第九章「湯煙」17


 お互いの胸を同時に舐めあうとなると……69の体位のように床に寝そべって身体の上下を入れ替えるのが一番手っ取り早い。あたしは美由紀さんを温泉から引っ張り上げると、自分は寝そべり、その上へと美由紀さんを引き寄せる。
「いいよ、美由紀さん。そのまま覆いかぶさってきて」
「う…うん……でも、苦しかったら言ってね?」
 石を敷き詰め、滑らかになるまで磨き上げられた洗い場にひざまずいた美由紀さんが身をかがめてくると、ボリュームのある胸の膨らみがあたしの顔へと迫ってきて、あたしの鼻と口とを多いつくした。それと同時に、美由紀さんの顔もあたしの胸の谷間へとうずめられ、鼻腔を満たす甘い香りと敏感な場所へ触れられるくすぐったさとで、身を横たえたあたしの身体はビクビクッと痙攣し、立てた膝を悩ましくよじり合わせてしまう。
「んッ……たくや君…変なとこに触っちゃ…あゥん……!」
「美由紀さんだって……んッ…やッ、いきなり……んんんゥ!!!」
 湯に濡れて、心地よい温もりを帯びた乳房に顔を押しつぶされながら、あたしの胸の先端を美由紀さんの唇がついばむ。瞬間、腰を浮かせて身体をよじれば、スベスベの乳房の表面があたしの顔の上を通り過ぎていく。
 ――苦しいけど……なんかもう…これだけで満ち足りてしまう……
 顔いっぱいに広がるおっぱいの心地よさと唇に触れる柔肉の弾力……その二つに包まれながらだったら窒息してもいいとさえ思ってしまう。
「ん……んんッ………ぷあっ! ハァ、ん、んむぅぅぅ……」
 さすがに死んでもいいとおもってても実際に死ねるわけがなく……美由紀さんの胸に溺れたあたしは大きく首をよじって息継ぎをすると、今度は両手で豊満な乳房を根元から絞り上げながら、夢中になって乳首に吸い付いた。
「はぅん……あぁ、はぁぁぁ……たくや君……ッあ!」
 あたしの口は乳輪ごと美由紀さんの乳首を頬張り、口の中で転がすように舐めまわし、チュウチュウと吸い上げる。乳房を締め上げる手にもゆっくりと力を込め、丸々とした膨らみを歪に変形させてしまうと、あたしの胸の先端を含んでいる美由紀さんの唇にその反応が返ってきてしまう。
「あ……ふ…ぅ……それ…いい……もっと、強…くゥゥゥ………!」
 少々キツく責めすぎたのか、あたしを押しつぶすまいと両腕を突っ張った美由紀さんはあられもない声をあげ、濡れた裸体を右へ左へとくねらせる。その拍子に顔から浮き、あたしの唇から離れた乳首を追いかけ、突き出した舌先でチロチロと舐めたてると、全身をガクガクと震わしだす。
「う…ぅんん……あ…はぁ……ああぁぁぁ………!」
「もう……美由紀さん、ずるいよ……あたしだってして欲しいのに……」
 拗ねた声を出してみるけれど、アゴを突き出し甘く悶える美由紀さんの耳には届いていない。だったらと、美由紀さんの背中に腕を回してコロンと転がり、無抵抗の美由紀さんと身体の上下を入れ替えたあたしは、喘ぐその唇に自分の手で位置を合わせた乳房の先端を押し当ててみる。
「ッん〜〜〜………!」
 口をふさがれた美由紀さんが苦しそうな声を上げるけれど、その振動があたしの胸に直接流れ込んでくる。
「苦しかったら言ってね。……言えたらだけど」
 少し前に美由紀さんに言われた言葉をそのまま返すと、あたしの手は再び美由紀さんの胸にふれ、大きな円を描くように柔らかい膨らみをこね回す。そして揺れ動く先端をチュッチュッとついばむと、快楽に慣れていない美由紀さんは想像以上の反応を見せ、腰を浮かせては股間を突き上げる。
「そんなにエッチな腰使い……本当にエッチな事が初めてなの?」
「あうっ………!」
 意地悪な言葉を聞かせながら、あたしは柔肉に埋もれた指へ力を込める。すると張りのある膨らみが指の間から押し出され、あたしの胸から口を話して小さく喘ぐ。
「美由紀さん……気持ちがいいんでしょう?」
 返事がこないと分かっている質問をしながら、あたしは美由紀さんの見事な巨乳に脇から手をあてがう。
 こうして美由紀さんと肌を重ねていると、不思議と相手の感情が伝わってくる。あたしの前で恥ずかしい姿を見せるのがよほど恥ずかしいらしいその気持ちを紛らわせて上げるために……あたしは牛の乳をしぼるかのような手つきで美由紀さんの巨乳をグッと握り締め、中央へ寄って来た二つの乳首を同時に唇へ含んでしまう。
「んァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
 徐々に強くしてきた胸への愛撫もこれがクライマックスだ。胸をもぎ取ってしまいそうなほど力を込めるあたしの手に悲鳴を迸らせる美由紀さんだけれど、抵抗をするどころか、その声には甘い響きが含まれている。ふもとから押し上げた血液が集まり、小さく痙攣する乳首を強く吸い上げ、小さな乳輪に軽く歯を立てるたびに、上から覆いかぶさるあたしの身体を浮かび上がらせるほどの強さで背中を跳ね上げ、顔を振りたくりながら悲痛と快感とが入り混じった声を尽きる事無く溢れさせ続けている。
「やぁあああ、や、ダメ、んっ、んぁ、んぁ、い…いや……はぁあああああっ!!!」
「かわいいよ、美由紀さん……」
「ひうッ!!!」
 あたしが乳房から口を離して顔を浮かせると、離れ際のひと舐めに短く鋭い悲鳴を上げた美由紀さんがぐったりと洗い場に横たわる。
「は……ん………ぁ…ぁぁ………たくや…君……ひ、ひどい……」
「あれ? 気持ちよくなかった?」
 避難の言葉を一言だけつぶやいた美由紀さん。彼女の乳房に赤く残ったあたしの手の後をチロチロと舐める。
「ひぁ…ぁあああ………!」
 腫れて過敏になった場所へキスの雨を降らせると、美由紀さんの口からはあられもない声しか上がってこない。美由紀さんの恥じらい混じりの強がりに微笑んだあたしは、赤くなって一回り膨らんだかのようにも見える乳房を、今度は優しく揉みしだき、唇とした途を押し付けて唾液の筋をタップリと残しながら餅のようにこね回した。
「もう…触らないで……私…もうわかんなくなってる……おかしくなりそうなの……」
「おかしくなんてないよ。美由紀さんはただ……ここがこんなになるぐらい気持ちよくなってるだけなんだから」
 ここまできたら美由紀さんがどれだけ乱れるか見てみたい……そんな暗い欲求に従おうかと悩みながら、あたしは乳首をつまみ上げ、擦った。
「―――――――――ッッッ!」
 身体の震えにあわせて痙攣する突起を親指と人差し指で丹念に擦り、根元から先端に向けて扱き上げる。そして限界以上にまで引き伸ばすと人差し指を乳首の先端にあてがい、細かい振動を送り込みながら丸々とした膨らみの奥へとグリグリ押し込んでしまう。
「ひあッ……許し、てェェェ……胸が…な、中から……んふっ! む…胸が……もう……破裂しちゃいそうで………」
 普段は鎧で隠して大きさを小さく見せている乳房だ。この二つの膨らみは美由紀さんの性感帯であると同時に、いじられればいじられるほどに羞恥心が増して行くのだろう。……そう思い至っていると言うのに、あたしはもう片方の胸にも指先を突きたて、敏感な美由紀さんの乳房を意地悪なまでに弄ぶ。
「ふあぁ、ふあぁ…や……もう胸……ダメ…手ぇ…離して……ワタ…私…これ以上…胸……さ…されたら…されたらァ……」
「胸だけでイくのって敏感な証拠だよ。ほら……我慢しないで……ね?」
 指先を乳房の先端へ埋没させたまま、残りの指で柔らかい膨らみを握り締める。それと同時に身体を浮かせたあたしは腰を引いて体の位置をずらし、泣き悶えている美由紀さんの顔を真上から見下ろした。
「やッ……見ない…で……見ないで見ないで見ないでぇぇぇ!!!」
「美由紀さん……」
「んムゥぅぅ!」
 逆さまを向いた唇に唇を押し付け、喘ぐ口内に大量の唾液を流し込むと、ビクンと体を震わせたのを最後に美由紀さんの動きが全て止まってしまう。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜………ッ!!!」
 両脚を突っ張って背中と腰を大きく浮かせ、あたしよりも豊満な乳房を夜空へ向けて突き上げる。あたしが手を離せば、埋没させられていた乳首が勢いよく盛り上がり、固い洗い場の上でガクガクと全身を震わせた。
 ―――でもね、一緒に気持ちよくなろうって言ったのに……
 一人で先に気をやってしまった美由紀さんにちょっとした嫉妬を覚えたあたしは美由紀さんの上から体を起こすと、今まさに絶頂の余韻に打つ震えている乳房へ手を伸ばし、揉みしだいた。荒々しく、乱暴に、大きく激しい動きで美由紀さんの豊乳をタップリと揉みまわし、絶頂の収まりきっていなかった美しい肢体を続け座mに二度目のオルガズムへと押し上げた。
「ああぁ……ああぁあぁぁぁ………あ……ぅ………ぁ……………」
「どう? 全身から力が抜けちゃってスゴく気持ちがいいでしょ?」
 上から見下ろしながら問いかけても、美由紀さんは答えない……と言うより答えようが無い。赤い晴れが残った乳房が大きく上下するほど深呼吸を繰り返しても、目の焦点が合わないほどに衰弱してしまっていた。
「美由紀さん……スゴく綺麗……」
 あたしの指と舌で登りつめた美由紀さんを見ていると、あたしの中で芽生えつつある感情が抑えられなくなっていく。震える自分の身体を抱きしめながら右手の指でスッと股間をひと撫ですると、ただそれだけの行為で腰が引けてしまうほどの甘美な電流が全身に駆け巡り、溜まっていた蜜汁がゴプッとあふれ出してしまう。
 ――気持ちよくなりたい……美由紀さんと一緒に……
 けれど、その欲求を満たすにはこのままじゃダメだ。エッチに慣れていないせいか、刺激にはあたしと同じぐらいに過敏だし、胸の次に…と考えていた秘部の舐め合いでも、経験だけは無駄に多いあたしが責める一方になってしまうだろう。
 と、なると……あたしもした事は無いけれど、二人して気持ちよくなれる手段は……一つしか思いつかない。
「美由紀さん、脚を持ち上げるよ」
「ぁ………ぅん………」
 よほど絶頂が深かったのか、美由紀さんはあたしの声に虚ろな返事をするだけだ。……なら好都合。
 美由紀さんの左足を肩に担いだあたしは、洗い場に投げ出されたもう片方の足をまたぐように身体を入れる。そして身を横たえた美由紀さんの股間に指を押し当てると、ヒクヒクと濡れそぼっている陰唇をそっと撫で上げて具合の程を確かめる。
「……え……な、なに?」
「恐がらなくてもいいよ。……今から、女の子同士での愛し方を教えてあげるから」
 あたしが何かしようとしているのに気付いても、言ったばかりの美由紀さんに出来るのは身をすくめる事ぐらい。わずかに帯絵を、そしてそれより少し大目の期待を込めた眼差しであたしを見つめると、大きな胸の前で手を握り締め、小さいけれどしっかり縦に頷いた。
「っ……あ………」
 腰を前に突き出す。……ほんの少し美由紀さんとの距離を詰めただけで、あたしたちの充血した恥丘は弱々しく擦れあう。思わず身をよじりたくなるのを欲しに堪えて体重を下腹部へ落としていくと、熱を帯びた秘部は口付けを交わすように深く密着し、グチュリと濃厚な音が響くのと同時に頭と首の付け根辺りに強烈な快感が弾けて目の前が真っ白になってしまう。
「あうぅぅぅ…! たくや君のと…私の……あ…当たっちゃってるぅ………」
「んっ……いい……美由紀さん、いいよ、これェ……!」
 キュッと収縮した蜜穴から愛液が噴き出してくると、いやらしい擦れ会いの蜜音は耳を塞ぎたくなるほどに大きく、連続して鳴り響く。濡れそぼった花弁はお互いの花弁へ吸い付くように絡み合い、あたしが気分を出して腰を揺すれば敏感な粘膜を上下に擦られ、今まで触れられてこなかったクリトリスまでもがここぞとばかりに刺激されて快感を溢れさせてしまう。
「ああッ、これ、いい、美由紀さん、あたし…あンッ、か、感じてる? 一緒に気持ちよくなってくれてる?」
「……………」
「答えて。じゃなきゃあたし、や…やめちゃうんだから。美由紀さんなんか放っぽって一人で勝手にしちゃうんだからァァァ!!!」
 美由紀さんの右足へ胸を押し付けて腰をゆするあたしには、そんな事はもう出来るわけが無い。独りでに腰は蠢き、股間を淫らに滑らせて壁と壁、、クリとクリとをぶつけ合わせてしまう。
「ん、んぅ…ふぁ……美由紀…さん……答えてくれないなら…無理やりにでもイかせててあげるから……」
「はッ…あっ、あぁあッ、ダメ、んぁあぁぁぁ……!」
 業を煮やしたあたしは淫靡に微笑むと、左手を伸ばして美由紀さんの乳房を鷲掴み、腰をすり合わせる動きにあわせて揺れ動く膨らみを同じリズムで揉み回す。胸でイかされてから尖りっぱなしの先端をこね回し、美由紀さんが押し黙ろうとするたびに強烈に摘み上げて、その綺麗な唇から無理やり嬌声を迸らせる。
「あああぁ……クリトリスが…コリコリ擦れてるぅ……こんなに、勃起して…小さなおチ○チンみたいに…はぁあああああっ♪」
 前後だけではなく左右にも腰の動きを加え、今にも張り裂けそうなほどに膨れ上がったクリトリスをニュプグチュと卑猥な音を響かせながら擦り付けあう。
「んうゥゥゥ! それダメ、そんなにされたら、あ、頭の中、感じすぎて、おかしく…なるぅ………!」
「あたしも、み…美由紀さんと…溶け合っちゃいそう……ほら…美由紀さんのクリ、あたしのとあたって…ああッ、ん、は…あぁあっ!」
 ペ○スが無いのに美由紀さんを犯している……不意にそんな錯覚を覚えて背筋に震えが走る。
 もし本当に美由紀さんの膣内へ肉棒を押し込んでいたら、どんな顔をしてくれるのかと、そんな事を考える内に粘膜同士の摩擦音がより卑猥に、より盛大にグチャグチャと鳴り響き、ペ○スの代わりとばかりに膨張したクリトリスが何度もぶつかり、頭の中で火花が弾けてしまう。
「た…くや…く……もう…ダメ……私もう…もう………」
「ふふ…イきそう? イってもいいよ…見ててあげるし…あたしも…あたしも美由紀さんと一緒に……!」
 美由紀さんの限界が近い事を悟ると、あたしは腰を激しく前後に動かし、濡れそぼった恥丘を擦り合わせては淫らな水音を洗い場に木霊するほどに鳴り響かせる。むき出しのクリトリスが擦れるたびに膣に重たい衝撃が一気につき抜け、男の時と違って留め止めとなくあふれ出してくる粘つく愛液が何度も摩擦され、石鹸のように白く泡立って股間を覆い尽くしている。
「美由紀…さ……んッ、あぁ…んぅ、んんぅ〜〜〜!!!」
 男の人を迎え入れるのとも、指や舌で弄ばれるのともまた違う、身も心も美由紀さんと解け合うような絶頂を目の前にして、道の快感への恐怖と興奮とが混ざり合ってあたしの胸を締め付ける。
「もう…やめて……わた…し……おかしく…なるぅ……こんなの…ダメ…絶対……あ、あぁあ、イ、イクッ、イっちゃうか……やめっ……!」
「あたしも……ね、一緒に…イこう?」
「んっ……たくや君……バカ…バカァアアアァァァ!!!」
 叫ぶ言葉とは裏腹に、美由紀さんはあたしより先んじて全身を硬直させ、横向きの身体を大きく弓のように反らしながら絶頂へと登りつめ……あたしの秘部に熱い愛液が吹きかけられた瞬間、収縮したヴァギナから熱さも量も美由紀さんに負けないほど愛液を噴出させて登りつめていた。
「んっぁあああああああああっ! イッ…ク…ああ、あぅあっ、ふぁあぁぁぁあああああああっ!!!」
 愛液で濡れまみれた秘部が痙攣を繰り返し、その振動が強く押し付けあったクリトリスまでも震わせる。
 子宮から肉道を伝って勢いよく放たれる絶頂汁は絶頂を深めてもまだ密着を深める秘部の間で何度もはじける。アクメの波が通り過ぎるまでの間にあたしと美由紀さんの下腹部はしとどに濡れ汚れてしまっていた。
「は……ぅう…ん………」
 オルガズムがゆっくりティいて全身が気だるい脱力感に包まれると、あたしは悩ましい吐息を漏らしながら腰を蠢かせていた。あんなに強烈にイったのに、おぼろげな意識はブジュッブジュッと音を響かせるように局部をすり付け、初めて味わう女同士での“密着”に酔いしれてしまう。
「美由紀…さん……」
 さすがに二度の絶頂はキツかったのか、あたしと違って痙攣が長引いている美由紀さんは震える唇に指を押し当てて身体を強張らせていた。
 ―――そんな美由紀さんがあまりにも可愛くて……
「ひうっ!? ぁ…ぁああっ、んあっ、はあああああっ!!!」
 あたしはそのまま動き始めてしまっていた。糸を引くぐらいに粘つく愛液であふれかえっている秘部へ指を滑らせ、ヒクヒクと今にも三度目のアクメを向かえそうなほどに震えている膣口を指の腹で丹念に揉み解す。そして美由紀さんの胸へあたしの胸を押し付けるように身体を覆い被せると、汗で顔に張り付いた髪を指先でどけてから、悩ましく震える唇へあたしの唇を重ね合わせた。
「………たくや君の……エッチ。私……は、初めて…だったのに……」
「あたしも初めてだったよ」
「………バカ。ウソばっかり」
 初めてといっても、おマ○コを擦り付けあうのは初めてと言う意味で……と心の中で付け加えていると、美由紀さんの両腕があたしの首へと巻きつき、下を絡ませあうような濃厚な口付けを―――


「もうそろそろいいかしら?」


「「――――――!!?」」
 突然聞こえてきたのは、あたしと美由紀さん以外の第三者の声であり……それは当然のことながら、あたしたちの痴態を別の誰かに思いっきり見られていると言うことでもある。
 何度も何度も蕩けあうかと思った身体であっても、こういうときは離れるのも早い。パッと身を離して距離を取り、両腕で胸や股間などまだ会館の余韻が色濃く残っている場所を覆い隠すと、恥じらいと非難とが混ざり合った表情で声を掛けてきた人の顔を振り仰いだ。
「ぎ、ギルドマスターさん!?」
「あら…? もしかして、気付いていなかったの? ずっとここにいたのに」
 いやいやいや、それはウソでしょ。五歩と距離が離れて無い場所に誰かいたら、いくらエッチの最中だからって気付きますって絶対に!
 とは言え、反論しようにも頭はパニクッっていて言うべき言葉も思いつかないし、口は口で途中で離れてしまった美由紀さんの柔らかな唇の感触が忘れられないでいて……って、あたしはなに考えてますか、こんな時に。
 とりあえず落ち着こう。ああそうだ。裸見られたぐらいで死にはしないんだから、こうして深呼吸して……と、息を吸い込んだ拍子に、あたしはこの場にもう一人いた人物と目が合ってしまう。
「綾乃……ちゃん?」
 ギルドマスターの背中に隠れるような位置で体にタオル一枚巻きつけてモジモジとしていた綾乃ちゃん。あたしと目が会うと……なんで視線を反らしてしまわれるのでしょう?
「あ…あの……私……女の人同士でああいうのは……その……は、初めて見たので…その……あの……」
「本当にねぇ……まさか美由紀が女同士でだなんて……しかも仮面まで外して。ああ、私は一向に構わないわよ。愛の前では性別の壁なんて意味は無いもの」
「ちょ、ちょっと待って! 誤解です、なんか色々と誤解されてますって!」
 このまま綾乃ちゃんとギルドマスターに変な方向へ考えられ続けてるとマズい。……と弁明しようとしたあたしの後ろで、なにやら冷たい殺気が……
「たくや君……誤解って、なに?」
「へ……? み、美由紀さん……何をそんなに怒ってるの?」
「………怒ってなんか、いないわよ♪」
 振り向いたあたしが見たのは、美由紀さんが温泉の中から拾い上げたバスタオルを体に巻きつけ、笑顔のままでスラ〜ッと鞘から剣を引き抜いているところでして……
「え〜っと……」
 とりあえず誰から話そうか……と思いはしても、三人の誰に話しかけても、全員の誤解はますます深くなってしまいそうな気がする。
 ――ま、こういう面倒な場合なら仕方が無いか。
「ゴメン、あたし、逃げます!」
「あ、こら、たくや君、待ちなさいよ!」
 待てといわれて待つほどに、あたしは自分の命が惜しくないわけじゃない。
 足の怪我は薬湯と美由紀さんの療符のおかげで痛みもほとんど無くなっている。……てなわけで、これ以上の事態の複雑化を嫌ったあたしは、その場から一目散に全裸のままで逃げ去ったのであった―――
「『逃げ去ったのであった』じゃない! わ、私の純潔はどうなるのよ! 恥ずかしいの、スゴく我慢してたんだから!」
「いやでも、美由紀さんも最後の方は気分も乗ってて自分から――」
「言わないで―――ッ!」
 美由紀さんが剣を大上段に掲げ、刀身を長大な氷が覆う。さらにおまけで周囲に巨大な氷塊まで生み出す。
「え〜っと……一言だけいい? バージンまでは奪ってはいないんで、出来れば手加減して欲しいな〜なんて……って言ってるのにィ!」
 来た。大上段の一撃。ついでにおまけで生み出された氷塊が左右からも襲い掛かってきて……手加減してって言ったのに、どこにも回避のしようの無い攻撃じゃないですか、これ!?
 今は武器どころか魔力は底を尽き掛けてるし、魔封玉を出す時間も無いし、肌を隠すタオル一枚すら持ってない。
 ―――粉砕音。
 とにもかくにも、乙女の怒りのこもった一撃であたしの背後で地面や床やら石やらが粉砕され、その衝撃であたしの身体はいとも容易く吹っ飛んだ。
 ――ああ、やっぱり。何事も上手くいった後にはひどい目が待ってるんだなぁ……
 いっそ切り捨てられてた方がよかったのではないか。――そう思いたくなるような全身の痛みに涙しながら、恥ずかしがる美由紀さんへ背を向けて走り続けた。
「……とりあえず、死ぬのは勘弁してください!」




「―――やっぱり源泉に施した魔導式が壊れてるわね。この温泉に疼きの湯が流れ込んでるわ」
 たくやと美由紀が遠くの方でドンパチやってる盛大な破壊音を遠くに聞きながら、ギルドマスターはやれやれと首を振った。
 この地に施されているのは、湯量を増やし、様々な効能別に一つの源泉を各温泉へ分けるための魔導式である。当然の事ながら、趣味に走った温泉を数多く生み出すだけあって現代の魔法技術では到底不可能、失われた古代魔法技術であっても高位の技法ではあるが、地下から湧き出すお湯に掛ける魔法である為に当然魔方陣も地下深くに埋設されている。仮に地震などが起こっても防護用の魔導式も付加している。
 そんな魔導式を誰も壊す事などできない……はずなのだが、お湯の質の変化に気付いて調べてみれば、それが見事に狂ってしまっていた。
 考えられる原因はただ一つ。“魔法を狂わせる”魔力を持つたくやの仕業である。
 先日、この並行空間に張り巡らされた結界の一部が切り裂かれた現象は、『エン』たちの報告にあった“魔力剣”と言う技によるものと確信している。今夜もまた、何らかの理由で美由紀と「喧嘩」して、地面へ向けて魔力を放出した……と言うところだろう。
 地質改造の魔導式が狂ったのは、斬られたのではなく殴られるか蹴られるかと言う感じでダメージを受けたためだろう。
「これが今代の魔王……それともエクスチェンジャーの力かしら」
 そう口にしてから、自分の言葉に首を振る。
「そんなものに左右されない、純粋に彼女の才能……なのかしらね」
 それに、たくやは今夜、もう一つ“魔法”を使っている。自分がいくら言ってもはずそうとしなかった美由紀の仮面を、事も無げにはずさせている事だ。
 ギルドマスター・ケイの口元に微笑が浮かぶ。それはお気に入りの部下が一つ成長したことへの嬉しさによるものだ。
「けれど、少し寂しくなるかもね……」
 予言のカードを一枚取り出す。
 絶対予言……今までいくつもの運命を的中させてきたカードだが、今回は何も絵柄が浮かび上がってこない。どれだけ待とうと白いカードのままだった。
「あらあら、あの子も大変な人に惚れちゃったものね」
 たくやの未来が読めないのなら、たくやと関わるものの未来もまた読めない。綾乃がそうであるように、美由紀の運命もたくやと深く関わっていくという、ただそのことだけを白いカードは示している。
「……面白そうだから黙っていましょう。それがあの子の為でもあるでしょうし」
 ―――風が吹く。
 周囲に漂っていた白い湯気を一瞬ではらうほどの強い風は、ギルドマスターの手からカードを奪い、夜空へと舞い上げて行く。
 やがて遠くの空の暗さに溶けて見えなくなった白いカードから視線をはずすと、やはり遠くから聞こえてきたたくやの悲鳴にギルドマスターはクスクスと楽しそうに笑い声を漏らしていた―――


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