第六章「迷宮」05


「くんくん……えっと…こっちでいいかな」
 鼻を鳴らし、流れてくる空気に含まれる臭いを嗅ぎ分けると、T字路を右へと折れ曲がった。
 ワーウルフになれたのはかなりのラッキーだ。ダンジョン探索などしたことがないあたしでも臭いと、野性の間と言う奴で行き止まりに当たる事も迷う事もなく、意外なほど簡単に奥へと進んで行けていた。加えて、迷子になりやすいという短所を持つあたしなのに頭の中には歩いてきた道順が立体的に浮かび上がっていて、緩やかなカーブを描いている通路を歩いていても方向感覚が狂う事がない。まさに現状にうってつけのモンスターになれたわけだ。
「いいのかなぁ、こんなに簡単でも。楽に手に入る力にろくなものは無いんだけど……」
―――モンスターが現れた。
「……へ? なに、今の変な声は……」
 歩き始めて一時間になろうかと言う頃、最初に比べれば進むことにも慣れてきていたあたしの頭の中にいきなり声が響いてきた。
 エロ本……じゃない。これは……
―――スケルトン前方に三体。後方に一体。どうする?
「どうするって……ええっ!?」
 無機質に情報だけを伝える声に戸惑っている間に、あたしの目の前には声の通りに人の形をした骸骨のモンスター・スケルトンが三体、そして背後にも一体分の気配が現れていた。
「そんな、いきなりどうするって言われてもどうしていいか……た、戦えばいいんだろうけど……」
―――時間オーバー。スケルトンの先制攻撃。
「のええええっ!? 考える時間もないの!?」
 どうするか迷っている間に、正面に陣取っていたスケルトン三体の内の二体が腕を振り上げ、あたしへと襲い掛かってくる。
―――どうする? 「防御・回避・逃走(×)・特殊」
「なんで逃げるにバツが付いてるのよ! えっと…とりあえず避けるぅ!」
―――回避選択。実行。
「あっ……」
 避けると口でいいはしたけれど、どう避ければいいかまでは頭は考えてくれそうもなかった。――けれど、回避すると無機質な声が告げた瞬間、あたしは床を蹴ってスケルトンの拳を側転して回避すると、そこが床であるかの様に壁へ軽やかに「着地」し、続けて襲ってきた三体目の攻撃も天井近くまで飛び上がって見事に躱しきってしまう。
「な、何が起こったの…?」
―――背後からの攻撃。回避…不可。
「しまっ…きゃあ!」
 信じられない動きで床に舞い降りた直後、反応が遅れたために背後の一体の攻撃を避けることが出来なかった。
―――HP−1。残HP999+100
「………あんまり痛くないんだ。びっくりした……」
―――位置確認中……正面にスケルトン四体。どうする? 「攻撃・防御・逃走(×)・特殊」
 なんとなくルールが分かってきた。……だったら、
「今度はこっちの攻撃ね。いっくぞぉ!」
―――攻撃選択。実行。
 頭に浮かんだ四つの行動の中から「攻撃」を選ぶと、あたしは攻撃の意思を示すように自ら腰を沈めた。
 すると、行動はあまりにも迅速で、疾風のように鋭かった。ただ前へ向けて意識を向けているだけであたしの体は自動的に動き、割れ目もお尻の谷間も全てさらけ出している股間を大きく開いて見せる事に恥じらいを覚える暇もなくスケルトンの頭蓋骨をあっさりと蹴り砕いていた。
―――スケルトン一体撃破。
 ―――自動選択・連続攻撃。実行。
「わっ、わわわっ!?」
 見事な弧を描いたあたしの右足が地面に着くや否や、今度は左足が身を屈めて回転する体にあわせて振り抜かれる。そしてその軌道上にいたスケルトン二体があっさりと粉砕されると、残るは一体。
―――スケルトン二体撃破。
 ―――連続攻撃・Y/N
「このままいっちゃえぇぇぇ!」
 いける、そう判断したあたしは一回転した体をワーウルフの強靭な足腰の力に任せて地面に触れるのではないかと言うほど深く沈みこませると、反応できていないスケルトンへ矢の如く真っ直ぐに跳躍した。
「たあぁぁぁぁぁ!!!」
 ――今度は自分の意思も体に付いてきている。まだ体の動きは訳も分からないまま動いているけれど、右腕だけは自分で突き出し、鋭い爪を揃えた手刀をスケルトンの胸骨へと突き立てた。
「……………!」
 一片の肉さえ持たないスケルトンが喘ぐように口を開いては歯をガチガチと鳴らす。けれど次第にその音も弱々しくなる。白い骨の体は糸が切れたように繋がりを失って一本また一本と床へ落ち、砂の様に崩れて形さえ失っていくと、いつしかこの場にはスケルトンがいたと言う形跡は何一つ残らず消え去ってしまっていた。
「ふぅ……」
―――スケルトンの全滅を確認。
 ―――勝者・たくや。魔王P・4ポイント獲得。
 スケルトンが消えた場所で勝ち名乗りを受ける。まるですべてが幻だったかのように思えるけれど、最後に自分で突き出した右手には骨を貫き砕いた感触が鮮明に残っていた。
 精神世界と言っても、全部が全部幻と言うわけじゃないのね……それよりも今は、
「ねぇ、聞こえる? さっき助けてくれたの、あなたなんでしょ?」
 あたしの頭の中に響いた声の主。あまりに声が無機質過ぎて男か女かも分からない相手に呼びかけるように、あたしは声を放った。
―――チュートリアル起動。いらっしゃいませ、なにか質問はおありですか?
「は……」
 まさか答えが返ってくるなんて……いや、驚いちゃいけない。反応があったんだし、質問はないかって言ってるんだから色々聞いとかないと。
「えっと…チュートリアルさんだっけ?」
―――私に個別名称はありません。ですので「チューちゃん」「チューたん」とお呼びいただくことを希望します。
「……………」
―――冗談です。ウイットに富んだジョークでお客様をおもてなしするのが私の仕様であり誇りでもあります。
「じょ…ジョーク……」
―――お気に召しませんでしたか? では三秒後に終了します。321ではごきげんよう。
「ちょっと待ったぁ! まだ質問してないのに〜〜〜!」
―――はい、お待ちいたします。当システムは臨機応変をモットーにプログラムされていて、とても優秀です。
「そ、そうなんだ…ははは……」
 あ、頭が痛くなってきた……なんか、エロ本よりも丁寧な分、扱いに困りそう……
―――では自己紹介を。私に名はなく、私に体はありません。
 ―――当精神世界内においてナビゲートするシステムの対人インターフェイスです。
  ―――概念的には説明するだけの存在とお思い下されば十分です。
「なび…いんた……なに?」
 言っとくけど、あたしはバカじゃないから。聞いた事のない言葉が多くて、いまいち意味が分からなかっただけなんだから!
―――簡単に申せば質問受付係です。
「あ、そうなんだ。はじめからそう言ってくれれば良いのに。それじゃ……さっきの戦いであたしの体を動かしていたのはあなたなの?」
―――現在、戦闘は自動モードです。
 ―――手動モードに切り替えますか? Y/N
「ううん、自動でいい。あんまり戦い方とか知らないから」
―――では自動モードを継続使用いたします。
 ―――他に質問はございませんか?
「あ、質問、あります! 大いにあります!」
―――手は上げていただかなくて結構です。それでは質問はひとつずつお願いいたします。
 魔王のエロ本はなかなか教えてくれないし、いい機会だから聞ける事は何でも聞いておこう。
「じゃあ……さっき頭に響いたHPって言うのが0になったら負けなんだよね?」
―――はい。HPが0になった時点でゲームオーバーであり、コンティニューの是非を聞かれます。
 ―――ワンコインワンプレイ。ゲームは一日25時間。
「最後のは何だかよく分からないけど……そういえば目的もいまいち分からないんだっけ。さっきの戦いの後に魔王Pとか言ってたけど、それを貯めればいいの?」
―――現在の魔王Pは4です。一定値に達しますと、使用者の潜在能力に適した特殊能力が与えられます。
 ―――通常、魔王位の継承と共にEXPが半分引き継がれます。
  ―――たくや様の場合はトラブルでEXPの継承が行われなかった為、基本能力しか与えられていません。
「ふ〜ん…基本能力っていうと、モンスターと契約したり、怪我が早く治ったり、って事ね」
―――はい。
「でもさ、戦って魔王Pが貰えるんなら迷宮探索なんてしなくても良いんじゃないの?」
―――はい。奥へ進めば大量のポイントが落ちていたり、敵からのポイントも増えますが問題ありません。
 ―――次の特殊能力獲得は一万二千三百四十一ポイントです。
  ―――スケルトンならば一万二千三百四十一体倒せば特殊能力を獲得できます。簡単です。
「い…一万!?」
―――いいえ。一万二千三百四十一体です。
 ―――非効率的ではありますが、地道な努力は美徳と判断いたします。
 うわ……頭痛くなってきた。結局、前に進んで行くしかないのか……
「あ〜…うん、今のとこ、質問はこのぐらいだけど、何か聞きたい事があったら…呼べばいいんだよね?」
―――はい。私に個別名称はありません。ですので「チューちゃん」「チューたん」と
「………? どうかしたの?」
 無機質に、けれど頭は痛くなるけど何処か憎めない言い回しで離していたチュートリアルが不意に言葉を区切る。そして、
―――モンスターが現れた。
「はいぃぃぃ!?」
―――オーク前方に三体。どうする? 「戦闘・防御・逃走・特殊」
 あまりに切り替わりが早い。その対応についていけずにしどろもどろになりながら視線を前へと向けると、豚顔の太っちょ体型のモンスターが通路を塞ぐように横に並んで、こちらへ近づいてきていた。
 またいきなり現れるのね。けど、あんまり負ける気しないのよね。
 力はあるけど動きが鈍重なオークが相手だ。スケルトンのようにとはいかないけれど、ワーウルフになってるあたしなら十分戦える相手だ。
「よし。当然戦闘――」
 そう口にした途端、いきなり重たいものがあたしの股間に集中し始めた。
 急激にアソコが熱を帯びて行く……クチュッと小さな音が体を駆け巡ったかと思うと、下側から包むように白銀の毛並みに覆われた乳房が痛いぐらいに疼き出す。
「ど、どうして……」
 そう口にする間にも、あたしの体はわななくように痙攣し、力が入らず今にも折れ曲がりそうな両足に生暖かい愛液が伝い落ちて行く。
「そんな……体が熱…い……んっ……ぅ……」
 モンスターが目の前にまで迫っているというのに、あたしは体の火照りをどうする事も出来なくなっていた。毛並みの下で乳首はビンビンに勃起し、張り詰めた乳房は誰かに揉んでもらいたくてうずうずと震えている。それを両腕でクッと持ち上げると、それだけで先端から母乳を噴いてしまいそうなほどに熱いものが先端へと押し寄せてきて、手を伸ばせばオークの汚らしい体に触れるほどの距離にいながら、自分の乳房を揉みしだく誘惑に勝つ事が出来ない……指を押し込めばその分だけ押し返す弾力に立ったまま身をくねらせると、左右同時に手の平でこね回しながらあふれ出した愛液でヌルヌルになった太股をこすり合わせて淫靡な水音を響かせてしまう。
「こんなの…信じられない……あたし…そんな……こんな、ケダモノみたいに……」
 もういつ達してもおかしくないぐらいに震える体を持て余し、オークたちに見つめられながら乳房をこね回す。鋭い爪が柔肌に食い込むたびに涎を飛ばして喘ぎ声をあげ、喉を震わせため息をついたあたしはブヒブヒと鼻を鳴らして桜色に染まった身体を見つめているオークたちの股間へ目を向けてしまう。
「ああ……スゴく…大きくて……逞しいの……」
 落ち着いて、正気の戻れってばぁ! 相手はオーク…豚なのに…なのに…どうして興奮が収まらないのよぉ……
「欲しい……おチ○チンが、欲しいぃ……!」
 だめ…だめ……体が…だめぇ……オークなのに、相手はオークなのにスゴく欲しくなっちゃって……
「ねぇ…お願い……」
 痙攣し始めた足を一歩踏み出して、オークの一匹にしなだれかかる。すると濡れた股間を下から叩くようにオークのペ○スはますます大きく反り返る。
「はぁぁぁ……欲しい…欲しいの……おっきいのが、欲しいの……」
 オークと体を密着させて丸まるとした胸の膨らみを擦りつけながら、他の二匹のペ○スへ両手を伸ばして、もう我慢汁がおしっこのように溢れている汚らしいペ○スを自分の太股へとこすり付けてしまう。
「もうなんでもいいから……あたしをいっぱい犯して……あ…あはぁ……おマ○コに…奥の…子宮に、いっぱい、いっぱいザーメンが欲しいぃ……!!」
 自分でもなにを言っているのか分からない……まるで自分の体が自分のものでなくなったかのように、オークの全身から漂う強烈な性臭を胸いっぱいに吸い込み、だらしなく愛液を滴らせるおマ○コをヒクヒクと蠢かせてしまっていた……


―――ステータス異常「発情期」確認。
 ―――自動行動選択「特殊」。戦闘不可。防御不可。逃走不可。
  ―――自動モードプログラム起動。興奮値を上昇させ、特殊「生殖活動」を開始します。


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