stage1「フジエーダ攻防戦」25


 ううう……このままじゃのぼせそう……
 少し熱めのお湯は疲れた体には少しキツいが心地よい。いつもならため息の一つも突いて頭に手拭でも乗せたいところだけれど、この状況では浴槽の片隅で膝を抱え、呼吸困難を承知で鼻までお湯に浸かるしか取るべき道は無かった。
「王女様、どこか痒いところはありませんか?」
「………ん〜…綾乃に髪を洗ってもらうの…気持ちいい……ん〜……」
 ちらりと背後を……振り返れない。何気なくそちらに目をやってしまいそうな衝動をぐっとこらえる。こらえなければならない。見たらあたしは覗き魔だ!
 今、洗い場では綾乃ちゃんが静香さんの髪の毛を洗っている…ようだった。しかも二人とも全裸…まとっていたものを全て脱ぎ去り、タオルも何も巻かずに生まれたままの姿をさらけ出している。
 こうして目を閉じれば、薄暗い室内で飽きるまで見つめた二人の肢体が……て、そんな事を今思い出しちゃダメだってば。いくら静香さんも綾乃ちゃんもあたしの事を男扱いしてなくても、こ、こういうときは男の維持とプライドで理性を――
「でも…王女様って本当にお綺麗ですね。長旅をされてきているはずなのに、お肌もこんなにすべすべで……」
「………んぅ……」
「す、すみません…大丈夫ですか? どこか変なところに当たっちゃったとか……」
「………ん。気持ちよかったから…声、出ちゃったの……」
「ほっ……じゃあこのまま続けますね。
「………ん。後で、綾乃も洗ってあげる。胸が大きくなくて、洗いやすそうだし」
「それは…ひどいです。私だって好きでこんな胸をしているわけでは……」
「………大丈夫。綾乃のおっぱい、小さいけど綺麗な形してる。私と違って手の平に収まりそうだからいい形。重くないし」
「小さいは余計です…くすん……」
 ―――理性を大崩壊させてしまいそうです。あたしが聞いてるって言うのになんつー話をしてるのよ…いや、それ以前にここまで男扱いされてない現状を受け入れても良いものだろうか……そりゃ、あたしだって静香さんや綾乃ちゃんと一緒に泡まみれで洗いっこなんてしてみたいと思うけど……思うけど……
「―――うっ!?」
 は…鼻血出そう……鼻の奥にツーンてきた。ううう…なんかあたしって、ドすけべなのかもしれない……そりゃ、興味がないといえば嘘になるけどさぁ……
「はぁ……この状況でどうしよう……」
 浴槽に浸かる前に速攻で体を洗ってるかあとっとと出るべきなんだろうけど……いっそ潜行しようか。うん、水面に沈んじゃえば二人の裸を見ちゃうこともないわけだし。よし、それなら早速息を吸って―――
「先輩、お背中をお流しします」
「ばふっ!!」
 湯船に沈もうとした直後、いつの間にか背後へやってきていた綾乃ちゃんに声を掛けられて驚いたあたしは、盛大にお湯へ空気を吐き出してしまう。
「ゲフッ、ゲフッ、鼻にお湯が…ゲフッ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫だから、ゲフン、ゲフン………あっ」
 浴槽から顔を上げ咳き込んだ拍子に……綾乃ちゃんの透き通るような白い裸体があたしの目の前、もうほとんど真下から見上げるような位置から仰ぎ見てしまう。
 そこにお尻を突ければ十分肩まで浸かれる深さの浴槽だ。とはいえ、洗い場からあたしも途へと歩いてやってきた綾乃ちゃんの腰の位置は座っているあたしの肩よりも高い。当然、これだけの至近距離なら湯気も視界を覆うことはできず、綾乃ちゃんの淡い陰りから小さいながらも柔らかそうな胸の膨らみへと続く滑らかな肌が衝撃映像となってあたしの視界へと飛び込んでくる。
「きゃっ!」
 バシャンとお湯を蹴立てて綾乃ちゃんが体を隠しながら湯船に沈み込むけど、後の祭り。一度腕の中に抱きしめて口では説明できないようなイヤらしい事を散々しちゃった綾乃ちゃんのほっそりとした、けれどむしゃぶりつきたくなるようなボディーラインはあたしの目にしっかりと焼きついてしまい、こりゃもうしばらく忘れられそうにないかも……
「あの……み、見ましたか?」
「え〜っと………ま、まあ、女同士だしいいんじゃないかな〜…って。あ、あはははは〜♪」
「う〜……」
 そういえば……前のときは綾乃ちゃんのあそこにはアレが生えてたから、普通の状態では今見たのが初めてなのか……が、眼福だなぁ……
 心の中でグッと拳を握り締め、今の光景を忘れないでいようと誓うあたし。そんなあたしの元へ、うっとりと顔の下半分をお湯につけた静香さんがスィ〜っと滑るようにやってくる。―――さっきまで、あたしもああやって沈んでたんだろうか……
「………今度はたくや君の番。体、洗うの」
「あたしはもういいって。さっきチャチャっと洗っちゃったし」
「え……あれだけでおしまいなんですか? 三分も洗ってないじゃないですか」
「うん。さっきはちょっと急いでたけど、いつもあれとそんなに代わらないわよ。――あ、女になってからは、ちょっとだけ長くなったかな? ほら、胸とかぷにぷにしてるから」
 まあ……時々自分の体を洗ってると変な気分になっちゃうから時間を掛けられないんだけど。とは綾乃ちゃんや静香さんには口が避けても言えない事だったりする。
 それに、娼館にいたときは部屋に簡単なお風呂が付いてて好きな時に入れたし、街の外に出てた間はせいぜい水で体を拭う程度しかできはしない。だからそれほど体を洗うのに時間を掛けてはいなかったんだけど、綾乃ちゃんが「信じられません…」と言うような目つきであたしを見つめながら、微妙な距離をとり始める。
「あたしってばもしかして…なにかヤバいこと言っちゃった?」
「いえ………できれば、先輩も女性なんですからもう少し清潔に為されておいた方がいいと思うんですけど……」
「そ、そういうもの!?」
 あたしが見回すと、綾乃ちゃんも静香さんもコクコクとうなずいている。
「じゃあ…もう一回洗ってくるね」
 正直に言うと髪の毛もちょっとゴワゴワだし。二人がよくそうに来たのならちゃんと体を洗って、そのまま浴室の外へ逃げられると踏んだあたしは、まだつかれお残っている足に力を入れてその場に立ち上がった。
「わっ……」
「………」
 え、なに? なんか視線があたしの体に突き刺さってるんですけど……もしかしてちょっと太ったのがばれた!? まさかそんな、見て分かるほどプクプクになってるなんて、ウソだぁぁぁ〜〜〜!!!
「先輩……スゴく綺麗です……」
 慌てふためいて両手で胸と股間を隠し、こそこそその場を離れようとすると、どこかうっとりとした様子で綾乃ちゃんの唇からそんな言葉が漏れた。
「そ…そんな事無いって。やだなぁ、綾乃ちゃんだってあたしが男だって知ってるでしょ? なのに綺麗だなんだって、やだ、そんなお世辞。恥ずかしいだけだってば!」
「いえ、別に他意はないんですけど……濡れた先輩の体が、とてもきれいだなって思って……」
「………うん。たくや君、前よりも綺麗になってる」
 ひぁああああっ! し、静香さん、何で人のお尻をいきなり掴んで……ひウッ!? わ、割り開いちゃ、ダメだってぇぇぇ!!
 あたしの背後へ回りこんだ静香さんは、お湯の滴るあたしのヒップを両手で鷲掴みにすると、弾力を確かめるように指に力を込めてこね回しながらキュッと窄まったアヌスをさらけ出すように丸みを左右へ広げて行く。
 見られてる……暖かい湯気がお尻の穴をスッと撫で上げ通り過ぎていくと、あたしの体がピクンと震えた。
「………丸い」
「静香さん…あの……」
 あたしが声を掛けても静香さんは手を離そうとはしない。後ろへ向けて突き出された丸みをしっかりホールドすると、いつも以上に敏感に感じてしまう刺激と恥ずかしさに喘ぐあたしの、雫が伝い落ちていくヒップの曲線にカプッと、突然噛み付いてきた。
「ん〜〜〜〜〜―――――――ッッッ!!!」
 固い前歯の感触と口内のぬくもりが柔らかい丸みに触れ、同時にあたしの唇から噛み殺した喘ぎが迸る。チュルッ…とすすり上げる音を小さく響かせて静香さんの唇はあたしのお尻をゆっくりと這い、吸い付いたヒップとは反対側の手でお尻の谷間を下から上へ擦り上げてくる。
「お尻も、前よりも形が良くなってる。張りもある。……んッ」
「舐めちゃ、ダメェ! 吸うのも、噛むのもやめてっ、ンッ、んぁ…ひあ、ひゃあああああっ!!」
 これ以上はマズい……弾力のある肌へ張り付くような舌づかいとアナルへの責め立てに、あたしの心臓は早鐘のように鼓動を繰り返し、全身がお湯のぬくもりとは別の熱気に包まれていく。しかも目の前には事態を飲み込めず、立ったまま喘ぎ始めたあたしを顔を赤くして凝視している綾乃ちゃんもいる。心配そうに、けれど明らかに火照りを帯びた表情に見つめられていると羞恥心が刺激され、それが快感へと変換されてしまう。
「見ないで……しゃぶらないでぇ……や、やぁ……お願い…もうお尻は……クゥんんんっ!!」
 手を付く場所がない。壁は背後の静香さんのそのまた背後だ。お尻を舐められ、擦られて快感を感じるたびに倒れちゃいけないという緊張感が強烈な緊縮を呼び、グチャグチャとシワの一本一本まで洗い磨くかのような静香さんの指の動きにアナルをすぼめ、背筋を伸ばして乳房を震わせながら立ち続ける事しか許されない。
「く…ハッ、あ……!!」
 綾乃ちゃんの視線に晒され、静香さんにお尻の谷間を激しく責められるこの状況で、あたしが火照りを抑えらきれない。お尻の疼きが伝わったかのようにヴァギナが大きく蠢き始めると割れ目から透明な愛液があふれ出し、それを意識するとますます恥ずかしさが込み上げてくる。
 綾乃ちゃんの目にはあたしが濡らしているのは見えているはずだ……見られてる。あたしの一番恥ずかしい場所を綾乃ちゃんに……
「見ないで……こんなとこ、見ないでぇ……」
 哀願するように声を振り絞ると、それまで動きを見せなかった綾乃ちゃんがあたしの顔を見上げ、紅潮させた頬に指を当てる。それから静香さんのお尻責めで熱く濡れ始めたあそことあたしの顔とに何度か視線を往復させ、ついには―――
「先…輩……」
 あたしの事を呼んで何か言おうとして――止まる。そしてごくりとノドを鳴らして唾を飲んだ綾乃ちゃんは……あたしの股間へ顔をうずめ、
「ここ……綺麗にさせてください……」
 ピンッと尖ったクリトリスを吸い上げてきた。
「くぁあああああああっ!!」
 強烈な快感美があたしの体を貫いた。伸び上がるように状態をそらせたあたしは反動で体を前へ折り曲げると、綾乃ちゃんの頭に手を置き、ヴァギナを収縮させる。それで搾り出された愛液は割れ目からあふれ出した直後に、つたない動きでクリと粘膜とを嘗め回す綾乃ちゃんの舌先に舐めついていく。
「ああ……先輩…なんか…変な味がします……」
 それ…もしかしたら膣内射精された男の人の……ダメ、綾乃ちゃんがそんなの舐めちゃ…汚いから、あたしのおマ○コ、何度も男の人に犯されて、汚された後だから……そんな…舐められたら、ひッ、あッ――
「あああああ、ひぁああああああッ!!!」
 あたしの絶叫が広い浴室中に響き、大量の透明な汁がヴァギナからあふれ出した。前から綾乃ちゃんに下の唇を丁寧になぞりあげられ、後ろからはアナルとヒップに静香さんの暖かい下と指先が這い、女の子二人に愛されてキュッキュッと窄まる二つの穴は触れるものを今にも飲み込んでしまいそうな怪しい蠢きを見せていた。
「お願い、もうダメ、これ以上はやめてぇ! じゃないと…あああ…あたし…あッ、我慢…できなく…ああッ……!!」
「………たくや君、気持ちいいんでしょう?」
「え……ひぅンッ!! ど、どこ…触って……クぁ!!」
 ちゅぽんと音を立てて、静香さんがあたしのヒップから吸い付かせていた唇を離す。強く吸われ、嘗め回された場所はお尻全体で、その跡は今も焼けどしたみたいにジンジンと熱く、それを知っていてわざと焦らすように太股の付け根のラインをくすぐるように舐め、お湯の中から水面上でヒクつく割れ目に向けて内股を右手の平で撫で上げてくる。
「あ……ん…ひあ……ッ!」
「………たくや君に、気持ちよくなって欲しいの。あの時みたいに……私がたくや君にできるお礼は、今はこれだけだから」
 綾乃ちゃんの唾液と吸いきれなかった愛液の伝う内股を登って蜜まみれになった静香さんの手が、指を立て、今すぐ何かでかき回して欲しいと言わんばかりにヒクついている膣口にその先端を押し当てる。
「ダ…メ……静香…さん……」
「………たくや君……好き」
 それが……本当の意味で「好き」なのだと言うことが、いくら鈍いあたしにも分かってしまう。―――そして一瞬だけ意識に生まれた空白の間に、静香さんの指はズブッと蜜壷の中へ挿入されてきた。
「あ…ア―――――――――――ッッッ!!!」
 静香さんの細い指が蜜にまみれたあたしの膣内を満たしていく。収縮させて抵抗しても、それは柔らかい膣肉に挿入された二本の指を感触を刻み、より強い摩擦を生み出す事にしかならなかった。
「………締め付けがスゴい。ジャスミンよりキツくて、グチャグチャになってる」
「あっ、ああぁ、ダメ、静香さん、ダメ、ダメぇぇぇ!!」
 恥辱と羞恥に熱く潤んだあたしの膣壁は二・三度擦られただけでお湯に滴るほど愛液を溢れさせる。それにあわせて静香さんの指の動きは滑らかさを増し、二本の指に捻りを加えて膣内をかき回すと小さな水音が卑猥さを増し、辛うじて保っていたあたしの意識はいとも容易く快楽の波に飲み込まれてしまう。
「はぁ…はぁ……んはぁあぁぁぁ!! いっ…気持ち…いっいいっ! こんなの…気持ち、よすぎるぅ……!!」
 指先が膣奥に触れるたびにあたしの体がガクガクと揺れる。今にも崩れそうな体を何とか立たせてはいるけれど、腰を揺さぶり、指をもっと奥深くに飲み込もうと強張る体をうねらせてしまう。
「………こっちも、また舐めてあげる」
 二本の指を根元まで差し入れたまま、静香さんは再び唇をあたしのお尻へ吸い付かせる。汗の浮いた肌をチロチロと嘗め回され、体を跳ね上げながらあたしは次から次に激しい喘ぎを迸らせ、男たちに陵辱され尽くした膣をなぞられる快感に不思議な感覚を覚え、嘗め回されているお尻をねだるように揺さぶり、弾んでいる乳房を寄せ上げるように腕を組んで体を抱きしめる。
「ああっ…いいっ、静香さん……あたし…すごく…あっ、はァ、んっ……くはあッ!!」
 膣肉を揉みしだかれ、あたしの全身に震えが走る。気を失いそうな開館日に何度も打ち震え、もう今にも達しようとして―――不意にクリトリスへ強い刺激を受け、ブシャッと膣口から愛液を噴出してしまう。
「私も……私ももっとしてあげたいんです。先輩…先輩のここ、もっと舐めたいんです。私一人…置いていかないでください……!」
 あたしの腰へすがりつき涙声を上げた綾乃ちゃんは加減も忘れて充血したクリトリスを吸い上げてくる。指で摘まれ、舌でくすぐられ、イき掛けていたあたしには綾乃ちゃんのクリトリスへの手中攻撃に耐えるだけの余力は、もう残されていなかった。
 もうイっちゃう……そう思った瞬間、あたしのお尻にグッと、細い指先が押し込まれてくる。
「………こっち、綾乃が弄ってあげて」
「は、はい……」
 そこは違う! そこは…そこはお尻の穴で、何か入れるようには……んぁ、んぁああああああああっ!!!
 静香さんの指ストロークで収縮を繰り返すヴァギナとアナル。そこに指を押し込むのは難しいけれど、なぞられるだけで羞恥心を刺激されてしまう。
「ああ、ああ、あああああああああっ!!!」
 もう我慢できない。あたしは自分の手で豊かな乳房を掴むと、クリと、ヴァギナと、アナルを責められるリズムに合わせて乱暴に揉みしだく。指と指の間でやわらかい乳肉が形を変える感触を味わいながら涎を滴らせた笑みを浮かべると、前後の肉穴を責められる下腹部を強く強く収縮させた。
「………これ、たくや君、何か当たってる」
「先輩のお豆、スゴく大きい…こんなに、大きくなるんですね……」
 大量の愛液が満ちているヴァギナを静香さんの指が泡立て、綾乃ちゃんが口に含んで吸い上げる。……耐えられない。既に吹っ飛んでいる意識は腕を交差させて右の乳房を左手で、左の乳房を右手で握り締めて乳首を絞り上げると、ヴァギナの中の指先が子宮口に触れた直後、弓を引き絞るように溜め込んでいた快感を、一気に爆発させてしまう。
「イクッ、クッイクッイククイクイクゥゥゥ〜〜〜〜〜!!!……ハァ! んっ…あ…ぁぁぁあああああああああっ!!!」
 それは極太のペ○スにゴリゴリ犯された時よりも強烈なオルガズムだった……何しろ達している最中にも綾乃ちゃんの舌はビンビンに膨れ上がったクリトリスを口に含んで根元から嘗め回し、膣天井と子宮口を指先で何度も何度もくすぐられながらの絶頂は、一度登りつめただけでは収まらず、二度三度と、連続して達してはすぐさま次の大波に意識を断ち切られてしまう。
 短い失神と覚醒の連続で朦朧とした意識は容易く狂い、崩れ落ちそうな二本の足を何とか踏ん張りながら数え切れないほどの「射精」を繰り返してしまった……綾乃ちゃんの顔をめがけて。
「うああああ、出ちゃう、あたし、あたし、射精、してる、綾乃、ちゃん、ごめん、とまんない、これ、とまん、ないぃっぃ〜〜〜〜〜!!!」
 それはおしっこか愛液か絶頂汁かもわからない。ただあたしは、綾乃ちゃんの頭を股間に引き寄せて立ち続けながら、すさまじい快感に何度も身を打ち震わせた―――




「はぁ………あっ…んっ……」
「………気がついた?」
 ここは………そっか、あたしそのまま完全に失神して………よく、覚えてないや。
 まだ意識が混濁したまま目を開けると、あたしは洗い場に全裸のまま横たえられていた。左右にはそれぞれ静香さんと綾乃ちゃんが座っていて、二人とも心配そうな顔であたしの顔を覗き込んでいる。
「っ……たくもう……はぁ〜〜…」
 大きくため息を突くと、まだ重たい腕を持ち上げて目元を覆う。それから息を大きく吸い込んで体を起こすと、恨みがましい目つきで静香さんたちをにらみつけた。
「いくらなんでもあれはないでしょ。もう……今度いきなりしたら怒るからね。特に静香さん!」
 あたしがビシッと指を突きつけると、どうもよく理解できていないらしい、小首を傾げてあたしの指先を不思議そうに見つめている。
「………好き合っていれば、いつエッチしてもいいんじゃないの?」
「それとこれとは話が別!………もう、あんな風にされたら、あたしだって色々と…その……」
「………たくや君のこと、愛してる」
 ぶっ!……な、なんて事を……そ、そのお気持ちはありがたいんだけど、その言葉を聞かされるたびにあたしの心臓は停止しそうなほど驚いちゃってるんですけど……
「………それに、綾乃もたくや君のことが好き」
 な…なんですと―――――――――!?
「静香様ぁ! さっき先輩には言わないって、約束してくれたじゃないですかぁ!」
「………そうだっけ?」
 え……あの………いやあのその、綾乃ちゃんはあたしへ借金があるとかそんな理由で……あの……えと……
 固まった首をなんかギギギ…と音がしそうな感じで綾乃ちゃんへ向けると、涙を浮かべて静香さんを非難していた顔を息に真っ赤にして顔を背けてしまう。
「わ、私……」
 う…ううう……この状況は………なんていうかその………
 まだエッチな事されてる状況の方がマシだ。お風呂に入るまで、妹のようだとさえ思っていた綾乃ちゃんにこういう顔をされたら、はっきり言ってどうしたらいいのかわからない。
 綾乃ちゃんがかわいくないわけじゃない。むしろかわいい。こんな娘が恋人になってくれたら男冥利に尽きるとも思う。……今のあたしは女なんだけど。
 しかし……静香さんと綾乃ちゃん、どちらかひとりを選べといわれたら………え、選べるわけがない。優柔不断だといわれても、そんな人生にかかわるような一大決心をこんなお風呂の洗い場でしなさいっていうのが土台無理と言うか無茶苦茶な話であってそういえば今はフジエーダがスゴい事になってるんじゃなかったっけ?
「え…えっと………」
 どうする?
 どうするどうする?
 どうするどうするどうするどうするどうする?
「あたしは……あの………」
 ―――二人ともごめん。今すぐには……とても決められない。
 もうその事を素直に言うしかない。言って………ええい、後は玉砕あるのみ!!
「………よかったね、たくや君。綾乃も好きだって」
「あ――――――…ほえ?」
 もう心に思ったとおりの事を言うしかないと口を開くと、なにかあたしが考えているのとは違う静香さんの声が耳に届く。
「………私もたくや君が好き。綾乃もたくや君が好き。たくや君は私と綾乃の事、嫌い?」
「き、嫌いなはずないじゃない! けどね、こういう場合はその……」
「………それなら、問題ない」
 静香さんが状態をあたしへ近づけてくる。それは……キスをねだっているのでしょうか?
「………ジャスミンが言ってた。たくや君を愛するなら、たくや君も愛する人も愛せって。だからたくや君が好き。だから綾乃も好き」
 そんな理屈がありなの!?―――と思っている間にも、静香さんの顔はどんどんあたしの唇へと近づいてくる。
「ま…待ってください。私も……私も先輩と……」
 静香さんに負けじと、綾乃ちゃんも身を乗り出してあたしへ身を寄せてくる。……この場合、あたしはどっちとキスしたら……
 いつもの無表情とは違い、自分からねだることの恥ずかしさを隠し切れていない静香さん。
 競り合いからは一歩引きながらも、決して諦めずにあたしの瞳を見つめている綾乃ちゃん。
 どちらかを選べないと結論が出たばかりだ。―――もうなるようになれ。両腕を伸ばして静香さんと綾乃ちゃんを引き寄せたあたしは、どちらと先に触れ合うだろうかなんて事を考えながらすぐ近くにあった唇へ自分の唇を押し付けた。


 なんか今、世界一厳しい状況にいながらとてつもなく幸せだと思うのは、あたしの気のせいだろうか?


stage1「フジエーダ攻防戦」26