第三章「神殿」06


「っ……!」  めぐみちゃんの指が……あたしの、あたしのお尻に…!  どこにもエッチな雰囲気を漂わせていない、純朴だけど可愛らしい女の子のめぐみちゃん。そんな彼女にお尻 を突き出し、キュッと窄まった排泄の穴へ指を押し入れられているなんて……恥ずかしいと言う感情さえ突き抜 け、どこか遠くへ逃げ出してしまいたい気分だ。  そんなあたしの思いを感じとってか、あたしの体は勝手に右へ左へとよじれるけれど背中に乗せられただけの みっちゃんの手が上手く押さえつける為に逃げ出す事も出来ない。相しているうちにあたしの白い尻丘に身長に めぐみちゃんの細い指が埋めこまれ、腸内の粘膜に体外から侵入してきた異物が擦れ合うとまるで食い締めるか のようにお尻の穴は内側へ収束する様に蠢動し、前の方の割れ目の奥がビクビクとうねりはじめてしまう。 「め、めぐみ、ちゃん……やっ、ダメ、抜いて…抜い…てぇ……それ以上は…変になる…からぁ……あっ、ああ あっ!!」 「あの…あんまり変な声を出さないでくれますか? これはたくやさんの呪いを調べる為の行為なんですから… …」 「そんな事言ったって、言ったってぇぇぇ!」  爪の先がお尻の中の蠢く壁にほんのわずかに引っかかる。その途端、あたしは顔をガバッと跳ね上げながら全 身をわななかせ、胸やお尻は豊満なわりに体格としては華奢な女の肉体を震わせる。 「あ…あ……あひぃ!…やっ、だめ……許して……もう許してぇ………!」 「めぐみ、たくや君のお尻、どんな感じ?」 「え、えっ? あ…その……ものすごく熱くて……それに…キツく締め付けてきます。指一本ですけどなかなか 入らなくて……」 「変な臭いとかはしない?」 「そ、それは……その…た、たくやさんも聞いていますし……」  言わないで、あたしのお尻の中の事なんて説明しなくても良いのにぃ!! やめ、やめてよぉ、こんなの酷す ぎるぅ!!  涙をぽろぽろと流しながら獣の様に叫び声を上げる。潰れんばかりに喉を震わせても、戸惑うめぐみちゃんは みっちゃんという悪魔のような先輩僧侶に促されるままにあたしのアナルに指を突き入れて、ついには根元まで あたしの中に埋めこんでしまう。 「あああああ―――――――――――っ!!」  あたしの声がドーム内に長々と響き渡る。すると背中を抑えられていた手の感触が消え、あたしの体が自由に なる。するとあたしはむにゅっとタイルに乳房を擦りつけながら上体を反らせ、お尻を貫いている様に感じるめ ぐみちゃんの指を離すまいと蠢く内壁で締めつけてしまう。 「やっ…ああ、ああぁ……こ、こんな…の……ヒック…お…お尻の穴に……ヒック…うっ…うううっ……」 「あれぇ? 泣いちゃうほど気持ち良かった?――やっぱり敏感なんだ。あたしの目に狂いはない!」 「気持ちいいはず…ないよぉ……まだ…まだ終わらないの? 早く…してぇ……んっ!」  言葉で責めたてるみっちゃんに反論を返した直後、お尻を上げる為に突いていた膝がタイルを上を滑ってお腹 を地面につけてしまったあたしは、指の挿入角度がずれてしまったが為にめぐみちゃんの指先に内壁をグリッと 抉られてしまい、肉体の中心に重く甘く、甘美な震えが貫いていく。 「あっ……」 「「早くして」だなんて、たくや君ってばいやらし〜〜♪――ま、それはさておいて、どんな感じ?」 「いえ、その……魔力や呪いのようなものは感じられ……えっ?」 「やっ…ふっ……」  震えが腹筋にまで伝達して行く。めぐみちゃんの指が動いていなくても、熱を帯びたお尻の穴がヒクヒクと病 的なまでに痙攣を見せれば彼女の指と腸壁とは自然と擦れあい、それだけの動きによってもたらされる刺激にあ たしの意識は細かく引き裂かれてちぎれ飛び、括約筋が異常な震えを見せ始める。 「ふぅん……めぐみ、もっとよく調べてみて。このたくや君の反応、あまりにも異常よ。指を何度も往復させて 壁をよく押しこむの。いいわね?」 「で、でも……」 「いいから! あたしはこっちの方を調べてあげるから。急いで!」 「―――はい、わかりました。たくやさん、すぐに助けてあげますから!」  やっ、やめ……お尻を往復なんてそんな事されたらあたし…もうわけわかんなくなっちゃってるのにぃ……  ドロドロに蕩けている意識をなんとか束ねて後ろを振り返ったあたしの視界に映ったのは、あたしのお尻に手 をかけていざ手を動かさんとしているめぐみちゃんと、彼女の右手側から手を伸ばしてあたしの中心に触れよう としているみっちゃんの姿だった。どちらもあたしの恥ずかしい場所を覗き込んではいるけれど……めぐみちゃ んの顔にはあたしの身を案じる心配の表情が、反してみっちゃんの方はまるで玩具で遊ぶ子供のような顔を浮か べていて、それを見た瞬間、あたしの背筋にいやな予感という寒気が駆け巡っていた。 「やめ、二人ともやめてぇ!」―――ズリュ 「くっ…あああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」  前と後ろの穴に同時に指が出入りし始める。痛いぐらいの衝撃に耐えきれず、タイルの床の上で自由な上半身 をバウンドさせると湿った髪を振り乱して叫び声を上げた。 「たくやさん!?」 「めぐみ、いいから今は指を動かす事に集中しなさい。ほら、こう言う風に出し入れするのよ。ほぉら」  あたしの声に驚いためぐみちゃんの指は一旦止まるけれど、みっちゃんの方はその動きをますます加速させて 行く。キュウッ…と締まる前の穴に二本の指を差し込まれたあたしは中に溜まっていた熱い液体をグチャグチャ と掻き回される音を強制的に聞かされ、往復するたびに床へ張り付く様に押しつけた下腹の奥で痺れるような感 覚が次々と沸きあがってくる。  割れ目の左右に膨らみは激しい挿出に無理矢理めくり上げられ、お尻の穴もめぐみちゃんに控えめな動きにキ ュッと窄まる締め付けのリズムが合わさり、二つの穴に同時に指を刺し入れられる快感は大きなうねりとなって 下腹の中を掻きまわす。 「うんんっ! あはぁ、あっ…んんっ!…くぅ、はぁ、い…いいっ……んくぅ…!」 「なによ、ものすごく濡れてるじゃない。たくや君てば男だ男だって言ってるくせに処女でもないし、とんでも ない淫乱なんじゃないの?」 「ちが、ちがうの、あたしは、違うの、あっ…ぅあああっ!!」 「だけどたくや君が感じてるのはお尻の穴よ? 前の穴だけなら分かるけど、こんな汚い場所で感じるなんて信 じられない。めぐみだってそう思うでしょ?」 「あっ…私は……」 「めぐみもそうだって言ってるわよ。ほらほら、イっちゃいなさいよ。何もかも忘れて、女としてイっちゃった ら? イきたいんでしょう、イっちゃいなさいよ!」 「あっ、いやぁ!」 「こんなにおマ○コからマン汁垂らして、イヤらしいったらありゃしない。めぐみの前よ? 神聖なる清めの間 よ? なのにこんなに濡らして悶えて…淫乱、どこが男よ。ほら、ほらほらほらぁ、イっちゃいなさい。そした ら今日から女の子ぉ♪」 「あ…う……ん…あっ! やっ…いや、いやぁ、そんなのいやぁぁぁ!!」  みっちゃんの言葉を耳にするたびにあたしの胸には言い様のない感情が溢れ出してくる。あたしにこの行為を 受け入れろ、そして……あたしの体を震わせるこの「快感」を素直に受け入れてしまえばいい……と。  だけど…だけどあたしは男だもん。こんなに感じてるのは女になってるから……女の体を触られてるから、こ んな…こんなに感じてるだけだもん! 「めぐみ、あたしの動きに合わせて。二人で一気にたくや君を昇天させちゃうわよ」 「あの…でも、たくやさん、苦しんでます。もうこれ以上は……」 「いいから。ほらぁ♪」 「かはっ!?」  弾力のあるあたしのお尻に、今までにない勢いでめぐみちゃんの手が押し当てられる。それと同時にみっちゃ んの指も割れ目の奥へと入りこんできて、表と裏、女性の穴とお尻の穴の両側から二箇所を隔てる壁をこすりあ げられ、あたしは喉をまっすぐに仰け反らせると震える声で声にならない声を漏らし出してしまう。 「くぁ…ああ、あああっ…っっ!」  折り重なる肉壁をめくり上げ、前後から淫肉を抉りながら指先が奥へと突き刺さる。責め立てられ過ぎた二つ の穴は僅かな動きにも敏感に反応し、あたしの意識はこんなに拒んでいるというのに二人の指を迎える様に腰を くねらせてしまう。そして―― 「い…いい、いいのっ! い、いいいいっ! いんんんんんんんっ!!」  ――口をつぐんでももう遅い。あたしの唇がはっきりとこの感覚を気持ちいいと認めた途端、乳房がブワッと 膨張し、床と擦れ合う乳首が硬く勃起したような錯覚に襲われる。そして豊満な肢体はびりびりと強烈なまでに 痙攣し、滑らかなタイル床に乳房を押し付けて量の足をVの字の様に左右に開いてピンッと伸ばすと張れ上がっ た内壁を蠢かせながら割れ目から熱い液体を次々と垂れ流してしまう。  やだ……また、またお漏らししてるっ!  股間から溢れる液体を二人の少女に見られていると言う恥ずかしさに唇を噛んで必死に耐えながらも、一度女 の快感を認めてしまった肉体は腰を震わせ、脚を悶えさせながら、熱く疼いて仕方のない股間で弾ける喜悦の快 感を背筋に響かせてしまう。 「んんっ、んんっ、んんん〜〜〜〜〜っ!!」 「あ〜ら、結構強情じゃない。だ・け・ど、これでどうかなぁ!?」―――クリュ 「くあっ! あっ…ひっ…ひぃあっ!」  荒く乱れる呼吸、果てる事無く震えつづける全身の筋肉、そして割れ目とお尻の二つの穴を抉られる快感にも う意識も体も限界に達しかけていたあたしにトドメをさす様に、みっちゃんは割れ目の端でヒクついていた肉の 突起に指の腹を当てると、股間から溢れた蜜にまみれたそれをクリっと転がしてしまう。 「これは初めて? ほぉら、おマ○コがビクビクしてる。ふふふ、かわいっ♪」 「あ、あの、あの、わたし、わたし……たくやさん、すみません!」  後ろの二人が何を言っているかなど聞いている余裕はあたしにまったくない。汗にまみれた肉体を床に擦りつ ける様にくねらせて、胸や太股を押しつけるあたしは下半身に生々しく沸き起こる肉の収縮に身悶え、もう男だ 女だとそんな事は全部忘れて絶叫し、熱気をはらんだ股間を責めたてられるがままに身を震わせると、突然、強 烈な疼きが込み上げてくる。 「い…いや、いやぁ……あぁ!」  大きく開いたから唇から小さく言葉を漏らしながら頭を振る。けれど大きさを増した乳房を床に圧迫され、め ぐみちゃんとみっちゃんに穿られまくった体は体がばらばらになりそうな昂ぶりの波に抗う事が出来ず、体中が 震える快美感に身を引きつらせる。 「イヤらしくお尻を突き出しちゃって。ほぉら、イっちゃいなさい。いい声上げてイっちゃいなさい!」 「ああ、ああ、ああああぁぁぁぁぁ!!!」  指にみっちりと絡み付く肉壁を掻き分け、二人の指があたしの奥を突き上げる。けれど、まるで太い杭でも打 ちつけられたかのように身を震わせたあたしは、唾液が伝う唇を大きく開いて声を放ち、塞き止められていたよ うな「何か」を一気に迸らせた。 「あっ!! ああああああああああっ!! イッ…クゥ、イっくぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜!!!」  直後、あたしの股間に熱いものが突き抜ける。二人の指が入っている二つの穴とは違う、もう一つの別の管を 押し広げながら震える肉体を駆け抜けたそれは、未知の快楽に翻弄されるあたしの意識を無視して痙攣する割れ 目の殺到する。 「ダメ、ダメ、いやぁぁぁ!! あた、あたし、もう、ダメ、んんぁああああああああああああっ!!!」  一際鋭い叫びを放つ。そして指の動きが収まった割れ目の小さな入り口へと押し寄せた圧迫感に後押ししてし まうと、ドロドロになった割れ目から―――――ブシャ! 「うわっ、なに!? まさか本当に噴いた!?」 「ああ、イく、イっちゃう、あたし、あああイっちゃう――――――――っ!!!」  みっちゃんに教えられた「イく」と言う言葉を連発するあたしの股間で何か熱いものが弾けた。おしっこ――と は何か違う。放つ時の比べ物にならない快感と開放感に絶頂のスロープを延々と登りながら股間の液をしぶかせ たあたしはまだ満たされない肉の欲望に腰を振りたくる。  あれだけ男だと言い張ったのについには女の体の快感に屈服してしまった……そして何かに目覚めてしまった あたしは、男のそれとは違う射精が収まるまで、何度と無く絶頂に達しながら延々と喘ぐ声を放ちつづけていた―――  ―――が、不意に地上へと通じる扉が軋みながら開く音を耳にして、あたしたちはそちらに目を向けた。 「あいやー。なに、三人? みっちゃん、めぐちゃん、何してるアルか?」 「……へっ?」 「………あっ」  三人が三人とも、先ほどまでの行為に夢中になりすぎていた。  あたしは今まで知らなかった女の気持ち良さに目覚めて――  めぐみちゃんとみっちゃんはそんなあたしを責めたて、見つめる事に――  そうしてぐったりと床に倒れ伏したあたしを囲んで余韻に浸っていたが為に、突然の来訪者への反応に一拍の 間があいてしまった。  そこにいたのは………上半身裸のデブで見るからに怪しい変質者! 「きゃあああ〜〜〜〜〜〜〜!!」 「し、神官長、なんでどうしてここにいるのよぉ!?」 「わ、ワタシ、なにかタイミング悪いときに来ちゃったカ? いやいや、水の神アリシアは同性愛を否定はしな いアルね」 「ダメです。見ちゃダメですっ! 神官長、出て行ってください!」 『おおおおおっ!? これは眼福眼福♪ たくやも含めて美少女三人が薄着で水に濡れているとはなんとも色っ ぽい♪ 胸の形もばっちり拝めておるぞぉ♪』 「このエロバカ魔王! ゴミ箱に捨ててきたのにここまで追ってくるなんていい根性してるじゃない。ちょうど いいわ、あたしの体に何したか教えなさい! 返答次第じゃ火をつけて燃やしてやるんだから!」 「たくやさん、ほとんど見えちゃってます! 今は女の人なんですから恥じらいをもって隠してください!」 「いつまで見てんのよ、このスケベ親父! 乙女の柔肌見て、ただですむと思わないでよ。あとでしっかり料金 請求するからね!」 「アイヤ〜〜! みっちゃん、これは事故よ、偶然よ、ワタシこれっポチも悪くない不可抗力よ。見るならこっ そり隠れてみる方がより興奮するからワタシの好みネ」 『オオッ、お主、話がわかるではないか。やはり男なら女同士の秘め事睦言は乱入するより壁に耳あり障子に目 あり。盗聴、マイクに防水カメラ。何でも使って秘密を暴露してそれをネタに脅迫して犯りまくりの性奴隷よっ !!』 「んな事はどうだっていいから! とにかく――」  とっととここから出てけぇぇぇ!! 「アイヤァ〜……最近の女の子、すぐに暴力に走りすぎよ、まったく……」 「あ…あはは……すみませんでした。あたしもちょっとパニクちゃって……」  何を言ってもはぐらかして出て行かない不気味な男をみっちゃんが先陣を切り、続いてあたしも加勢して殴る わ蹴るわでぼこぼこにしたものの、後になってめぐみちゃんにこの変質者――もとい、太った男が今いる水の神 殿の最高責任者、神官長だと聞かされた時には全身から音を立てて血の気が引いたものだ。  とりあえず、身の清めがどうのこうのって言うのは一旦置いておいて体を拭いて元の服に着替えたあたしはめ ぐみちゃん達二人の僧侶に案内され、目を覚ました神官長と再対面した時の最初の言葉がこれだった。  ちなみに、魔王のバカ本は横に油のビンと火打石を置いて、あたしがたずねない限り何も喋らない事、あたし が訊く事にはちゃんと答える事を約束させてある。こうでもしないと煩すぎて話が進みやしない。  まぁ、神官長も右目の周囲にくっきり出来た青あざに自分でヒーリングを掛けながらも、それ以上の厳しい追 求はしてこない。どうやら自分でもあたしの肌か同然の姿を見たのを悪く思っているらしい。 「それにしても神官長、どうして神殿にいるんですか? クドーの街に行ったんなら往復三日か四日ぐらいかか るでしょう?」 「うむ、みっちゃん、相変わらず鋭いところ突いて来る。それは人として良い事ヨ。でもあんまり首を突っ込み すぎると火傷じゃすまなくなってヒーヒー言う事になるから注意も忘れないデね」 「で、どうして帰って来たんですか? 重要な用事とか言ってたくせに」  うわぁ…なんだかみっちゃんの方が神官長さんよりも偉そうなんですけど……  みっちゃんに問い詰められ、神官長も無言を通しきれなくなった。一つ溜息をつくと手の平に乗る大きさの水 晶を取り出した。 「それって遠話用の水晶ですか?」 「ほう、えっと…たくやちゃん、ダたかな。なかなか物知りネ。そう、元々一つだった鉱物には中に人間と同じ ように魔力の流れていて、それを二つに上手く割ると別々の存在になっても繋がりが残る。その「存在」と言う物 のつながりは――」 「あの…それなら知ってます。あたし、魔法は使えませんけどアイハラン村の出身ですから基本的なマジックア イテムは一通り」 「そ…そうアルか……残念」  できれば薀蓄(うんちく)を延々と聞かされるのは勘弁して欲しいなぁ……  何を残念がっているのかは知らないし知りたくもない。あっさりあたしに話の腰を折られた神官長はコホンと 一つ咳をすると、ゆっくりと語り始めた。 「今回の用事はあまりにも急を要する事だたアルから、最初の使者を出した直後にもう一人、この水晶を持たせ て使者を出したソウね。途中で追いつくはずの所が最初の使者の男がずいぶんと生真面目でネ、昼夜馬を走らせ たものだから随分と早くここに着いてしまったのヨ」 「で、途中でもう一人の使者に会って遠話で話をしたんですね」 「そう、まったくその通り。いやいや、たくやちゃんは要領が良いアルね。まぁ、どう言った内容かは部外者の たくやちゃんがいるから話せないケド、かなり大事な用件アル。―――聞きたいアルか?」 「いえ、別に」  だから、なんでそこで落ちこむかなぁ、この人は。  まるであたしに聞いて欲しかったと言わんばかりに俯いていじける神官長さんに突っ込みをいれたくなるけれ ど、そうすればまた泥沼で話がややこしくなるだけだし……ここはあたしから話を切り出した方がいいかな? 「あの……それであたしの体に掛けられた呪いなんですけど、解呪する事は出来ませんか?」 「うん、呪い? 呪いをかけられてる様には見えないケドも。――ああ、それで地下にいたワケか」  納得したらしく手を打ち合わせる神官長。本当にこの人で大丈夫なんだろうか……ふと、そんな疑問が頭をよ ぎってしまう。 「えっと……お聞きした限りではたくやさんは元々男性だったそうです。それと…ですね、えぇと…その……た くやさんの、お…おし……」  まだあたしのからだの事を知らない神官長に説明を始めためぐみちゃんだけれど、地下の泉での一件で判明し たあたしのお尻の件になると言いよどんでしまう。  あたしだってその……こんなにまじめそうなめぐみちゃんにお尻の穴を弄られただなんて……思い出すだけで 顔が熱くなってきちゃう、あうぅ〜〜…… 『たくやの尻がヒクついてうねって悶絶したか? うひょひょひょひょ♪』 「こ、こら、エロ本。あんたは喋るなって………どうしてあんたがそれを知ってるの?」  めぐみちゃんへの照れを隠す意味合いもあり、勝手に喋り出した魔王の本へ強めに反応する。が、言葉の内容 があの場所にいなかったこの本にどうやっても知り得ない事だったので改めて聞きなおしてみる。  すると予想していなかった様でやっぱり原因はこいつか確信させるような答えが返ってきた。 『だって、ワシが魔力で色々こね回したんじゃもんね〜〜。憑依するときにチョイとアナルの方にもリンクをつ ないで、ワシが魔力を流すとアナルの奥が……って、なんでワシ、さらに上に置かれてるんでしょうか?』 「………机の上で火を付けるとこげちゃうし、ひょっとしたら火事になるかもしれないでしょ。だから下に受け 皿が……」 『ノ…ノオオオォォォォォ!! すまん、ワシが悪かったです、だからうっぷ何じゃこれって油ぁ!? 待て、 待て待て待てぇぇぇ! ワシは本だぞ、貴重な魔道書だぞ、そんなワシに火をつけるなんて世界的損失だとは思 わんか!?』 「だれが思うか! 観念して灰も残さず燃え尽きろ!」 『やだぁぁぁ! ワシを待つ美女が、ボインボインのおっぱいが、復活してからまだ誰一人として犯してないの にぃ〜〜!!』 「やっぱり燃えなさい、諸悪の根源!」  皿の上に押しつけた本に油を振り掛けて火打石を手にする。これであたしとこいつの腐れ縁もこれまで……と 思っていたんだけれど、あたしの周囲に涼しい風が流れたと思うと、 「あ〜、この神殿内は基本的に火気厳禁。水の神様奉てるところで火を使うのはご法度ヨ。どうしても燃やした いなら台所でニ行くといいヨ」  風が流れた後、火打石を何度打ち合わせても火花が飛び散る事は無かった。 「あれ? もしかして封印術!?」 「まぁねぇ。これでもワタシ、神官長やってるシネ」  スゴい……ほとんど呪文なんて唱えてなかったじゃない。もっと大きい火、それこそ魔法の炎ならどうだか分 からないけど、封印術をこんな簡単に扱うなんて…… 「喧嘩はとりあえず待つとして、まずは呪いダタねぇ。ふむふむ」  高等魔法をこともなげに扱った神官長の技量に感心していると、近づいてきた神官長があたしの頭に手の平を 置き、小声で二言三言呪文を唱えると触れ合った箇所から涼しげな魔力があたしの体に流れこんでくる。  これ……地下の泉で水を浴びせられたときとなんとなく感じが同じ。こうやって呪いがあるかどうか調べてる のか……  今しがた神官長の技量を見せられただけに実力は疑い様もない。これで男に戻れる……そんな予感に胸躍らせ ながら、目を閉じてはやる心を落ち着かせる。 「………ふむ。これは……だいたい分かったアルよ」  早いっ! まだ一分ほどしか経ってないのに。 「たくやちゃん、君、呪われてないアル」 「………へっ?」 「お尻の穴の周辺に変な魔力がわだかまってタカラ浄化しといたけど、君の体は正真正銘の女の子、いや、おじ さんをからかっちゃいけないヨ」 「そ…そんな、ちょっと待ってよ!」  あたしは予想外の宣告に愕然とすると神官長の胸元を――って、服着てないんだっけ。代わりに首に両手をか けて締め上げ、魂の叫びを涙と共に口にする。 「あたしが正真正銘の女の子ぉ!? 冗談言わないでよ、あたしは男、正真正銘の男の子なのぉぉぉ!!」 「ま、待つヨロシ。ホント、ホントにたくやちゃんのからだ、呪いはもう残ってないアル。ホント、信じてぇ〜 〜!!」 「信じられるわけないでしょ、このエセ神官長! なによ、人を期待させるだけ期待させといてあたしが女ぁぁ ぁ!? 嘘でしょ、嘘と言って、嘘って言わないと締めてやるぅぅぅ〜〜〜!! え〜〜〜〜ん!!」 「ひゅーひゅー、いいぞやれやれぇ。給金上げてくれない神官長なんてくびっちゃえぇ♪」 「先輩、考え無しに煽るのはやめた方が……それよりたくやさん、落ちついてください。神官長は嘘や冗談を言 う方ではありません」  そう言って、首の骨がどこにあるのか分からないほど死亡に包まれた首をしめていたあたしの腕にめぐみちゃ んがそっと手を置いた。 「め…めぐみちゃん……グスッ、う…うぅぅ〜〜…やっと…やっと男に戻れると思ったのにぃぃぃ〜〜〜」  めぐみちゃんの手の平の重さに抑えつけられたかのように神官長の首から手を離したあたしは、ぽろぽろと涙 をこぼしてしまう。  突然女の体にされて暗い森に放り出され、男に犯され、フジエーダの街までただ男に戻れる事を願ってやって 来たと言うのに、最後の最後で男じゃないと宣告されるなんて……今まであたしを支えていたものがガラガラと 崩れ去り、もう何をしていいのか判らない。どうやって…これから生きていったらいいのか…… 「たくやさん……あの、元気を出してください。女性の体でも神様から授かった大切な命です。大丈夫です。女 の間までもたくやさんですし、きっといつか、男の人に戻れる時が来ます。だから……」 「………そうよ。そうよね。まだ一番最初じゃない。女になったんなら男になる方法だってどこかに……めぐみ ちゃん、ありがとう。あたし、こんなところで泣いてちゃいけないよね」  自分でも単純だと思う。慰められればすぐに泣き止むなんて。  けれどめぐみちゃんの言葉で少しでも元気付けられたあたしはその元気を大事にしようと精一杯の笑顔を浮か べると、めぐみちゃんの手をキュッと握り締めた。 「あ…いえ、私は水の神アリシアに使える僧侶として、あのその……」 「本当に男だたアルか。いやぁ……一体どんな魔法を使ったのやら。どんな風に女になったか、よかったら説明 してくれないアルか?」  なぜか頬を赤く染めて急にどもりだしためぐみちゃんに代わるかのように、神官長が横から顔を…いや、口を 出してくる。 「あたしが女になったのはそこで油まみれになってるバカ本のせいで――」  もしかしたら経緯を説明する事で男に戻る方法のヒントを得られるかもしれない。この神官長もどうもどこか バカっぽいけれどスゴい人みたいだし。  出来る事ならあんまり説明はしたくないけれど、男に戻れる可能性があるなら話は別だ。あたしは神官長、め ぐみちゃん、みっちゃんの三人を前にして、アイハラン村で起きた出来事をゆっくりと語り始めた――


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