Y.運命


 早く…早くしないと……あの野郎の事だ。もう屋根から脱出してるかもしれない。敵にすると鬱陶しい爺さん だな、ほんとにまったくクソッたれ!! 絶対に逃がさねぇ、ふんじばって泣くまで窓の外に吊るしてやるから な!!  一階客間、女客が一人で泊まっていた事になっている部屋から飛び出したあたしは、心の中で梅吉のジジィに ありったけの罵詈雑言を浴びせながら、大急ぎで階段へと走った。 「あ、真琴さん、どうなった? 一応警察の人にも来てもらったんだけど――」 「犯人はどこでありますか!? やや、それは日本刀!? 銃刀法違反でありま――」 「退け! 邪魔だ!!」  加速の付いたエルボーで階段前にいた奴をふっ飛ばす!! 「ぐはぁ!」 「げはぁ!であります!!」  今の誰だっけ? っと、そんな事より二階に急がないと。  二段飛ばしで一気に駆け上がる。ここまで来れば目の前だ。  頼む、ちょっとは抵抗して時間稼いでてくれよ……えっと…あの部屋の上は……ここか!!  毎日あゆみが掃除してつるつるに磨かれている廊下の上を裸足で滑りながら身体にまとった勢いを打ち消し、 あたしも何度か出入りした事のある部屋――タク坊の先生の泊まっている部屋の前でストップする。 「ここだ! 先生、先生!! 無事か、返事してくれ!!」  ドンドンドンドンドンドンドン!!  ノックと言うよりも左の連打で飛び裏を叩くが中からは雲とも寸とも返事が無い(数秒で出てくるのは無理で しょう)。  ガチャガチャガチャガチャ  クソ! ご丁寧に鍵まで掛かってるのか。針金持ってない、ヘアピン付けてない。仕方ない、扉をぶっ壊す!  あたしは扉の反対側の壁まで下がり、腰を落として刀を水平に構える。  全体重を乗せて…鍵の部分だけぶち抜く! 「ハッ!」  あたしが気合を入れ、刀を突き出す。  そしてタイミングを計ったかのようなその瞬間――  ドゴォン! 「……壁に穴をあけて何してるのかしら?」  扉を開けて出てきた松永先生があたしに冷ややかな目を投げかける。 「いえ……ちょっとその…前方不注意による器物破損を……」  咄嗟に軌道は逸らしたけど、勢いまでは殺せなかった刃は取っ手の横辺りの壁を深深と貫通していた……  ううぅ……この穴、あたしが直さなきゃいけないんだろうなぁ……それとも給料から…… 「そうなの? まあそんな事はどうでもいいわ。壁の取り壊しでお忙しいところ悪いけど、食事の準備をしてい ただけるかしら? 私、徹夜明けでまだ朝食を取ってないもので」  以前のようにやさしそ〜な笑顔はどこへやら……浴衣の上から白衣を着た先生は妙にぷりぷりと怒っているよ うだった。 「はい、分かりました……じゃなくて! この部屋にあの野郎!…じゃなくて…えっと…番頭の杉田が来ません でしたか? シワクチャ顔の背の低い爺さん」  もしや屋根を伝って隣の部屋か別の場所に移動したんじゃないかと、あたしは機嫌をうかがいながら恐る恐る 尋ねてみる。 「来たわよ。ええ、来ましたとも。まったく、この旅館は一体どう言う社員教育を行ってるのかしら。いきなり 女性の部屋に窓を破って侵入してきて強引に事を運ぼうとするし、その上フリチンだなんて……今日帰るって言 うのにもう最悪よ! ようやく完成した薬まで台無しにされたのよ! 私の三日間は何だったのかしら、もう!」  先生が綺麗な眉を吊り上げて怒っている。美人なだけにその形相もまた格別に言いようの無い迫力がある。  こ…こわ〜〜……でも人質も取らなかったみたいだし、これはさっさと何処かに行った方がいいか……って、 ちょっと待てよ? この部屋に梅さんは来たんだろ? だったら何で先生を人質に取らずに……どこに消えたん だ?  たしか、ここの隣に泊まっていた砥部とか言う一家は今日は朝から街に出掛けてるし……まさか下に降りたの か!? 「あ、あの、ちょっとすみません! 食事は後で腕によりを掛けて作りますけど、それで番頭は!? あのジジ ィはどこ行ったんですか!?」  ここでこれ以上判断を間違えるわけにはいかない。刀を壁から引き抜いたあたしは階段に向かおうとする先生 の前に回り込み、掴みかからん勢いで言葉をまくし立てた。  しかし、そんなあたしの焦りを無視するかのように、先生の言葉はそっけなく、短く、それでいて意味不明だ った。 「トランクの中よ」 「……トランク?」  それって外においてある車の?…って、うちの車はバンじゃねぇか。トランクなんて無いぞ。う〜ん…ひょっ としてフェイクかな…… 「きっとあなたの創造している物とは違うわよ。部屋の中にある旅行鞄の中よ」 「…………へ?」  何それ? そのトランクって……  頭の中に四角くて、取っ手の付いた旅行カバンを思い浮かべる。  あんな物に人が入れるのか? 「薬をふいにされてかなり頭に来たから、両手両足両肘両膝両肩股間手首足首、それと手の指十本の関節全部外 して畳んで詰め込んであげたわ」 「え?」  さ…さすがに嘘でしょ、それ。あの梅さんの関節を外すって……  あたしでも正面切ってやり合って勝つのは難しいあの爺さんが全身の関節外されて折り畳まれてなんて……想 像もできない。  ………もしかして、脅されているとか…部屋から出ていったって言えとか言われて…だったら部屋の中か!? 「すみません、ちょっと部屋の中あがらせてもらいます!」  一言先生に断りを入れると、あたしは刀を握りなおして部屋の中へと乱入した。 「梅さん、どこだ! もう逃げられないからとっとと出てきやがれ!!………あれ?」  勢いよく入ってきたのはいいけれど、なんだか病院みたいな匂いのする室内には割れた窓ガラスと、テーブル の上に散らばったガラス片以外に争った形跡も無く、梅さんの姿もどこにも見えなかった。  に…逃げられたぁ!! あたしが先生と話している間に……くそぉ!!  ここまで追い詰めておきながら取り逃がしてしまったことに対する悔しさと苛立ちが胸の奥から湧きあがって くる。  ………まだだ。まだ終わっちゃいない。窓から逃げたんなら下の部屋でタク坊たちを人質に取るか、鎖を使っ て下の森の中に降りたか……絶対に逃がさねぇからな……  怒りへと変わっていく感情梅吉捜索へと向け始めたあたしは部屋から出ようとするが、振り向いた拍子に足元 に大きなカバンが置いてあるのが目に入った。  ひょっとして、さっき先生が言ってたトランクってこれか? 確かにデカいけど…… 「まっ、そんな事は無いよな――」  あるわけ無い、ありえるわけが無い、そう思いながらちょっとした出来心で大きなトランクを軽く蹴り飛ばす。 『ぐへぁ!』 「………あれ?」  な、なんだ、今のヒキガエルのような潰れた声は?  声の聞こえてきた方……足元へと目を向けると、そこにはあたしに踏まれた四角いトランク――  もしかして……まさか本当に………そんなはず…無いよな……  でもトランクを見下ろしているうちに、もしかしてと言う思いがあたしの中に募っていく……そこで、あたし は梅さんが本当に中にいるかどうかを確かめるべく、その場に膝をついて刀を横に置き、身体を屈めて耳を近づ ける。すると―― 『シクシクシク……儂が悪かったですぅぅ…もう悪い事しません……暗いよぉぉ……か弱い老人にぃぃ…救いの 手をぉぉぉ…シクシクシク………』  …………………ひょっとして……マジですか?  確かにこのトランクは大きい方だけど、いくら小柄でも大人一人を中に詰めこむなんて……でも……もし全身 の関節外されて……折り畳まれたら………う〜ん…梅さんだったら入るかも…世界奇天烈マジックショーでも通 用するな。  狭い空間で反響しながら漏れ出てきた悲しげな老人の叫びを聞きながら、あたしの中に梅さん折り畳みの図が 浮かび上がってくる……  う〜ん…梅さんだったら入るかも…世界奇天烈マジックショーでも通用するな、こりゃ。いい就職先が見つか って梅さんの老後は安心だね、はっはっは 「納得していただけたかしら? まったく…老人じゃなかったら腰と首も外して窓から外に放り捨てているとこ ろよ」 「あ……先生………」  振り返ると部屋の入り口に身体を持たれかからせながら先生が立っていた。寝不足のせいか、その目は細めら れ……そこの知れない恐ろしさが漂っていた……  ――ゴクッ  いつの間にかぱさぱさに乾いた喉に無理矢理唾液を流しこむ。 「それで……一体これは何の冗談なのかしら? 冗談じゃなければ催し物? 下がずいぶんと騒がしかったよう だけど、私に分かるようにきちんと説明してくださるかしら」  見つめられているだけで全身の産毛がちりちりと逆立ち、身体が固く緊張していく。  昨日見た時は優しく微笑んでいたけど、今は寝不足なのか、それとも梅さんが乱入して怒っているのか、少し 上の乱れた浴衣+白衣姿の美人を前にして、あたしの本能ははっきりとこう告げていた。  とにかく、気を抜けば殺られる―― 「せ…せんせい………大丈夫だったんだ……よかっ…たぁ……」  と、その時、先生の背後、廊下側の入り口に人影が現れた。あたしはなにも悪いことはしていないのに(客間 に無断で入ったけど…)異様なまでに張り詰めてしまった空気にその人影から放たれた声が響いた瞬間、あたし と、そして先生は二人同時にそちらに顔を向けた。 「! 相原君、その格好どうしたの!?」 「タク坊、お前、何でここに!? どうして部屋で待ってなかったんだ!?」 「だ…だって……松永先生の事が心配だったから……でも…もう……」  入り口の壁にすがり付き、言葉の途中で何度も大きな息を繰り返しながら苦しそうに話していたタク坊だった が、先生が無事なのを見て安心したのだろうか、自分のほうこそボロボロのくせに小さく笑いながら床に崩れ落 ちていった。 「あ、相原くん、大丈夫なの!? どうしてこんな酷い格好を……」 「ま…まぁ……話せないような事が色々ありまして……あはは……」  ……ほぉ…タク坊のヤツ、ちゃんと生きてるか……焦ったぁ………  やけにその場の雰囲気に合っていたと言うか、二人の戦いを止めるべく現れたヒロインが命尽きた――なんて いう縁起でもないストーリーが頭に浮かんだけど、急いで駆け寄った先生と会話しているのを聞いて、あたしも 胸を撫で下ろした。  と、安心したのもつかの間―― 「何をぼんやりしているの!!」 「へっ!? あ…あたしですか?」  いきなり飛んできた厳しいお言葉に慌てて立ちあがる。 「他に誰がいるって言うの! 今から診察を行うから急いでお湯とタオルを持ってきてちょうだい。あ、その前 に部屋の中にお布団を敷いて。急いで!!」 「は、はいぃぃぃ!!」  まるで学校の先生に叱られたように(相手は本当に学校の先生なんだけど…)、ビシッとその場で背筋を伸ばし て直立したあたしは、日本刀片手に急いで押し入れの襖を開けて、中から昨日使われていなかった布団を取り出 した。 「せんせぇ……下の部屋に…遼子さんが……」 「彼女も!? 分かったわ、ちゃんと診察してあげる。真琴さん、お布団を敷き終ったら駿河さんをここへ連れ てきて。相原くん、あなたはお布団に寝て破けた服を脱いで。今から診察してあげるから」 「い…いいですよ……別に怪我してるわけじゃ……」 「何を言ってるの! もし赤ちゃんが産めない身体になっていたらどうするつもりなの!? さ、早くこっちに 来て。真琴さんも何をしているの、急いでここに連れてきて!!」 「はい、分かりましたぁ!! ちょっと待ってくださいよぉ!!」  布団を敷き終わって、入り口のところで複を脱がされていくところをついつい凝視してしまっていたあたしは、 再び響いたお叱りの言葉で我に返り、駿河さんを連れに部屋から飛び出した。  ちなみに二人の横を通り過ぎる時、先生と生徒、先生と怪我人と言う構図のはずなのに何故かこっちが恥ずか しくなってしまうほど色っぽいタク坊の脱がされ方を横目で見ながら、あたしは心の中でキツく誓った。  この先生だけには決して逆らうまい……  それから数時間後、山野旅館の前には数台のパトカーと一台の救急車が止まっていた。  幸いな事に今日は宿泊しにくるお客さんがいなかったし、町からそこそこ離れているからそれほど騒ぎにはな らなかったけど、旅館の中に警官が何人も出入りするのを見るって言うのは……なんとなくやだ。だってあゆみ さんやあたしのメイド姿(隅々まで診察された後で着替えました…お嫁にいけない…)をじろじろ見るし、事情聴 取とか言っていろいろ早口でまくし立てるし……  そんなわけで某企業から数億円横領したのと婦女暴行、銃刀法違反とかいろんな罪で夏目と従業員室で気絶さ せられていた手下三人が警察に身柄を拘束された。 「ひゃ…ひゃのほんは…ほろふ…ほほひへ…げほッ!」 「お〜い、乗せたか〜? んじゃ、出発するぞ〜」  ぴーぽーぴーぽーぴーぽーぴーぽーぴーぽーぴーぽー  でも夏目に関しては骨が十数箇所骨折しているとかでそのまま病院送りだけど………ま、自業自得よね。悪い 事をしたのは自分なんだから、今回はさすがのあたしも可哀想には思わない……まぁ、あれを見た時はちょっと は思ったけど……  そしてもう一人。五人目の逮捕者を乗せた車は何故かまだ出発していなかった。 「梅さん…なんでこんな事をしたんだよ……」  最後の会話……そう意味ではないんだろうけど、いろいろとごたついていて出発が遅れている間に、骨を告ぎ 直されてから逮捕され、今はパトカーに乗せられている梅さんの元に隆幸さんとあゆみさんが二人並んで語り掛 けていた。 「ふん……何を言うておるか。ワシがおらんようになるから清々しておるくせに」  けど車に乗せられ、手錠をかけられている梅さんは心配や疑問の入り混じる複雑な顔をしている隆幸さんの顔 を見ようとはせず、ふてぶてしい笑みを浮かべて正面を見据えていた。 「な、何言ってんだよ。梅さんがいなくなったらうちの旅館はこれからどうしていけばいいのか……」 「所詮お主はその程度よ。50年近くこの旅館のために働いてきたワシを差し置いて、ただ主の息子と言うだけ でな。こんな小僧の下で余生を無駄に過ごすのかと思ったら……金と女に手を出してみたくもなるわい。残念じ ゃ、ああ残念じゃ、あと少しでその両方を全てワシの物にできたのにの」  隆幸さんは心の底から梅さんを信頼していた……それに対する仕打ちがこれなのか、わざとらしいまでに梅さ んの口から出てきた辛辣な言葉に、隆幸さんも次の言葉を出せないでいた。 「ククククク……なに狐につままれたような顔をしておるんじゃ。わしがこんな事を言うのが信じられんか?  それだけお主に人間を見る目がなかった、そう言う事じゃな。その顔は安易に他人を信頼したバチみたいな物じ ゃ。おい、まだ車は出発せんのか。いいかげん待ちくたびれたぞ」  結局一度も顔を向けないまま(なのに何故顔が見える?)、運転手の警官の計らいで開けられていた車の窓は梅 さんと、隆幸さんたち二人の間を経ち切る様に閉められていく。 「あ…あの…梅さん……」  ガラスが窓の中ほどまでゆっくりと上がってきたところで、それまでジッと黙っていたあゆみさんがいきなり 口を開いた。 「私…私面会に行くから! 隆ちゃんと私の赤ちゃんが産まれたらみんなで会いに行きますから!」 「あゆみ……」  あゆみさんが二言目を口にした時には窓は締まりきっていたから、それが梅さんに聞こえたかどうかはわから ない。ただ、遠くにいたあたしからはあゆみさんが喋り終わると梅さんが少し顔を前に傾けたように見えた。 「ふぅ……とにかくこれで終わりかぁ……」  出発していく梅さんの乗ったパトカーをジッと見つめている隆幸さんたちから視線を外したあたしはがっくり と肩を落とした。 「たくやさん、どうかしたんですか?」 「あ…いえいえ、別に何でもないんですけど……気が重いって言うか……」  あたしにひどい事をしたとはいえ、さっきの三人のやり取りを聞いて心中複雑だったあたしに、服を破かれた のであたしが家から持ってきていたシャツとズボンを着た遼子さんが心配そうに声をかけてくれた。 「そうですね……私も…これからのことを考えると………」  あ……なんかいけない事言っちゃったかな?  今回の事で一番酷い目に会った遼子さんは、もう以前の生活に戻れない、自分でそう思っているだけかもしれ ないけど、周りに目とかもあるし…… 「心配しないで。もし遼子さんさえよければ私のところにいらっしゃい。仕事先とかの相談にだったら乗って上 げられると思うから」  そう言ったのは松永先生。先生だったら何かと顔も広そうだし……代償が身体なんて言うのはやめてあげてく ださいね…あはは…… 「それよりも、二人とも今日はゆっくり休んだ方がいいわ。外傷はなくても精神的に疲れているでしょうし、眠 って今回の事は少しでも忘れた方がいいわ」 「そう…ですね。夏目たちも捕まった事だし、今日はゆっくりと――」 「あ、おねーちゃんだ♪」 「え? あ、遙くん!?」  不意に聞こえた元気いっぱいの声にあたしが顔を上げると、隆幸さんの横をダッシュで通り抜けた遙くんがあ たしの方に向かって走ってくるところだった。 「わ〜い、おねーちゃ〜〜ん♪」 「ちょ、ちょっと遙くんってば…もう……それにしても、なんだか久しぶりにあう気がするなぁ……」  身体の割りに結構ジャンプ力があって、あたしの胸に顔をうずめるように飛び込んできた遙くんを受けとめた あたしは、嬉しそうに頬擦りされる感触にくすぐったさを感じながらも、その無邪気な行動にどことなくほっと してしまって顔をほころばせてしまう。 「やぁたくやさん。昨晩はお会いする事が出来ませんでしたね」 「こんにちは。あなたと一緒にできなかったの……残念でしたわ。待ってましたのに」 「あ……こ、こんにちは…は…ははは…あははははは……」  そういえば……そんな事もあったっけ……て言うか、松永先生や遼子さんがすぐ側にいるのにそう言う事を言 いますか!?  子供がいれば当然親もいる……と言うわけで、遅れてやってきた真一さんと栄子さんに、いきなり引きつり始 めた顔でどうにかこうにか笑顔を返す。  栄子さんのあの顔………二人――というか、遙くんを入れて三人で町のどこで何をしてきたんだろう……なん て言う想像が頭によぎるけど、それはあたしの胸のうちにしまっておく。 「ねぇ、聞いて聞いて。あのね僕ねもう一日ここにいるんだよ。嬉しいでしょ?」 「そう、それはよかった………へ?」  真一さんたちが何か変な事を言わないか、そして色々と三人の行為を想像していたあたしは遙くんの言葉に安 易にうなずきを返し、少ししてからその言葉の意味を考え始めた。  えっと……もう一日いるって言う事は………あれ? 遙くんたちは今日帰るんじゃなかったっけ?  あたしがほっぺたに指を当てて不思議そうな顔をしていると、それを見た真一さんと栄子さんは小さく笑い、 遙くんが言った事の意味を分かりやすく教えてくれた。 「実はもう一泊する事にしたんですよ。いまさら仕事をもう一日休んでも代わりはありませんからね」 「そ…そうなんですか……」 「ええ、どうしてもあなたともう一度したくてね」 「あっ……」  そ…そう言う事?………じゃあ…昨日の夜の凌辱で疲れ切ってるあたしは…今晩も休まずに真一さんや遙君に エッチな事されちゃうって言う事!? 「はぁぁ…楽しみだわ……今夜は四人ね…うふふ……女同士でも楽しみましょうね♪」  え…栄子さんまで……ど、どうしよう…このままじゃあたし…… 「おねーちゃん、僕も頑張るからね♪ いっぱい、い〜〜っぱいセイエキだしてお姉ちゃんを喜ばせてあげるか ら♪」 「は…ははは……そ、そう……はは……」  もう…逃げられないのね……あたし……… 「ねぇ、相原くん……それってどう言う事かしら?」 「え………」  どうあっても遙くんたちと激しいエッチをしなくてはいけないような状況になってしまい、少し頭の値が引い てきて足元がふらついたあたしの首に……しなやかな女性の腕が絡みつく……  な…なんだか………ものすごくヤバい予感が……  夏目たちに捕まる前に感じたそれよりもさらにイヤ〜〜な感じがしたあたしは、首をギギギ…っと軋ませなが ら後ろを振り返ると、そこには松永先生の顔が触れ合いそうな距離にまで近づいていた。 「相原くんってば……私は一生懸命相原くんのために薬を作ってあげていたのに、何にもお礼をしてくれないの ? 先生、悲しいわ……」 「あ…あの…です…ね……遙くんたちとはあたしの意思とは無関係なところで勝手に約束させられちゃって、そ れにあたしも納得したわけじゃ……」 「分かってるわ……相原くんの性格はよく知ってるから……だから…私ももう一泊するわ」 「……えっ!?」 「もう指だけじゃ我慢できないの。夜に三人を相手にするって言うなら今から可愛がってあげるわ。二人だけで 濃密な時間を過ごしましょ……うふふ」  松永先生の甘い体臭に血の気が失せた頭がさらにくらくらとしてくる。でも、それは香りのせいだけじゃなく て…… 「た、たくやさん……あなた…そんなに大勢の人と…不潔です!」 「りょ、遼子さん、誤解ですってば! あたしはこの人たちとは別にそう言う関係じゃないですから!!」 「うふふ…そう言う関係って何かしら? もしかして…こう言う事する関係?」 「んんっ!! や…松永先生やめてください! 舐めちゃ…んはぁ!! こ…こんなところで…んっ!!」 「そんな事言っても……乳首がピクピクしてるわよ。あっという間におっきくなっちゃって…でも、そんなとこ ろも好きよ……さ、私の部屋に行きましょ」 「あ〜〜、ずるい! 僕もおねーちゃんと今からする! おねーちゃんは僕のなんだから!!」 「遙くん!? やだ、こんなところで擦りつけちゃ駄目だって!! くすぐったいってばぁぁ! あっ…お…大 きい……」 「……そんな小さな子供にまで……私、あなたの事を誤解していました!」 「だからその考え方が誤解なんですよぉ! あんっ、松永先生も、遙くんも…あっ…んんッ……だめぇぇぇ!!」 「こ、これは……たくやちゃん、こんなところで…結構スゴいぞ……!!」 「隆ちゃん、そんな事言ってないで助けてあげなくちゃ! あの………たくやくん…その…大丈夫?」 「だ、大丈夫じゃ…やぁぁ!! 遙くんってば…人前で…どこ…んんんっ!!」 「なんだなんだ? タク坊、今度は一体何やらかした? 遊ぶのはいいけど、助けてやったんだから夕食のし込 みを手伝えよな」 「ああ、ご主人。あの女性ももう一泊すると言われていましたが」 「ふふふ……もうこんなに濡らして…いけない子……本当に人前で…イかせてあげましょうか?」 「やだぁ、そ、そんなとこ…ふぁあっ! さ…さわっちゃ…だめ…せんせぇ…そこ…んっ、あっ…やっ、あっ… くぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」  結局………あたしがこう言う目にあう事は変わらないのね……とほほほほ……… 半年後へ


<半年後>T.手紙へ