第三章「神殿」04


「うわぁ…スゴい胸。なによ、何であたしより大きいのよ!? 本当にあんた男なの!?」 「お、男です。なんと言われたってあたしは男ですっ!」 「………あたしにキスされたぐらいで泣き出したのに?」 「うっ……」 「それに…ちゃんと女物の下着を着けてるじゃない。男だったら恥ずかしくてはけないと思うけどぉ?」 「これは…その…途中であった人につけたほうがいいって。なんだかその迫力に押し負けて……わざわざ作って くれたんだから着けないのも悪いし……」 「ふ〜ん、その下着、手作りなんだ。――その割りにはサイズとかぴったりよね。実はその人に裸を見せて作っ てもらったとか?」 「なっ…なななななにを、なに言ってんですか!!」 「図星…ね。結構その体、楽しんでるんじゃないの?」  あ〜〜ん、なんであたしがここまで言われなくちゃいけないのよ、みっちゃんのいじわるぅ〜〜〜!!  どうも先ほどあたしが泣き出した事にお怒りの様子にみっちゃんはあたしがシャツを脱ぐや否や、皮肉交じり の質問を連続してぶつけてくる。  黙っているのも雰囲気が悪くなるだけだしとあたしも受け答えしていたけれど、その言葉の揚げ足を取っては 鋭い質問であたしの触れられたくない過去にまで迫り、そうして戸惑うあたしの様子を見つめてにこにこと笑う なんて……とても人々に奉仕する僧侶だとは思えない。もっとも、今はどこで旅しているか分からないあたしの 姉に比べればまだまだ優しいんだけど……みっちゃんって本質的には面倒見のいい人みたいだし。 「お待たせしました。先輩、使用許可を貰ってきましたよ」 「あああっ、めぐみちゃん、助けてぇ〜〜!」 「えっ? えっ? どうしたんですか?」 「あたし、今、セクハラされてるぅ!」  手に布の束を抱えて再び地下室にめぐみちゃんが現れると、質問責めで精神的に参りかけていたあたしはみっ ちゃんから隠れるように彼女の背後に移動した。 「セクハラとは失礼ね。あたしは呪いの原因がなんなのかを調べるために事情聴取していただけよ。――それに 男から女になったぁ?」 「そ、そうだけど……」 「じゃあ、たくや君はか弱いめぐみの背中に隠れるような男の子なんだ、へぇ〜〜」 「うっ……」  それを言われたら……確かにあたしは男らしいって訳じゃないけれど、あんな挑発的な目で見られてキツい台 詞を言われたら……ああ、どうしてあたしがこんな目に……  めぐみちゃんをダシに抵抗する事を封じられたあたしは下着に覆われた胸と股間を手でかばいながら進み出る しか無くなってしまう。またみっちゃんに何か言われる――そう覚悟はしてはいたけれど、歩み出たあたしに先 に声をかけたのはめぐみちゃんの方だった。 「たくやさん……あの…本当に男の人……ですよね?」 「えっ…うん、そうだけど……こんな体だけど」 「そう…ですよね……そんな体なんですね……男の人なのに…そんな………」 「え…えっと……めぐみちゃん、どうかした? 涙ぐんじゃってるけど……」  あたし、めぐみちゃんに何かしたっけ…背後に隠れはしたけれど、そういうのとは違う理由で泣かせちゃった みたいだけど……はて? 「な、なんでもありません。あの…たくやさん、これを着ていただけますか?」  軽く眼鏡を押し上げてこぼれそうになっていた涙をぬぐっためぐみちゃんは、あたしに心配させまいとしてい るのか、笑顔を作って手にしていた布を差し出した。  着ろと言うのだから服なのだろう。あたしは差し出されるままにめぐみちゃんの腕から一枚を受け取ると、滑 らかなシルクの肌ざわりと普段着ている服とは異なる作りを不思議に思い、眼前に広げる様に持ち上げてみると―― 「な、なにこれ、向こう側が透けてるんだけど……」  診たことの無い形をした服は、中央部分に視線を向ければ部屋の周囲から発せられる明かりを受けてうっすら と向こう側の景色が見えてしまっていた。これが服……とてもそうは思えない。丈もあたしの太股に届くかどう か、けれど代わりに袖は手首まで覆い隠すほどに長く、わきの下から徐々に膨らんで手首の辺りでは1メートル 近くはありそうだ。  何気なく、これを着た自分の姿を想像してしまう。――おそらく、ほとんど裸と代わり無いような状態だ。半 透明の白い布地はあたしの肌に霧をかけたかのように白身を加えるだろけれど、ただそれだけ。脚を露出したそ の姿は下着を隠せずほとんどありのままの姿だし、かと言って滑らかな肌触りだからと肌着の代わりにしてしま うと、たわわに膨らんだ乳房がその膨らみから突端のピンク色した部分の形まで浮かび上がってしまうだろう。  そんなものを着ろって言うなんて……な…なななな、なんなのよ、この解呪とか清めとか禊って言うのはああ あぁぁぁ〜〜〜〜〜〜!!!  ―――そんな心中を声には出さないけれど、冷たささえ感じる地下室の泉の傍であたしの顔は見る見るうちに 熱を帯びていき、薄手の衣装を握り締める手がわなわなと震え出してしまう。 「たくやさん、もしかして着方が分からないんですか? でしたらお貸しください。手伝って差し上げますから」 「へっ?――あ、いや、めぐみちゃん、あたしは別にそう言うんじゃないんだけどぉ……」  そんな小さな反論など聞こえるはずも無く、めぐみちゃんは薄手の衣装を手にしてあたしの背後に回ると、ま るで重さを感じさせない柔らかい布地をあたしの肩の上にそっとかけてくれる。  ―――こ…これも男に戻るため……………ええい、あたしの恥じらいよ、今だけは胸の鼓動と一緒に収まって ぇ!! 「それでは……下着の紐、はずしますね」 「えっ、めぐみちゃん…えっ…えええええっ!?」  驚きの悲鳴が広い地下室に木霊する。  あたしの下着は全部紐で止めている。それに着せられているこの衣装では紐の位置も丸わかり。  けれど、あたしが驚いたのは下着をはずされた事よりも「めぐみちゃんに下着を脱がされた」事への驚きの方が 大きい。彼女の細い指がおどおどと、まずは背中、そしてあたしの首の後ろで結んでいたブラの紐を解く感触に 全身がぶるっと震えてしまう。 「んっ……」  一瞬だけ、紐が解けるその時だけ、めぐみちゃんの引っ張る紐に力が加えられる。そしてそれが過ぎた後、緊 張から解放されたあたしが大きく息を吸いこんだ拍子にゆったりとした衣装の中をブラが足元へと滑り落ちて行 くと、締めつけられて苦しかった胸元が解放された喜びとでも言うのだろうか、一番押しつけられていた乳首が ピクッ…ピクッ…と小さな痙攣を起こしてしまっていた。 「はぁ……」 「女性の方の清めにはこの以上の下は全裸と言う決まりでして……中にはいやがられる方もいらっしゃるんです けど、たくやさんは大丈夫ですか?」 「う…うん……ちょっと恥ずかしいけど……」  あたしの肩には背後にいるめぐみちゃんの手が乗せられている。接している部分から伝わってくるような気弱 な彼女の心配する気配になるべく平然を装って答えを返す。すると、さらなる答えはあたしの足元からやってき た。 「だったらこっちも脱がせちゃって良いわよね。そ〜れ♪」  そこにいたのはみっちゃんだった。あたしと同じ――いや、あたしよりも丈が長く、色も透けていない純白の 衣装へと着替えた猫目のいじめっ子僧侶は、あたしが言葉を発する暇も抵抗する暇さえも与えずにこちらの衣装 の腰辺りに手を滑り込ませ、股間に急角度で食いこんでいるパンツの紐を解くと、密着した太股の間にすべり落 とすのではなく股間と脚の間に僅かに出来た小さな隙間から引きずり出すようにあたしの下着を奪い去ってしま った。 「あっ…いやあっ!!」  慌てて両手を股間にあてがっても、腰を引いて太股をさらに密着させても全てが遅い。めぐみちゃんに支えら れてなんとか倒れずに済んだあたしの前には、よじれが解けて長方形の布地と化した下着を手にしたみっちゃん が勝利の笑みを浮かべて立っていた。 「ふふん、なかなか手ごわかったわよ。でもまぁ、あたしにかかればこんなものかな、ニャハハハ♪」 「ひ…ひどいぃぃぃ〜〜〜!」 「先輩……それは少しやりすぎかと」 「えっ……だ、だって、たくや君ってなんだか苛めやすいんだもん。少し突っつくと大きく反応してくれるしさ ぁ…めぐみもそう思わない?」 「どちらかと言えば、今日の先輩は少しはしゃがれすぎてるかなと。たくやさんは親しみやすい方ですけど、僧 侶たる者としては礼節をわきまえるべきだと思います」 「が〜ん……めぐみに怒られた……」  普段は唯々諾々と従っている感のするめぐみちゃんに、おどおどとではあるけれどしっかり否定されたのがよ ほど堪えたのだろう、みっちゃんはあたしの下着を取り落とすと額を押さえてオーバーによろめくと、後ろに下 がって五歩目の所で泉を形成するタイル床の淵に到達し、そのまま後ろに向かって倒れこんでしまった。――― って、ちょっと待って! あんなショック状態で水に落っこちたら溺れちゃう! 「めぐみちゃん、ちょっとごめん!」  肩に置かれためぐみちゃんの手を謝りながら乱暴に落とすと、あたしは前に向かって駆け出した。  清めの儀とか何とかするんならそこだってそんなに深くないはず! 「あ、たくやさん、その泉は――」  静止の声を聞いてたらみっちゃんが溺れてしまう。あたしだって泳ぎが得意と言うわけではないけれど、脚が 着く場所ならと覚悟を決め、淵を蹴って水の中に飛びこんだ! 「――手前はものすごく浅いんです!」 ―――バシャン! 「いたたたた、ちょっとおふざけが過ぎたかな。――たくや君、どったの?」 「………いえ……なんでも………」  膝までも無い浅い水に足首を浸したあたしは、みっちゃんに聞かれても何も答えを返せないほどの痛みとあせ って行動した恥ずかしさに歯を食いしばってじっと耐えるしかなかった―― ―――パシャ 「んっ!………はぁ……」  肩に注がれる水の冷たさに、歯を噛み締めた唇から苦悶の声が盛れ出る。――その後の水が衣装に吸収され、 あたしの肌にじんわりと広がって鋭い冷たさが和らいで行くと筋肉の収縮が解けていく。  清めの儀――それはなんと言う事も無い、この泉のある程度深いところまで入り、膝を突いて腰まで水に浸し ながら巫女(この場合はめぐみちゃんとみっちゃん)に頭や肩から桶を使って水をかけてもらう、ただそれだけの 事だ。 ―――パシャ 「っう……んっ……!」  けれど外の暑さとは違い、身も凍るほどの水がうなじからゆっくりと注がれるたびに身は震え、張り出した双 乳の谷間に透き通った液体が伝いおちると瑞々しい肌をしたお臍にまで流れていくと、女の子が二人も後ろにい るというのに苦悶と言うか悩ましい声を上げてしまいそうな自分に気付いてしまう。 「たくやさん…どうかしましたか?」 「ううん…なんでもない。そのまま続けて……」  これも男に戻るため……我慢…我慢しなくちゃ………はぁ…んっ!  ――そう思いはしても、首筋を水でくすぐっているんじゃないかと思うような注ぎ方に、あたしの体には幾度 と無く震えが込み上げ、そのたびに冷たさに負けないようにと体の奥で熱が灯り始めていく。 ―――パシャ 「んっ……!」  どうしても止められない体の震え。その一方で体の心は熱いぐらいに燃え上がり、あたしに額にはうっすらと 汗が滲み出してくる。  これだけ体が熱くなるって事は……そんなにあたしの体に何か悪いものが憑いていたのかな……  きっとそれは疫病神だと思いつつ、水が肩を撃つたびに肌を張っていくあたし。いつしか水の冷たさは苦痛で はなくなり、火照る体には注がれる水が心地よい快感の様に思えてしまう。  ………なに考えてるのよ。せっかく身を清めて女になった呪いを解いてもらおうって言うのに。罰当たり、本 当に罰当たり……  けれど無意識の反応はどうにも抑えられない。ちゃぽんと浸かった水面の下では、一切の邪魔が無く冷水に冷 やされた股間に沸きあがる疼き……だろうか。  数日前の夜…暗い森………あたしはあんな男に犯され、そして…… 「やっ……!」  あたしはキツく目を閉じると、水中で正座した太股の上で握り合わせた両手の指に力を込める。――けれどそ んな事であたしの体は止まりはしない。女の子が全てこうなのか……嫌悪すら抱く相手に恥部を割り開かれ、ペ ○スを差し込まれた時の感触を思い出すと、股間の膨らみがググッと迫り出してきてキュッとすぼめている小さ な穴から熱い液体がこぼれ出しそうで、二人にばれないよう恥ずかしさに頬を染めながら太股を二度三度と擦り 合わせる。  ああっ……んっ………っ!  しまった、逆効果だった。張り詰めた内太股は触れられるだけでも甘い電流が流れてしまうほど敏感になって いた。それを擦り合わせたものだから更なる疼きを下半身全体に感じてしまい、身をよじるたびにグチュリ…と 腰の奥で粘っこい水の音が骨を伝って前身に広がって行く。  こんな……いったい、あたしの体はどうなったのよ……水浴びするだけで恥ずかしいだけじゃない、こんな… こんなに熱くなっちゃうなんて…… 「――や…ん…―――君」  だけど……気持ちがいい。  あの筋肉戦士・寺田に抱かれた時の記憶さえも甘いものに感じられるほど、股間の奥で潜んでいる女の本性と でも言うべき部分からピンク色の靄がかかり、あたしは戸惑いながらもその霧に包まれたまま、静かに、けれど 熱い空気を吐き出してしまっていた。 「はぁ……ハァ………」  けれどあたしはそれ以上何もする事が出来ない。どんなに乳房が張り詰めても、収縮する代わりに固く充血し た乳首や丸みを帯びた豊満な膨らみに手を伸ばしてに触れる事も出来ず、どんなに割れ目が疼いても、この場か ら立ちあがって火照りを冷ます事も出来ないまま、冷水を浴びせられるあたしはそれに抑えつけられているかの ようにもじもじと太股を動かす事しかできなかった。 ―――パシャ 「っんう!―――えっ?」  何度、あたしは水を掛けられただろうか……あのみっちゃんでさえ何も喋らぬまま静かに流れていく時間、そ の中で安らぎと同時に満たす事の出来ない肉体のもどかしさを抱えたあたしの身体に、突如一つの変化が訪れた。  ―――お尻が……お尻の中に…なにかが「いる」!?


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