「クスハストーリー「ヒュッケバインvsグルンガスト」」前編


(SRX経過のハミル博士からの通信か…?)  イングラムはコールを鳴らすモニターのスイッチをオンにすると、自分同様SRX計画の機体の開発に携わって  いるハミル・コールの顔が映し出された。 「なんの用だ、ハミル……何が起きた……レッドとホワイト、それにあの機体が……犯人はあの男か……了解した」  要点だけ聞き終わると通信は終わり、画面は再び黒い静寂を取り戻した。 (そうそう計画通りに行くはずはないか。それにしてもあの男…やってくれる。だが、この事態は利用できるな…  二人のサイコドライバーへの覚醒に…) 「まったく……なんだか訳のわかんねぇ実験に付き合わされたばっかだってのに、なんでこんな偵察任務なんか  させられにゃならねぇんだ?」 「T−LINKの調整でしょ? それに南アタリア島はいろんな組織に狙われてるってイングラム少佐が言ってた  じゃない。マクロスの進宙式も近いって…」 「そうだぞ、リュウセイ。クスハもお前と同じように実験に付き合っているのに文句は言っていないだろうが。  少しは見習うんだな」 「あ、くそ、クスハめ、一人だけいい娘ちゃんぶりやがって!」 「ごめんなさい。そう言うつもりじゃなかったんだけど……」 「いや…別におまえが悪いんじゃないんだから、そんな謝らなくても…」 「そうだ、リュウセイが全面的に悪い。加えて言うならばこの任務は強化パーツを装着した機体のテストも兼ねて  いるんだぞ」 「わーったわーった。私が悪うござんしたよ、ったく…」 (ふふふ…リュウセイって、あの頃と全然変わってないんだから…)  私、クスハ=ミズハはマオ社でパイロット候補生をしていたんだけど、とある事故でPT(パーソナル=トルー  パー)ヒュッケバインMK−Uに乗る事となり、幾多の闘いを経て、現在は自分の意思で地球連邦第13独立  部隊ロンド=ベルに所属している。  今、私のヒュッケバインと一緒に南アタリア島周辺の偵察任務についているのは、R−2に乗るライさんと  R−1に乗るリュウセイくん。一通り周囲への警戒が終了したので、南アタリア島からそう遠くない孤島で  小休止を取っている。小さな島とは言っても、中央部にはRTやMSぐらいの大きさのある木が生い茂る森  が広がり、すぐ近くの隣の島にはそびえる山と岩場まである。  リュウセイくんとは幼馴染だったんだけど、彼がゲーム大会に優勝した時に連邦軍にスカウトされて、病気  のお母さんを救うために、一人、軍に入隊してしまった。偶然とは言え、こうやって再開できたのはやっぱり  嬉しい……だって……  ガシッ 「きゃあ!?」 (いけない、ちょっと考えこみすぎちゃった……この揺れは何?)  いろいろと昔の事や友達の事を思い出してぼ〜っとしていると、いきなり機体が揺れ、コクピットの中に振動  が走る。 「ところで機体の調子はどうだ。何かおかしいところは無いか? お前のヒュッケバインにも新しい装備がつけ  られたんだろ?」 「りゅ…リュウセイくん…ビックリしたぁ……」 「どうしたんだ? また変な事でも考えてたんだろ。昔っからそう言うところがあるもんな、お前は」 「へ…変な事って…わ、私、そんな事…あの…ちっとも……あの、あの…うぅ〜〜」  リュウセイくんの方こそ変な事言わないでよ……あんな事考えてるとこだったのに… 「う〜〜……あ、あれ?」  顔が自分でもわかるぐらいに熱を帯びていくのをうなりながら感じていると、機体に搭載された念動力増幅  システム・T−LINKシステムを通じて私の脳裏に何かのイメージが走り抜けた。 「? どうしたクスハ。何かあったのか?」 「…感じない? 何かがこっちへ向かってくる…」 「敵か!?」 「レーダーには何も反応していないが…」 「…来る! 逃げて!!」  ゴウゥン  あたしの叫びと同時に、それまで私たちの機体が立っていた地面が轟音とともに大きく抉り取られる。 「長距離狙撃、エアロゲイターか!?」 (なに、この感じは…? 前にも感じた覚えのある…)  どこか親しみを感じる感覚…そう遠くない過去に、私はこの感じを受けた…いや、違う。一度じゃない…! 「二人とも。こちらへ近づいてくる機体を確認…」  グォォン!!  ライさんが言い終わる間も無く、近くの森の中から赤い、巨大な人影が飛び出してきた。 「こ、これは!?」 「ライ、危ねぇ!」  そのMS…いや、恐らくPTが右腕を伸ばしR−2に掴みかからんとした瞬間、横合いからR−1に体当たり  されて、間一髪のところで突撃を回避する事ができた。謎の機体は目標が眼前から消えた事で私たちの横を  通りすぎ、ある程度の間合いを広げて振り帰った。 「こいつは…ゲシュペンスト……いや、違う。てめぇ、なにもんだ!!」  動きを止めた機体は赤を基調に塗装されていて、どこかヒュッケバインやR−1,R−2と似た雰囲気を感じ  させていた。頭には三本の角を備え、両肩が異様に大きく盛りあがっている。右腕には拳銃のようなリボルバー  が装着されていて、手首に向けてミサイルとしては短く小さい棒状のもの――ひょっとしたら杭?――が伸び、  左手には三本の銃口が備え付けられていた。 「俺たちに喧嘩を売るとはいい度胸だ。徹底的にぶちのめして目的を聞かせてもらうぜ!!」 「! リュウセイくん、待って!!」  ゴウゥン!! 「ぐあぁぁ!!」 「リュウセイ!!」  赤い機体の方を向きながら両腰に装着されているG−リヴォルバーを構えようとしたR−1の背中に、先ほど  地面を穿った銃弾が叩きこまれた! そのまま前に膝を突いたR−1に赤い機体が飛びかかってくる!! 「やらせない! きゃあ!!」  リュウセイくんを守ろうと、操縦桿を動かしてヒュッケバインにフォトンライフルを構えさせた瞬間、赤い機体  が飛び退りながら、左腕から無数の銃弾をヒュッケバインの足元に向けて発射し、それにひるんでいた間に今度  はヒュッケバインが狙撃の的にされてしまった。 「こいつは……ゲシュペンストMK−V、アルトアイゼンだと!? 馬鹿な、あの機体は廃棄処分になったはずだ!」  R−2を巧みに操作し、ライさんが狙撃弾を躱しながらヒュッケバインとR−1、そして謎の機体――アルト  アイゼンの間に弾幕を張る。それでも何処から撃って来ているかわからない狙撃弾を躱しきれるはずも無く、  何発かを厚い装甲にくらいながら、肉薄する敵をさばいていた。 (R−2は中・長距離専用の機体…あのままじゃ接近戦で負けちゃう…せめて長距離狙撃さえなんとかなれば!)  とっさに防御していたのでヒュッケバインに目立った損傷は無い。それを確認すると、私は目を閉じ、精神を  集中させて遠くにいるであろう敵の気配を探り始めた。 (お願い、ヒュッケバイン……あなたなら、きっと見つけてくれるはず……二人を守るために……力を貸して………) 「……いた!」  場所は…隣の島の岩山!! そう直感した私はヒュッケバインの身を起こさせ、隣の島に向かって一気に  「加速」させた!! 「待てクスハ! 単独行動は危険だ!!」  その一瞬、ライの注意がヒュッケバインに向く。 「! しまった!!」 『その機体、破壊する!!』  R−2のコクピット内のスピーカーから敵パイロットの声が聞こえてくる。そしてライが再び注意を正面に  向けたときには、R−2の眼前には右手に取り付けられている杭を、今まさに叩きこまんとするアルトアイ  ゼンの姿があった……… (どこ…何処にいるの?)  私はヒュッケバインのセンサーを最大感度にしながら、一歩一歩機体を前に進ませていた。 (なに…このフィルターがかかったような感覚は……もしかして相手にも……)  いつもなら私の脳裏に敵に姿を見せてくれるT−LINKシステムがおぼろ気ながらにしか情報を与えて  くれない。いつもと違う闘い――私がこれまで生き延びる事ができた要因の一つであるT−LINKが正常  に作動しない事に、グローブに包まれた手のひらがじっとりと汗ばみ始める。 (おちついて…遮蔽物の多いこの場所なら相手にも私の姿は見つけにくいはず…だったら……) 「ほう、アレがヒュッケバインMK−Uか。ま、見た目だけは立派だね」 「でも、あのイングラム=ブリスケンが開発に携わった機体が、ただのPTの筈がありませんわ」  岩山の山頂付近、ヒュッケバインを挟んだ反対側に二つの機体が身を隠していた。一機は白、そしてもう一機  は青を基調にしている。 「そうだな。これ以上、SRX計画をあの男の好きなように利用されるわけにはいかない」 「はい」 「…いいのか、レオナ? 奴らに攻撃を仕掛ければもう後戻りはできねえぜ」  レオナ――そう呼ばれた白い機体のパイロットは、コクピットの中で流れるような美しい金髪を頭の上に束ね、  汗を拭うために外していたヘルメットをかぶりなおした。 「…イルム中尉こそ…私はあなたたちの考えに賛同した時から既に覚悟を決めています」 「悪いな…こんな事に付き合せちまって。だがお前たちをあのままSRX計画に参加させていると実験や過度の  投薬で精神をボロボロにされていただろうからな」  レオナの乗る白い機体――ヴァイスリッターにイルムの真剣な声が響き渡る。RTXチームとしてイングラム  とともに戦ってきた彼には。あの青い髪の男がどれだけ危険な人物かが十分に理解できていた。だからこそ、  彼は二人の若いパイロットがイングラムのモルモットとして廃人にされていくのを、見て見ぬふりする事が  できなかった……たとえ、反逆者という汚名を彼らに着せる事になっても…… 「…………」  それがわかっているだけに、レオナも、もう一人のパイロットも、彼と彼の所属する組織へ参加し、ともに  戦うことを決心したのである。そして彼女はそんな彼に魅かれ、戦場を潜り抜けてきた逞しい両腕に身を  預けもした……それが愛と呼べる感情か、それとも信頼の証であるのかは彼女にも理解できてはいなかったが…… 「それから…ヒュッケバインは俺がやる」 「!? 何故ですか! 中尉の手を煩わせるまでもありません、私がやります!!」 「あの期待はRシリーズ以上に強力だ。あれは俺に任せろ」 「………」 「せっかく拾った命だ。もうちょっと大事にしておけ、また俺に抱かれたかったらな」 「……いえ、やはり私が行きます!!」  そう言うと、レオナはヴァイスリッターのバーニヤを吹かし、山肌を飛び越えていった。 (私は心に決めたはず…あの人の…中尉を助けるために戦うのだと!) 「くっ、先走りやがって…あいつらの機体には試作型の念動波遮断シールドを搭載してあるが、ヒュッケバイン  のパイロットと接触するのはやはり危険か……だが……」 (いた……)  山肌の所々に飛び出た巨石に隠れながら移動していたレオナは、眼下の谷間を移動しているヒュッケバインを  発見した。 (気付かないでよ…一発でしとめてあげるから…)  コクピットの中で喋っても相手に聞こえるはずもないが、なるべくなら音を出したくない…  ヘルメットのバイザー越しにモニターを見つめつつ、機械まかせではなく、操縦桿を使って手動でヴァイス  リッターの長銃――槍と言う名を持つオルスタンランチャーをヒュッケバインの進行方向に向けて構える。 (照準機を使わなければロックオンを気付かれる恐れもない……さぁ…早くきて……)  巨大な銃口の先端をミリ単位で微妙に合わせながら、ゆっくりと歩み続けるヒュッケバインが己の目の前に  到達するのを今か今かと待ち続ける。 (まだ……あと三歩……もう…少し………来た!!)  ヒュッケバインのコクピット部分が正確にオルスタンランチャーの前にきた。  人で危める事への後悔は後でするとして、その瞬間だけは迷わず、レオナはトリガーを引き絞った。


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