第五章「休日」04


「そちらにはいたか!?」
 水の神殿の廊下に若い男の声が響く。
 その場に居合わせた僧侶たちが驚き振り返ると、壁の丈夫に設置された色代からの明かりでほんのり赤く染まった廊下の前後から見慣れない男たち――昨日到着した静香を護衛する騎士が走り寄ってきていた。
「いや、出入り口全てを回ったが張っておいた結界に反応は無い。まだ建物内にいるはずだ」
「外に出られていないのが分かっただけで十分だ。よし、手分けしてもう一度探すぞ!」
 その言葉に全員がうなずき、騎士たちは方々へと散っていく。
 水の神殿内は広い上に増築が繰り返されており、迷うほどではないが慣れていない人間だと戸惑う程度に入り組んでいる。そのような建物内をくまなく捜索する為に、クラウディア騎士団の中でも特に選び抜かれた八人の騎士は二人一組で四つのチームを作ると、言葉を交わすことなく自分たちが捜索すべき場所へと急ぎ向かって行った。―――が、
「あの……もう行かれたようですけど……」
 突然訪れた嵐が去り、その場に残された僧侶の男が全身を強張らせたまま口を開く。すると男の背後にあった扉がゆっくりと開き、ボンヤリした表情のたくや……もとい、この世でもっとも高貴な女性――だとはその表情からうかがえない――の静香が頭を出した。
「ん……」
「いえ、で、ですからどうか家族の命だけは……」
 運悪く静香に捕まり、しかも運悪く静香が神殿に到着した際にその顔を見覚えてしまっていた僧侶は、傍目に見るとかわいそうになるぐらい膝を震わせ、いつもは神を祈る時に組み合わせる両手をあわせて必死に静香へと懇願をする。
「………………」
 それに静香が向けるのは困惑ではなく、どこか悲しげな表情だった。
「………ありがとう」
 何事かと人が集まり、注目が集まってくる。騎士たちに見つかるのはすぐかもしれない。だから静香は一言だけ僧侶に礼を述べると、驚き跳ね上がった男を振り向くことなくその場から走り去った。


―――わずかにきしむ音が響き、木製の扉が開けられる。
「……………」
(昨日、彼女が窓から飛び出してきたのはこの部屋だったはず……)
 こちらへ向かったのは誰かに見られただろうけれど、一目会うぐらいの時間はあるはず……静香は扉の隙間から暗い室内へと体を滑り込ませると、逢瀬の時が少しでも長く続く事をと祈るように静かに扉を閉めた。
「ふぅ………」
 廊下からの明かりが再び遮断され、室内が暗闇に包まれると、静香は緊張をほぐして胸にたまっていた息を吐き出した。
「……………」
 時間はあまりない。けれど自分の胸に手を当て、扉に体を向けたままゆっくりと息を整えてから、静香は王女としてふさわしい立ち振る舞いで足を引いてその場で体を回した。
「たくや…君?」
 ただ、一言お礼が言いたかった。「昨日は助けてくれてありがとう」と。
 普段は王宮の奥で蝶よ花よと育てられ、多くの召使に跪かれて生活している静香にとって、たくやは初めて、普通に接してくれた人であった。
 もしかするとそういった出会いがあるかもしれない…そう思い南部域の諸国を歴訪する旅に出たものの、馬車の窓から見える光景は誰も彼もが自分を王女と知って見つめる人々ばかり。王との会見にしても、周囲は自分の機嫌を損ねないようにし、不必要に静香へ話しかける人間は一人としていなかった。
 だから逃げ出した。少しの時間でいい。王女と言う立場から逃げてみたい……そんな我侭で幼い想いを胸に抱いて街へ出た静香だが、大通りへ出た途端に暴漢(弘二)に襲われてしまう。――それから救ってくれたのがたくやだった。
 彼女は明るかった。自分が王女だと知っても媚びる事はなく、全てが静香にとって驚きであった。そして、そんな彼女が自分の事を必死に救おうとしてくれた。仮に、顔も知らない騎士の一人が自分の代わりに命を落としたとしても、無表情に受け止めてしまう……王女としてそう教えられてきたはずの静香だが、その事が尊い行為のように思え、どうしても自分で礼を言いたかったのだ。
 だが、自分の願いをよく理解してくれるはずのジャスミンが外出から戻らず、騎士たちに頼んでも昨日の出来事で警戒しており、部屋から出ることも許してもらえなかった。それでも、どうしてもたくやに会いたかった静香は、王女としての貞淑さも忘れ、一日で「友だち」になれたたくやの元へとやってきた。……のだが、
「たくや君……いない」
 ベッドの上には誰も眠ってはいなかった。昼間にジャスミンたちと出かけたと知るはずも無い静香は、、傍目には分からない程度に小さく肩を落とすと、テーブルの傍へ無造作に置かれた椅子へ腰を下ろした。
「…………喉…渇いた」
 手練の騎士たちに見つからないように神殿内をあちらこちらと隠れながら走り回ったため、静香はずいぶんと汗をかき、旅の間の普段着にしているワンピース風の簡易ドレスはしっとりと湿っていた。
 二日続けて走り回るなど子供のとき以来だ……なんでこんなに疲れることが楽しくてはしゃぎ回っていたのかと、昔を思い出してクスッと微笑むが、火照った体はますます水分を欲し始めている。
(外に出たら見つかるし……飲み物………あった)
 静香の目がテーブルの上に置かれていたビンへととまる。幸いにして木製のコップも一緒に置かれていて、ラッパ飲みと言う王女らしくない飲み方もしなくて構わなかった。
(……こういう時はどういうんだっけ)
 確か昔ジャスミンが教えてくれたことがあった……そのときのことを思い出し、静香は両手を合わせる。
「………いただきます」
 軽くビンに向けて頭を傾けた静香は、そのままビンを手にとってコップへと中身を注いだ。
(いい香り……)
 南部域では果実酒が有名だ。いくつものフルーティーな味わいを訪問先で楽しんできた静香にとっても、その香りは初めてだった。
 暗闇で、木製のコップに入っていては色までは分からない。きっと鮮やかな色なんだろうな、そう思いながら口をつけると――
「………おいしい」
 喉が渇いていたこともあり、瞬く間に一杯飲み干してしまうと、はしたないと思いつつも再び液体をコップへと注いでしまう。
「………これ、たくや君のかな……」
 二杯目を飲んでしまい、もう一度ビンを手に取ると中身は軽く、三杯目はコップの半分ほどしかなかった。それに口をつけ、やっと人の物だったことを思い出した静香は心の中でたくやのことを思いながら頭を下げた。
「………いただきました」



 数分後――

「この部屋は…確か昨日の」
「ああ、王女を助けてくださった恩人の部屋だが……あとはここしかないか」
 たくやが今日一日安静にしていると言う情報は騎士たちも掴んでおり、そのような女性の部屋へ無遠慮に踏み込むことは騎士の心得に反する。だが王女がいる可能性が高いにもかかわらず、ノックしても返事がない。もしかすると、王女と共に出かけたのではないか……昨日の一件もあって疑念が晴れないのも確かであり、その事が騎士たちの心に葛藤を生んでいた。
「……よし、少しだけ覗こう。姫がいないか確かめられればそれでいい」
 長い思案の末、ついに決断した騎士が唾を飲み込み、扉を慎重に開けて行く。
「……………眠っているようだな」
 覗くだけではよく見えず、結局首を室内へと差し入れ見回した二人の騎士だが、室内に人の姿はなく、聞こえてくるのはベッドの上からの安らかな寝息だけだった。
「んっ………くぅ……」
 廊下から差し込む明かりに照らされ、頭で毛布に包まって眠っている女性の顔が騎士たちにも見て取れる。――紛れもなく、自分たちが探している王女静香だった。
「……確かに姫と瓜二つだな」
「おい、なにを見ている。姫がここにいない以上、長居はできない、と言うより彼女に失礼だぞ。騎士としてあるまじき――」
「ええい、なにを言うか。そのような事を言っているが、昨日、たくや殿に心奪われていたのはどこの誰だ。よもや貴様、姫にまでよからぬ思いを――」
「な、な、な、なにを言うか。私は女性の寝顔を盗み見するなど破廉恥な行いは騎士として恥じる行為であり、けして興奮などと。まして姫様と重ね合わせるなど言語道断。私はたくや殿だからこそ――」

「うっ…ん……うるさい……」

「「し、失礼いたしました……」」
 寝言を耳にし、慌てて首を引っ込め扉を閉める騎士の二人。ここにはたくやしかいない以上、これ以上覗き続けるのは破廉恥な行為だと悟ったようだ。―――だが、
「すぅ……たくや君………」
 そこに眠っているのが「静香に瓜二つのたくや」ではなく、走り疲れた「たくやと瓜二つの静香」だとは夢にも思っていなかった――






「はぁぁ〜〜……あたし、もうどうしたらいいんだろ……」
 いつの間にやら日も暮れて……その「いつの間にやら」の間中、ずっとエッチをしていたって言うのは、かなりショックと言うか……うああああ、自己嫌悪だぁぁぁ〜〜……
「ううう…もうあたし、男に戻れない〜……うぅぅ……グスッ、グスッ、どぼぢようぅぅ〜〜……」
 何とか泣き止もうとは思うんだけど……ミッちゃんが迎えに来た後にご飯を食べに寄ったお店でも涙は止まんないし、それでもお腹は減ってたから倍ぐらい食べちゃうし、なんかもう、男に戻れなきゃあたしはこれからどうすればい居所じゃなくて存在意義が、イデオロジーがぁぁぁ〜〜〜…て言うわけで、がっくりうな垂れながらとぼとぼと神殿に向かう裏道を歩いているのだった。
「まぁ…気にすること無いんじゃない? 愛とエッチは別物なんだとか言って割り切っちゃえばいいじゃない」
「そんな簡単なことじゃ…ひっく…ないんだからぁ〜……グスッ…」
「お言葉ですが、たくや様もずいぶんと感じておられたようですが。隣の部屋にいると悩ましい声がそれはもう」
「だから問題なんだってば、あたしは男、あたしは男、あたしは男の子ぉぉぉ〜〜〜……うううっ……」
 ミッちゃんやジャスミンさんに言われるまでもなく、割り切ろうと思えば割り切れるし、感じてことも…否定はしない。ただ、あたしが自分から事に及んじゃって……その事を、ちっとも嫌だったと思わず、むしろ上手く言葉で言い表せない興奮が今も胸にわだかまってるのが問題なのだ。
 もし、もう一度あの子の前に連れて行かれて、何時間も淫らな行為を繰り広げたあの部屋に通されたら……あたしは求めを拒むことができずに服を脱いで、もう一度抱かれても構わないとさえ思っている。それどころか、もしミッちゃんが迎えにこなければ、あのままずっとあそこで、四人の少年と体を重ね合わせ続けていたことだろう。
 ――そんな風に考えている自分がいる。女の体でもいい…男に戻れなくても、女としてあんな子達にだったら……そう考えてしまうことが恥ずかしいやら悲しいやら……はぁぁ……これからどうすればいいのよ……
 結局、いくら下を向いてため息を突いても答えを見つけることなどできるはずもない。できれば……今日はゆっくりと眠って、何もかも忘れ去ってしまいたい……あんなに淫らに男の子タッチのおチ○チンにむしゃぶりついて、腰を振る自分のことなんて何もかも……
「たくや君、元気出してってば。あたしもたくや君にあんなことして悪いとは思ってるんだし、そんなに落ち込んだ顔で神殿に帰ったら、めぐみとかが心配しちゃうでしょ。ほらほら、スマイルスマイルぅ♪」
 ミッちゃんはミッちゃんなりにあたしを励ましてくれようとしているのだろう、勤めて明るく掛けてくれた声を聞いてなんとか顔を上げると、他の建物よりもひときわ高い水の神殿の影が夜闇の中に浮かび上がっていた。
「うん……そうだよね。落ち込んでたってどうしようもないんだし……はぁぁ……」
「あ、またため息! もう、たくや君はため息禁止! そんなんじゃこっちまで欝になってくるじゃない」
「そんな事言ったって……今日のことを思い出しちゃうんだもん。あたし…もしかしたら心まで女の子になってるんじゃないかなって……」
 一度は上げた視線を地面へと落とす。
「だって、男だって事を自覚してたら抵抗できたはずでしょ? 体が女だからって、相手が子供だからって、自分からおチ○チンをしゃぶったり、アソコに欲しがったり……これじゃ女の子どころか…その……」
 淫乱な変態だ。――その言葉が唇から放つことができない。まだ…自分がその言葉どおりの女ではなく、男でありたいと心のどこかで願っているのかもしれない。だから自分を貶めるような事が言えない……そんな都合のいいことばかりを考えてしまう。
 もし今日のことを他の人が知れば、それが娼館内の出来事だとしても、人はあたしの事をどう思うか……想像したくもない。けれど他の人ではなく自分自身で、今の自分を見つめてしまうと……
「やっぱり…あたし……」
「ああもう、いい加減にしないと、本当に怒るわよ!」
「ミッちゃん……」
「要するにたくや君はこう言いたいんでしょ。――女の体でエッチばっかりしてるから、たまには男の快感も味わってた方がいいな〜〜…って」
「…………へ?」
 いや、あれ、その……なんか…その理論、おかしくない?
「分かってるって。あたしもたくや君の気晴らしにって思ってあそこに連れてったんだけど、こういう風に落ち込むかもって言うのも十分予測の範囲内! だから――ジャスミンさん、ちょっと耳貸して」
 思い悩んでいた頭ではすぐに反応できなかったあたしを放って、言うだけ言ったミッちゃんはジャスミンさんを呼んで二人してあたしへ背を向けると、なにやらひそひそと小声で話し始めた。
「だから……めてだと………だから手ほどき……」
「それは構いませんが………ですよ。擬似的に………るには、さすがにここでは……」
「大丈夫。実は…………があるから」
「まぁ…ではそれを使えば………できると?」
「モチのロン♪ 万事問題無し、これさえあればたくや君も……だから、思いっき…………だうし」
「でしたら…………るまで無理かと……たし」
 な…何の作戦会議をしてるんだろう……さっきから背筋がゾクゾクして、ものすっごく危険な感じがしてるんだけど……
「――んじゃそういう事で。享禄よろしくぅ♪」
「こちらこそ。難点をいえば場所だけですけど……それはそれで…ふふふ♪」
「あ、あの〜……先に帰ってもいいかな?」
 不気味な笑みを浮かべてこちらに向き直った二人に、できればかなえて欲しいお願いを一つだけしてみたものの、答えは予想通り―――いや、予想以上の方法で断られ、あたしはその場に引き止められてしまった。
「あら、残念です事。――見てくださらないんですか?」
 今来た道を戻るように後退さるあたしの前にジャスミンさんが立つ。
 逃げるなら今だ逃げるなら今だ逃げるなら今だ逃げるなら今だ………頭の中で危険を告げる警鐘が鳴り響いているのに、ジャスミンさんの冷たくさえ感じる整った美貌に微笑みかけられると、手足が石になったみたいに動かなくなってしまう。
「そう……やはり、たくや様は男性ですよ、ふふふ…♪」
 そう微笑みながらジャスミンさんは軽く目を伏せ、結った長い神を軽く左右へ振りながらメガネをハズし、レンズ越しではなく、初めてその冷たく、けれどどこか柔らかさを感じさせる鋭い視線をあたしへと向けた。
「―――チャーム」
「へ………ほえ? か、体が…あれ? 動かな……えええっ!!?」
 聞こえるか聞こえないぐらいの小さな声でジャスミンさんが言葉をつびゃいた。その直後、あたしの体にビクンと震えが走ったかと思うと、手も足も、体でさえも動かせなくなってしまっていた。まるで首から下が氷付けにされたみたいに何も感じることができなくなり、半歩足を下げたままジャスミンさんとミッちゃん、不穏な眼光を光らせている女性二人の前で彫像の様に立ち尽くしてしまう。
「申し訳ございません。たくや様に暴れられると誰に気づかれるかわかりませんので、少々魅了の魔眼を使わせていただきました。ご安心を。生命活動の維持は可能ですので」
「まま、ま、魔眼〜〜〜!? ってなんでんなものジャスミンさんが…もしかして吸血鬼!?」
「ふふふ…博識ですこと。ですがそのお答えはそれはたくや様のご想像にお任せすることにします」
 あ……ありうる。なんかこー、ジャスミンさんなら吸血鬼だったとしてもぜんぜん違和感ないし、て言うか確実に吸ってる?
 吸血鬼――処女の生き血を吸う不死の貴族。永遠に生命が続く彼らの暇つぶしで殺し、犯され、服従させられる…人間にとってはまさに天敵と言える種族だ。
 魔眼といえば、吸血鬼が有する代表的な魔術回路だ。ただ見つめるだけで人を死に至らしめ、魅了し、石にしたりと、人が扱う魔法をはるかに越えたその能力は過去の偉大な魔法使いでも再現できた人が何人いるだろうか……それほどまでに高度、かつ特有のものであり、そんなジャスミンさんのようなあたしより何歳か年上のお姉さんが気軽に使えたりするようなものでは決してありえない。そんな事、あたしの村では子供だって知っている。
 けれど魔眼と言うのが本当かどうかはこの際どうでもいい。こうしてジャスミンさんの瞳の力で体の自由を奪われていることのほうが大問題であり、今、あたしの身はものすごく危険な状態にあるわけで……ミッちゃんもジャスミンさんも、目の色が尋常じゃないよぉ〜〜!!
「そんなにおびえなくてもよろしいんですよ。――誰しも一度は通る道ですし」
「こんな道のど真ん中で動けなくされるような道は真っ平御免だってばぁぁぁ〜〜〜!!」
「たくや様を男性扱いして、私のほうから強引にお誘いしていますのに……私ではご不満ですか?」
「だからその方法がおかしいって。魔眼なんか使ってこんな………え…お誘い?」
「ええ。……恥ずかしいですけれど…見ていてくださいませ」
 そう言って微笑んだジャスミンさんは、大きさも形もあたしよりスゴそうなたわわな膨らみをぶら下げるように前へと身を屈ませると、あたしの視線を吸い寄せるように肩幅へ開いた太股の上へ指先を妖しく滑らせ、豊満な腰まわりをぴっちりと包んでいる膝上のスカートの内側へと手を差し入れた。
「んっ……ゾクゾクしますわ……こんな場所でだなんて…私も初めてですもの……」
 声をあたしには理解できない悦びに打ち震わせた成熟した美女は、あたしには見えない位置でいったんスカートをまくり上げると……あたしへ熱い視線を向けながら下着に指をかけてそのまま脱ぎ下ろした。
「あっ……」
 その光景から…目が離せない。片足ずつ上げて足首から黒い下着を抜き取り、スカートを元に戻してから身を起こしたジャスミンさんの姿を、だらしなく口を半開きにして凝視してしまう。
「そんなに見つめられたら…恥ずかしいですわ…ふふふ♪」
「あっ……ご、ごめんなさい……」
 ジャスミンさんがそうさせたとは言え、みだらな妄想を抱いたまま送り続けていた視線のことを指摘されたあたしは慌てて顔を背ける。……けれど、一分と持たずにブラウスをグイッと押し上げる豊かな胸の膨らみや、下着を履いていない股間へとチラチラと見てしまい、そのたびにあたしは顔を赤らめ、その事実を隠そうとするかのようにジャスミンから視線を逸らしてしまう。
「そんなにジャスミンさんのおっぱいが気になるの? 自分だってこんなに大きいのに……やっぱり男の子よね♪」
「ミッちゃん……んあっ!!」
 ジャスミンさんに気を取られている間に背後へと忍び寄っていたミッちゃんが、小さな微笑みの声を漏らしながらあたしの腰へと手を当て、ボディーラインを滑るようになぞり上げる。そのくすぐったさに鼻を鳴らして身をよじると、指はそのままあたしの乳房を下側の丸みをくすぐりながら頂上の乳首にまで上り詰め…突然、まだ娼館での火照りが残り、パンパンに充血して張り詰めている乳房へ指を食い込ませてきた。
「くぁああああああっ!!」
 痛いはずなのにジィンと痺れる乳房が乱暴にミッちゃんに揉みしだかれる。その途端、跳ね上がった心臓から送り出された熱い血液が全身へと流れ込み、あたしは泣き声で悲鳴を上げると全身を打ち震わせて、体の奥でドッと溢れ出したどろどろの愛液を立ったまま割れ目から放ってしまう。
「はあぁぁぁ、ミッちゃん、やだ…こんなのいやだよぉ……んんんっ!!」
 ここ数日、地下湖や娼館での出来事があったとはいえ、いろいろ気遣ってくれた女僧侶の手であたしの豊満な体に震えが走る。魔眼で動きを封じられていても押さえようの無い痙攣が体の芯からこみ上げ、それを紛らわすように声を迸らせてしまうと……ゆっくりとジャスミンさんが歩み寄ってくる。
「ダメなのはあなたの方よ。こんなところで声を上げるなんて、はしたない」
「ん、んむぅ!?」
 あたしの口へジャスミンさんが布をねじ込んだ。……それが今さっきジャスミンさんが脱いだ下着だと気付くと、興奮の炎が一気に燃え上がり、ミッちゃんの愛撫に身を委ねながら口の中で丸められた下着をゆっくりと噛み、鼻腔へと抜けるジャスミンさんの香りと舌の上に広がるわずかな愛液の味をむしゃぶってしまう。
「んふぅ〜…ん、ん、んっ…んんんっ……!」
「なんていやらしいんでしょう……私の下着を噛み締めて興奮するなんて。やはりたくや様は心の中では男性のままなのかしら?」
「んむっ……」
 さらに輝きを増すジャスミンさんの瞳……宝石さえも色あせる様な美しさに至近距離で見つめられ抵抗の意識が少しずつ奪われていくけれど……下から持ち上げられた乳房の先端がジャスミンさんの胸に触れると、あたしは身をのけぞらせて淫裂から大量に吐淫してしまい、数秒の緊張が解けると内股を愛液でぐっしょりと濡らしながらすがりつく様にジャスミンさんに胸にしがみついた。
「ぷえっ……はぁぁ……」
 軽く達してしまうと、ミッちゃんも手を離してくれて一時の休憩を与えられる……ジャスミンさんお手に背を撫でられながら唾液まみれの下着を吐き出したあたしは全身から力を抜いて美女の胸に顔をうずめる。……そんなときだ、あたしの指先に何か暖かいものの感触が触れた。
 最初はミッちゃんかジャスミンさんがまた何かをしてきたのかと思ったけれど、指先が触れているのは布の感触だ。その下にあるのは柔らかく、そして熱を帯びた柔らかい物で、まだ言った余韻が残って思考がはっきりとしていなかったあたしは、されるがままに指に感じる感触をゆっくりと楽しんだ。
「んんっ……触るの…お上手なのですね……あっ…たくや様、そこ……はぁぁぁ……」
「ジャスミンさん……えっ…あれ?」
 そういえば……あたしが触ってるのって、何?
 湿り気を帯び始めた布地へ指を押し込み、探り当てた小さな突起を軽く摘んで擦り上げると、ジャスミンさんの腰が跳ね上がった。それはまるで、あたしの指でジャスミンさんが喘いでいるようなタイミングの良さで、不審に思って体を離して視線を下へ向けると――
「んなっ!?」
 あたしの右手は、キュッと閉じ合わされたジャスミンさんの太股の付け根辺りにスカートの上から押し込まれていた。……いや、押し込んでいた、と言うのが正しいのかもしれない。驚き、慌てて手を引き抜こうとしてもあたしの指はジャスミンさんの股間から離れようとはせず、それどころか指先は勝手に動き回ってスカート越しにジャスミンさんの秘所へ愛撫を加え続けていた。
「ああぁぁぁ……もっと、激しくなさっても構いませんよ。たくや様の、の、望むままに……んっ! い…いいいいっ!!」
 うそ……なんであたしの手が、ジャスミンさんのアソコにぃ!!? あたしじゃない、本当にあたしは何にもしてない…いや、どこからどう見てもしちゃってるんだけど……けどこれはあたしの手が勝手に動いてジャスミンさんのアソコを…………これ…これが女の人の……
 自分のなら触ったことがある。けれど、他の人…ジャスミンさんみたいな美人の秘所に触れていて、望むままに…自由にしていいと言われてしまったあたしの頭の中は、さまざまな妄想が浮かんでは消えて混乱を引き起こし…ついにはプッツンと音を立てて何かがはじけ飛んだ。ものの見事に。
「んんん……!」
 あたしは開いていた左手をジャスミンさんの背中に回すと、その唇に自分の唇を押し当てた。それと同時に丸みがひしゃげて密着しあった乳房から快感が広がり、加えて間近でジャスミンさんから放たれる甘い体臭を吸い込んでしまったあたしは意識が朦朧としてしまい、押さえが利かなくなった割れ目から溢れる愛液で股間がいっそう濡れそぼって行く。でもそれ以上の快感をジャスミンさんに与えようと、あたしの指はスカートの下へと滑り込むと包皮が捲くれ上がるほど勃起したクリトリスを一番長い中指の先から根元までを使って勢いよく擦りたて、むき出しになったヒップが震えながら逃げて行くのを追いかけてヴァギナへと指を滑り込ませた。
「くうううっ!! あ…いけません、そ、そんなところまで……あっあん、はうっ……たくやさ…あふぁ、あっ…んっ、んんっ、あ…私……」
「ジャスミンさん、これ…おしっこじゃないの? ここ…ジャスミンさんのおマ○コ、後から後から溢れてくるからグショグショじゃない」
「ち、違います! それは放尿では……あ…はぁあぁぁ……」
「ここ…ここが気持ちいいの?」
 手の平絵恥丘を包むほど指をジャスミンさんの膣内へと差し入れる。……あたしの中と似ているようで、何かが違う。濡れた淫肉に指を締め付けられ、その熱さと弾力に軽い驚きを覚えながらも指先を振って奥に溜まっていた蜜をかき混ぜてみる。そして手首も使って大きく指を蠢かせてから手を引き抜くと、あたしの手は大量の愛液にまみれていた。
「はうっ!……んっ…テクニックは…十分合格点ですね。もう少しでイかされてしまう所でしたわ。ふふふ……♪」
 あたしの指に膣内をかき回され、恍惚とした表情を浮かべてあたしにしがみついていたジャスミンさんが顔を上げる。……そして視線を合わせた直後、あたしの体は取り返したはずの自由をあっさりと手放し、またしても…いや今度は先ほどよりも協力で手足が動かせないのに加えて声さえ放てなくなってしまった。
「できれば拓也様とはもう少し楽しみたかったのですが……メインディッシュは別に用意してありますので」
「へ…へひん……」
「無理に喋らなくて構いませんわ。では、よろしくお願いできます?」
「はいはいはい〜。なんか仲間はずれにされてるようだけど、やっとあたしの出番っていうわけね。本当は今夜、ベッドの上でタップリと味あわせてあげたかったん、だ・け・ど……」
 ジャスミンさんの体が離れ、代わりにミッちゃんがあたしの前に立つ。その手には…見慣れない、棒の様なものを持っていた。喋れず動けず、唯一まともに動く視線を動かし、その棒を観察すると――
「これで今からたくや君を男の子に戻してあげる。それから……男の子の「はじめて」を貰ってあげるから。ここで…ね」
 ………棒は剣の柄ほどもあり、やや反り気味で、両端近くに矢じりのような括れがついている。……「あるもの」に似たそのシルエットだけ見れば、それが何をするためのものかを知識のないあたしでもなんとなく察することができる。


 それはマジカルバイブレーター……魔法の力でその身を振るわせ、女性のアソコを穿つための道具。しかも両方向きと言うことは女性二人が同時に……と言う目的に使用するためのものだ。
 けれどこの時のあたしは棒の名称どころか、ミッちゃんがあたしの為に特別に用意したその擬似男根の真の能力を…知るはずも無かった……


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