stage1「フジエーダ攻防戦」47


『ンムゥゥゥウウウウウウウウッ!!!』
 何であたしはいきなり溺れてる!? なんで下から水が逆流してくるのよ!
 地下へと降りる狭い通路を震わせて押し寄せてきた大量の水からは、逃れる場所も手段も体力も無い無い尽くしでどうしようもなかった。蜜蜘蛛を肩に乗せて階段にへたり込んでいたあたしは声を上げる間もなく一瞬で激流に飲み込まれ、男の時より軽くなってる体を上へと向けて押し流されてしまう。
「プアッ! ハァ、ハァ―――ンッ…!」
 水面と天井のわずかな隙間に顔を突き出して貴重な空気を胸に取り入れる。けれど、水面の下では目に見ることの出来ない激しい水の流れが脚に絡みつき、すぐさまあたしの体を水の中へと引っ張りいれる。
 自分でも驚いた事に、あたしはそれに逆らわずに自分から頭を沈み込ませた。
 ―――なんだってこんなところで鉄砲水なんかが起こってるのよ!
 可能な限り肺に空気は吸い込んだ。幾分は落ち着きを取り戻しもした。……とは言え、突然押し寄せてきた水の不自然さには納得が行かない。以前、精神世界で人魚になった時の記憶が脳裏をよぎるけれど、それを「そんなこともあったっけ…」と懐かしんでいる余裕は無く、自分が上を向いているのか下を向いているのかすら分からなくなるほど水の勢いに翻弄される。
 下で何かあったのか……息の続く限りは流れに逆らうまいと決めたあたしが最初に気になったのは、めぐみちゃんやオークたちのことも含め、あたしが辿り着けなかった地下で何が起こったのかと言う事だ。―――てか、その前に、
『ンガボガボガボガボガァアアアッ!!(なんで何度も水に飲み込まれなきゃいけないのよぉおおおっ!!)』
 森で川に突き落とされたのがケチが付き始めてる。いやそもそも、なんか最近のあたしは水回りではあんまりいい思い出が無いぞ!?
 女になる前には湖の真ん中の神殿でバカ魔王に襲われたし、バカ弘二に食料を川へと投げ込まれたし、ゴブリンに輪姦されたし、お風呂場でエッチなことさせられるのは娼館じゃ常識だし!
 けどそんなこと考えるのは後回しだ。体力も魔力も残っていない体は目的地の地下とは逆に階段を上へ上へと押し流されているけれど、まず考えなきゃいけないのは自分の安全だ。時間をかけて降りてきた狭い通路に頭や体をぶつければ水没する前に即死もありうる。とりあえず体のバランスを保って―――
『ブアッ!!!』
 生き延びる方法を模索しようとした矢先に、胸に溜め込んでた大量の空気があたしの口から白い泡となってあふれ出す。
 胸が大きくても空気は溜めれるわけじゃないんだね……ではなく、あたしの眼前に人が浮いてるのを見て驚いて、後先考えずに水中で口を開いておもわず叫んでしまった。
『ベグビビャン!?(めぐみちゃん!?)』
 目の前に上下逆さまに人の顔があれば誰でも驚く。―――あら、逆さまはあたしの方だ。
 地下で何があったのかは分からないけれど、水の中をめぐみちゃんが眠っているように静かに漂っている。そのまま放っておくわけにはいかず、両腕で僧衣に包まれためぐみちゃんの体を抱え込むと、あたしは考えるよりも先に唇を押し付ける。そして肺に残っていた空気を流し込む。
『―――――――』
 反応がない。唇を離すと口移しで流し込んだ空気が泡になって水中にあふれ出すだけで、脱力しためぐみちゃんの体に力が入ることは無かった。
「―――め、めぐみちゃん、起きて、目を開けてぇ!」
 少し冷えてきためぐみちゃんの体を抱きしめたまま、まるで意思があるかのように階段を逆流して行く水流から頭をあげる。通路を震わす轟音が鳴り響く中、何とか息を吸い込むと、眼鏡が顔に当たるのを無視して強引に唇を割り開き、空気を流しいれる行為を繰り返す。
「こ、のぉ……ンンッ!!」
 抱きしめている細い体にはまだぬくもりと弱々しい鼓動が残っている。それを失わせまいと腕に力を込め、何度も口移しに空気を送り込みながら、かばうようにあたしの体を水流の進む先へと向ける。
「―――あ…?」
 宙を舞う。
 あたしとめぐみちゃん、二人の体が水流から解き放たれた。――それは同時に、激しい水流が階段の最上部に到達し、扉を鰤破って中庭へ噴き上がった事を意味している。
 流されてきた勢いのまま、空へと投げ出されたあたしたちの体は神殿の三界の高さにまで上昇していた。
 このまま落ちれば骨折か、打ち所が悪ければ即死。しかも高さは十分ではなくても速度がある。
 上昇が最高点に到達し、もうすぐ夜明けを迎える薄明るい夜空を見つめながら体はさらに回転。視界が上から下へと向き、高さと速度を実感。―――こりゃマズい。飛ばされてる先に石のぶっとい柱がある。
「………ちょっとタンマァァァアアアアアッ!!!」
 こんなメイド服のままで死ぬのはヤダぁぁぁ!……と叫んでいる暇も当然ない。脊柱は猛烈な勢いで直撃ルートをまっすぐ迫ってきており、ぶつかったら確実に死ねそうな固さと速度と角度と高度にめぐみちゃんを抱きしめる腕に力がこもる。
「―――――――!!!」
 胸の中で気を失ったまま動かないめぐみちゃんの、そのか細く弱々しい感触があたしに覚悟を決めさせる。
 ブラウスからむき出しになった胸に、眼鏡の固い感触を押し付ける。―――これだけ大きければちょっとはクッションになる…訳もない。それでもめぐみちゃんをかばい、濡れた髪の毛を両手で抱きしめながら、あたしは柱へと一直線に落下していく。
 大丈夫だ。あたしなら大丈夫だ。ちょっと怪我しても死んだりしない。
 濡れた首筋に後ろから前へと空気が流れる。
 速い。
 逃げる余裕が無い代わりにおびえていられる余裕も無い。むしろ速度の中に感じる緊張感が決意をゆるぎないものとし、意識を明確に研ぎ澄ませていく。
 そして、
 ―――ぷよん
 背中から何か柔らかいものに受け止められる。
 痛みは無い。衝撃も軽微。―――何が起こった?
 まさか頭がザクロのように割れる感触がこんなぷよぷよのはずも無く、どうして助かったのか確かめようと目を開いたときには、あたしは反動で軽く宙へと投げ返されていた。そのままめぐみちゃん共々、中庭一面に広がる水面に「着地」すると、なんどもバウンドしながら水であるはずの波打つ平面の上を転がった。。
「………生きてるんだよ…ね?」
 水面を背にし、体を何度も細かく揺さぶられる。それからゆっくりと視線をめぐらせて周囲を確認すると、あたしとめぐみちゃんの体は、紛れもなく水の上に乗っていた。
「どうなってるのよこれ。水……固まってるの?」
 あたしを飲み込んで中庭まで流れ出してきた水はゼリーのように固まっていて、落下したあたしとめぐみちゃんを柔らかく受け止めてくれていた。手で触れば弾力のある感触が返ってくるだけで、指や手が沈み込む事は無い。
 とりあえず助かったのはいいとしても、この不可思議な現象に首を傾げていると、あたしのすぐ傍に黒装束の小柄な人影が寄り添ってきていた。
「お前も一緒に流されてきたの?」
 あたしが問いかけると、他の四匹のリビングメイルと違って一切喋らない黒装束は頭に当たる部分を頷かせ、そして身を起こしたあたしの背中側の方向を指差した。
「ぶひ〜………」
「オークも無事だったんだ……そうだ、めぐみちゃん!」
 仰向けに倒れて唸っているオークの姿に安堵のため息を突いたあたしは、落ち着きを取り戻すと意識を取り戻していないめぐみちゃんの体を揺さぶった。
「めぐみちゃん、生きてる!? めぐみちゃん!」
「ん……ぅ…ん………」
 ―――よかった、生きてる……
 まだ目覚めてはいないけれど、めぐみちゃんが呼吸を取り戻したことでホッと胸を撫で下ろす。
「ねえ、何が起こったのか説明して―――って、無理だよね、喋るのは」
「………………」
 黒装束を見つめてみても、喋ってくれない相手では何もわからない。四人がかりで喋り捲られるのもうるさくてかなわないけれど、一言も喋れないのも考え物だ。
「オークはあっちで伸びてる上にブヒブヒしか言えないし、蜜蜘蛛も鳴く事ぐらいしか……って、あれ? 蜜蜘蛛は?」
 肩の上にいたはずの蜜蜘蛛の姿が見えない。ブヨブヨの水に埋め尽くされて見た目は大きな池のようになってしまった中庭を見回すけれど、もし水の中に埋まっていたら――と言う表現もおかしいのだけれど――見つけることはかなり難しい。ジェルスライムと同様に黒装束や蜜蜘蛛とは契約による魔力のつながりのおかげで、ある程度存在を感じられたり、感情や言いたい事が分かったりもするんだけど、何故か今はその感覚が麻痺している。もともと明確な意思疎通が出来るほどはっきりした感覚ではないにしても、今はまるで周囲全てから何かの存在感を感じてしまっている。
「水に飲まれておかしくなったのかな……なんか知ってるような感覚ではあるんだけどな……」
 蜜蜘蛛を探したり、オークを起こしたりと、やらなきゃいけないことはいくつか頭の中に思い浮かびはするけれど、溺れかかったせいか、まだ意識の方がしっかりしない。左手……は篭手をつけてるので右手でガシガシ頭を叩いて目を覚まさせる。
「………こんなんじゃ地下に下りていって毒の解呪…とか言ってられないか。めぐみちゃんも気を失ってるし、この水、まだ通路を埋め尽くしてるのかもしんないし」
 ―――と、改めて意識を自分へ向けて見ると、体が幾分軽くなっていた。頭の先から下着の中までぐしょ濡れになったせいか、体の火照りも幾分和らいでいて、オナニーやおチ○チンの事しか考えられなくなっていた頭も思いのほかすっきりしている。
 これなら今すぐにでも動けるかも……と言う考えが頭をよぎる。
 でもすぐにそれを打ち消す。
「今更あたしなんかが手伝える事も無い……か」
 神殿内では今頃、衛兵長を初めとした衛兵のみんな、それにユーイチさんやユージさんが戦っている頃だ。相手は佐野の生み出したキメラゴブリンにミストスパイダー……勝って欲しいとは思うけれど、何とか動けるレベルでしか体の自由を取り戻せてない上に武器も何もないあたしが駆けつけても、たいした手伝いになれはしない。かえって足手まといになるだけだ。
「今は隠れてるしかないのよね……ハァ……」
 まあ、子供の頃から喧嘩になれば逃げて隠れて守ってもらってばかりだったのが、そもそものあたしだ。男の時でもそうだったのに、女になって急に正義感に目覚めました、命をかけて戦いますってなりふり構わず突っ込むのなんて、到底出来るものじゃない。
 もちろん、佐野を相手に逃げたくは無い……けど、出来る事が無い。出来る事なんてせいぜい―――
「ヤらしい事……こんな事しか思い浮かばないなんて、とことんダメ人間街道を突っ走ってる……とほほ……」
 早く男に戻らないと、引き返せないところまで行ってしまうんじゃないか……ひんやり冷たくて気持ちのいい水の地面へうつ伏せに倒れこむ。
「あたしに出来る事なんて……何にも無いのにね……」
 それなのにいつの間にかこんなところにいる事を不思議に思う。とりあえず、もう何も出来ない、しなくていいんなら疲れに身を任せてこのまま眠っても誰の迷惑にならないだろう……そう思って目をつぶると、声とも言えない声が、中庭と神殿とをつなぐ渡り廊下の方向から聞こえてきた。
「き、キメラゴブリン!? わわわ、何でこっちに来てるのよ!?」
 これだけの水が噴き上がって中庭にたまって固まっていれば、誰だって確認しにくるぐらいの事はするだろう。神殿には衛兵のみんなもいるはずだけど、先に来たのがモンスターの方だった……って、何気にピンチですか、あたし?
 既に何度か切り結んだ後なのだろう、体の各所に甲虫に似た甲殻をまとったゴブリンは巨大な水の固まりをよじ登り、あたしを見つけて近づいてくる。
 この場ですぐに動けそうなのは、黒装束とあたししかいない。でも、黒装束の腰の後ろの鞘には中身の短剣が二本ともなくなっている。つまり……武器も何もなしで、あのやっかいなキメラゴブリンを相手にしなければならない。
「………に、逃げた方がいい?」
 あたしが聞いても黒装束は終始無言。首を頷かせたりもしないし横に振ったりもしない。―――それはつまり、徹底抗戦の意思表明? なんかあっち、手の先がトゲトゲの付いた棍棒状になってたりするんだけど……
「は…ははは……………戦略的撤退ぃ!!」
 あたしのもやれる事があった。捕まらないように逃げ切る事だ。
 すぐさま体を起こしたあたしは気を失ったままのめぐみちゃんの手を掴む。黒装束にも手伝ってもらえば運ぶぐらいは出来る……と算段をつけた矢先に、スカートからむき出しになっていた太股に何かが巻きつき、あたしの体はゴブリンたちへと引き寄せられてしまう。
 見れば、巻きついていたのはキメラゴブリンのムカデ状の腕だった。ムチのように絡み付いたそれに引かれるまま、ヌルヌルとした水面(?)の上をあたしの体は滑っていき、もう片方のトゲだらけの腕を振り上げるキメラゴブリンの待ち受けるところへと近づいていってしまう。
「やだ〜! 痛いのはヤダ、せめて死ぬなら布団の上で〜〜〜!!!」
 なんて言っても、佐野に改造されたゴブリンに分かってもらえるはずも無い。腰までまくれ上がったスカートを抑えて下着を隠しながら、それでも涙ながらに叫ぶと……不意に、脚を引く力が急に弱くなる。
 抗える。――そう判断したときには体が動いていた。腰とお尻を基点に自由な方の脚を振り上げてムカデ腕を払いのけると、その勢いのまま体を回転させてその場に踏みとどまる。滑る体を足と手でブレーキをかけ、姿勢を起こすと、そのまま横方向へと飛び跳ねる。
「後は任せた!」
 後ろから黒装束が追いかけていたのには気付いている。
 引っ張っていたゴブリンと、後ろから走りこんできていた黒装束とを結ぶラインから飛び退くと、視認できないほどの速度で飛び込んできた小柄な黒い姿がキメラゴブリンの顔めがけて飛び蹴りを放つ。
 ゴブリンが倒れる。元々不安定な足場だ。中身が空っぽでそれほど重くない黒装束の蹴りででもバランスを崩し、そのまま仰向けに倒れる……が、膝から下を失ったキメラゴブリンの足を見て捕らえていた。
「グギャァァアアアアアアアアアッ!!!」
 倒れた時点で勝負は決まっていた。ある程度の弾力を持っていた水面はキメラゴブリンだけは別とばかりに、水中へ体を引きずり込んだ。それから十秒、キメラゴブリンは必死に抗い、水面を下から殴りつけていたものの、次第にその力と声は薄れ、水面は何事もなかったかのように平面を取り戻した。
「……………まさか……ジェル?」
 いや、さっきのあれはどう見てもスライムの飲み込み方だ。溺れ死んだというより、溶解されて食べられたと言う感じがぴったり来る。
 しかし、「まさか」と言う考えを捨てきれない。
 弾力のある「水面」。あたしのピンチを救ってキメラゴブリンを飲み込んだ「水」。………もし「水」でなければ……ここにある水全て、それこそ中庭を池に変えてしまうほどの水量全てがスライムだなんて……
 でも、あたしがスライムの名を口にした時から、あたしの体の下で変化は始まっていた。
 水面の下から大量の水が移動することで生じる振動が伝わってくる。一分と経たないうちに「水面」の高さが下がり、座り込んでいるあたしの体が中庭の中央へと運ばれていく。
 以前、湖で水分を補給していたジェルが巨大化し、再び収束して小さな球体へと戻ったときの事を思い出す。―――けれど今回は、その収束の仕方が明らかに「球体」ではないことがすぐに見て取れた。
 あたしが中央へと運ばれ、めぐみちゃんやオーク、黒装束までもが一箇所に集められると、中庭を覆う水面に深い切れ込みが入った。
 その数は八本。
 放射状に広がった水の裂け目は地面へと達している。そして分けられた八本の「水」は収束を続けながらゆっくりと持ち上がっていく。
 まるでカニか蜘蛛のように足を踏ん張る。その柱と同程度の太さの脚は次第に細く、けれど密度を濃くしながら鋭角的なラインを作り出して行く。スライムの柔らかい表面ではなく、氷の刃のように鋭く、攻撃的な脚部……そしてあたしたちを乗せた水面がググッと盛り上がっていく。
「はいぃぃぃいいいいいいっ!?」
 中庭を埋め尽くしていた大量の水は、あたしが叫び終える前に巨大な水の蜘蛛へと姿を変えていた。あたしの視点は二階の窓と同じ高さ。建物の屋根に上ったぐらいの高さに慌てふためけば、大蜘蛛の背中から転げ落ちないように背もたれ肘掛けが出てくる気の配りようだ。……って、ちょっと待てい!
「あんた、ジェルなのよね!? 何でいきなり蜘蛛の姿なんてとるわけ? いや、あたしは外見で人……と言うかモンスターを判断……凶悪な外見で凶悪なヤツも多いけど、え〜、とりあえず、バカなあたしに訳が分かるように説明してェ!!」
 慌てふためき、何でめぐみちゃんとかオークが目を覚まさないかと思うぐらいの大声で叫び喚く。ところがお尻の下から伝わってくるのは「あたしの会えてよかった〜」と言う喜びの感情と「あたしに酷い事した奴をやっつけに行く〜」と言うヤル気満々の感情だ。
「だから、ちょっと、説明! 動くよりも先に何であたしがって、うわ、ジェル、ストップ、神殿壊して進んじゃダメぇぇぇ!!!」
 あたしの声は、ちょっと興奮状態にある大蜘蛛の形をしたジェルに辛うじて届く。屋根の上から光の柱が見える方向へ直進しようとしていたジェルを何とかとどめられたけれど、出来たのはそこまでだ。中庭に植えられた木を数本まとめてなぎ倒し、渡り廊下の屋根を盛大に吹き飛ばして方向転換したジェルは、
「出来れば出口からちゃんと出て!」
 と言う言葉を理解したのかしてないのか、敷地の外へと続く裏庭のほうへと周囲の建物や地面に甚大な被害をもたらしながら突っ込んでいった。
 とりあえず―――頑張るのはいいけど突っ込むだけのモンスターを宥めるのが、あたしのやるべき事らしい。
 やれる事が見つかって自分に「よかったね」と言いたいわけではないけれど、下半身をスライムに固定されて逃げることも許されなくなったあたしは、
「あたしと無関係のところでどうにかして―――!!!」
 細かい瓦礫から顔を守りながら、平穏平凡に暮らしていたい心境をストレートに表現してしまっていた。


stage1「フジエーダ攻防戦」48