第四章「王女」09


「神官長、まだ姫様は見つからないのですか!」
 水の神殿内の一室に美女の鋭い怒声が響く。
 クラウディア国王女・静香の捜索が内密に始まって既に数刻。あと一時間もすれば日が暮れ始める時間になっても一向に発見の報がないことに付き人のジャスミンも精神的に限度に達していた。
「そ、それは分かってるアルが、みんなも一生懸命サガしてるあるネ。もう少し落ち着いて。ホラ、フジエーダ産のお茶はおいしいあるヨ〜〜。この芳醇な香りがなんとも心を癒して、ホラ、だからワタシもこうやって落ち着いていられるアル」
「結構です。もう二十七杯いただきましたので。――ですがいくら落ち着こうとも姫様が戻られねば…姫様……私も探しに参ります!」
「落ち着くアルって言ってるアル! こういう時、上に立つ人間はあわてず騒がず、みんなを信頼して腰を落ち着けて報告を待つアルヨォ〜〜〜!!」
「それも事の重大さによります。姫様のみに何かあった場合、それは国際問題どころかクラウディア王国の未来が費えることになるのです。そうなった場合、利権覇権をめぐって大陸全土を巻き込んだ戦争になる恐れも……ああ、姫様…どうかご無事で……」
(ワ、ワタシの方がサキに参ってしまいそうよ、この人の相手シてると……ヤレヤレね)
 このような調子で飛び出そうとするジャスミンを押さえること数十回に達している。ジャスミンの心労をある程度発散させて爆発を何とか不正ではいるものの、綱渡りのような心境で美女の機嫌を伺う神官長の心労もまたピークに達していた。
―――カチャ
「あの…神官長、よろしいで――」

「姫様が見つかったのですか!?」
「お姫さん見つかったアルか!?」

「――い、いえ、まだです。鋭意捜索中でありますぅ!」
 部屋の扉を開け、神官長とジャスミンにスゴい形相で詰め寄られる不幸に見舞われたのは若い僧侶見習いだった。
「………ああぁ……姫様、いったいどこにおいでに…ああ…ああぁぁぁ……」
「え…えっと…あの、放っておいてよろしいんですか? なんだかものすごく落ち込んでおられますけど……」
 一方的なぬか喜びから一転して床に崩れ落ちるジャスミンの様子に神官長は一言、
「アレはあの人の趣味だから気にしなくてヨロシ」
「はぁ…ある意味スゴい趣味ですね。スゴい美人なのにもったいない…あ、神官長、少しよろしいですか? 実は今しがた、受付のほうに変な男がやってきたんですが。それがもう見るからに怪しそうなヤツで」
「も、もしかしてそれは……ちょっと外に出るアルネ」
 ジャスミンに聞かせれば関係ない話でも暴れだしそうだ。そう判断した神官長は報告に来た僧侶を伴って廊下へと出て扉を閉める。
「ウム、これでヨロシ。それでその男がどうかしたアルか? もしかして身代金要求しにきたとかソウ言うのアルか?」
「いえ、最初はそうかと思ったんですがどうも違うみたいなんです。テーブルに最近厨房で見かけるスライムを置いて「神官長にこいつを見せてこれ渡せって」って言って手紙を置いていって……」




「あっ……」
 あたしの右腕に、大蜘蛛の爪が突き刺さる。……いや、貫いている、といったほうが正確だ。ダガーのように鋭い光沢を放つ鋭い爪は痛みさえ感じさせることなく、ベッドを易々と貫通している。
「あっ……あぁ……」
 痛みは…ない。その事が目にした光景に現実感を感じさせてくれず、あたしは呆然とその光景を見つめ続けさせられてしまう。
 けれど――
「どういう…こと?」
 痛みはない。――いや、痛みどころか、爪に刺しうがたれたはずの腕からは一滴の血も流れ出してない。汚れてはいるけれど白いシーツは依然として白いままで、赤い色がにじんだ様子は一向に見られなかった。
 深呼吸を繰り返し、あたしはゆっくりと腕に力を込めた。
―――ピクッ
 指先が動いた。手が動いた。手首が動いた。肘が動いた。
 先端からゆっくりと神経をつなげて意識を流し込むと、大怪我を負ったはずのあたしの手は順番に確かな動きを見せる。……けれど、蜘蛛の爪が刺さった――様に見える場所がベッドに縫い付けられたように動かすことが出来なかった。
「これ…なんなの……?」
「クックック…驚いてもらえて、こちらもちょっとばかり嬉しいよ。だが驚くのはまだまだこれからだぜ。……やれっ!」
 男が叫びながら紫水晶のついたワンドを振り上げる。そこから禍々しい魔力が放たれたかと思うと、室内のにごった空気を引き裂いて新たに三本の蜘蛛の大爪があたしへと飛んでくる。
「ひっ!?」
 息を呑んで目を瞑る間に左腕と両足に爪が打ち込まれる。……けれど右腕同様、軽い衝撃を感じたけれど痛みはない。その代わりにあたしは手足に糸をつながれた操り人形のように蜘蛛の脚に動かされるがままにベッドの上へ大の字に押さえつけられてしまう。
「クッ…この、このおぉ!!」
 なんなのよ、これは! 動け、動いてってばぁ!! せっかくあの杖がすぐ近くまで来てるチャンスだって言うのに……どうなってるのよ、これはっ!!
 腕を貫かれても痛みがない。しかし逃げようとしても手足は空間に縫い付けられたように動かせなかった。
「安心しろ。あの蜘蛛は俺が命令しない限りはお姫様の肌に傷一つつけたりしない。もっとも、抵抗したら話は別だが。抵抗、出来たらな。クックック」
 肩を上げて身をよじって、何とか蜘蛛の戒めから逃げようとするあたしを見て男の唇が楽しそうに釣りあがる。
 その顔に蹴りを入れたい気分だけど、膝下に突き刺さったように見える爪に押さえ込まれた脚は上げる事はおろか捻る事も出来ない。
 せめてナイフを取るか、あの杖を奪うことが出来たら……
 文字通り、手も足も出せない状況になってしまったあたしには為す術がなかった。それでも必死にもがいて逃げ出そうとするあたしを前にして、誘拐犯の男はワンドをあたしの足元へワンドをベルトの腰へと差し込むと、もう片方の手に持っていた小瓶の蓋を開けて中に入った液体をあたしの体へと垂らし始めた。
「んっ……冷た……」
 南部域の暑さに慣れていた体に液体の冷たさが強烈に突き刺さる。
「しばらく我慢しろ。直ぐに、直ぐに体が熱くなって堪らなくなる。自分から腰をくねらせ俺の肉棒が欲しくなるぐらいにな」
 何言ってるのよ。何であたしが自分から…………えっ…やだ、なに…これ……クウゥ…あっ、うそ…どうし…て……
 あたしの胸へ重点的に降りかけられた液体は蜂蜜のようにトロリと粘り気があり、冷たくはあるけれど胸がすく様なハーブの香りがしている。女性が風呂上りにつける香油の一種……あたしの店でも取り扱うことのあった、肌に塗りこむ香りのよい油かとも思ったけれど、乳房へ痛みに似た刺激がズキンと駆け巡った瞬間からあたしの体の中で何かが変わりだしていった。
「あ……んっああぁ……あああぁ…んむっ!! んあんっ…あっ……うぁあああっ!!」
 これ、こんな…なに!? あたしの胸が、熱い、熱いのぉ!! こんな…こんなの、信じら…れ、ない…ああああ…はぅうあああああっ!!!
 手足を不思議な大雲に抑えられたまま、あたしの体は弓のように反り返り、ベッドから豊満なお尻が跳ね上がる。
 神経が、筋肉が、血管が、あたしの体の内側になる何もかもすべてが震えるような感覚に、あたしはパクパクと唇を開閉しては重点的に液体を振り掛けられた乳房を突き上げる。
「あっ、あっ、あっ―――!!!」
 もしかしてこれ……媚薬!?
 液体の正体に気づいたときには何もかもが手遅れだった。熱湯をかけられてもここまで熱くなることはないほどに乳房が熱を帯びていく。先端は見るからに高く突きあがり、丸みは限界を超えて一気にブワッとボリュームを増す。
「あっ…あああっ……」
 丸みを帯びた肌のすぐ下で血管に熱い血液が流れ込む。そのたびに内側から破裂してしまいそうな膨張感に襲われるあたしが何とか視線を胸へと向けると、見えたのは爆乳と呼ぶにふさわしいほどに膨らんだ乳房の姿だった。
「これが……あたしの、むね……?」
 全身の熱に浮かされてぼやけ始める意識を何とか集中して、膨張した自分の胸を空ろに見つめる。
 ビクッビクッと震えている乳首……その固さを柔らかい唇の間に想像すると、それだけで張り詰めた乳房にびりっと痺れが駆け巡り、あたしは涎を溢れさせる唇からあられもない喘ぎ声を迸らせてしまう。
「やっ…ああぁ……」
 蜜に濡れたように輝く二つの膨らみ、その深い谷間からトロッと余った液体が流れ落ち、胸を突き上げて仰け反っている為に付いたおなかの傾斜をツツッと一本の筋を付けながら腹筋の引きつりの中心であるお臍へとゆっくりと進んで行く。
「はうっ……だ、だめ……おへそは…くすぐったいから………ひっ、ぁああああああああっ!!!」
 冷たい媚薬の蜜がおへその窪みに滑り込むと、あたしの中で急激に沸き起こった快感が一気に爆発した。
「ひあっ、ひあっ、ひゃうううぁぁぁぁああああああっ!!!!」
 かろうじて動かせる肘をぴたりと脇へつけ、上のふくらみと同様に速い脈動にあわせてボリュームを増した太股をぴたりと密着させたあたしは可能な限り体を固く小さく締め上げると、頭の命令を一切聞かずに痙攣を繰り返す肉体を何度もベッドの上で弾ませる。
「んっ! うんんっ、んんんっ!!!」
「まだイかないのか? だが…薬には満足してくれたようだな。嬉しいぜ、お姫様。クックック……そら、お姫様はイきたいんだとよ、手伝ってやれスパイダー!」
―――ドドンッ
「ひっ!?」
 再びあたしの体を貫く蜘蛛の足爪。場所は膝…手足と同じく軽い衝撃を受けただけでそれ以後の痛みはないけれど……今のあたしには、それが致命的な一撃となった。
「あっ……ああっ………いや、だめ、トイレに…トイレに行かせ…あああっ、ああああああっ………!!!」
 閉じあわされた脚が蜘蛛によって大きく左右に開かれた直後、あたしの膣は強烈にうねりだした。
 まだ直接媚薬に触れていないけれど、びりびりと股間を中心にして下半身に広がる痙攣が膣内の粘膜がこすれあうことでよりいっそう強くなり、充血してムッチリと膨らんだ恥丘はぱっくりと口を開いて愛液まみれの粘膜を晒しながらビクンビクンと狂ったようにヒクつく膣口と尿道口とをさらけ出している。
 そして……今度は間違いなく本物だ。びりびりと痺れる尿道が耐え切れないのではないか、そう思うほど大量のおしっこが体の中を駆け下ってくる。
「イくぅ、イくううう――――――!!! 熱い、熱いの、おしっこが…出るぅぅぅ―――――――!!!!!」
 失ったおチ○チンの代わりと言うように丸々と勃起したクリトリスを突きあげる。おしっこが殺到するのにあわせて表面に疼きがまとわり付いて腰の奥まで痺れさせる快感電流を放つ紅の肉珠を振るように腰をゆすりたて、胸よりも高く愛液でびしょぬれの恥丘を掲げ上げたあたしはハズかしい言葉を連呼し、最後の抵抗をするようにヴァギナをキュッと収縮させる。―――けれどそんな抵抗を一瞬で貫いた尿意は尿道口をその勢いで一気に押し広げ、股間で爆発した。
「いやあああぁぁああああああああっ!!!!!」
 あまりに大量におしっこが出口に殺到したために、暖かい液体は一本の放物線ではなく、噴水のように全方位へ音を立てて飛沫を上げる。股間から太股は先にはなった絶頂汁や愛液でべとべとに汚れていたのに、それがを洗い流されるほどの勢いであたしのおしっこは噴射され、下半身は足首まで生暖かい排泄液のぬくもりと香りとに包まれる。
「いやああああっ、とめ、とめてぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!」
「おやおや、お姫様は小便の仕方まで庶民とは違うんだな。それとも誰かに手伝ってもらわなきゃ一人で小便も出来ないのか、クハハハハッ!!」
「見ないで…あたしのおしっこ見ないでぇぇぇ!! ひ…ひどい……こんなのって……」
 無理やりおしっこさせられたようなものなのに……そんな言い方って……うううっ……
 放てるものを殆ど放って勢いも弱まってきたのに、あたしのお腹はなおも弾んでいた。どんなに涙を流して歯を食いしばっても、一度すべてを解き放ってしまった尿道には尿意をせき止める力は残っておらず、どんなにハズかしくてもあたしは延々と男の目の前でおしっこを漏らし続けてしまう羽目になった。
「やだ…やだよ…見ないで……ひっく…ううう……ッ!!」
「泣くほど気持ちいいのか。そりゃそうだろうな、こんなに溜め込んでいたんだから。ほら見ろよ、お前のしょんべんのせいでベッドがビショビショだ」
「く、うっ…!!! いじっちゃ…いあっ!!?」
 まだ放尿の残滓が残る震える淫裂に男の指がすべる。四肢の自由を奪われ、胸に垂らされた媚薬で全身を敏感にさせられたあたしは、開脚した脚の間に指を突きたてられても放尿後の強烈な脱力感のせいで抗えず、ヒクヒクとヴァギナを震わせることしか出来ずにいた。
「も…もう出ないの……おねがい…もう許してぇ……」
 湿った花弁を割り開かれ、淫裂の内側を固い男の指が擦る。痙攣を繰り返している尿道側の天井をグリグリと抉られ、肉穴を震わせたあたしは強張らせた体をくねらせて逃れようとするけれど、それでも指先は窮屈な膣口から抜けることはない。ゴツゴツとした一本の指が出入りするたびに蜘蛛の脚に固定された太股にビリッと痺れが駆け抜け、息を呑んだ表紙に尿道工からビュッと黄色い液体が打ち出される。
「ん〜? まだ出し切ってなかったのか?」
「っ…………」
 そんなの…言えるわけないよぉ……
 正直に言うと、あたしのお腹の中は空っぽを通り過ぎて、もう何も出すことが出来ない。今放ったのだって男の時に比べればペ○スの分だけ短くなった尿道にたまっていた分だと思う。
 けれど男は恥ずかしがって顔を背けるあたしをいやらしい顔で見下ろすと、ズボンのポケットから先ほどの小瓶を取り出し、あたしに突きつけた。
「だったらもう一度これを使ってやろう。高い薬なんだが…お姫様にはきっちり放尿してもらわないとなぁ」
 その言葉を聞いて、あたしの体に緊張が走る。装飾の施されたガラスの小瓶の中にはまだ半分近く媚薬が残っているのが見える。それを……もう一度胸に垂らされたらと思うと――
「い…いや……」
 ズンッと重たい衝撃が下腹部に広がる。先ほどの放尿を思い出すだけで、湿ったシーツに押し付けたヒップとパンパンに膨れ上がった乳房が震えるほど身をよじってしまう。
「諦めが悪いな。……だったらこれは、聞き分けの悪いお姫様が俺の言うことを絶対に聞くようになるプレゼントだ。受け取りな!」
 男がおマ○コに突き刺していた指を引き抜いて、愛液を払う。そして指の代わりに……媚薬入りの小瓶の口を膣口に押し当てた。
―――ズブッ
「い、いや、やめて、イヤアァァァ!!!」
 傾けたビンの口から冷たい媚薬があたしの中に流れ込んでくる。――そして効果はすぐに現れ始める。
「いっ、いいいいいいっ!!! 熱い、おマ○コが熱いのっ!! こんな、のっ…あああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 媚薬は粘膜に触れると、瞬く間に胎内へと吸収されていく。しかもそのスピードは乳房のときよりもさらに速い。ビンを突き入れられて十秒としないうちに媚薬の熱は恥丘全体に染み渡って、肉厚のふくらみをさらにいやらしく充血させてしまう。
「くくく…クリトリスもこんなに尖らせて」
「!!?」
 ビンを抜き取り床へと投げ捨てた男は指先でクリトリスの先端をなでる。――たったそれだけだ。強く摘み上げられたわけでも口に含まれて転がされたわけでもない。一秒にも満たないわずかな間に触れられただけで、指紋の溝さえ感じ取るほど敏感になっていたクリトリスにはヤスリを掛けられた様な刺激が突き抜ける。
「い…や……いや…いやあぁぁぁ………!!!!!」
 喉が震えて声を上手く放てない。胸が詰まり、だらしなく開いた唇から震える舌先を突き出すとベッドに肘を付いて裸体を跳ね上げると、無意識に男の目に自分の最もハズかしい場所を突きつける。
「なんだ、手伝って欲しいのか? ようし…たっぷり抉ってやるよ。淫乱お姫様」
―――ビシッ
「ひあっ!!?」
 叩かれた。軽くではあるけれど、男の手によってクリトリス、そしてぱっくり開いて愛液をこぼしている淫裂を叩かれると、その衝撃が、あたしの最後の「なにか」を粉微塵に打ち砕いた。
「いやぁああああああああああああああっ!!!!!」
 部屋中がびりびりと震えるほどの悲鳴を解き放つ。その瞬間、快感に体を貫かれたあたしはギリギリと音が胎内に響くほどヴァギナを収縮させると、熱い愛液をブシャッと勢いよく噴射してしまった。
「いや、いや、ううぅ…うっ……出ちゃ…うっ……あたし…あたし…こんなに……くうぅ……!!!」
 潮噴きが火山の噴火、放尿が噴水だとするなら、これは…もっと粘着質な放水だ。肉壁がうねるたびにパンパンに膨らんだ二枚の花弁の間から放たれる液体は潮と呼ばれた絶頂の射精液と異なり、より濃厚でドロドロ…まるで固体かと錯覚させるような濃度を持っていた。それは膣の収縮に合わせてわずかずつだけど水鉄砲のように放たれる……そのたびに感じる快感は媚薬にもたらされたものだと頭では分かっていても、狂おしく、愛液を練り上げるヴァギナの中は火が付いたように燃え盛らせていく。
「ううぅ〜〜〜…!! くハァ、ハァああっ…で…出る……あたし…もう……きひイッ!!」
―――ブシャッ…ブシャ……
 ヴァギナの脈動があたしの心も体もボロボロに打ち砕いていく。それに加え、まだほんのわずかに膀胱に残っていた小水が膣道の痙攣に共鳴して振るえる尿道を駆け抜ける。
「ひううう…ッッッ!! あはぁ、あたし…やだ…もう……くあぁぁぁ………!!!」
 もう声を上げる力さえ残っていない。空気を求めて唇を喘がせると、あたしは擦れ過ぎてさらに熱を帯びていく肉ヒダからぐちゃぐちゃと聞くに堪えない粘つく水音を響かせ、ぐったりとベッドへ沈み込んだ。
「どうだい、お姫様。俺のもてなしは満足してもらえたかな?」
「ハァ……ハァ……」
 満足なんて…するはずないでしょ……こんなに…ひどい事されて……
 ベッドの傍で男はわざとらしく慇懃に腰を折る。
「しかし…これはこれは、なんと申し上げてよいか分からぬほどに…クックックッ…まったくもって、スケベなお姫様ですな」
「………卑怯…者」
 あたしが何とか喉から搾り出せた言葉はそれだけだった。ハズかしさに火照る顔を隠すことさえ許されないあたしは頭に思いついた唯一の侮蔑の言葉を吐き出すと、天井へと視線を向ける。
―――キシャアァァァ………
 あたしの体に六本の脚を突き刺し、残った二本の脚と口から吐き出した太い糸で体を支える大蜘蛛と自然と目が合う。……複眼と目が合うというのも不思議な感じがするけれど。
「くくく…私が卑怯者? いいだろう、教えてやろうじゃないか。おい、こいつの体を離せ。さっさとしろ!」
―――キシャァァァ………
 あたしの言葉に怒りが沸いたのか、男は腰のワンドを引き抜いて大蜘蛛に命令を下す。
 蜘蛛の脚が、あたしの手足からゆっくりと引き抜かれていく。まるで体の中に空気が流れていくような感触にくすぐったさを覚えながらようやく解放されたけれど、ベッドから体を起こすことさえ出来ないほど脱力したあたしの傍には誘拐犯の男が仁王立ちしていた。そしてあたしに見せるようにズボンのベルトをはずしてズボンを脱ぐと、黒光りする大きなペ○スを目の前へと突き出してきた。
「あっ……」
 ワンドをあたしの足元へ放り投げ、全裸になった男のペ○スお失神直前のあたしはぼんやりと見つめる。大きい…片膝をベッドに乗せ、表面からの熱気と濃厚なオスの香りが伝わってくるほど近くに突き出されたペ○スに犯されるところを想像すると……
「んっ……」
 こんなおチ○チン……入れられただけでどうにかなっちゃいそう……
 表面に血管が何本も浮き上がったそれは見るからに逞しく、自分についていたものに比べるとはるかに凶悪な形をしていた。傘は大きく張り出し、上向きに軽く反り返ったそれは、入れられた瞬間にあたしをイかせてくれると簡単に思い描かせてくれるほどに力強さを感じさせてくれる。
「欲しいんだろう、こいつがよ?」
 その言葉を聞いた途端、あたしのヴァギナがキュンッと収縮した。
「欲しいと言えば入れてやるぜ。言わない限り、絶対に入れないがな」
「ああ……」
 あ、あたし……
 媚薬の熱に浮かされ、唾液さえ沸いてこないカラカラに渇いた喉を震わせる。
 舐める……舐めれば…いいの?
 何人もの男のペ○スをほおばらされ、生臭いザーメンで体内を満たされた記憶が瞬間的によみがえってくる。
「……………」
 だめ……そんなの……ぜったい…ダメぇ……
「ほら、イきたくないのか? 早くしないとしまっちまうぜ」
「……………ぁ」
 ゆっくりと、唇の隙間から胸にたまった熱い熱気を吐き出すと、あたしはヒクッヒクッと先端を振っているおチ○チンへと手を伸ばす。
「よぅし…いい子だ。タップリ可愛がってやるぜ。お姫様よぉ……クックック」
「………ん」




 んなことできるかあああぁぁぁぁぁ!!!!!




 残った意識と力を全部右手に叩き込むと、汚らしい肉棒を引っつかんで手首を捻る。
―――ゴキッ
 うわっ、こ、この音は……
「ほうおぅおあえっ!!!!!?????」
 骨のないはずの股間から妙な音が響いたかと思うと、男は立ったまま全身を痙攣させ、なんともいえない苦悶の表情を浮かべると床の上へと崩れ落ちて行った。
 その痛み……分かりすぎるぐらい分かる。うんうん…子供の頃に明日香にもがれそうになったもん……だけどおチ○チン舐めさせようってなに考えてるのよこの変態っ!!……っと、そんなことより、
「―――ていっ」
 こんな男に手加減は無用とばかりに、おしっこまみれの脚をベッドに寝たまま振り上げ、腰を捻ってうずくまる男の後頭部に一撃叩き込む。
「ぐおおっ!!?」
「ふん…だ。あ、あたしだって…やるときはやるんだからね……」
 と、強がってみたって……ッ…か、体が思うようには……んんっ…
「……………こ……このくそアマぁぁぁぁぁ!!!」
 ウソ、もう復活したの!?
 どうもあたしの力が思った以上に弱かったらしい。……が、それでも痛いことは痛いようだ。涙を流し、歯を食いしばって股間を押さえていると言うなんとも情けない格好で立ち上がった男は怒りの炎で燃え上がった瞳であたしを見下ろすと、悲痛な叫びを上げながら右手を振り上げる。
 けど……あたしだって何もせずに殴られたくはない。
「くっ!」
 重たい手足を総動員してベッドから転がり落ちて拳をよける。
 まだ立ち上がれるほどに体力は戻ってない。それに裸だし……かろうじて一撃目は避けることが出来たけれど、誘拐犯の男は鬼のような形相であたしへ振り返る。
「こ…殺してやる……小娘が、殺したやるあぁぁぁ!!!」
「や…やれるもんならやってみなさいよ!」
 男があたしを捕らえようと腕を伸ばす。それよりも先にあたしはベッドの上へと手を伸ばす。
 そこにあるのは、天井の巨大蜘蛛を操るためのワンド。それを掴んだあたしは肩を押さえつけられながらも腕を振って男の即頭部に杖の先端の宝珠を打ち付けた。
「グウッ…こ、こいつはァァァっ!」
「うぐっ……!」
 床に倒れこむあたしに体格差を利用して覆いかぶさった男は両手をあたしの喉へと掛ける。
 逆上して締める事よりもあたしの頭を床にぶつけるように動かしてくれたのが……幸いした。
 頭は固い床に何度となく叩き付けられて痛い。頭が上へと跳ね上がり下へと落下するたびに脳を揺さぶる衝撃と、割れた後頭部からあふれ出す血の熱さが……あたしに最後の言葉を叫ばせるために気力を与えてくれた。
「―――助けてっ!」
 固く握り締めたワンドに魔力を流し、ただ一言、単純な命令を蜘蛛に与える。
「な、なにっ!?」
 遅れて、男があたしの言葉に反応した。
「貴様、なにしてやがるっ!」
「決まってるじゃ…ない……あんただってしてた――」
―――パキンッ
「………えっ?」
 ガラスが砕けるような冷たい音。
 その音がいったい何なのか……あたしは握り締めたワンドを持ち上げて顔の前にかざすと、
「水晶が……」
 短い杖の先端についていた紫水晶は、すでに跡形も残っていなかった。
「な…なに?」
「もしかして…さっきこれでぶん殴ったから……」
「ど、どうしてくれるんだっ! お前、これがなかったらあいつを――」
 水晶のなくなった杖を呆然と見つめていた男が話し出した直後、なぜかいきなりあたしの横へと転がった。―――いきなり横から飛んできた何かによって吹き飛ばされた、と言う方が正しい。

―――キシャアアアァァァァアアアアアアアアアッ!!!

「ひっ!? く、蜘蛛が……」
 男の体に叩きつけられたのは蜘蛛の脚だ。さっきは実体がないかの様にあたしの体に突き刺さっていたそれは、床にうずくまってわき腹を押さえている男の体を二度三度と容赦なく打ち据える。
「……………」
 手足がありえない方向へと曲がり、言葉の代わりに血の泡を吐く男が気絶しているだけなのか、それとも……いや、それ以上考えたってしょうがない。怖いから考えたくもない。とりあえず蜘蛛があたしを助けてくれている今がここから逃げ出すチャンスだ
「ッ……大丈夫。動ける!」
 うつぶせに体を回すと、まだ走るのは無理でも立つぐらいなら何とかなる程度に手足に力は戻っている。
「静香さん、静香さんっ!!」
 静香さんの隠れている部屋の隅の木箱へと近寄ると、あたしの着ていた服を布団のように握り締めて眠っている彼女の頬を軽く叩く。
「……………んっ……」
「静香さん、今から逃げるからあたしについてきて。………起きてる?」
「………ん」
 一応あたしの声は聞こえてるみたいだけど……ええい、グズグズしてる暇ない。
「ほら、起きて。行くわよ!」
 まだボンヤリあたしの服を抱きしめている静香さんの手を取ると引っ張り起こし、扉のほうへと駆け出す。
 ――が、あたしの脚は一歩踏み出した途端、目の前を通り過ぎた男の体にさえぎられて止まってしまう。
 破砕の音が部屋に響く。さっきまであたしたちがいた場所には大きな木箱の破片が散らばっていて、箱の中身だったガラクタの中央には辛うじて息をしている全裸の男が倒れていた。
「うわ……」
 色々ひどい事をしてくれた男だけれど、さすがにこれはやりすぎだ。あまりに無残な血まみれの姿に背筋が震わせて天井を仰ぎ見れば、巨大蜘蛛は黒い巨大を小刻みに震わせ、赤い複眼を輝かせてあたしを見つめている。
―――キシャアアアアアアアアッッッ!!!
 鋭い牙を除かせ、緑色の唾液を滴らせる蜘蛛を見て、本能的に察知する。
 次の標的……もしかしてあたし!?
「やばっ!?」
 とっさに静香さんを抱きかかえてベッドへと飛び乗ると同時に床に四つの穴が穿たれる。
 危ない、けれどそこで思考を終わらせることも出来ない。大蜘蛛の殺気は常にあたしの体に突き刺さっていて、動きを止めれば一瞬にしてあの足に体を突き刺される。
「そんな冗談やめてよね!」
 男に戻る前に死んでたまりますかってぇの!!
「静香さん、窓!」
「…………?」
 ああもう、何でこんなときにまでボンヤリしてるのよぉ〜〜〜!!!
 嘆いている暇はない。蜘蛛が床に突き刺した四本の脚を振ってベッドを叩き潰す直前に右手に静香さん、左手に隠しておいたナイフホルダーを掴んだあたしは疲れきった体に鞭打って、部屋に侵入した窓へと駆け寄った。
 扉は部屋の反対側。屋上へ出る道もいったん廊下に出ないといけない。………だったら一か八か!
―――キシャアアァァアアアアアアアアアアッ!!!
 視界の端にこちらに向けられた蜘蛛の足爪の輝きが映る。
「――っのお!!」
 さっきまでの動きで分かったこと。……この蜘蛛はあたしに当てられないほど狙いが甘い!
 静香さんを強く抱く。そして踊るように体を回し、窓の横へと体をずらすと脚の一撃はあたしの背中の傍を通って窓の下枠へと突きこまれた。
 ―――壁がはぜる。日差しよけの木窓が付いただけの壁に開いた四角い穴は一瞬にして原形を失い、人が通れるほどの大穴へと姿を変えていた。
 あたしが窓枠へ走ったのはこのためだ。裸足に石が刺さって痛いけれど歯を食いしばって耐え、静香さんを抱えたまま外へと飛び出した。
 に…二階から落ちたぐらいじゃ死んだりしない!……けど、本日二度目の落下はやっぱり怖い!
 言っておくけどここは二階だ。そんなことはあたしにも分かってる。それでも……あたしは無我夢中で床のない場所へと一気に駆け出し……そのまま落っこちた。
「ひゃあああああっ!!!」
「げふあっ!!!」
 ……………あれ?……あ、ラッキー。下にクッションがあって…って、こいつは静香さんをさらって行ったヤツじゃない。
 最悪、脚の骨を折るかと思っていたけれど、偶然その場にいた誘拐犯の一人がいてくれたおかげで、お尻をしこたまぶつけたぐらいでこれと言った怪我をせずに脱出できた。あとはこのまま神殿まで逃げ帰れば――
 だけど、世の中そこまで甘くない。ついさきほど背中越しに聞いた壁が粉砕する音が再び響くと、拳大の壁の破片が情け容赦なく頭上から降り注ぐ。
「きゃーきゃーきゃあああーーー! ちょっとぐらいタンマか休憩プリーズ!!」
 突発的事項への反射は子供の頃から鍛えられている。伊達に毎日姉さんにファイヤーボールで追いかけられてない!……っと、そんな思いで思い出すのは後にして、あたしは胸に静香さんを抱きかかえたまま横っ飛び。誘拐犯Aが落ちてきた破片を食らってボコボコになるのを見る余裕もなく、何発か背中にいいのを貰いながら正面の建物の軒先へと駆け込んだ。
 ………いっつぅ〜〜〜…ここまで大怪我したのはさすがに久しぶりよ、ホント。
 後頭部からは血を流し、生まれて初めての脱走劇で残っていた体力も完全にゼロだ。壁に汗のにじんだ背中を預けると、一気に押し寄せてきた疲れに息を乱しながら地面に座り込んでしまう。
 血の流しすぎだ。手を首の後ろに回せばヌルッとした感触が指に纏わりつき、その手を顔の前に回せば、その手の輪郭さえぼやけてきた。
―――キシャアアァァァァァアアアアアアッ!!!
 ウソ……まだ追っかけてくる気? これじゃ…本当に死んじゃうかもね…あたし……
 もう動くことは出来ない。けれどせめて静香さんだけは助けよう。……壁から大蜘蛛の黒い姿が見えたことで、かえって開き直れたあたしは腕の中の王女様に視線を下ろし――
「………んっ」
 ………柔らか…い……?
 あたしの視界を覆っていたのは白い色だ。軒下の日陰の暗さが混じっても輝きを失わない白い何かに、あたしの唇は奪われていた。
「………ありがとう」
 感謝の声を聞いて、あたしの唇に重なっているのが静香さんだと気づいた。
 湿り気が残る唇……そこにわずか甘い香りを残して静香さんが離れると、下着しか身に着けていない彼女はその場に立ち、あたしを蜘蛛からあたしをかばうように背を向けた。
 だ…ダメだって……もうどうしようもないんだから……静香さんだけでも早く逃げて!!
 あたしの口から言葉は出ない。背が向いていては表情を見せることも出来ない。ただ……あたしは座り込んだまま、静香さんの小さな、けれどどこか王女と言う立場を感じさせる威厳を放つ背中を見つめるしかなかった。
「………きて」
 それはあたしに向かって放たれた言葉ではなかった。
 低いうなり声を上げて部屋から出てこようとする蜘蛛へと静香さんは右手を伸ばす。そしてその名のとおりに静かで、けれど凛とした声を狭い路地裏に響かせる。
―――キシャアアァァァァァアアアアアアッ!!!
 大穴から実を出した蜘蛛はその場で跳ね、あたしたちの頭上から襲い掛かる。
 そして――
「きて……ガーディアン、ルーク」
 一瞬の閃光。静香さんの背に守られ、目を焼かれることなくその光景を見ることが出来たあたしの前で、その輝きは周囲の魔力を巻き込みながらさらに眩く、そして強大なモノへと姿を変えて行く。

 巨大ではあるけれど、間違いなく人の姿だった。

―――キシャアアアァァァアアアアアアアアアアッ!!!
 蜘蛛の叫びと、
―――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
 閃光の中から響く咆哮とが重なり合い、直後、周囲の建物が一気に吹き飛ばされた――


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