第九章「湯煙」02


「はぁ〜……悪夢だ」
 昼食時を前に少しだけ落ち着いた様子の食堂。その片隅の席で遅めの昼食を前にしながらも、手をつける事無くテーブルに突っ伏し、長くて思いため息を突いていた。
 当然お腹は空いている。なにしろ夜明け近くまでいんぐりもんぐり「肉体労働」をしていたわけなんだし。―――とは言え、
「よりによって……あんなヤツと……はぁぁ………」
 弘二にされちゃった事を思い返すたびに気分が滅入る。ちょっぴりドキッとしたり、最後の方には意識も飛んで喜んでたんじゃないかとか……あぁ……また一歩、男のあたしから遠のいた……
「はぁぁ……なんかもう、消えてなくなりたい……」
 こんなため息を撒き散らすぐらいなら考えるのをやめればいいんだけど、昨日の「仕事」中ですら弘二のことが頭から離れないぐらいに、あたしにとってあの「ドキッ」はかなりショッキングな出来事なのだ。……ううう、あたしのときめきを返せぇ……
 ―――とりあえず、今度弘二と顔をあわせた時に平静でいられるかって事が……いや、いっそのこと山奥に埋めてやろうかしら……
 落ち込みすぎた思考がちょっと危ない方向へ走ってしまうのも、まあ今ならしかたない。もし仮に、今すぐ弘二が目の前に現われたら、壁に立てかけてある木棍で思いっきりぶん殴ってしまいそうだし。
「いよぅ、たくやちゃんじゃないの。久しぶり〜♪」
「―――いッッッやぁあああああああああああっ!!!」
 男の声がして、肩鎧をはずしたジャケットの上に手を置かれ……それだけで十分だ。あたしの右手は立てかけてあった木棍をすかさず手に取り、片足を軸に体を回転させながら椅子から立ち上がると、声を掛けてきた男の首筋に自分でも信じられないぐらい見事な一撃を打ち込み、床へ叩きつけていた。
「………あ、いっけない。本当にやっちゃった。失敗失敗」
「ひ…人をいきなり殴り倒しといて失敗で済ますなよな……」
「あれ、何だ大介か。んじゃいいや」
「全然よくな―――!」
 棍を元の場所に戻して椅子に座りなおすと、反対に大介が立ち上がって―――早めの昼食の乗ったトレイを手にタイミングよく戻ってきた綾乃ちゃんとぶつかってしまう。
「はおうっ!?」
 サンドイッチの乗った金属製のトレイを頭で真上に突きあげる。クワァンといい音を頭から響かせて、倒れ込もうとしたところへ歩みを止めるのが少し遅れた綾乃ちゃんの膝が突き刺さる。そして蹴り飛ばされた方には、荒くれ者がどんなにぶん殴ろうが上に乗って踊ろうがビクともしなさそうなとても頑丈のテーブルの角が……
 ―――ゴチンッ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
 うわぁ……狙っても出来ないぐらいに見事にこめかみに決まった……
「だ、大丈夫ですか!? あの、ごめんなさい、私、足元の方を見てなくって……えっと、えっと……」
 頭を抑えて言葉にならない悲鳴を上げながら転げまわる大介に、綾乃ちゃんが慌ててひざまずいて介抱しようとする。
「綾乃ちゃん、放っといていいわよ。そいつに近づいたら妊娠させられちゃうから」
「え……?」
 あたしの一言を聞いて、差し出しかけた綾乃ちゃんの手がピタリと止まる。困惑の表情を浮かべて何度かあたしと大介の間を視線で往復する。そして、
「……変態さん…なんですか?」
 あたしの言葉を真に受け、大介から隠れるようにあたしの横へと回りこんできた。
 ………その口調で綾乃ちゃんに「変態」なんて言われたら、罵るように言われるより心を強烈に抉るような感じがする。もしあたしが言われたら、三日は立てないような心理的ダメージを食らうのは必須だ。
「ちっっっがぁああああうぅぅぅ!!!」
 お、いきなり復活した。すごいすごい、チパチパチパ〜。
「そんなありがたみの無い拍手なんていらねーよ。馬鹿に済んじゃね―――!!!」
「あっそ。んじゃ綾乃ちゃんの食事、ちゃんと弁償しなさいよね」
 詰め寄ろうとした大介の機先を制するように出した指。その指を下に向けると、踏み潰されてしまった綾乃ちゃんの昼食のサンドイッチが憐れな姿を晒していた。
「い、いや、これは、俺が悪いんじゃ……」
「なによ、男らしく無いわね。あんたが回りに注意しなかったから綾乃ちゃんにぶつかったくせに」
「待て。待て待て待て。それ以前に俺を殴り倒したのはたくやちゃんじゃねーか。そのテーブルの食事、手をつけて無いんだろ? だったらそれをあげればいいだけの事じゃないか!」
「でもさ……」
 まあ、あたしにも非が無いとは言えない。けれど大介の視線を促して綾乃ちゃんへ目を向けると、今にも泣き出しそうな顔でジーっと大介に非難のまなざしを向けていたりする。
「ち…違う。俺は悪く無いぞ。悪いのは」
 罪悪感に負け、サンドイッチから足を退かせるけれど、もう遅い。綾乃ちゃんは嗚咽で何度も喉を震わせながら唇を開く。
「悪いのは…私…なんです…どんくさくて…のろまで…足元を見てなかったから……せっかく…せっかく……サンドイッチ……グスッ……グスッ………」
 大介が騒いだ事もあり、数少ない客が何事かとあたしたちのいるテーブルへと注目する中で、綾乃ちゃんのすすり泣く声が響き渡る。
 相手ではなく自分が悪い……そう思うことは、時と場合にもよるけれど決して悪いことじゃない。―――だけど大介にとっては状況が悪すぎる。か弱い女の子が泣いている時、どんな事情があろうとなかろうと、悪者扱いされるのは……基本的に向かいにいる男である。
「よぉ兄ちゃん。昼間っから女を泣かせるとは、なかなかいいご身分じゃねェか。アアン?」
 しかもさらに不幸なのは、この街に流れ込んできている人間の多くが、フジエーダの騒乱を聞きつけた傭兵や工事関係の人間だということだ。滞在している数日の間にこの食堂で顔見知りになった屈強な男の人が大介の肩に腕を回して脅迫する様は……傍で見てても結構恐い。
「いや……だから俺が悪いんじゃなくてですね……」
「おめェも男だろうが。女の昼飯踏みにじったんだぜ? そのぐらいうだうだ言わずに払えばいいじゃねェかよ、オッ? 男の価値が下がっちまうぞ、オッ?」
「でもその……今、持ち合わせが……」
「な〜んだ。文無しかァ? 安心しな、金が無いなら掃除でも皿洗いでもやらせてもらえや。いいだろ、マスター!」
 丸太のような腕で大介を締め上げたままカウンターの向こうへ呼びかけると、我関せずと黙々と料理を作っていた食堂の店主までもが首を縦に振った。
「よーし決まりだ。オラオラ、なにしてやがんだ。さっさと働きやがれェ!」
「ひエー! おーたーすーけー!!!」
 そして店の厨房へ向けて大介のお尻を蹴り飛ばすと、
「気をつけな。たちの悪い男に引っかかるんじゃねェぜ。あばよ」
 とちょっぴり格好をつけて言葉を残し、自分のテーブルへと戻っていった。
 ………なんだかもう、あっちのテーブルでは英雄扱いだ。同じような逞しい男たちから殴るわ蹴るわビンで叩くわ酒かけられるわの洗礼を浴び、食堂の中にはちょっとしたお祭かと思うほどの賑わいを見せ始めた。
「よかったね。みんな顔は恐くてもいい人で。ああいう人たちがフジエーダに行ってくれるなら、きっといい町に直してくれるんだろうね」
 逃げるようにフジエーダを後にしただけに、そう思うだけで胸のつかえが少し軽くなる。
「ほら、綾乃ちゃんも大丈夫? 大介は蹴っ飛ばされた野良犬みたいにどっか行っちゃったから泣かなくてもいいのよ」
「でも……先輩がせっかく…グスッ…頑張って…稼いでくれたお金で……ウッ……私…ごめんなさい……」
 ―――あ〜…なるほど、ご飯が台無しになった事よりあたしに悪いと思ったから泣いてたわけか。気にしなくていい……とは言わないけど、泣かなくてもいいのに……
 そんなことで本気で涙を流してくれる綾乃ちゃんが、不意に愛おしくなる……あたしの横の席に座らせると、体を震わせている綾乃ちゃんを、その髪に唇を押し付けるように両腕で抱きしめる。
「せ…先…輩………」
「綾乃ちゃんだって頑張ったじゃない。お掃除のお料理に……みんな(娼婦)の間でスゴく評判が良かったのよ。だからお金のことは気にしなくていいの。あたしはあたしの出来る事をして、綾乃ちゃんは綾乃ちゃんで一生懸命頑張って、二人で稼いだお金なんだから……」
「………はい。先輩が…そう…おっしゃるなら……」
「じゃあもう泣きやんでね。このぐらいの事で泣いてちゃ、これから旅してる間はず〜っと泣きっぱなしになっちゃうんだから。あたしは……綾乃ちゃんの泣いてる顔より笑顔の方が好きなんだから……」
「………………はい」
 あたしの胸から綾乃ちゃんが顔を上げる。まだ涙に濡れているけれど、あたしを心配させないように顔に浮かべた笑顔は……顔が熱くなり、もう一度抱きしめてしまいたくなるぐらいに可愛かった。
「せ、先輩、あの……見てます、あっちでいっぱい人が見てます!」
「………あ」
 店内の客があたしたちだけでは無い事を思い出して首をそちらへと向けると、馬鹿騒ぎしていた男たちはいつの間にか静まり返り、女同士で抱き合うあたしたちをジィ…と固唾を呑んで見守っていた。
「あ……あんたらは見るなぁぁぁあああああああっ!!!」
 気恥ずかしさから、棍を手にして男たちを追っ払う。あたしの細腕に殴られたって痛くも痒くもなさそうな男たちも、その場の雰囲気で店の中を逃げ回り出していた。
 ―――昼食時を前にした店内で、まるでお祭りのようなドタバタが繰り広げられる。
 いつしか、あんなに滅入っていた気分の事も忘れ、真っ赤になったあたしの顔は、店の中の男の人たちと同じような明るい笑い顔になっていた。



「―――弘二とパーティー組んだの?」
 すっかり昼食時を大騒ぎで過ごしてしまい、温め直してもらった料理を改めてパクつきながら、何故か全身傷だらけのエプロン大介から弘二の話題を聞かされていた。
「フジエーダもあんな状態だから、い続けるより旅にでも出よっかな〜と思ってたんだよ。そしたらたくやちゃんを捜してるあいつに出会ってさ。冒険者の資格も持ってるし、こいつでもいいやって思ったんだよ」
「………ご愁傷様。あいつと一緒だと、絶対にろくな目に会わないわよ」
「もうあってるよ。あの野郎、三日前にこの街に着いて早々、財布預けて宿探しをさせに行かせたら帰ってこないんだよ。おかげで飯も食えない有様でさ」
 そう言いながらあたしの手羽の照り焼きに手を伸ばす大介の手をペシッと叩き落とす。
「いてて……で、街から出た様子も無いし、財布を取り戻そうとあちこち捜して回ってたんだ。そんな時にこの食堂でたくやちゃんを見つけたからさ」
「気安く肩に触ってきたわけね。―――セクハラよ、それ」
「なんだよそれ!? オレ、たくやちゃんが捕まったと聞いてすぐに助けに向かったんだぜ!? それでオークに追っかけまわされて、死ぬような目に何度も会ったって言うのによぉ! 命がけだったんだぜ!?」
「ん〜……たいして役に立ってないわよね、それ。あたしは結局一人で逃げ出せたわけだし。―――でも……弘二ならあそこにいるわよ。捕まえなくていいの?」
 まさか娼館でエッチしちゃいました……なんて言える筈も無い。だけど偶然食堂の出口の前を歩いている弘二をたまたま見つけ、ビシッと指差した。
「お…オレの財布ゥゥゥ―――!!!」
 叫び、エプロンをつけたまま駆け出した大介は食堂を出るなり、弘二をドロップキックで蹴り飛ばす。どこか表情が虚ろでフラフラしていた弘二はそのまま吹っ飛んで道の真ん中に倒れこみ、すかさず馬乗りになった大介が襟首をつかみ上げる。
「こらてめェ! 先輩の財布をくすねるたァいい度胸じゃねェか! 今すぐ財布返しやがれ、あの中には旅資金も入ってんだぞ!?」
「あは……あはははは……ルーミットさぁん……今度は騎乗位ですかぁ……?」
「? ルーミットって確か娼婦の………んのわぁぁあああああっ!?」
 寝ぼけた弘二は地面に寝そべったまま、大介の腰をしっかりとホールドする。そして……本物の馬に乗っているかのように、大介の下半身に盛り上がったズボンの正面をガンガンと叩きつけ始めた。
「や、やめろ、やめろぉぉぉ!!! 俺にその趣味は無い、離せ、離してくれぇぇぇ〜〜〜!」
「ああぁ……最高です、ルーミットさん、あ…ああああああっ! 僕、もう、イっちゃいそうですよォ!!!」
「こいつ、ひ弱な癖してどうしてなんで力が強いんだよ、うわぁ、見るな、変な誤解をされる、やめろ、うわ、変なところに変なモノを擦り付けるな、うわ…うあぁぁああああああああああっ!!!」
 がに股で跨る大介の体を揺さぶっていた動きがぴたっと止まる。そして弘二は恍惚とした表情で全身を震わせ、
「………はぁぁぁ……出ちゃいました…♪」
 と、至福に満たされた声を漏らした。
「……………お…俺は……犯されたのか? 男に…犯され……………もうダメだ。死のう。死ぬしか……って、動くな、なんかグチョグチョ言ってるって、こら、聞いてんのかお前はァァァ!!!」
「ルーミットさん、ルーミットさん、ルーミットさぁぁぁん!!!」
 ………ダメだわ。弘二のヤツ、完全に壊れてる。変な薬にばかり頼ってるから……
 昨晩の弘二の激しい腰振りを思い出し、お腹の奥がちょっぴり疼いてしまう。……が、あんなモノを見せられて、エッチな気分になれるはずも無い。
 ―――まぁ………最後の方は出てくるのもほとんど水だったし。あの性欲魔人もああなったらお仕舞いよね。
 あそこまで弘二を壊しきったのが自分の魅力とか女の武器とかである事は置いとくとして、これで弘二の「危ない遊び」も少しは収まるに違いない。でも今は、
「綾乃ちゃん、あんな変態は見ちゃいけません」
 大事な綾乃ちゃんの目を汚させないために、食堂の奥の席へ戻る方が先決だった。
 弘二と大介の阿鼻叫喚の衆目晒しプレイにはなんの興味も無い。あまりにショッキングな光景に半ば気を失いかけている綾乃ちゃんの肩を押して一緒に席に戻ろうとする。
「―――あれ?」
 そんな時だ。あたしの足元に、薄〜い財布が一つ転がっているのがなんとなく目に入った。
「大介のかな……」
 ―――そうだ、間違いない。自分の足では立てないぐらいに精気を抜かれた弘二が、この財布からお金を払っているのを見ている。フジエーダで簀巻きにまで落ちぶれた(?)弘二がどうやってあんな大金をと思っていたけれど、
「まさか旅の資金い手を出してまでして娼館に来るなんて……あいつ、本当に旅をする気があるのかしら」
 ふと後ろを振り返ると、二発目が終わって三ラウンドに突入したらしい。回数を重ねるごとに頭は寝ぼけたままで元気になって行く弘二と、もう抵抗する事さえ諦めて俯いている大介との濃密な「愛の劇場」はまだまだ終わりそうに無かった。
「………しかたないわね」
 拾って食堂の店主に預けておけば問題ないだろう。他の人に拾われるよりは……と財布を拾い上げてみるけれど、重さから言って、中身はもう小銭数枚しか残ってなさそうだ。1500ゴールドも払えば当然とも言える。
「弘二を真人間に戻すにはまずお金の使い方から教えなくちゃね」
 これだから元お金持ちは……と苦笑を浮かべていると、財布から紙の端が覗いているのが意識の端に引っかかった。
「なにこれ」
 紙のお金なんてものは流通して無い。もしかしたら娼館の割引券かもしれない……そんなものを弘二に持たせていたら借金がかさばるだけだと思い、深く考えずに財布から紙を引き抜いた。
「………地図?」
「ああそれかい。この街の近くにあるって言う秘湯の地図だね」
 あたしが財布をごそごそしているので気になったのだろう。食堂の入り口に集まっていた野次馬の一人が、広げてもさして大きくない紙を覗き込んで説明してくれた。
「ヒトウって?」
「あまり知られていない温泉の事さ。場所が辺鄙で行くのが大変だったりして人がめったに入らない温泉の事を秘湯って言うんだよ」
「へぇ……温泉かぁ……」
 この数日で大きなお風呂にゆったり浸かる魅力を覚えてしまったあたしは、ついつい手にした地図に見入ってしまう。
 ―――中心が町だとすると、そお秘湯の場所まではそう離れていない。森の中を歩かなくちゃいけないけど、この街の近辺の森はそれほど深くないし、木々に囲まれた温泉と言うのも……雰囲気が出ていていて良い感じかもしれない。体の痛みは温泉治療でほとんど消えているけれど、おっと寄り道して入りに行ってみるのもいいかもしれない。
「けどその秘湯はな……場所はわかってるのになかなか見つからないんだよ」
「え……そうなの?」
「その場所に行ったら湯気も出てるし硫黄の臭いもするんだが、温泉にまで辿り着けるのは数年に一人。まあ、実際にその温泉に入ったヤツもいるにはいるが、気付いたときには素っ裸で森の中で寝てたって言うし、モンスターに幻覚を見せられたんじゃないかってのがもっぱらの噂さ」
「ふ〜ん……残念。行ってみたかったのに……」
「この辺りは水の女神様のご加護があるだろ。だからどんな願いもかなうとか、どんな呪いも解けるとか言われてるんだが……」
「―――それ本当!?」
 呪いが解ける……もしそれが本当なら、あたしの体も元に戻るかもしれない。それに願いがかなうのだって、お願いすれば男の体に戻してくれるかも……
「おじさん……この秘湯、この場所に行ったらあるかもしれないんだよね……」
「ああ、けどやめときな。何人もの冒険者が捜しに行ったけど、何ヶ月かかっても、ちっとも見つけられやしなかったんだから」
「―――だったらあたしが見つける」
 目的が決まった。
 「男に戻る」事を目的に旅を始めたけれど、雲をつかむような話にどうすればいいのか分からなかったのが正直なところだ。
 だけど可能性がこの場所にある。―――そう知った途端、あたしの中で俄然やる気が沸き起こってくるのを感じた。
「この温泉、あたしが必ず見つけてやる!」


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