stage1「フジエーダ攻防戦」40


「ポチ、壊れてる道をたどって行けば神殿に着くからね。頼んだわよ」
「バウッ!」
 ガーディアン=ナイトに踏み砕かれた道を走るポチに跨り、その首筋に手を当てて言葉をかけると、コボルトや獣人のときとは比べ物にならないほど力強い返事が返ってくる。
 ―――けど、あまり無理はさせられないな……
 一刻も早く神官長を連れ帰って魔蟲の毒に犯され、狂ったと言うより性欲の抑えの効かなくなってる怪我人たちを何とかしなければならない。
 そのためにはポチに全速力で走って先を行く神官長を追ってもらう必要があるけれど、魔道師・佐野との戦いでの無理がたたっていて、魔力のつながりから伝わってくるポチの力はかなり弱々しい。小柄な獣人から大柄な獣へと姿が変わった直後の戦闘であった事も影響しているだろう。本当なら今は十分に休ませてあげるべき時だ。
 ―――とは言え、あたしもかなり疲れてるし……どうしてこう言う時に、余計な面倒ごとばかりがおこるのよ……
 佐野への恨み言を心の中でつぶやき、焦る心を押さえ込んで前を見る。
 正面には天へと伸びる光の柱が見える。円柱型魔法陣……広場一面に描かれた魔法陣を基盤にして立体的に描かれた超高度な魔法陣だ。魔力で描かれた紋章は複雑に絡み合い、新たな、そしてより高位の意味を生む。その紋章自体が魔力である以上、存在していられる時間にも限度があるだろうけど、
「ああ……魔力のストックは十分なのよね、あの魔法陣……」
 自分の演じた痴態と、それで衛兵のみんなから搾り出した精液……魔力の量を考えると、頭が痛くなる。恥ずかしさに関しては顔から火が出るなんてものじゃない。衛兵詰め所で顔をあわせた時はそれどころじゃなかったけど……あたしのやった事って、余計に事態をややこしくしたって事か…けど……
 出来る事なら記憶から消し去ってしまいたい出来事だけれど、思い出した途端、股間の奥から甘く感じられる疼きがあたしの体へ広がっていく。ジャスミンさんに弄ばれた後だからだろうか、振り落とされまいとポチの黒い毛並みに覆われた体を力を込めてはさむ両足の付け根が走る振動にあわせてジンジンと痺れてしまう。
「こんな…時だって言うのに……」
 顔をしかめても、ヒクヒクと脈打つ股間の震えは収まらない。むしろ意識すればするほど、行為ゴマもないあたしの体は昂ぶりを再び取り戻し、我慢するために体へ力をいれればいれるほどに股間をポチの毛並みに押し付けるように腰をそらせ、うめき声を漏らしてしまいそうになる。
「ダメ……もっと…静かに走って……んッ……」
 ポチがしなやかに体を伸ばして跳躍。そして着地。―――その振動があたしの体を突き抜けると、堪えきれない快感が膣を強烈に収縮させ、チュプッと、割れ目の奥から熱いものを噴き出させてしまう。
 脚に力が入らない。下着の中のヌルッとした感触が今にも裾から溢れ出そうとするのを感じながら、メイド服に包まれた胸の膨らみをポチに押し付けるように体を前へ倒す。箒を持った右手と何も持たない左手を首へと回し、それでも落ちまいと黒い獣にしがみつく。
 胸が押しつぶされる。あたしがいくら念じてもポチは走り方を緩めず……逆に、どこか興奮したように速度を上げる。
 前を見ていられなくなって、どこをどう走っているか分からない。その間ずっと唇を引き結び、はしたない声を上げないように頑張ってはみるけれど、ポチの体の上で体が揺れ弾み、あたしの体の内側に満ちる官能が増してしまう。
 ぱっくりと口を開いた陰唇から、愛液がとめどなく溢れる。服越しにでも張り詰めた乳房や淫裂に獣の毛並みを擦り付けられる刺激はまるでヤスリにでもかけられているかのように強烈だ。毛並みに沿って体が滑り、反動で戻ろうとすれば何本もの毛先が服を貫いて敏感なクリトリスや肌を刺激されてしまう。まだ一度だけなら我慢もできるけれど、それを繰り返し味わえば理性のタガはいとも容易く崩壊する。
 敏感すぎる場所を何度も擦られたあたしはポチの首元に顔をうずめると、唇を噛み締めながら体を硬直させる。腰が跳ね上がり、売れ膨らんだヒップがスカートを何度も突き上げる。下着の下で膨れ上がって狂おしいまでに疼いている乳首とクリトリスはポチが走るたびに痙攣を繰り返し、股間を押し付けている場所はおびただしいほどの愛液でぐっしょりと濡れ湿っている。
 それでもまだ終わりじゃない。神殿まではまだ距離があり、まだ長い時間この体勢で過ごさなければならない。
 震える体が脱力しようとすると、それを押し留めるように快感が込み上げる。女になってから何度も味わい、それでも受け入れることに抵抗を覚える官能の感覚……敏感な乳首にポチの黒く針のある気が突き刺さり、声を上げないまま絶頂に達してしまう……もう何度登りつめたのかも覚えていない。もしこれがベッドの上だったなら、あたしは相手の男の言うがままに快感を貪り、どんな辱めも甘んじて受け入れている。むしろ自分から挿入をねだり、男の腰の上で腰を弾ませているだろう。
「あ……あた…し………んんッ!!!」
 ポチの体へ押し付けた肉壁が左右へ広がり、膣口の周囲が刺激を受ける。そこを責められたらもうどうしようもない。ビクビクと体を震わせ、痙攣が治まりを見せない陰部から何度も吐淫しながら登りつめたあたしは、そのまま地面へと投げ出されてしまう。
「――――――ッ!!!」
 色ボケしかけていた意識も、地面の上を転がる衝撃でさすがに幾分さめる。
 不意に体の下から消えたポチの姿を捜して周囲に目を走らせると、あたしより少し後ろの位置で、元も獣人姿で大の字に倒れているのを確認する。
「……獣姿のままって訳じゃないんだ」
 変身する獣人……いわゆるライカンスロープと言う奴か。恐らく力尽きて走っている最中に元の姿……獣人の子供へと戻ってしまったんだろう。
「ごめんね。無理させて……」
 倒れるまで頑張ってくれたポチに謝りの言葉を投げかけ、魔封玉へと封印する。この状態でしばらくすれば、体力や意識も取り戻すはずだ。
 ここまで来たら、水の神殿までは走ってもそう時間は掛からない。問題は、ゆるい絶頂を迎えて動きの鈍ったあたしの体の方だ。
「けど…あと少し……」
 早くしないと、めぐみちゃん達が男の人たちに襲われかねない。ジャスミンさんがいるから大丈夫だとは思うけれど、眠っていた静香さんや綾乃ちゃんも心配だ。
「ははは……なんか女の子の事ばっかり考えてる……」
 やましい下心はないけれど、それでもちょっと前……まだ男だった頃のあたしから考えると、かなり気恥ずかしい。
 ともあれ、今は脚を動かす。走る。もう神殿に辿り着いているはずの神官長たちを追いかけて一秒でも早く。
 ………と、今にも落ちそうな意識を何とか引っ張りあげながら走っていると、道に座り込んだ鎧姿の集団に出くわしてしまう。
「なんでこんなところに……」
 周囲を松明で照らし、ピリピリと警戒しているように感じられる。恐らく、あたしより先に出発して神殿に向かっていた人たちのはずだけれど……色々考えながらそちらへ近づいたあたしは、松明の光の範囲内に入った途端、いきなり剣を突きつけられることになる。
「止まれっ!」
「わ、わわわわわっ! タンマタンマ、あたしは敵じゃないってぇ!!」
「お……あんた、たしか鉄の巨人で突っ込んできたメイドの片割れじゃないか」
 多分それは静香さん……と説明しようと思ったけど、説明すれば話がこじれるだけだ。それにこの人にはあたしが誰でも関係ないわけだし。……それに、ここで追いつけたのはかなりラッキーかも。
「神官長はいる? 怪我してる人たちが大変なの、今すぐ神官長に戻って欲しいの!」

「ここに神官長はいない。時間の余裕がないので、無事だった者を率いて神殿へと向かわれた」
「無事って……なにかあったの?」
「………見てのとおりだ。俺達は待ち伏せを喰らったんだ。もう足手まといにしかならない」
 悔しそうな兵士さんの言葉を聞いて、その後ろへ目をやると、誰も怪我をしているようには見えない。何人かは火傷を負っているようだけれど……
「この先の運河に雷を発する亀が何匹もいるんだ。端を渡ろうとしたところで狙い撃ちされて、俺達はこのざま。神官長は防御の魔法が使えたが、ほとんどが電撃を受けて……」
「亀……あ、街の外にいたプラズマタートル……」
 ガーディアンでは街中に張り巡らされた運河を何本か飛び越えてきたけれど、気付かなかった……ガーディアンに電撃なんて効きそうにもないし。
 街の外にいたものをここまで引き入れたのか、それとも別にいたのかまでは知らないけれど、水上にいるプラズマタートルは倒すのも厄介だし、一瞬で飛来する電撃を躱すのも難しい。まっすぐ進んだ先にある橋を通れないとなると、かなり回り道になるし、神官長を追いかけるとなら時間が惜しい……
「なあ。あんた、メイドなんだろ? 怪我人の治療が出来るなら手伝ってくれないか」

「ははは……ま、格好だけはね。それにあたし、急いで神官長にあわなきゃいけないから」
 怪我をしている人たちを放っていくのは後味悪いけど、こっちも急ぎの用がある。それに時間がないのも本当だし、体力だって限界ギリギリ。いつ倒れたっておかしくない。
「そんなわけで、橋はあっちでいいのよね」
「おい! 俺の話を聞かなかったのか。橋の周囲にはモンスターがいるんだぞ!」
 それならちゃんと聞いてます。それでもまあ、なんとかなるだろう。てなわけで無視がどうこういっている兵士の人に後ろ手でひらひら別れを告げて先へ進めば、問題の橋へはすぐに辿り着いた。
「まずは本当に亀がいるかどうかよね……」
 幸いと言うか、ガーディアンの通り道だったこの場所には踏み砕かれた石畳が手ごろなサイズでゴロゴロしている。その内の一つを取って橋の方へと放り投げてみる。
 ―――電撃。
 石が闇に飲み込まれるよりも早く、橋の下に流れる運河から眩いばかりの輝きを放つ電光が飛んでくる。一瞬だったので石に命中したか、石がどうなったかまでは確認できなかったけれど、大勢の人間をまとめて戦闘に不能にした電撃だ。一人で喰らったら生きてる自信はさすがにない。
「あれだけ速くちゃ掃き飛ばすって訳にもいかないよね……」
 かと言って回り道もしたくない。それなら取るべき手段は一つだ。
 あたしは箒を左手に持ち替えて魔封玉を右手に生み出す。そしてその場で軽くジャンプし、一気に駆け抜ける気持ちを昂ぶらせると、手にした魔封玉を前へ投げ、箒を両手で構えながら玉の後を追うように駆け出す。
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜ん!』
『ワイら、魔王様の一の子分!』
『一人一人も強いけど!』
『むらがりゃ誰にも負けはし―――』
「ごめん。後でお詫びする!」
 とにもかくにも、雷は金属に落ちやすい。
 あたしは一つの玉から現れた四匹のリビングメイルを箒の一振りで左右へ打ち分ける。その直後、運河の水面から放たれた電撃が二頭身の鎧たちを打ち据える。
『んぎゃああああああああああっ!!』
『なんや、体がビリビリするのねねねねねねねッ!!!』
『ひどいわひどいわひどいわ、ワイらをおとりに使うのねぇぇぇ!!!』
『魔王様のいけず〜! 鬼〜! 血も涙もない大魔王〜〜〜!!!』
 体を持たないゴースト系には電撃はほとんど効かないはずだ。……って聞いた覚えがあるんだけど……あれだけあたしへ文句が言えるんだから、まあ大丈夫なんだろう。
「本当にゴメン。今、先を急いでるからそこにいる亀たちを押さえつけといて♪」
 橋の上から、連続して電撃を浴びている鎧たちに手を合わせて可愛くお願いしてみる。――けどまあ、これだけじゃまだまだ文句をいいそうだから、ここで伝家の宝刀を使ってみる。
「後でご褒美上げるから。ね♪」
 ご褒美……その言葉を口にした瞬間、水に落っこちて電撃を浴び続けて普通だったらもう死んでそうな四匹の鎧たちがピタッと動きを止める。
『『『『ご褒美……?』』』』
 うわ、こいつ等は何でこういうときはキッチリ言葉がハモるんだか。
『………そのご褒美とやらは、もちろんワイらのリクエストにお答えして……』
 ご想像にお任せします。
『ワ、ワイら、今、チ○ポがないんやけど……』
 それはご愁傷様で。
『やけど…やけど…以前から考えておいたゴーストならではの究極秘奥義で……』
 使用不可だ、そんなもの。
『勝ぁぁぁぁ〜〜〜〜〜つ!!! 亀がなんじゃ。電撃がなんじゃ。魔王様ともう一回イングリモングリできるんなら、ワイはもう死んでもええんじゃあああぁぁぁああああああ!!!』
 あんた等全員死んでるでしょうが。
「そういうわけだから、後はよろしくね♪」
 そうこうしている間に橋を渡り終えたあたしは運河に視線を落としながらウインクを一つしてみせる。
『『『『は〜い♪ あとはおまかせくださいませ〜♪』』』』
 ははは……なんだか後が色々と恐ろしくもあるけれど、これでプラズマタートルの心配はなくなった。電撃を受けながらもまったくダメージを受けた様子もなく戦ってる様子を見れば、神官長を連れて帰ってくる時までこの場所を確保し続けてくれるだろう。四匹はその帰りの時に回収すれば問題ない…と思う。
『おらおらおら、姐さんのご命令じゃ。さっさと死にさらせぇ!』
『世のため人のためご褒美のため、明日は魔王様にあ〜してもらってこ〜してもらってぇ♪』
『添い寝は基本で、風呂の三助に乳房洗いで全身ワックスがけしてもらって、あとはナニしてもらおうかな〜♪』
『気合だぁ! ゴースト状態なら魔王様の、魔王様のアソコに全身入っちゃうことも出来るんじゃないかってウワものすごく幸せな想像してますよボクゥ!』
 ―――も、問題は山積みね…これ。
 いっそ亀と鎧が相打ちになってくれないかなと思いながら先へ進む。
 もうここまで来れば神殿は目の鼻の先だ。
 神官長たちは先に神殿について佐野と戦っているのだろうか? 途中で会った怪我した人たちの中にユーイチさんやユージさんの姿がなかったから、二人も神官長と一緒に行っているはず。あの三人なら十二分に佐野にも勝てるはずだ。何しろあたしでも勝てたんだし。
 そうなると問題は、変な罠とかを仕掛けてないか、と言う事なんだけど……
「ふぅ……近いと思ったけど、やっぱり結構距離があるのね……」
 普段のあたしの体力でも十分走って移動距離ではあるけれど、そこはそれ、今のあたしは体力ヘロヘロだし。それにメイド服って普通の服に比べればそれなりに重武装で重いし、走りやすい服装とはとても言えない。それに肩鎧も着けてる訳で。一時期の体の軽さはどこ行ったんだろうね、本当に……
「――――ッ!?」
 それでも神殿へはもう二・三区画と言うところまで来た時、不意に首筋に痛みが走る。あわてて手で押さえてみると、刺したらしい虫の羽音が耳の傍をかすめて空へと登って行く。
「し…しまった……もしかして、魔蟲に刺された…?」
 刺された場所にはもう痛みもないし、腫れた様子も無い。けど、ここが佐野のテリトリーである事を改めて思い出すと、体の震えを抑えられなくなってしまう。
「もしかして……佐野の奴、まだ生き残ってるんじゃ……」
 そんなはずはない―――と思いたい。神官長には何度も稽古をつけてもらったし、ユーイチさんやユージさんも高レベルの冒険者だ。それがあんな魔道師一人に倒されるとは考えられないんだけど……
 神殿に近づくに連れて、あたしの胸に不安が込み上げる。
 そして、建物の影からようやく辿り着いた神殿前の広場を覗き見た時……あたしは自分の目を疑ってしまった―――


stage1「フジエーダ攻防戦」41