stage1「フジエーダ攻防戦」24


 あたしが突き飛ばされたのは暗い室内だった。
 一歩踏み込んでも室内の様子は何も分からず、

―――ゴンッ

 ………な、なんで二歩目を踏む前に壁があるのかな?
「は…はなふっはぁ……んぶぅ!」
 ぶつけた鼻を押さえながら壁から身を離した直後、背中に体当たりを受け、続けざまに壁へ鼻を叩きつけてしまう。
「う…うぅ〜〜〜……ひはひぃ〜〜……」
「あわわわわっ! せ、先輩、大丈夫ですか!?」
 綾乃ひゃん……前はよふ見へ……ううう、鼻ひがはれへひは……
「狭くてごめんねぇ〜。そこって狭くて使い道がないからぁ、さっきまで物置に使ってたのよぉ〜」
 そう言うところに人を勢いよく突き飛ばすなぁ〜〜〜!!!
 反論したいけど、鼻を押さえてちゃ声も出せない。それに一人でも狭いところへ綾乃ちゃん、続いて静香さんまで押し込められて、なんかこう壁に貼り付けにされて押しつぶされそうなんですけど、特に胸!
「んッ!……たくや君、変なとこ触っちゃ……」
「ダメです……こんな場所じゃ………やっ、手、先輩の手がぁ……」
 あたしは触ってない、無実だぁぁぁ!!……でもあれ? なんか柔らかいものがギュッと押し付けられて……わ、うわわわわぁ!! あたしってばなんかとんでもないとこ触ってない!?
「あンッ…暗いからって……ま、まだ…先、輩……んんッ!」
「………たくや君が…触りたいなら………いいよ」
 だ〜か〜ら〜〜〜〜〜!!! あたしは無実、潔癖、これっぽっちもそう言うつもりで触ってるんじゃなく手ですねぇ!……あああっ! でもなんかものすごく嬉しいのは確かですぅ!!
「それじゃごゆっくりお楽しみあそばせぇ〜〜♪」
 苦しいのか嬉しいのか恥ずかしいのか、ともかくこの状況を逃れようともぞもぞ体を動かして静香さんと綾乃ちゃんに色っぽい声を上げさせてしまっている間に、パタンと扉が閉められ、狭い室内…と言うか物置内は真っ暗になってしまう。
「ちょっとちょっとちょっとぉ! こんなところでどうゆっくりと………あら?」
 ガコンッと足元から音がする。―――直後、床はなくなっていた。
「って……落ちるって事ですかあああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜…………!!!」
 下に支えてくれるものが無ければ、物だろうが人だろうが形があるのは何でも落ちる。物置と言う例えにピタリと当てはまる室内から真下へ向けて加速が始まり、あたしの叫び声を残してあたしたち三人は落下し始めた。
「ちょ、これ、洒落にならないんだけどぉぉぉ―――んぶぅ!!」
 垂直に伸びていた落とし穴にはいつしか傾斜がついていた。これ以上真下に落下していたら、一番下が水でも即死する深さだ。壁も結構ツルツルで良く滑るので安全―――なのだが、その傾斜へ体を押し付けられるように静香さんと綾乃ちゃんの全体重が圧し掛かってくる。
「先輩先輩先輩っ! いつまで私たち落っこちるんですかぁぁぁ!?」
「………ん」
 鼻先に何か柔らかいものが触れ、体の至る所に弾力のある膨らみを押し付けられる。
 耳を塞ぐもの、これは太股だろうか。思わず手で触れると、
「ひゃん!」
 誰のものかわからないかわいい悲鳴が狭い穴に木霊する。―――その音すらも置き去りにし、女の子二人分の体重を加えたあたしの体はさらに勢いを増して、落下し続ける。
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 息ができない……酸素を求めて鼻を鳴らせば顔を挟む太股に力が入り、密着が増す。相手も振り落とされまいと必死だ。なんとか一息だけでもと頚動脈を締め付ける弾力のある太股に指を食い込ませる。……今あたしはとんでもない事をしているんじゃないだろか……
「…………ん?」
 落下の始まりも唐突だっただけに、落下の終わりも唐突だった。
 それまで暗い滑り台を滑り落ちていたあたし達は不意に明るいところに出たかと思うと、そのまま落っこちた。………体の上に女の子二人を乗せたまま。
「ぐふぅ!!」
 顔とお腹と………きょ、強烈過ぎるで…あります……
 幸いしたがクッションじゃなければ、まず即死だったろうな…そんな事を頭で考えてはいるけれど、そんなことでダメージが軽減したりなくなったりするはずもない。しばし、クッションのような地面に押えつけられたまま悶絶を繰り返した。
「………大丈夫?」
 そう言って、静香さんがあたしの顔の上から腰を上げる。―――静香さんの股間に、今の今まで顔を埋めていたのか……みると、心配そうにあたしを見つめる顔にはほんのりと赤い色が混じっている。
「だ……大丈夫大丈夫。この程度の衝撃……結構慣れっこだから……」
 強がってみるけれど、慣れっこなのは事実だったりする。これが明日香のボディーブローなら、一撃でお腹をえぐり飛ばされるような衝撃で肋を二・三本もって行かれた事だろう。それに比べればこのくらい……げふっ。
「それよりここは……」
 静香さんに背を支えられて体を起こし、あたしはようやく落ちてきた場所へと意識を向けることができた。
 ………あんな穴で落ちてきた先だからどんな場所かと思えば、意外にもまともな……いや、あまりまともじゃないベッドルームに落ちてきたらしい。
 かなり広い部屋だ。高さもかなりあり、小さめの一軒家ならすっぽり収まりそうな一室は、一面にベッドが敷き詰められている。敷き詰めているといっても、何個ものベッドを並べて置いてあるのではなく、室内の床全体が大きな一つのベッドで、ほんの少し体を動かしただけで体が跳ね上がりそうな極上の弾力であたしたちを支えてくれている。枕は壁際にあり、とても手が届くような位置にはないけれど、これだけ気持ちのいいベッドならどこに転がってもすぐに眠りに落ちてしまうことだろう。
「確かにここで休んだら気持ちがいいだろうけど……」
 もしすぐに出発しなければならないのなら、こんなところで休んでいる暇なんて残されていない。それに高い天井のどこにも落ちてきたはずの穴が見当たらず、どうやって戻ればいいのか見当もつかなかった。
「まったく……これでいったいどうしろって言うのよ……」
「………たくや君。この部屋、何かがおかしい」
「なにかって……あ、言われて見れば確かに……」
 まだ落下の衝撃が体に残っていたせいで気付くのが遅れたけれど、この部屋には不自然なほどに魔力が充満していた。あたしが住んでいたアイハラン村よりも密度は濃厚で、魔力の海におぼれていると言う感じさえ受ける。体に負荷や負担をかける類のものではないらしいが、ここまで空気中の魔力が濃いと不自然さを感じて少し落ち着かない。
「あれ? そういえば綾乃ちゃんは?」
「………あっち」
 静香さんが指差した方へ視線を向けると、ベッドの高さに合わせて壁に設えられた扉が開いていた。
「………何か薬はないかもって、捜しに行ったの」
「あの高さから落ちて全員無事ってのもスゴいけど……そんなのを心配するような部屋には見えないよねぇ……」
 見渡す限り、扉は綾乃ちゃんが入っていったのとその隣のもう一つ。もしかすると、そのどちらかが外に出るための扉かもしれない。……一応あたしも調べてみるかな。
「静香さんはここで待ってて。あたしも様子を見てくるから」
「………一緒に行く」
 あ〜…そう言うと思ったけど………ま、他には誰もいないようだし、いっしょでも構わないか。
 地面が柔らかすぎるせいで立つ足もおぼつかない。こけないように注意して二人で立ち上がると、向かおうとしていた扉の向こうから慌てた様子の綾乃ちゃんが飛び出してきた。
「先輩、こっちに来てください!」
 ! もしかしてなにかあった…!?
 とりあえず静香さんを残し、よろめきよろめきベッドの上を走って綾乃ちゃんの下へ駆け寄る。
「どうしたの!?」
「見てください、こっち。信じられないぐらいスゴいんです♪」
「―――は? スゴい?」
「はい♪ お風呂がスゴく広いんですよ。まるでお姫様が入るようなお風呂なんです♪」
 お…お風呂……こんな地下深いところで…お風呂?
 拾い室内を見渡した限り、あたしたち三人以外に誰もいない。じゃあ誰がお風呂の用意をしたんだろうと綾乃ちゃんが手招きしている部屋を覗き込むと……そこは湯気と熱気が充満した白い大理石張りの浴室だった。広さから言えば水の神殿の大浴場の方が広いけれど、それでも五・六人が同時に入っても余裕があるような大きさの浴室で、しかも口から滝のようにお湯を溢れさせるマーライオンの石像付き。広すぎない事でかえって浴室の細部に至るまで製作者の意趣が行き渡っていて、素人目に見てもこれは確かに見事な浴室だった。
「………いい感じ」
「んのわぁ!……し、静香さん、気配を消して背後に立つのは無しにしてよぉ〜!」
「………?」
 静香さんに今更言っても無駄か……本人が気配消してるって気付いてないんだから。
 けど渡りに船とはまさにこの事だ。見たところ、誰かが事前に沸かして準備をしたと言うよりお湯をかけ流しにしている温泉らしいけど、お風呂である事には違いない。ゴブリン退治に出かけたときからお湯で一度も体を洗ってないし、頭の先から足の先まで至る所にザーメンを浴びせかけられた後だ。臭いも気になるし、一眠りする前に綺麗さっぱりしておくのも……
「それじゃさっそく―――」
「………このお風呂、入りたい」
「ほえ?」
 後ろからお風呂場を除いていた静香さんがあたしの背を押してベッドルームと直結した浴室へと入ってくる。そしてあたしや綾乃ちゃんがいるのにも構わず服に手を掛け、シャツ、スカートと次々に衣服を脱いでいく。
「ちょ……静香さん、少しは恥らってよぉ!」
 静香さんが脱いだ服は、浴槽から溢れたお湯で濡れている床に脱ぎ捨てられ、水分を吸ってすぐには着られない。……代えの服、ここの何処かにあるんだろうか……
 けれど、今はそんな事は後回しだ。思わず静香さんの豊かな胸の谷間に目が行ってしまうけど、すぐさま我に帰り、キツく目を閉じて体ごと後ろへ向きを変えた。
「………こっち、みないの?」
「み、見れるわけないじゃない! も〜〜!!」
 見ていいと言うのなら見てしまいたくなるのは、あたしに残された数少ない男の性だ。それに以前見たのは静香さんの初めての時……暗い室内の粗末なベッドの上で悶える静香さんの艶姿は未だに忘れ去ることができずにいる。もし今、あの時のように迫られでもしたら……また理性が崩壊してしまいそうで、いろんな事に責任が持てなくなりそうだ。
「………綾乃は、服、脱がないの?」
「わ、私ですか!?」
 とりあえず、静香さんの矛先が綾乃ちゃんに向いたので安堵のため息を突く。………少し、勿体無い気分になってるのは…ほら、やっぱり男だし。
「でも、あ、あの、私なんかが王女様と一緒にお風呂だなんて、そんな、大それた事を……」
「?………お風呂、いつも一緒に入ってるもの。ジャスミンとか、侍女とか。そうじゃなきゃ、体が洗えない」
 なるほど。お姫様は自分の体を他の人に洗ってもらうってのは本当だったんだ。とは言え……綾乃ちゃんまで服を脱いでしまうことになる前に、あたしはさっさとこの場を立ち去らねば……
 今、目の前に二人の姿はいない。このままカニ歩きで大回りして壁沿いから扉へ辿り着けば痴漢扱いされる事なくこの場から脱出を……と、行動しようとしていた矢先に、
「………えい」
「ひゃアん!」
 静香さんがあたしの背後から抱きついてきて、窮屈な服に押し込められたあたしの乳房へグニッと弾力を確かめるように指を食い込ませてきた。
「静香さん、悪戯はダメだって……ヒあっ……!」
 やぁ……まだ…エッチな感覚が体に残ってる……長い時間抱かれっぱなしだったから、感覚が残留してるのかな……そんなに強く揉まれてるわけでも、先っぽを摘まれたりしてるわけでもないのに……やっ…指が食い込むだけで…声が……んあ、あっ、あああぁぁぁ〜〜〜〜!!!
「………たくや君のおっぱい、大きくなってる」
「そ、そんな事…無い、無いから、揉まないで、んッ…んんッ……!!」
 歯を食いしばっても、手指が蠢いて乳房が奮えるたびに声が溢れてしまう。しかも静香さんに……自分と同じ顔の女の子にいいように弄ばれるのは……だめだめだめ! なんか……ものすごい深みにはまっちゃいそうで……
 何とか抵抗しようとするけれど、静香さん相手では力ずくと言うわけにはいかずに吐息だけが乱れて行く。頭の中を埋め尽くしていた眠気などいとも容易く吹き飛んでしまい、ひあ、と疼きに耐え切れなくなりながら身を震わせる。
「………お風呂に入る?」
「だ…ダメ……やっ…耳に息吹きかけるの…反そ…クゥ!」
「………入ってくるなら、やめてあげる。どうする?」
「どうも、こうも……そんな、女の子と…一緒に、だ、なん…てぇ……んっ! そこは……あああッ!!!」
 ………それから陥落してしまうまでの数分間の記憶が、思いっきり抜け落ちていた。気付いたときには乱した息を床に吐きかけながら、悩ましげに膨らみきった乳房を体の下で押しつぶしていて、静香さんとどこか怯えた表情の綾乃ちゃんは既に湯船に入ろうとしているところだった。
 気を失っている間に何が会ったのかは覚えてないけれど………ともかく、静香さんには逆らわないでおこうっと……


stage1「フジエーダ攻防戦」25