第一章「転性」04


「……………へ?」  このおじいさんは、一体何を言ってるんでしょうか? 「脱ぐって……服?」 「まったくもってその通り。ささ、恥ずかしがらすにどうぞ遠慮無く」 「は……恥ずかしいに決まってるでしょうが!!」  あたしは椅子を後ろに倒してしまうほどの勢いで立ちあがると、糸目の老人から距離を取るように後退さって 入り口のドアに背中を貼りつかせた。 「い、いったいなにを考えてるのよ! 言っときますけど、あたしはそう言う趣味は無いからね!」 「はて……そう言う趣味とはなんの事ですかな?」 「それは…えっと……男色とかお稚児さんとか……」  アイハラン村からほとんど出ないあたしがおばさんたちから聞かされた少ない知識でそう答えると、梅吉さん はシワだらけの顔をクシャッと歪め、口を大きく開いて笑い始めた。 「カッカッカッカッカッ! いや、なるほど。そうでしたな。確かに反応は男の方ですな、ハッハッハッ!」  長年培った商人としての威厳や好色そうなエロジジィの顔を全て吹き飛ばすような高笑いが馬車内に響き渡る。  へ? へ? へ? ――もしかしてあたし、何か勘違いしてる?  そのあまりといえばあんまり過ぎる笑いぶりに、あたしは理由がまったくわからない不信感を覚えてしまう。 「いや…いやいやいや、安心してくだされ。ワシにはそう言った趣味はまったくありませんからな」 「………本当に?」 「ええ。天地神明に誓って嘘は申しません」  よ…よかった……まさか男相手に裸にひん剥かれるのかと思った……  感じていた身の危険が勘違いだと分かり、あたしはホッとため息をつく。  ――が、 「今のあなたは女ですからな。いやいや、服の上からでも分かるほどの見事な肢体。拝見するのが今から楽しみ ですわい」  その言葉を聞いた瞬間、身の毛が総立ちほどの震えが走り抜ける。  そういえばあたしの体は女になってたっけ。――じゃあ、あたしの裸にって…ええええええっ!? 「イヤッ!」  とっさにそう叫ぶと、老人の視界から体をかばうように腕を前へと回す。  ――フニュン 「ぅ………」  服の胸元を押し上げていた乳房の膨らみが両腕に押されてその形を変える。  柔ら…かい……  今まで触れたことのない女性の乳房。その腕を心地よく押し返す弾力をもう少し楽しみたかったけれど、今は 目の前にいる老人に注意を払う事の方が先決だった。 「ふむ……どうしても拒みなさるか?」 「あったりまえでしょ!」  仇敵を前にしたような目で老商人をにらみつけ、普段出した事も無いような大声で要求を拒絶する。  けれど海千山千の商人はあたしの視線におくした様子も見せず、ホッホッホッと軽く笑う。 「―――では次の街まで身柄を拘束、その上で到着後にギルドに犯罪者として突き出しますかな」 「えっ? そんな、なんで、え…えええっ!?」 「しかたありますまい? こちらが身元確認しようとしてもそれを拒むなどやましいところがあると判断せざる を得ないでしょう」 「だ、だってそれは――!」  あたしを裸にしようとするからでしょう!  そう言おうとするけれどそれより先に梅吉さんの言葉が続く。 「では服をお脱ぎなされ。魔道書はこちらでお預かりするとしても、危険物の有無を調べなければ信用する事も 出来ませんぞ」 「うっ……」 「ましてや男性? ご自分でも見惚れるほどだというのになんの理由、魂胆があってそのような嘘を突いたのか。 これは詐称、加えて怪しいところが満載ですぞ」 「ううっ……」  実際には悪い事をしているわけではないし、屁理屈に丸め込まれている……はずなんだけど、矢継ぎ早に捲く し立てられては反論の余地もない。 「それに――」  ま、まだあたし悪い事してるの!?  もうすっかり負けを認めかけているあたしの前でテーブルに手を伸ばした生めさんは、先ほどあたしが飲み干 したジュースのビンを手にとって、 「これは南部の珍しい果実の汁でしてな。これ一本で2000ゴールドするのですよ」 「に……にせんごーるどぉぉぉ!?」 (注:1ゴールド=100円ちょっとでお考えください)  2000ゴールドって…そんな、うちの店の一ヶ月の利益より多いじゃない。あ…あた、あた、あたし、そん な高級品をガブガブと……うそ…うそよぉぉぉ――――――!! 「ワシはお勧めはしましたが「タダ」とは申しておりませんでな。これの代金も払ってもらえぬ身元不審者……は てさて、どうしますかなぁ?」  くっ………この爺さん、確信犯だ〜〜〜〜〜〜!!!  こんな事なら筋肉ダルマに取調べされた方が幾分マシだったと、口元をほくそ笑ませている梅吉さんを前にし て今更ながらに気付いてしまう。 「―――さて、どうなされますかな? ワシとしては美女を苦しめるのは心苦しいのですが」 「………ぐわよ」 「はて? どうも歳をとると耳が遠くなりましての〜〜。できればもっと大きな声でもう一度言ってもらえませ んかの?」  ………ぷちっ 「脱ぐわよぉ! 脱げば、脱げばいいんでしょうがぁぁぁ!!!!」  頭の中で何か弾けた音がしたな〜。もう…こうなったらどうにでもなれぇ!!!  立場的にも金銭的にも追い詰められた。で、この爺さんの目的もわかってる……だったらあたしに取れる手段 は裸になる事だけだった。  うっうっうっ……いいわよ、裸になるぐらいなんだって言うのよ。別に襲われるわけじゃないし……くっ…2 000ゴールド…… 「ではこちらにきてもらいましょうか。そんな壁際では後姿を見れませんからな、ほっほっほっ♪」  老人のシワだらけの手指があたしの手を握り締める。それでも、こみ上げる悔しさを押さえこんでじっと立ち 尽くしていたあたしは引かれるままにテーブルを横にどけて作ったスペースの真ん中に立たされてしまう。 「………い…言っときますけど…あたしは本当に男で……」 「ふむふむ、しかし実際には女性ですな。股間に逸物があるわけではないんじゃろう?」 「それは……なんだかわかんないけど、あの黒い魔道書に突然女にされちゃって……」 「ほほう、それは大変ですな。やはり全裸になって隅々まで確認しないと。もし男とも女ともつかない変な部分 があったら大変ですからな」  あ〜ん、最後の説得失敗〜〜〜!! 「――そういえば、まだ名前をお聞きしていませんでしたな。よろしければお教え願えませぬか?」 「………………たくや。アイハラン村の…たくや……」 「ではわしの事は梅吉ではなく梅とお呼び下され。ではたくや殿、ワシは見るだけで一切お体には触れませぬか ら、この老人はいないものと思って恥ずかしがらずにお脱ぎくだされ。ささ、どうぞどうぞ」  どうぞって言われたって……やっぱり視線が気になるよ……  いないものって言っても目の前に立たれてはその視線がどうしても気になってしまう。  それでもあたしはシャツに手を掛ける。異様な熱気に包まれている車内にはあたしと梅吉――梅さんしかいな い事もある。もしこれが数人の人間の前ならば恥ずかしさに体は震えているだけだったろうけれど、相手は一人、 しかもあたしと同じ男なのだ――今のあたしは女だけど。 「………ふぅ」  梅さんは決して急かしたりはしない。  裾をわずかに持ち上げた姿勢のまま一分ほど経過する。その間ずっと目を閉じて暴れそうになる心臓の鼓動が 収まるのを待っていたあたしは、呼気と共に決心を決め、グイッとシャツを捲り上げた。 「………ほぉ」  シャツを脱ぐときに張り出した乳房に引っかかり、邪魔な膨らみは腕を上げる動作に合わせてプルンプルンと 重そうに触れ動く。  漆で塗り固めたかのように目を開こうとしないあたしには、ただ膨らみの揺れる感触だけが伝わってくる。  けっこう…揺れるのね…… 「これはこれは……みごとな揺れですな。いや、実に見事。――すばらしい」 「っ………!」  女性は誰もがこんな揺れを感じているのだろうかと思っていた矢先に梅さんの感心したような声を聞いてしま い、言い様も無い羞恥心が体の奥からこみ上げてきてしまう。 「あっ……」  全身の汗腺が一斉に開いたかのように、熱気を帯びた白い肌に汗が滲み出してくる。  ―――人の視線に晒される事なら経験したばかりだ。村の祭で百何十人という人間に見つめられ、動けなくな った事を思えば立った一人の老人に視線など気にするものではない……はずなのに…… 「く…ぅ……」  首を抜いたシャツを手にしたまま、あたしは居心地が悪そうに身をよじる。言葉少ない梅さんだけれど見つめ られ、感心したように短い言葉をつぶやかれるたびにやわらかな四肢の表面にさざなみのような震えが走り、妙 にさびしくなってしまった股間に力が入ってしまう。  半日以上森をさ迷い歩いた肌は汗と汚れにまみれている。視線があたしの肌の上をすべり、隅々まで眺めてい くたびにじりじりと焼き焦がされているような火照りが肌を犯し、鼻を突くような汗の刺激臭を女になったばか りの初々しい裸体にまとわり付かせてしまう。 「ふむ……何やら良い香りがしますな……」 「―――!?」  まるであたしの心を読んだかのように、梅さんが鼻を鳴らして木製の個室内に広がっていくあたしの臭いを一 嗅ぎする。  へ…変態じゃないの……人の臭いを嗅ぐなんて……  気分的にはおしっこの匂いを嗅がれているのと大差がない。こんな汗臭い臭いを、他人が犬のように嗅いでい るかと思うとあまりにも恥ずかしすぎて目尻に涙が浮かび、出来売る事ならこの場に座り込んで体を隠してしま いたかった。 「さて……そろそろその目を開けてみてはいかがかな?」 「やっ……そんなの…いやぁ……」 「――察するところ、まだ女になってから一日と経ってはおるまい。ならばその身を自分の目で確かめておいた 方がよい。これは老婆心からの忠告じゃて。己の事を知らねばこれから先、苦難に立ち向かうことはできんぞ」 「……………」  正直、言っている意味はあんまりわからない。けれど、徐々に諦めにも似た思いに心を侵略されるに連れて全 身から、そして意思からも力が抜け落ちてしまい、あたしは涙をぬぐいもせずに目を開いて、歪む視界を下へと 向ける。 「っ―――!?」  ドクン――と、心臓が大きく跳ねあがる。  そこには白く、大きな膨らみが存在していた。  女の人の乳房を見た事が無い……と言うわけじゃない。今は父と共に旅に出ている母から母乳を受けて育った わけだし、オムツなどもそろえている道具屋では店番のあたしの目も気にせずに赤子に乳を与える母親だってい たんだから。  けれど、あたしの視界に飛びこんできた乳房はそれとは見た印象がまるっきり違っている。  あたしの胸は思っていたよりも大きかった。形も丸みを帯びて上向きで、大きな呼吸を繰り返すたびに上下す る膨らみの先端では小さな乳首がしっかりと立ちあがっていて、男の時の胸とは違う事をあたしに向けて誇示し ているようだった。 「う…うそよ……こんなに…大きいなんて……」 「嘘ではない。その張り詰めきった胸と固く尖った先端を見れば分かる。たくや、お主はワシに見られて興奮し ておるのよ」 「興…奮………?」 「そう。――男だったというならこういったほうが良いかの。お主の胸はな、チ○ポの代わりに勃起しておるの よ。女の興奮はほれ、特にその先端のところを大きくしてしまうからの」 「そんな……あたし、興奮なんてしてません!」  頭を振り、必死に梅さんの言葉を否定するけれど、本当に興奮しているんじゃないか…という疑問の芽はあた しの心に根を張ってしまい、それだけはどんなに頭を振ろうが取り除く事は出来なかった。  違う……あたしは男なんだから裸を見られて興奮する事なんて無い! もし…興奮したんだとしたらそれは… ……それは……  それまでキツく握り締めていたシャツが足に絡まりながらふわっと床に舞い落ちる。 「くうっ……」  唇に軽く歯を立て、砕けそうになる男としての理性をなんとか保ちながら自由になった両腕を体の前で組み合 わせる。  けれど胸には触れたくない…なぜかそう言う思いが働いてしまい、脈打つ血管が青く浮かび上がるほど白い肌 をした乳房の下で二本の腕を交差させ、グッと力を込める。  あたし…自分の裸に興奮しているの? 「あっ…あたしの胸…が……」 「ほほう……見事見事。まさかこれほどのサービスをしてくれようとはの」  別にやろうと思ってやったわけではないが、腕に左右から寄せるように力を加えられた乳房は力の圧迫を受け てほんのりピンク色に染まった柔らかい膨らみが前に向かって搾り出されてしまう。それと同時に胸の谷間も密 着し、深い溝を作りながら汗に濡れる弾力の肌を左右お互いに貼り合わせ、心音のリズムに合わせて微妙に擦り 合わせてしまう。 「んっ…くうぅ……」  やっ…なに、この感覚? 胸が…おっぱいが気持ちいいなんて……  自分が甘い声を出した事も気付かないまま、左右の手で反対の腕の肘をつかんでピンッと体の興奮具合に応じ て大きくなった乳首が天井を向くほど乳房を寄せ上げる。  もう……やっぱりダメェ! これ以上しちゃうと本当に…本当に変になっちゃう!  女の快感……きっとあたしの感じたものはまだまだ淡く軽いものだったに違いないんだろうけれど、一瞬頭に よぎった男としてのあたしがそれを拒否してしまい、慌てて腕を話してしまう。 「むぅ……残念じゃったの。あのままイってしまうかと思ったんじゃが……まぁよい。それでは次は下じゃ。当 然じゃが隠すでないぞ」  下って…………股間…よね………女の人の股間……  さすがにそこは見た事が無い。昔、ず〜と昔なら子供の頃に明日香や姉とお風呂に入っていたんだから見た覚 えがあるかもしれないけれど、そんなものまったく記憶に残っているはずが無い。  あたしの脳裏にはおチ○チンを失った後の股間はツンツルテンで何も無くなっている……なんていう想像が浮 かんでいるけれど、実際にはどうなっているか分からない。確か男性と女性が子供を作るときにどうのこうのと いうのを聞いた覚えがあるんだけれど、それがどういったものでどうなってるのかなんて……聞いたが最後、明 日香に撲殺されそうだったし……  …………見たい……見て…みたい……あたしの…アソコを……  胸の鼓動はより激しさを増し、大きな膨らみはその振動で乳首を震わせている。  あたしは大きく息を吸って吐き出して、上着を脱いだときと同様に鼓動を無理やり押さえつけると、少し前か がみになってズボンへと手を掛けた。  ? 親指がパンツに……  焦りや興奮で自分の体をいまいち制御できていなかったのか、ズボンの内側へと入りこんだ親指はトランクス の紐まで引っ掛けてしまう。  脱ぐの…とめないと………ヤッ、だめ…とまらない、腕が…勝手に……!  まるで自分の体の一部では無くなったかのように、あたしの手はズボンと、そして下半身を包んでいるトラン クスを一緒に引き下ろしていく。  自分の秘部が見られることへの恥ずかしさと体が勝手に動いてしまう困惑、そして自分がどうしてこんな事を 「望んで」しまっているのかまったく理解できずにいる間にウェストを締めつけていたズボンの腰の位置が後ろに 向かって突き出しているお尻の丸みを滑るように越え、まだ見たことが無く、触れた事さえない自分の秘所を老 人の目の前にさらけ出してしまう。 「こ…これで……」  これでいいでしょ?  震えと緊張のあまり、そんな短い言葉さえ最後まで口にする事ができずにいる。  膝まで下ろしたズボンとトランクスは震える指から解放されると足首までするっと降りてしまい、そのまま背 筋を伸ばしたあたしはわずかに足首のみを隠したような状態で直立している。  今のあたしの姿って……どんな感じなんだろう……  さっきから車内には音がほとんど響いていない。聞こえてくるのはあたしの荒い呼気の音と心臓の鼓動の音… そして我慢できずに身じろぎするたびに足元からなる衣擦れの音だけ。不思議な事に伏せた瞼の向こうには梅さ んの動く気配がまったく無く、それゆえにあたしは自分の体がどのように見つめられているのかと疑問に思って しまう。 「…………ほう」 「っ……!!!」  それは何気ない一言だった。しわがれた老人のため息にも似た短い感嘆の声が自分の股間のすぐ前の位置から 聞こえてくると、自分が今、どのように見つめられているのかというのを知りたくも無いのに強制的に意識させ られてしまう。  あたしの股間の前にしゃがみこんで……覗きこんで…る? 「ふむ…毛は少ないが……良い形をしておる。これならば濃くない方が見た目にも……」 「やっ…ああぁ……そんな、いや、見ないで……」 「動くでないっ! 今が肝心なところなのじゃ。一切身じろぎせず、隠さず、その場に立っておれ。そうすれば すぐに事は済む……ほほう…これは……」 「んっ………!」  そんな事を言われても……そんなところを覗き込まれているのに…なんにもできないなんて……酷すぎる……  梅さんの放った鋭い叱責の言葉がほんの少しでも身を隠そうとする動きさえも拘束し、あたしは鼻息が太股に 吹きかかるほどの距離でおチ○チンを失った大事な場所をまじまじと見つめられ、その行為をただ唇を噛み締め て耐えるしかなかった。  ――もう許して…お願い…こんなの恥ずかしすぎる……もう犯罪者でもなんでもいい…だから…だから早く終 わって……  もう頭の中がグチャグチャに掻き回されて気が狂う一歩手前の状態だ。動くなといわれて指一本動かせなくな ってしまった体は、その代わりにと女性特有の柔らかい部分を小刻みに震わせ始めた。痛みさえ感じるほどに張 り詰めた乳房は乳首をジンジンと痺れさせ、溜まらないその感覚を少しでも紛らわせるために背を反らせて前に 大きく突き出してしまう。普通だったら垂れて下を向きそうなぐらいの張りを持つが為に、あたしの胸はその状 態でも見事な形を保っており、根元から先端に向けてぷるんと震えが伝わっていくたびにあたしの口からはため 息が漏れ、一つ、また一つと恥ずかしい気持ちが芽生えてしまう。 「あっ……」 ―――ドクン 「ふぅ…うぅん……!!  けれどそれ以上にあたしを悩ませているのは……対お切なものを失って、もう大きくなるものもおしっこを放 つものも失ったはずの股間からの脈動だった。男の時の勃起とは違い、まるで平らになった股間全体が盛り上が るような感覚の中で時折体の奥の方からおチ○チンのあった場所に今も漂っている喪失感を打ち消すような鼓動 が響くと、細い肩は震え、生暖かい老人の呼気がまとわりついていく太股からは力が抜けていくけれど、胸には 確かに切ないような熱いものが込み上げてきて、それを外に吐き出すたびにあたしは……変に…… 「なるほど…まだ処女か。ならばここに物を入れる事など出来はしないな。たくや殿、もう服を着てもかまいま せんぞ」 「あっ…あっ………えっ…? ―――あ、あたしっ!?」  いったい何をしてるのよ、あたしはぁ〜〜! なんだか変な気分になっちゃって、それで、それで………  目を開いたあたしは腰のあたりになんだかモヤモヤと浮ついているような温かい感触から一気に現実に引き戻 されると、急いで足元に散らばった服をかき集めながらその場にしゃがみこんでしまう。 「うっ…ひどい……こんなの酷いよぉ……えっぐ…」 「いやはや、いささか時間がかかって申し訳ありませぬ。なにぶん、たくや殿は勝手が違いましてな、本来なら 指を挿入して中を探るのですがそう言うわけにもいかず、結果として処女を守れたわけですからご容赦くだされ、 はっはっは」  しょ、処女って何よ!? あたしは…あたしは男なのに男に抱かれてなきゃ行けないわけっ!?  そんな怒りの感情を込めてキツい視線を梅さんに向けるけれど、気付いていてもまったく意に介さない老商人 はベッドの上のシーツを手に取るとあたしの肩に掛け、 「それでは夕食を持ってまいりますのでしばしお待ちくだされ。なに、のんびりしてまいりますでな。その間に 股間のぬめりなどを綺麗にしておきなされ、カッカッカッ」  言いたい事だけ言うと背後の扉から外に出て行ってしまった。  股間の…ぬめり? あたし、お漏らしでもしたのかな……だけどおチ○チンも無くなってるのに……  最後に言われた言葉の意味を考えているうちに、あたしの手は服の中をもぞもぞと下に降りていき、先ほどじ っくり舐めるように見つめられた股間の上へと指を這わせて――  クチュ…… 「んあっ!!」  強烈な刺激が電撃のように股間から全身に向けて駆け巡り、何か触れては行けないものに触れたのではないか と慌てて手を引っ込めた。  ――…なに…これ……  身を震わせた表紙にシーツが滑り落ち、再び肌をさらした上半身の前に股間を撫でた指先を出してみる。そる と細い人差し指の先端には温かい――いや、熱いぐらいの透明の液体がねっとりと絡み付いていた。いや指との 二本の指の間で擦り合わせればニチャニチャと粘ついて、生臭いような匂いもする。  あたしの指の先っぽが……何かに飲みこまれて……こんな液体にまみれてて……いったいどうなってるの? 『ほほう、あんな爺さんに見られて濡らしおったのか。恥ずかしいのぉ、恥ずかしいのぉぉぉ』 「だ、だれ!? 誰かいるの!?」 『クックックッ…おびえろおびえろ……そうだ、一つ良い事を教えてやろう。それは愛液、ラブジュース、マン 汁などといってな』  ――そこかぁ! 『女が性的興奮に陥ると股間の割れ目の奥からトロトロと……って、なんじゃい、なんでワシっていきなりつか み上げられるの!?』  声の正体は――色々あったしなんにも喋らないからテーブルの上に置かれてその存在をすっかり忘れられてい た黒い本、自称魔王の腹黒エロ本だった。 『なに、その腹黒とかエロ本ってぇ!? ワシは表紙が黒くて一応魔道書――』 「そんなのはどうでもいいの………いつから…いつから気がついてたの?」 『いやぁ、実は最初っから。野犬や筋肉男がいるときは面倒が嫌だったから黙ってただけでのぉ……いやいや、 実に良いものを拝ませてもらったわい』  ―――プチッ  その一瞬、今日一日であたしの頭の沸点、ものすごく下がっちゃったな〜〜とか思いながらお約束の、 「このエロバカ大魔王〜〜〜〜〜〜〜!!!」 『にょおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?』  と背後に向かって魔王の魔道書はぶん投げられて、 ―――カチャ 「たくや殿、さぞ空腹でしょう。温かいスープを――」 『のけえええぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!』 「そうですか、では」  タイミングよく現れた梅さんにもあっさり躱されて開いた扉から外へと飛び出していった。 「―――たくや殿、あれはなんですかな?」 「放っといていいです……はぁ……」  あたしはシーツや服をかき寄せながら、ズキズキと痛み始めた額に手を当てた。


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