだ。
 だが―――
「へ〜、唯が俺のことを話してたんだ。なんだよアイツ、外でオレの事なんか自慢しやがってよォ」
 なぜかリトは、遊に誘われてファミレスで夕食をご馳走になってしまっていた。
 ―――なんでこんなことになってるんだよ……
 リトは遊に助けてくれた事への礼を述べると立ち去ろうとした……が、その際に「古手川のお兄さん」と口にしてしまったのが、この状況を生み出した原因だった。
『唯の知り合い? 何でオレのこと知ってんの?』
 逆にそう訊き返され、なんと答えたものかと窮しているところに、
『ま、暗い夜道を女の子一人で帰すのもな。よかったらどう、その辺でお茶でもしないか?』
 と誘われてしまい、断りきれずにお茶どころか食事まで一緒してしまっているのだった。
 ―――だって仕方ないじゃないか。助けてもらったのに親切を無碍に断るなんて……って言っても、コレってナンパだよな? 古手川に知られたらどうしよう……
 遊はリトが男だと気付かずに誘ったわけだけれど、そんなことをあの超が付くほど堅物の唯が分かってくれるとは思えない。二人の会話の話題も互いの共通点である唯のことだけれど、高校での妹の話を聞いておかしそうに遊が笑うほど、リトの背中には冷たい汗が流れ落ちていた。
 ―――けど、遊さんと話してるのって結構楽しいんだよな。
 顔見知りの遊に本名を名乗るわけにはいかず、以前リトが女性化させられて同級生の猿山とデートさせられた時に使った「夕崎梨子(ゆうさき・りこ)」と言う偽名を名乗っている。当然その事に気付かれるはずもなく、リトは感謝の意味も込めて「古手川の兄貴」との食事に付き合っていたのだが、話してみると遊に対して抱いていた印象がガラッと変わってしまっていた。
 堅物の唯とは対照的に遊び人風でヘラヘラした印象を受ける遊だが、潔癖すぎる唯が高校で周囲から浮いているのではないかと案じている様子が会話の端々から伺えた。決してただの不良ではないのだと思うのと同時に、リトの目の前で校長を殴り飛ばしてキメてみせた力強い印象も加わり、同じく妹を持つ兄としては憧れさえ抱いてしまう。
 それに何より、女性に対する接し方が上手い。純情すぎるリトでは初対面の女性と気軽に話すことなど出来はしないが、遊はリトの緊張を解すためにあえて話しやすい話題を振り、会話を引き出していく。「喋ったことが古手川にばれたらマズいかな?」と思いつつも、遊の会話のリードが巧みなおかげで、さして罪悪感も覚えず、むしろ時間も忘れて話に花を咲かせてしまっていた。
 ―――この人もオレと同じ「兄貴」なんだよな……
 いずれはリトも妹の蜜柑のことを想い、遊と同じ心境になるのかもしれない……が、その前にはまず兄らしく男の身体に戻りたいと、色々な意味で悲観にくれてしまう。
「それでさ、やっぱあのチームは……って、ヤベ。もうこんな時間か」
 リトがリラックスしたこともあって、話題は唯の事だけではなくテレビやスポーツなどにも広がっていた。中学の頃はサッカー部に入っていたこともあって、リトもその手の話題に思わず食い入っていたのだが、気付けば時計は既に九時を回ってしまっていた。
「梨子ちゃんゴメン、唯の友達をこんな時間までつき合わせちまって。急いで家に送らなきゃな」
 まだ名残惜しい気持ちもあるけれど、“高校生の女の子”と思い込んでいるリトをこれ以上引き止めてはいけないと、遊が席から立ち上がる。それにつられて我に帰ったリトも立ち上がろうとするのだが、
 ―――げっ、ヤ、ヤミ!?
 ふと視線を横へ向けると、道路に面したガラス窓の向こうに歩道を歩いているヤミの姿が見えた。幸い、向こうはこちらに気付いていないようだったけれど、命の危険を感じたリトはテーブルにうつ伏せになり、メニューで顔を隠してしまう。
「どうかしたのか? まさか、さっきの変態野郎か!?」
「い、いえ、そうじゃないんですけど……」
 店内や窓の外に視線を走らせて変態野郎こと校長を探す遊だが、いないのだから見つけられるが無い。それでも姿の見えない校長を警戒している遊に、何とか説明しようと思うのだけれど、
 ………金色の闇って呼ばれてる金髪の女の子が宇宙人で俺を殺そうとしてて……なんて話、誰が信じるってんだよォ!
 むしろ説明したが最後、かわいそうな人を見る目で病院にいくことを進められてしまいそうだ。どうせヤミは店の前を歩いているだけだし、視界からすぐ消えるのだから、あと少しだけここで時間をつぶせばいいだけの話だ。
「で、できれば遊さんともう少しおしゃべりしてたいかなって……」
「ん?……ああ、そう言うこと。俺は別に構わないよ」
 ―――よし、これで後はヤミが戻ってこないのを確かめるまで時間を潰せば……
 ほっと一息をつくリト……だったのだが、遊は席に座り直そうとしない。不思議に思ってメニューから顔を覗かせると、遊はテーブルを回って隣にやってきており、リトの脇に手を回す。
「そう言うことなら場所を変えよっか」
「場所って……マ、マズいんですって、いま外に出るのは!」
「安心しろって。店長、裏口借りるよ。代金はツケといて」
 あたふたするリトを立ち上がらせた遊は、顔見知りらしい店長に声を掛けると、レジに向かわずにスタッフ用の通路を通り抜け、建物の裏側に出る。そしてそのままリトの手を引きながら裏道を通り、大通りを避けて移動する。
 ―――ど、どこ行くんだろ!?
 力強く手を握られていて、遊についていくしかないとは言え、月の光も差し込まない路地裏を奥へ奥へと進んでいると、何処へ連れて行かれるのか分からない不安が胸に込み上げてくる。けれど一方で、握られた手に感じる遊の体温に、ちょっとだけ胸がドキドキして、ちょっとだけ顔が熱くなっているのを感じてしまう。
 ―――なに考えてるんだオレ!? 相手は古手川の兄貴で、よりにもよって男じゃないか!
 けれど意識した途端に心臓が高鳴り、恥ずかしさで全身の血液が沸騰したみたいに身体が熱くなっていく。
「ゆ、遊さん!」
 何処に行くのかを訊きたかった訳ではない。ただ叫ばずにはいられないほど胸がざわつき、大きな声で遊の名前を呼んでしまう。
「心配しなくても目的の場所には着いたぜ」
 そう言って足を止めたのは薄汚れたビルの裏手だった。走ったわけではないけれど、遊と女性化したリトでは歩幅が違い、そのぶん急いだせいで息が少し上がっている。普段の自分には無い大きな胸の膨らみに手を当てて冷たくなった夜の空気を空気を吸い込んでいると、遊はビルの裏口の扉を開けてリトを招き入れる。
「ここは……」
「秘密の隠れ家さ。ちょっとここで待ってな」
 秘密という割にビルの中には電気が付いているし、裏側からは想像も付かないほどきちんと内装も施されている。
 ―――変なところじゃなさそうなんだけど……嫌な予感がするのは何でだ!?
 リトが遊に待つように言われたのはエレベーター前だ。そして遊はと言うと、リトから離れて正面入り口の方へと向かい、そこにある受付でなにやら話をし始めた。
 遊が戻ってくるのにそう時間はかかるまい……けれどその短い時間でも、ここがどこかを特定するのには十分すぎた。
 壁に貼られている各部屋の写真はベッドを中心に物ばかりだし、中には薄暗い室内に鎖や木馬や貼り付け台なんて言う物騒なものが映っている部屋もある。壁際に数台の自販機があるけれど、売っているものは缶ジュースではなく、コンドームやローション、男性用と女性用の下着、おぞましいほど不気味な紫色の男性器を模した謎アイテムなどだ。
 ―――も、もしかしてこれって、いわゆる大人のおもちゃとか言うヤツで……
 顔に熱が点るのを感じながらも、リトの目は紫色の男性器を模した物体――いわゆるバイブレーターへと注がれる。そんな品揃えの自販機を置いている場所だ。リトでなくても大抵の人がこの場所の正体に気づくことだろう。
 ………ここってラブホテルじゃないか―――!!?
 リトの顔から一気に血の気が失せていく。遊がリトをここまで連れてきた理由……それが校長(本当はヤミだけど)からリトを匿うためではなく、リトとSEXをするためだと察しがついてしまったからだ。
 ―――マズいって、それは! 相手が男だってだけでも大問題なのに、よりにもよって古手川の兄貴だぞ!? どうすりゃいいんだよォ!?
 脳裏に“逃走”という選択肢が思い浮かぶ。遊が傍にいない今なら、入ってきた裏口から逃げることも出来るはずだ。―――だが、唾を飲み込んでいざ動き出そうとしたその時、男性と女性のカップルがリトの前を通り過ぎ、先ほどまで観察してしまっていた自販機に歩み寄っていく。
「へえ、色々とそろってるわね。それじゃあ……」
 どこかで聞いた覚えのある声の女性はどこか楽しげな声で、ローションやバイブなど手当たり次第に購入していく。そんな女性の隣にいる男性も、取り出し口に手を差し入れるたびに突き出される女性のヒップに手を伸ばし、スカートの上から撫で回していた。
「気が早いわね……お楽しみは部屋まで我慢できないのかしら?」
「いいじゃないか。ほら、そこに可愛らしい観客もいるんだし」
「あん…♪ 変なところを触らないでよ。もう……ん、んんゥ……」
 もしホテルの外であれば痴漢として警察を呼ばれそうな行為をリトに見せ付けるカップル。スカートの内側に太股に沿って指先を忍び込ませた男に、腰をくねらせて悩ましく吐息を洩らす女性……普段からララを始め、何人もの女性に囲まれているリトだけれど、熱のこもった女性の声に身動きする事も忘れ、直立不動の姿勢で聞き耳を立ててしまう。
「ハァ……それじゃ部屋に行きましょう。今夜は楽しませてよね……フフフッ♪」
 女性の両腕が男性の首に絡みつき、口付けを交わしながら二人はエレベーターに。その姿を目で追うことも出来ず、立ったまま硬直してしまったリトは、
「お待たせ。それじゃ行こっか」
「ひア――――――ッ!?」
 受付から戻ってきた遊に方を叩かれたショックで、奇声を上げた直後に口から魂が抜け、泡を吹きながらその場にへたり込んでしまった―――


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