第3話


「……馬鹿……」  ガンッ 「拓也の事なんて知らないんだから……」  ゴンッ 「私の前であんなにイチャイチャして……」  ドカッ 「ひどいわよ……私だって…心配してるのに……」  ゲシッ、ガンッ、バキッ  化学室を出てから、私はどこへ向かうかも決めぬままに歩きつづけていた。真っ直ぐ歩く事が出来ずに壁かな にかにぶつかって何度もぶつかるけど、不思議と痛いとも思わない。  涙は腕で拭ったけれど、自分でも何を考えているのか、それさえも理解できていない。ただ頭に浮かぶのは、 拓也が女の子とキスをしている光景だけだった。  ……拓也…私の事が好きじゃないのかな………  ふとそんな考えが頭をよぎる。同時に胸が締めつけられるような苦しみに襲われる。 「うっ……」  俯いた顔を上げぬまま、いつもなら自分では結構形に自身のある胸の膨らみがあるはずなのに、今は膨らみど ころか筋肉さえほとんどついていない平らな胸に片手を当て、もう片手を探るように壁にあてて背中から持たれ かかる。  視線を下ろせば、いつも着ている赤い制服じゃなく、男子用の白いカッターシャツに黒い学生ズボン。私と同 じぐらい細い腕、そして太股の間にある違和感……歩くたびに太股に当たる男性器の感触は、一時間以上たった 今でも全然慣れていない。  拓也の体…か………どうしてって言えば、これもどうしてなのかな……  拓也が男に戻った時は本当に嬉しかった。これでいつもの生活に戻れると思った。  昨日は今までで一番近くに拓也を感じた。初めて抱かれた時よりもずっと……  それなのに、一日たってしまえばこんな夢にも思わなかったトラブルが起こって、拓也は他の女の子と浮気し て、私はなんだか惨めな思いに浸っている……こんなのが…私のいつもの生活なんだろうか……  暗い気持ちのまま顔を上げて辺りを見まわせば、授業中のこの時間に廊下を歩いている人などほとんどいない。 自分が呼吸する音さえ聞こえそうな静けさの中、首を左右に巡らせて場所を確認すると、目の前には保健室があ った。  そして――ぼんやりと前を見つめる私を誘うように、引き戸が音を立てて横にスライドした。 「あら、あなた相原君? 男に戻れたのね………どうしたの? なんだか気落ちしているみたいだけど……」 「あっ…松永…先生……」  扉を開けたのはこの学園の保健医で生徒からも人気の高い松永先生だった。少しウェーブのかかった髪を後ろ に流し、うらやむ人の多いモデル体型をタンクトップにミニスカート、そして白衣を羽織った姿は男子女子両方 の間で人気がある。くわえて生徒の質問や相談にも乗ってくれるらしくて…… 「相談…か……」 「? 本当にどこか調子悪いんじゃないの? 顔を上げて、こっちを向いて」  壁にもたれたままでほとんど反応しない私を見、心配そうな表情を浮かべた先生は廊下をつかつかと横断する と私の首筋に手を当てて顔を上げさせる。ほんのり温かく、湿っているかのように肌に吸いついてくる指と手の ひらの感触にうなじを撫でられて反射的に首をすくめるけれど、それほど…悪い感触じゃない…… 「ほら、顔をちゃんとこっちに向けて。小さな子供じゃないんだからあんまり手間をかけさせないでね」 「は…はい……」  顎に指をかけられて上を向かされると、どこからか甘い香りが漂ってくる。学校の中ではあまり嗅いだ事のな い香水の香りは松永先生から放たれている物だった。  いい香りだなぁ……なんて言う香水なんだろ……  自分でつけたことはなくても、やっぱりこう言う物には興味がある。もし私がデートの時につけていったら、 拓也はどんな反応を――  ピシッ  どんな――  ピシッ、ピシッ  顔をして反応を――  拓也の顔を思い浮かべると、自動的に殺気のキスシーンが頭の中に設置されたスクリーンに外国映画よろしく 濃厚な感じで表現されていく。それどころか、見えていなかった拓也の顔――というより、この場合は私の顔― ―も、私とじゃないのに恋人同士のように蕩けきっていて、そのまま二人でイチャイチャと………!! 「た…拓也の………」  考えるだけで脳細胞が音を立ててちぎれ飛んでいくような痛みを感じてしまう。 「あら? 急に顔を強張らせちゃってどうしたの?」 「うっ……」  大声で叫び、手当たり次第に怒りをぶつけまくりたい衝動に駆られてしまうけれど、私(あくまでも拓也の体 でなんだけど)とほぼ同じ高さにある先生の顔が急に近づいてきて、体同士が触れ合うぐらいにまで擦り寄って きた瞬間、そんな感情など一気に吹き飛んでしまった。  私の首や額を触って熱を測っていた両手がうなじや頬などをそのまま撫でまわしていく。触られているだけな のに、まるでくすぐるかのように軽く、しっとりと触られているうちに時々ゾクッとするような震えが体の中を 走り抜ける。 「ふぅん……今日の相原君、なんだか少し変ね……」 「そ、そうですか?…んっ!」 「ええ、そうよ……今日は私がこんな事をしても逃げないんだもの……」 「いいっ!?」  少し頭を動かせばキスしてしまえそうな距離で松永先生がそれまでの保健医としての診察の表情をフッと緩め ると同時に、私の声から今まで下半身に感じた事のない感触が湧き上がった事に対する驚きの叫びが上がる。  何が起こったのかと視線を下に向けても、見えるのは私では到底できないような松永先生の胸の谷間だけ。慌 てて身をよじっても、巧みに体重を書ける松永先生と廊下の壁の狭間からなかなか逃げ出す事が出来ず、お尻の 穴にまで響く未知の衝撃に、私は体を固くするしか術を持たなかった。  状況はすぐに理解できた。松永先生のスカートから伸びる太股が私の足の間に割り込んできて、わたしの…じ ゃなくて、拓也の男性器をズボンの上から擦っているのだ。女性の股間よりも明らかに大きく膨らみ、それでい て邪魔なぶら下がりをすべすべした太股で上下に擦られると、思わず声が出てしまいそうな快感が下半身からこ み上げてきてしまう。  こ…これが男の子の快感!? なんで…なんで松永先生がこんな事を…… 「ふふふ…硬くなってきたわよ。こんな誰が来るか分からないようなところで勃起させちゃって……」  そう言いながら、松永先生は私の首に腕を回して唇を重ねてきた。 「ん…んふぅ……」 「んんんっ!? んぐっ、んむうぅぅぅ!!」  私が拓也以外の人とキス!? そんな…しかも相手が女の人で、松永先生だなんて……そんな……  いつもの私がこんな事をされれば、すぐにでも相手の人を突き飛ばし、トイレに駆けこんで唇を何度も石鹸で 洗い、汚された事への悔しさや悲しさで涙を流してしまっていたかもしれない。  なのに、今の私は松永先生にされるがまま、動けないでいる。いくら拓也が非力で私より力がないといっても、 それでも男の体なんだから押し返す事だってできたはず。だけど、それができないのは股間の下から正面までを 太股が擦るたびに全身から力が抜けてしまい、私は舌を絡め会う濃厚なキスを甘んじて受け入れる事しかできな かった。 「んふ…相原君の…大きいのね。私の太股にまでヒクヒク脈打ってるのが伝わってくるわ」 「だ…だめ…これ以上はやめてください……だって…だって……」  意識が朦朧とするほど私の唇を吸っていた松永先生がようやく口を離すと、二人の顔の間に唾液の糸が引かれ る。透明な糸を舌なめずりして切り落とすと、私の股間に手を差し入れて、太股よりも入念に、そして全体を包 み込むように五本の指を滑らせていく。 「あ……あうっ!」 「そういえば、相原君が男の体のときには、ちゃんとSEXした事はなかったわね。どうする…このままここで …いけない事を教えてあげましょうか? ふふふ……」  聖職者とは思えない淫靡な表情……その美しさに、思わず私の視線が吸い寄せられる。その隙を見計らったか のように、松永先生は私のベルトのバックルに手を伸ばすとあっという間にはずしてしまい、チャックを下ろし て、ズボンの中に手を差し込んできた。 「まぁ…こんなに大きいなんて……女の子の体だったときには想像もつかなかったわ……」  耳元でそう囁いてから松永先生の体が離れていく。ただしおチ○チンは握り締めたままで…… 「!? そ…そんなの……うそ……」  そこでようやく自分の下半身の状況を見ることができた私は、そこに信じがたい物を見てしまった。  拓也のおチ○チンが大きくなってしまっていたのだ!  松永先生の指が絡みつく男性器の姿は完全に臨戦体勢のそれであり、はちきれそうなまでに膨らみきっていた。 その状態が男性が興奮した事を表している事ぐらいは十分知っている。拓也と肌を重ねたときに自分からしてあ げた事もあるし……けれど、今は私の体…つまり私が松永先生にキスされて興奮してしまったと言う事なのだ、 この股間の高ぶりは……  女性の感じ方とはまったく違う。まるで快感の全てが股間の一点に集中していく感じ方に困惑の色が隠せなか った。それほどまでに、初めての快感は私の体に衝撃となって刻み付けられていた。 「すごいわぁ……最近大きい子としてなかったから……」 「ああん! だ、ダメ、握っちゃ、あうぅぅ!!」  先生の指が蠢くたびに股の下からおチ○チンの先端に向かって震えが走る。ひと擦りされるたびに異様な角度 で立ちあがった男性器は膨らみを増して、ビクビクって痙攣してしまう。 「相原君……ここでこのままイかされたい? 誰が来るとも分からない廊下で……一目でわかるわよ。男子生徒 がおチ○チンを出して私と一緒にいる……どう思われるかしらね?」 「うあぁ……も、離して……」 「うふふ……男に戻ってから片桐さんとSEXしなかったの? いいわ、こっちにきなさい。満足させてあげる わ……」 「ひ、引っ張っちゃダメェ!! イヤッ、あああああっ!!」  くびれた部分に小指を引っ掛けるようにキツく握り締められては、もはや抵抗する事はできなかった。男の一 番大事な場所を掴まれたまま、私は保健室へと引っ張り込まれ、閉じ込められてしまったのである………


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