第4章「−?」第10話


「えっと……いろいろと突っ込みたいところがあるんですけど……それ、なに?」 「あら? 知らないなら教えてあげるわ。ディルドーって言って、女の子同士で楽しむものよ」 「………どこから出した?」 「枕の下にいつも入れてるの。女の子の嗜みかしら」 「た…たしなみ………じゃあ、もしかして…時々……」 「……ええ。相原さんの前で告白するのも恥ずかしいけど、時々…本当に時々ね。いつもは学園でだから……」 「は…ははは……」  なんだか頭が痛くなってきた。言動の内容だけを見れば松永先生…もとい、啓子さんのいつもの調子なんだけ ど、目の前に座る彼女の恥らう姿には思わずドキッとしてしまう。  けど、手に捧げ持つのが双頭ディルドーって……何か根本的に間違ってるような気が……  それでも証明の橙色の明かりに照らされた彼女の美しさを何ら害していない気がするから不思議だ。  光を受けた肌はまるで濡れているかの様な光沢を放ち、ふくよかな膨らみの前にそうやってイヤらしい道具を 持たれると理知的な美貌とわずかにもじもじと照れる様子がどことなくアンバランスだからこそのいやらしさが にじみ出ている。  そんな彼女を…あたしが犯すって……うっ……  あたしが松永先生を犯し、陵辱する――そんな光景、まったく想像できるはずがない。  男の時は松永先生にはあれだけ親身に相談に乗ってもらっていたというのに、女になってからは保健室は鬼門 中の鬼門。うかつに足を踏み入れようものならあの手この手で服を脱がされてもどれそうにない道に引きずり込 まれそうなのに……そんな人をあたしが…アレで犯しちゃうって…… 「……………」  視線がわずかに下がり、啓子さんが手にしたディルドーを見つめてしまう。  大きさは…あたしの男の時のよりも大きい。それだけだったらまだ良かったんだけど……両側合わせて40セ ンチはあろうかという凶器の表面には小さなコブが無数に盛り上がっている。さっき真珠入りペ○スに膣内を掻 き回されて散々喘ぎ抜かされたあたしの肉体は、その時のことを思い出してどろどろのおマ○コの奥をジンジン と痺れさせてしまっている。 「ねぇ……やっぱりダメ?」 「ダメって……あ、あたしは……」  啓子さんの熱い視線に見つめられ、胸が高鳴ると同時に乳首に向けて圧迫感がせり上がっていく。小さめな乳 輪はそれごと勃起してしまいそうなほど充血し、啓子さんの手戯に余韻の残る乳房は吐息をこぼすたびにプルッ と弾んでしまっている。 「ふふふ……じゃあいいのね。だったら早速楽しみましょう」 「さ、早速って、あの、ちょっと待って、まだ心の準備が……」 「準備は…もう整ってるでしょ?」  そう言うと啓子さんはあたしの脚の間に手を差し込み、絶頂の汁にまみれた割れ目の縦筋をそっ…となで上げ た。 「っあ………!!」  ぴちゃ…と、わずかな、けれどはっきりと聞こえるほどに淫らな水音が響いてしまう。  たったひと撫でだけなのに、あたしの全身はビクッと強烈なまでに強張ってしまい、やわらかな恥丘の膨らみ が啓子さんに指先からもたらされる快感に震えてしまう。 「じゃあ入れてあげるから足を開いてくれる?」 「い、入れるって…もしかしなくても…やっぱりそれを?」  あたしが割れ目をなぞる指先の動きに眉をしかめながらディルドーを指差したのを見ると、啓子さんは意味あ りげな笑みを唇に浮かべ、さらにあたしの方へとにじり寄ってくる。しかもベッドについた手にはしっかりとあ の双頭ディルドーを手にして、だ。  ちょっと…ちょっと待ったぁ!! 確かあたしが啓子さんを犯しちゃう……そう言うシチュじゃなかったっけ ? なのにあの笑みは……ものすごくヤバい…かな?  女の体になってから幾度となく犯されてきた事で身についた直感みたいな物が、啓子さんの笑みにキンコンカ ンコンと思いっきり警鐘を鳴らしまくっている。このまま近付かれたら…さっきみたいにズルズルと押し倒され てイかされちゃうと……  あううう〜〜、冗談じゃないわよ。そりゃちょっとはあたしもやる気はあるけど、あんな道具を啓子さんに使 われたらそれこそ……ううう、背筋に寒気が…… 「あ…あの〜……やっぱりいい。自分でやるから」 「あらそう? じゃあ、はい、これ」  ひょっとしたら気分を害するんじゃないかと脅えながらもそう口にしたんだけど、啓子さんはそんな様子を見 せる事無く、実にあっさりとあたしに肉棒の形をした張り型を手渡してくれた。 「ふふふ…がんばってね♪」 「へ? な…なにを……?」 「決まってるじゃない。自分の手でそれをアソコに挿しこむんでしょ? ちゃんと入るところを見ててあげるか らね」 「えっ……あ、え………うそ……ほんとに?」 「ええ。相原さんのアソコは学園の廊下でじっくり鑑賞させてもらってるから別に恥ずかしがる事はないわよ。 それにお互い全裸なんだし……ね♪」  「ね♪」って言われても……は、恥ずかしい事には変わり無いんですけど……  どうも啓子さんの思惑にはまってるんじゃないと思いながら、あたしは手にした無気味なディルドーに目を落 とす。 「あっ……」  無意識にキュッと手に力を込めた拍子に、あたしの口から溜息とも取れない小さな呼気が漏れ出る。  こうやって握ると、その大きさと女体を責め抜くための残酷なまでにイヤらしい形をイヤでも感じ取らされて しまう。  大きく張り出したカリに竿の周囲を一周する様に盛りあがった無数のコブ。恵子さんが持っていた時は暗さゆ えにそれぐらいしか確認出来なかったけれど、根元までのやや反りかえりぎみのディルドーの表面には無数の盛 り上がりが存在しているのを手の平に感じ取れる。まるで血管の様にディルドーの表面を覆い尽くしているそれ は血管以上に盛り上っていて、まさに第二、第三、第四…とにかく無数のカリが存在しているような凸凹具合で、 それがあたしの中にどう引っかかるかを想像しただけで、ヴァギナは蜜を垂らしながら怯える様に収縮し始めて いた。  こんなの入れたら…絶対にアソコが壊れちゃうよぉ……でも、ここでやめるわけにもいかないし………こ、こ うなったら覚悟を決めて……! 「……………」  あたしは一度だけ啓子さんに視線を送る。当然啓子さんは「やめてもいい」なんて言う筈も無く、無言のまま目 を閉じたあたしは後ろへ左手をついて自分から足をMの字に開脚した。 「っ〜〜〜〜〜〜!!」  こんな格好…親の前でもした事ないのに〜〜〜〜!!  急激に熱くなっていく頬。いや、自らの意思で濡れそぼった秘部をさらけ出す恥ずかしさに、全身が火照り、 ガクガクと震えていく。  それでも何とか足を閉じ合わせるのだけは我慢しているけれど、啓子さんが「まぁ…」と言う感じに頬を手に当 てて熱い視線をあたしのアソコに送っているのを薄目で見てしまうと、胸が張り裂けそうなほど恥ずかしい気持 ちが昂ぶってしまう。  だって言うのに……どうして…やめようとしないんだろ……ものすごく恥ずかしくて…今にも死んじゃいそう なぐらい恥ずかしくて……なのに…こんなに興奮してる…… 「あっ………」  足に力が入った拍子に、あたしは無意識に蜜を溢れさせている恥丘を突き出してしまう。  ほんのわずかなその動き。お尻が布一枚分ぐらい浮き上がった程度で啓子さんに気づかれたかどうかも怪しい ぐらいの身じろぎだけれど、男の人に求めるのとも違うまったく未経験の胸の高鳴りに甘い吐息がほんの少しだ け唇をついてしまう。 「どうしたの? 怖いなら…やっぱり私がしてあげましょうか?」  怖い…? うん……怖い…なんだか自分が自分じゃないみたいで……このまま行っちゃったら…どうなっちゃ うか…ものすごく怖い……  そんな気持ちとは真逆に、あたしはあぐらをかくかのように膝を大きく左右に開き、右手に持ったディルドー の先端を陰唇が口を開けて露出している膣口へ恐る恐る押し当てた。 「うっ…んんっ……!」  ―――ズリュ 「あっ―――くぅ!!」  たっぷりと濡れて柔らかくなっていたヴァギナは異物がその入り口に触れた途端、その野太い張り型を飲み込 む様に脈動し、ほんの少し力を込めただけでズブズブと音を立ててイボイボデコボコだらけのそれを奥深くまで 咥え込んでしまった。 「あっ…あああああっ!! いっ、くあぁん!!」  こ、擦れてる……ううん、アソコの中が…抉れて…捲り挙げられてるぅ……!! すご…大きくて……イ、イ ボが…スゴいぃ……  あたしは右手を動かしてはいない。それなのに、ディルドーの表面とヒクヒクと痙攣を繰り返す肉壁とが大量 の粘液を挟んで密着しているだけでおマ○コ全体が痺れてしまい、子宮の奥から蕩けていそうなほどにあたしの 体は熱く熱く煮えたぎっていた。 「はあああっ…あああああっ……んっ、うんんんんっ!!」  倒れこみそうになる体を支えるために右手も後ろにつく。そうして視線を自分の股間へ向けると……まるで本 物のペ○スが勃起している様にディルドーはヴァギナの脈動を受けてビクッビクッと震えていて、その先端は射 精したがっているように小さな円を描き続けている。 「相原さん…その姿、とっても素敵よ……」 「け、啓子さん……んっ…!」  久しぶりに自分の股間から男根を生やしたあたしの姿を、啓子さんは何かを期待している妖しい視線で凝視し ていた。 「これで準備は全部整ったわね。じゃあ…早速私を犯してくれる?」  い、いきなりですか? あたしはまだ全然収まってないのに…んっ!…こ…このまま啓子さんに入れたらあた し、すぐに……えっ…啓子さん、なんて格好を!?  あたしの股間につきたてられたディルドーの震えも激しくなる一方。今にも先端から熱い精液を噴出してしま いそうな錯角に落ち行ってしまっているというのに、そんなあたしの目の前で啓子さんはこちらに背を向けると、 そのまま前に倒れこみ、ベッドライトでほの赤く染まった豊満なヒップを突き出してきたのだ。 「あっ…あっ……」  思わず股間を押さえてしまう。ディルドーだから大きさが変わるはずがないのに、あたしはまるでウブな男の 子が大きくなるおチ○チンを必死で隠すみたいな気持ちで、割れ目と張り型とが繋がりあった部分を両手で覆っ てしまう。  ドクッ……ドクッ……ドクッ……  堪えきれてない……啓子さんのいきなりの大胆な雌豹のポーズを目の当たりにしてしまい、あたしは眉をクッ と歪めながらも太い張り型を飲みこんだ花弁の脇から断続的に愛液を放ちこぼしてしまう。 「………その先端…ここに押しつけて……どうしたらいいか分からないんでしょ? そこまでしてくれたら…あ とは全部してあげるから……」  あたしの位置からは啓子さんがどんな表情をしているか分からないけど、耳にするだけで興奮の度合いを増し てしまいそうなほど甘い声を聞けばなんとなく想像ができてしまう。きっと…ものすごくイヤらしい顔をしてる んだ……  そんな事を思っているあたしの前で、さらに啓子さんは自分の興奮がどれだけかを照明するかの様に、両手を 腰の外からお尻へと回し、自分の花弁を抑え、左右へ大きく開いてしまった。  熱い蜜が滴っていた。割り開かれ、薄暗い室内でも映えるほどに赤く染まった粘膜の中心で小さく震えている 膣の入り口から濃厚そうな愛液が雫となってこぼれだし、照明の光を受けて宝石の様に輝きながら貼りのある太 股を伝い落ちていく。  あたしはそのあまりに淫蕩過ぎる光景を前にしてなにも喋る事が出来なくなっていた。頭の中は啓子さんのぷ りぷりとしたラヴィアと、あたしに犯されるのを今か今かと待ちつづけている小さなヴァギナの入り口でいっぱ いになり、それを舐めしゃぶり、弄りまわしている自分と喘ぐ啓子さんを想像してグツグツと煮えたぎってしま っている。  今はもう啓子さんとのSEXしか考えられない……  両手の平にたまった愛液をディルドーにたっぷりと塗りつける。ぬらぬらとした輝きを身にまとった肉柱を男 のオナニーの動きでしごき上げながら膝立ちになったあたしは自分のヴァギナ――擬似男根の根元を動かない様 に抑えつけながら啓子さんのお尻へ覆い被さっていく。 「は、はやく……お願い…これ以上焦らさないで……もっと腰を前に突き出して……」  そんな声を上げられたら…あたしの方が我慢できなくなっちゃいそう……  あたしの眼窩には啓子さんのお尻と、割れ目を開くのと一緒に露わになったアナルの窄まりまでくっきりと見 える。  胸に湧き上がる興奮を最後に残った理性で必死に抑えながら、右手でそっと割れ目にディルドーを押し当てる。 「あっ……!」  ビクンッ、と震える啓子さんの背中。汗にまみれ、弓ぞりになっているそこへあたしは自分の胸を押し付ける 様に実をかがめると、ディルドーに手を添えて導こうとする啓子さんの思惑を裏切り、自分のおマ○コに入って いる分だけの長さを啓子さんのヒップの中心にグイッと押し込んだ。 「ああっ、ああああああっ!!」 「んんんっ!! け、啓子さん……すご…あたしも……んっ…!」  想像はしていたけれど、啓子さんの締めつけはものすごかった。突き入れたのはあたしの方なのに、半ば以上 おマ○コに入っていたディルドーはさらに肉ヒダを掻き分けて子宮を押し上げ、丸みを帯びた亀頭部分の先端で 口を開き掛けている子宮口をこね回してくる。 「こ…こんなのって……あた…あたし…気持ちいいとこ、擦れて……もう…もう……!」  入れる前に感じていた啓子さんへの支配欲はどこへやら、あたしと啓子さんのどちらかが快感に我慢できなく なって身を震わせるたびにわずかに捻れ、出入りするディルドーの感触に充血した肉ヒダから愛液が滲み出し、 その度に脂汗を流しながら後ろに突き出したお尻をプルプルと痙攣させて身悶えてしまう。 「はあぁぁぁ……相原さんの…スゴいわぁ……私の中でビクビクしてるぅ……ね…ねぇ……動いて……動いてア ソコを掻きまわしてぇ……」  それは…啓子さんの方なのに……お尻振って…あたしの膣に……お…大きい…のが……はうぅ…!! こんな の…動いたら……あっという間にイっちゃうのにぃ!!  だというのに、あたしの体は勝手に動いてしまう。自分の中からは抜けない様に根元を人差し指と中指で挟み、 啓子さんの粘膜を捲り上げながらボコボコしたディルドーをカリが入り口を潜り抜ける限界まで引き抜くと、両 手で細くくびれたウエストを両手でしっかりと掴み、あたしの濡れそぼった蜜壷にも衝撃が走るのも忘れて啓子 さんのヴァギナを押し開き、その奥にぶつかるまで勢いよく剛直を突き刺した。 「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」  突然啓子さんが汗で湿る髪を振り乱しながら頭を跳ね上げ、涙の滲む声で大きな叫びを上げる。なめかましく 濡れ輝く背を大きく反らし、強く握り締めてシーツにシワを作り、ギシッ…とディルドーが軋む音を立てるほど にアソコを締め付けながら豊満な肉体をビクビクと喜びに打ち震えさせている。  ………ブシャ! 「うっ……ハァ……ハァ…………やっ…あたし……」  あたしの股間が生暖かい液でビショビショに濡れてしまう。それがあたしが噴出してしまった絶頂液か、それ とも啓子さんが放った愛液かはわからないけれど、その温かさにあたしの最後の理性は溶け落ちてしまったよう で、再びがっくりとうなだれ肩で息をしている啓子さんの体を横に倒すと、白い美脚を片方だけ持ち上げて結合 部を丸さらしにした松葉崩しの体勢でヒクヒクと震えている啓子さんのヴァギナを容赦なく突き上げる。 「くああああああああっ!! ああっ、啓子、さん、これ、いいの、いいのぉ!!」  ピストンが徐々に激しくなるにつれ、あたしの喘ぎ声も段々激しい物へと変わっていく。最初は自分の中のデ ィルドーの様子をうかがいながら腰を振っていたのに、啓子さんが腰をくねらせ、捻れる一本のディルドーがあ たしたち二人のおマ○コを同時に擦り、愛液がたっぷりとたまっている一番奥をグチャッと大きく掻き回しなが ら出入りしていく。 「いいっ! おチ○チンが、ゴリゴリして、んっ、んっ、はぁ、ああっ!!」 「やっ、だめ、相原…さん……んっ! そこ、そこは……いっ!! くうぅぅぅぅ!!」  グイッと腰を突き出せば、暗い室内には二つの穴から同時に愛液の粘つく音が同時に響き、あたしと啓子さん のあられもない悶えの声が木霊する。  陰唇が密着するたびにあたしの内臓に届きそうなほど深く子宮を突き上げられ、睫毛を震わせて泣きむせぶと 今度は啓子さんがあたしの下で悦び喘ぐ。その声に興奮したあたしは啓子さんの片足を上へと折り上げる様に体 を倒し、今まで見た事もないほど乱れきった啓子さんの…松永先生の顔を正面から見つめ、愛液がローションの 様にまとわりついたクリ○リス同士を弾く様、体にそって上下に体を動かし、激しく収縮する啓子さんのヴァギ ナを犯し、ブシャブシャッと白く濁った本気汁を噴射するあたしのおマ○コも同じように突き上げる。 「ああ…あああっ……こんなの…こんなのって……私…わたしもう……あああああっ…こんなに…感じてる…… 相原さん…相原さんっ!!」  もうほとんど意識が飛んでいるんだろう、恍惚とした表情を浮かべる啓子さんの視線は焦点を失っていた。そ んな状態なのに、シーツを掻き毟っていた両手があたしの首に巻きつき、端から唾液をこぼし、淫らに汚れてい る唇へとあたしを引き寄せようとする。 「……………」  啓子さんとの濃厚なキス……いまさら拒む必要なんてないはずなのに、あたしは腕に力を込めてそれ以上の接 近を拒否してしまう。さらには久しぶりの男性リズムで振っていた腰の動きも止め、荒い呼吸を繰り返してジッ と啓子さんと見詰め合った。 「や…やだ…やめないで……おねがい…相原さん……もっと…して欲しいの……」  ………きっとあたしが男のままだったら、言われるがまま…というより、もっとメチャクチャにやっちゃって たかな……  それほどまでに啓子さんの喘ぐ表情は色っぽかった。松永先生の様に大人の感じ方ではない、まだ若い(本人 を前にして口にしたらどうなるか…)啓子さんだけの、少女から大人に成長しつつある時だけの、二つの魅力を 合わせ持つ表情にあたしは完全に魅入られていた(明日香、ごめん…)。  だけど、だからこそ、啓子さんの言葉が胸に引っかかる。いや、胸の先端とかはお互いの膨らみの上で……  それは置いておいて、 「ねぇ……お願いがあるんだけど……」  マラソンしたあとのように乱れた息がわずかに落ちついた頃合を見計らって、あたしは口を開いた。 「ハァ…ハァ……な…に? これ以上…激しいのは……ううん、相原さんが、したいなら……わたしは……」  まぁ、なんとなくそんな言葉が出るんじゃないかとは思ってたけど……啓子さんらしい。けど、あたしが望ん でいるのはそんな事じゃない。 「そうじゃないの……ただ…あたしの名前を呼んで欲しくって……「相原さん」って、こう言う事してるのになん だか変だし……だめ?」  今にも破裂しそうな心臓と、もう一刻も早く動き出したい腰をなだめながら、あたしは笑顔を浮かべて語り掛 ける。  なんでこんな事が気になるのか……あたしが男だからとか、今は男役だからとか、そう言う事は関係ないんだ ろうけど、ただ…… 「………たくや」  ………啓子さんにそう呼ばれてみたかっただけみたいで。 「啓子さん……」 「ねぇ…今度は最後までちゃんとして……たくや」  今度は抗わなかった。啓子さんに引き寄せられるままに唇を重ね、目を閉じてその柔らかい感触だけを意識の 中で反芻する。  どこまでも柔らかくて……今までで一番気持ちのよい女の子同士の優しいキス……  舌はお互いの唇をチロチロと舐めるだけ。ただ顔をよじり、相手の体温を感じて、相手の香りをかいで、あた しは全身で啓子さんを抱き締めていた。  けれど、 「………んっ!」  あたしの体の下でモジモジと動いていた啓子さんが不意に腰を動かした瞬間、意識は子宮から脳天へと突きぬ けた雷のような刺激で真っ赤に染まり、そのショックはチュポンと小さな音を立てて啓子さんから離れたあたし の唇から悶えとなって漏れ出てしまった。 「ふふふ……休憩は終わり。さぁ。今度は最後まで愛し合いましょう」  あっ…啓子さんの手があたしのお尻に……ちょっと待って。動くのはあたしの方じゃ…… 「ついでに攻守も後退しましょうか。今度は私が愛情込めていじめてあげるわ♪」  うわ〜〜、顔は微笑んでるけど目が恐い! 逃げないとなにか…んっ! あっ…やだ、そんな……はうっ!!  さっきのキスの間に体勢は完全に入れ代わっていた。足を下ろした啓子さんはあたしのお尻をしっかりと鷲掴 むと、自分の股間へ導く様に引き寄せる。 「あぐうううううっ!!」 「んふっ……ほら、たくやも動きなさい。そのかわいい表情…もっと悶えさせてあげるから……」  そう言うと啓子さんは左右に開いた両膝であたしの腰を挟み、一度だけ手でやったのと同じように、あたしの 腰をコントロールして自分のヴァギナを突かせ始める……けれど、膝は前後運動ではなく楕円運動。ただがむし ゃらに腰を振っていたあたしの動きの時とは違い、あたしのアソコには言っているディルドーも一定のリズムで 確実に出入り、固い先端であたしの体の一番奥深いところをズンッズンッと押し上げてくる。 「おっ…き……だめ…ほんと…あたし、もう…んんっ…! こ、こんなの……くぅ!!」  先ほどまでは無意識に自分がイかないようにコントロールしていた。けれど今は明らかな意思を持ってディル ドーはあたしの張れあがって敏感になった粘膜を擦りたている。  それに元々胸だけでイかされちゃったぐらいに、あたしの体は性行為に敏感になりすぎている。この24時間 で何回エッチな事をしつづけてきたか。アソコが乾く暇もないほど入れ代わり立ち代り、いろんな場所で弄ばれ たおかげで神経は常時エッチモードだし、さっき三人の男に犯された余韻が残る場所をそんなに責めたてられた ら…… 「はぁ、啓子、啓子…さんっ!」  あたしの動きが男の腰の振りから、騎乗位で男根をより奥に迎えるような上下運動へと変わり始める。  女の体のときは、どうやっても犯す事より犯される音を望んでしまう……本能に忠実過ぎる淫らな肉体はその 中心に突き込まれるディルドーを涎を垂らしながら咥え込み、ボコボコの表面に掻き毟られたがるように肉ヒダ を絡みつかせて射精することのない剛直をギュム…ギュム…と締め上げてしまう。 「ああ…ああああああっ!」  血管とカリの盛り上りに肉ヒダを何度も捲り上げられ、たまらず声を上げて背を仰け反らせる。すると視界に は、巨根サイズのディルドーを入れられて限界までパックリと広がった二つの陰唇の姿を捉える事が出来る。  あたしと啓子さん、男性経験は豊富なのに形がほとんど崩れていない二つの陰部――いや、あたしもそんなに 見て回ったわけじゃ…――は、長さ40センチのディルドーをほぼ半分に分け合って自分の膣内に飲みこむたび に圧力に負けて丸い形にその入り口を歪めている。汁っ気はあたしのほうがかなり多いけれど、張り型を頬張る たびに溢れ出す愛汁は恥丘を突き出すたびに密着する陰唇の間でグチャグチャに混ざり合い、ビンビンに大きく 勃起したクリ○リスからそこも一緒に弄って欲しいと言わんばかりにヒクついているアナルの窄まりまでびっし ょりと濡らすほどに大量に滴り落ちている。  ものすごく…イヤらしい……女の子同士だと、こんなに……はうぅ……!!  股間でグチュリと音が鳴り響いたのと同時に、あたしの全身がブルリと震えあがる。  ディルドーは小刻みに、そして執拗にあたしたちの恥骨の裏を責めたてる。特に張り出したカリがGスポット に触れるたびにプルンと乳房を震わせ、ジンジンと痺れている乳首で何度も小さな円を描きながら背中を悩まし くくねらせる。その拍子に、あたしは垂直以上に反りかえった体を支えるために、 「あっ…やだ、こんな格好……」  あたしの腰を挟んで動きをコントロールしていた啓子さんの膝に手を乗せ、喘いでいるうちに思わず全体重を 乗せちゃって、強引に左右に全開させてしまった。  ―――スゴい……  その光景に、あたしは唾を飲んでしまう。ふくよかな乳房の左右から滑らかなラインを描くウェスト、そして あたしの手に抑えつけられて赤い粘膜が露出していても隠す事が出来ない股間……そんな姿をあたしの凝視され て両腕で顔を隠す啓子さんの姿にあたしは熱病に掛かったかのように体を細かく震わせると、粘液が真上に飛び 散るほどの勢いであたしの腰を啓子さんの恥骨に叩きつけていた。 「あああああ〜〜〜〜〜っ!! た、たくや、そんな…ひぃっ!!」 「け、啓子さん、あたしもスゴい、はあぁ、啓子さん、んん〜〜〜〜〜〜っ!!」  無我夢中で腰を振りたくる。もうなにも考えられなくなってしまったあたしはピストンの勢いが自分の子宮に も響く事も忘れ――いや、もうそれこそが、啓子さんと繋がったディルドーに恥裂を掻き回されて粘膜を擦りた てられる事こそが望みとでも言うように、パンッパンッと寝室に木霊するほど大きな音が響くぐらい勢いよく腰 を叩きつけ、凹凸だらけのディルドーをあたしと啓子さんのヴァギナの奥深くへ同時に叩きつける。  ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ、ジュポッ…… 「あっ、ああっ、くぅ!」  ディルドー表面がデコボコしているせいか、ピストンの動きで膣内に入った空気がおならのような音を立てて 抜けていく。しかも二人分。重奏で響くイヤらしい水音を聞いて興奮度合いを増したあたしは背筋に電流が引っ 切り無しに走りぬけ、アナルが内側へキュウッ…と窄まっていくのを感じながらも啓子さんのスリットへディル ドーを打ちこんでいく。 「け…啓子さん…はうっ……も、イくよ……イくよ!?」  ヴァギナがビリビリと震えている。どんなに愛液を溢れさせても収まらない絶頂への衝動をそのまま啓子さん への問いかけにして口にする。 「うんっ……うんッ…!!」  啓子もとうに絶頂間近なのだろうか、形良い唇に歯を食い込ませ、強く閉じ合わせたまぶたの端には涙さえ浮 かべて、ガクガクと顔を縦に肯かせた。 「はぁ、んんっ、あっ、い…イっちゃうよ、啓子さん、イっちゃうのぉ!!  どっちにしろ、あたしの方は我慢の限界に達してしまっていた。啓子さんの了承を得て最後のストッパーを外 してしまったあたしは啓子さんのくびれたウェストをしっかり掴むと、あたし自らも快感を求めるうねるような 腰使いでディルドーに秘粘膜を抉らせ、ズリュッズリュッとディルドーを吐き出しては突き入れ、強引に抜き出 して抉りこませる。 「あっ…ああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」  もうどっちがどっちの悲鳴かなんて分からない。二人とも口を開いて絶叫を上げ、相手の腰を、足を、とにか く体の一部を掴んで強引に引き寄せ、ディルドーが――あたしが啓子さんから、啓子さんがあたしからもたらさ れる快感に身を震わせ、愛液を迸らせながら最後のその瞬間――まるで熱い愛液で膨らみきった風船が割れるよ うな絶頂感へと突入していく。 「あああっ、凄い、たくや、イく、いくううううううぅぅぅうう!!!」  先にオルガズムに達したのは啓子さんだ。ベッドの上でブリッジするように全身を緊張させ、ディルドーを締 め上げる。  白い肌にはいくつもの玉のような汗を浮かべ、それを飛沫かせるほど全身を痙攣させる。  乳房をフルフルと震わせ、全身を駆け巡る絶頂の快感に身悶えるたびに赤く張れ上がった乳首が揺れ動く。  そしてあたしも最後を迎える……のと同時、今までしゃぶりついた事のない啓子さんの胸にかぶりつき、乳首 の根元にはを軽く立てながら絶叫の代わりとばかりに思いっきりそれを吸い上げる! 「んんっ! んんっ! んんん――――――――――っ!!!」 「ダッ…ダメ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」  あたしのおマ○コから、大量の愛液がブシャッと音を立てて噴出した。U字型に折れ曲がったディルドーの入 り口を塞がれているせいで圧力が増し、ほぼ真後ろに向かってあたしの射精液が勢いよく迸る。 「ああ…ああぁん……たくや…たくやぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」  まだ絶頂の射精が終わらない……突き出したお尻から噴水の様にアクメ汁を放っていたあたしの頭を啓子さん の腕が抱き締める。 「んっ……んんんっ………!!」  あたしの顔が温かく、柔らかい感触に包まれる。  息苦しい……けれど、甘い香りのする啓子さんの胸に抱かれたあたしはゆっくりと収まっていく絶頂の余韻と、 未だに啓子さんと繋がったままの股間の充実感に酔いしれながら、ゆっくりと、色々ありすぎて疲れきった意識 を深い闇で休ませる事にした……… 「うっ……太陽が黄色い……」 「そうよね。たくやくん、ものすごく激しかったし……素敵だったわよ♪」 「は…あはははは……」  ずいぶんと久しぶりに日の光を浴びた気がするというのに、気分は頬が引きつるほど複雑だった。  早朝。  おそらく気を失って一時間も寝ていないだろう。昇るのが遅い冬の朝日が部屋に差し込むのと共に啓子さんに 起こされたあたしは朝食を食べてからマンションの周りを散歩していた。  なにしろ、部屋の中が尋常じゃない状態だったし。淫臭のこもった寝室はともかくとして、あたしが男三人に 抱かれたリビングにはその三人のミイラが――いや、死んでないんだけど、昨晩よりもやせ細っていて……これ 以上は思い出さない方がいいか…SEXしてあんなにぼろぼろになるなんて…正直、救急車呼ばずに追い出した 啓子さんが恐かった……  そう言う理由もあり、簡単な朝食を食べたあたしたちは気分転換のために外へ出てきたのだ。  ちなみに服は宮野森の制服じゃない。精液愛液で汚れきった制服は「使用不能」寸前の状態だったので、啓子さ んから借りた服を着ている。  上はトレーナーにジャケットを羽織り、下半身はミニスカートと太股まであるニーソックス。身長にそれほど 違いが無かった事になにかショックを受けないでもないけれど、サイズが合っていたのは助かった……んだけど、 どうして下着は「黒」にこだわるんでしょうか…… 「ふふふ……昨日は燃えちゃったわね。たくやくん♪」  啓子さんの右手があたしの腕に絡みついてくる。  一応起きてからシャワーを浴びたんだけど、こんなに間近に寄ってこられると彼女の体臭に女同士(いや、心 は男だよ?)と言う事も忘れてしまいそうだ。  それに腕を組むなんて行為はどこか恋人同士みたいで、そんな事を考えると角が生えた幼なじみの顔が思い出 され、けれど「あの」啓子さんとそんないい雰囲気というのもあり……心中複雑です。 「いや……あたしは…もう疲れきった……と言うより燃え尽きた? そんな感じで……ははは……」  まぁ……昨日一日で色々あったから、色々……ああ、あたしの平穏な日常はどこへいったのよ…… 「もう、そんな事言って……あんなに激しくイかされちゃったのって久しぶりだったのに」 「あ〜…一応外なんだから、そう言う不穏当な発言は控えて欲しいんだけど……ほら、みんな見てるし」  時間は既に通勤時間だ。啓子さんは私服で散歩に付き合ってくれてるのを見ると今日は自主休学みたいだけど、 この時間の私服の女の子二人組みというのは白い息を吐きながらすれ違うおじさんや学生たちに、とても怪しい 目で見られている。しかもあの人たちが何を考えているかなんて、いやらしい目を見れば丸分かりだし。人のス ケベさに時代も何も無いわけか……はぁ…… 「いいじゃない、見せておけば。それがイヤなら今晩も……ふふふ♪」  もう、勘弁してよ〜〜。ただでさえ目立ちすぎてるのに、そう言う「私たち昨晩女の子同士で愛し合っちゃっ たんです♪」的発言は〜〜〜!! 「ふふふ、やっぱりたくやくんは困ってる顔が似合ってるわよ♪ でも一番かわいいのはやっぱりベッドの上で 悶えてるときよね。特にオルガズムに――」 「わぁ〜わぁ〜わぁ〜〜〜!! ほんと〜〜にお願いだから一般社会常識で言っちゃいけないような発言は全面 カットっ!!」 「………そんな大声出したら」 「………あっ」  口を押さえてももう遅い。  啓子さんの口をなんとか塞ごうとしているあたしを横を幾人ものひとたちが通りすぎていく。みんな微笑を浮 かべ、面白い生き物を見つめるような目で歩き去っていく…… 「あ……ああ……何かが終わった……確実に……はぁぁ……」 「まぁまぁ、若さ故に過ちなんだからあまり気にしない方が良いわよ」  ………今の啓子さん、確かあたしより年下なんじゃ……よく考えればさん付けで敬語だし……ええい、もう気 にするもんかぁ!! 「たくやくん、道でうなだれてたら交通の邪魔になるわよ」 「ほ…放っておいて……あたしはもうどうなったって……しくしくしく……」 「しょうがないわね。……じゃあそこの公園に行きましょ。一休みすれば気分も良くなるわ」  歩道に膝をついてお先真っ暗になった人生を悲観していたあたしは啓子さんに手を引かれるまま、既に葉が落 ち、枝振りだけを残した木々が並び立つ公園へと連れて行かれた。  ―――あれ?  あたしはそのまま広場の側のベンチへと座らされる。そして隣に座った啓子さんの何気ない会話に耳を傾けな がらも、意識はいつのまにか公園の風景へと引きつけられていた。  たしか、どこかで見た風景だった。 「? たくやくん、どうかしたの? ぼんやりしちゃって…やっぱりまだ疲れが残ってるの?」 「あ…あ〜…うん。やっぱり昨日が昨日だったから…こうやって何も考えずにいると眠くなっちゃって……」 「もう…どうせ私の話なんて聞いてなかったんでしょ? ふんだ」  あ…あはは…ごめんごめん。なんだか…スゴく眠たくって……  意外にかわいらしい怒り方をする啓子さんの横で、あたしは背もたれに体重を預けて上体を反らす。  昨日の荒れ具合が嘘のように風が穏やか。まだ日向ぼっこをするには日が高くないけれど、あたしはどこか陽 気で懐かしい空気に身を任せる。  ―――そういえば…近所にあった公園もこんな感じだっけ……今は無くなっちゃったけど ……懐かしい…なぁ…… 「それでね、たくやくんさえよければ、ずっとうちで暮らさない? あっ…よかったらなんだけど、タイムスリ ップっていつ起こるか分からないんでしょ? だったらそれまで――」  そこまで口にしてようやく気がついた。  私の隣に話を聞いてくれる人の姿はなく、一人だけでうれしそうに話をしていたという事に。 「………もう、何も言わずに行っちゃったの? たくやくんって意外とせっかちなのね」  ため息を一つ。妙に浮かれていた自分をそれで元に戻すと、彼女が座っていた隣の場所から青い空へ目を移し た。  振られちゃった……かな?  だとしたらあまりにも突然だ。まだ返事をもらってないし、好きだとも言ってない。そもそも女同士だし…… まぁ、それは別に問題じゃないか。 「せめて一言ぐらい言ってくれたっていいのに……はぁぁ…どうして惚れちゃったのかな?」  本当に惚れていたのだろうか? 昨日あったばかりの、未来から来たって言う、男の子みたいな名前の変わっ た女の子に? 「でも…好きになっちゃってたのよね……」  これは不覚だ。おおいに不覚だ。この松坂啓子ともあろう者が先に惚れた上に逃げられるなんて。  ええい、こんな事ならいつものように有無を言わさず手篭めにしておけばよかったわ。そうすれば首輪でつけ てでも逃がさなかったのに。 「さて……ここでこうしていても仕方が無いし、学園に行くとしますか」  少しのんびりしすぎたけれど、今から急げば一時限目の途中にはつけるだろう。生徒会の仕事もある。がんば らなきゃ。  いつまでも一人の人間に縛られるのは私の主義に反してる。そう踏ん切りをつけてベンチから立ち、公園を出 たときの事だ。 ―――ドンッ 「あっ」  腰に感じる軽い衝撃。とっさに反対側の足を踏ん張ったので私はよろけた程度で済んだけれど、ぶつかってき た相手――黒いランドセルを背負った男の子はそのまま後ろへと倒れそうになるが、すぐ後ろにいた、こちらは 赤いランドセルを背負った女の子に支えられて転倒の難を逃れていた。 「もう、だから言ったでしょ。たくちゃんはどんくさいんだから、ちゃんと前をみてあるきなさいって」 「うっ…う〜〜〜」  ぶつかったときに鼻を打ったらしい。見掛けのかわいらしさとは違ってかなり強気な女の子の言葉に、鼻を両 手で押さえたままうなるだけだった。 「あらあら、君、大丈夫? ちょっとぶつけたところを見せてくれるかしら?」 「う…うん……」  できるだけやさしく微笑みかけながら男の子のそばに膝をつく。 「………鼻血は出てないわね。骨が折れてる様子も無いし、直に痛みも引くと思うわ。ごめんなさい、私がぼ〜 っとしてたから」 「お姉さんはわるくないの。たくちゃんってば、電信柱にぶつかっちゃうほどおまぬけさんだから♪ ほら、た くちゃんもあやまって。あやまるの」 「うん…あの……ごめんなさい…それと…ありがとう……」 「……………どういたしまして」  なんでだろう? 思わずこの子の顔に魅入っちゃったけど……さすがに小学生は守備範囲外なんだけど…… 「――いっけない。いそがないと遅刻しちゃうよ。もう、たくちゃんのお寝坊さん!」 「あ、そうだっけ。じゃあ…あの……僕……」 「お礼はいったからもういくの! ほら、いそいでいそいで!」 「ま…まってよぉ、ぼく、そんなに速く走れな…うわぁ!」  急に慌てて走り出した女の子に手を引かれて走り出す男の子。その危なっかしい様子にあと何回こけるだろう かなんて言う事を考えていると、ふと、ランドセル横の名札に目が止まった。  「相原」 「………さて」  手の平を前に向けて指を組み、上へとあげて背筋を伸ばす。 「これで私の未来は決まったかな」  偶然の一致かどうか、そんな事は知った事じゃない。  どうせ彼女が未来から来たのが分かったときから、彼女に「先生」と呼ばれたときから、私自身の未来も決まっ ているんだ。  教師になろう。何の教師かはまだ決めてないけれど、私は宮野森学園の教師になって、もう一度、彼女と出会 ってみよう。  あの男の子と女の子の姿は角を曲がってもう見る事は出来ない。  でも焦る必要なんてない。私が先生になりさえすれば、きっと――いや、必ず会える筈なんだから。 ―――その時になったらまた会いましょう。相原たくや「くん」


続く