]]]].暗心


 ガチャガチャガチャ……  容器に入ったビール瓶同士の触れ合う音が誰もいない廊下に響き渡る。  ううう…明るいんだけど……やっぱり怖いよぉ……  廊下の灯りは多少光の量を抑えて一晩中ついてるけど、昼間と違って所々に暗いところが出来てしまっている。 その小さな闇を見つけてしまうたびに、あたしの心に根拠の無い不安が沸き起こってくる……  寒いし、怖いし…あぁ〜ん、こんな仕事押しつけるなんて、梅さんひどいぃ〜〜!!  どこからか感じる視線…誰もいるはずが無いのに、誰もいないから、誰かに見られているような感じ……暗が りの向こうからあたしの事をジッと見ていて………  ――ブルッ………  身体の芯から震えが込み上げてくる。スカートの前で両手を重ねて持っている取って付きの容器の中でビール 瓶の硬い音が絶え間なく鳴りつづける……  や…やめよう……こんな事考えてたら……  そう思っても一度考えてしまった事は脳裏からすぐには消えてくれない………視線は怯えるあたしの身体に絡 みつき、腕の間に挟まれてさらに前へと突き出したブラウスの膨らみやスカートから伸びる太股に…襟から覗く 首筋…背中から滑らかなラインを描く丸いお尻に……  ……ハァ………  やだ…なんだか……変な感じがしちゃう……  寒さと恐怖で硬くなっていく身体とは逆に、吐き出される息が段々と熱くなっていく……自分で勝手に想像し て怖がっているだけで何をされてないのに…下着の中では小さな乳首が硬さを増していく……  まるで視線から少しでも逃れるように太股を擦り合わせて歩いているから、歩く速度も遅い。動くたびに揺れ るスカートを気にしすぎるせいで、軽いの布地の中で下着に包まれたお尻が小さく左右に揺れている……分かっ てはいるんだけど…布地に擦れる乳首の感触も気になって、普通に歩く事さえ出来ない……  んっ……やだなぁ……早く遼子さんの所に行って帰ろう……テレビでも見てれば気は紛れるし……  あたしは冷たい空気を肺いっぱいに吸いこんで一つ大きく息を吐くと、歯を食いしばり、まるで怒っているか のような目で前を睨んで足を動かす。  遼子さんの部屋は調理場と同じ一階にある。急いでいけば三分とかからない。  あたしは目いっぱい急いだ。急いだはずなのに…ひたひたと鳴るスリッパの音にさえ怯えてしまったせいで、 十分以上時間をかけてようやく客室の廊下にたどり着いた。  はぁ…やっとか……後は遼子さんにビールを渡して……確か遼子さんの部屋は奥の方だったよね。  廊下にはいくつか客室のドアが並んでいる。そのうちの隣り合った二つにお客さんが宿泊している。遼子さん と、あのイヤらしい男たち……別々の部屋に宿泊しているけど……  私たちの部屋に近づかないでもらえますか? 「……あれ?」  足を一歩踏み出した時、遼子さんの声が聞こえたような気がして、その場に立ち止まる。  回りを見まわしても、誰もいない。扉から遼子さんが顔を出しているわけでもないし……  さっきのって……そうそう、あの時の……  今日は一日いろんなことがありすぎていたせいで忘れていたけど、夕食前に遼子さんにそんな事を言われてた んだっけ。  でも、近づくなって言われたってその遼子さんに呼ばれたわけだし……それに…怖いし……  立ち止まっていると、廊下を真っ直ぐ通りぬけてきた風が冷たい手で首筋や肌の露出したところを撫でながら 通りすぎていく……  や、やっぱり、早くビールを渡して帰ろう……  近づくなと言われた言葉が気になるので、客室のドアとは反対側の壁に背中を貼りつけ、横歩きでズリズリと 夏目さんたちの部屋の前を通りすぎ、遼子さんの部屋の前にたどり着く。  コンコン 「遼子さん、たくやです。ビール持って来たんですけど……」  夜と言う事もあり、なんとなくノックも、呼び掛ける声も小さめ……これで聞こえてくれるといいんだけど……  コンコン 「あの……遼子さん?」  コンコン、コンコン  返事が無いので少しだけ力を入れてノックを繰り返すけど、扉の向こうで人が動く気配が無い。  どうしたんだろ? あたしがくる事は分かってるはずなのに…遼子さんもトイレかなぁ……まさか、部屋の中 で倒れちゃった、なんてことは……あはは……  カチャ  あれ? ドアに鍵が掛かってない。  ドアノブを捻ると抵抗も無く回り、目の前の扉は小さく軋みながら開き、頭が入るぐらいの隙間が出来た。  隙間に顔を寄せて覗いてみるけど、襖の隙間からも光は漏れておらず、廊下の灯りも襖に届かないので、遼子 さんが部屋にいるかどうかは確認出来なかった。  やっぱりいないのかな……だったら部屋の中にビールを置いておけばいいか。 「……遼子さん、入りますよ〜…失礼しま〜す……」  たぶん誰もいないだろうけど、一応断りをいれてから扉を身体の幅に開き、暗い室内に身を滑りこませる。  ひえぇぇぇ…真っ暗……ひょっとして、部屋を間違えちゃったのかな?  そこには…濃密な闇があった。  見ているだけで押し戻されそうな密度を持ったそれはあたしの身体に絡みつき……  呼吸や身体の自由を徐々に奪っていく……  それでもあたしは遼子さんへの心配からか、仕事としての忠実な態度なのか、とりあえず部屋の中を覗いてみ ようと思ってスリッパを脱ぎ、室内の短い廊下に脚を乗せる。  ギシッ…… 「ひっ!」  突然響いた物音にあたしは息を呑んだ。  …あ、足音か…ビックリしたぁ……  扉と襖を繋ぐだけで短く、狭い廊下なだけに、外よりも一段と音が反響する。  あたしは驚いてしまった事でさらに増した闇への恐怖感と、あたしの視界を埋め尽くす四方の壁からの圧迫感 に、手に持つビール瓶の入った容器の取ってもギュッと握り締める。  ……ゴクッ  唾を飲みこみ、ゆっくりと歩を進める。  ギシッ……ギシッ……ギシッ……  暗闇を掻き分けて五歩歩き、襖の前に到着する。  手を少し上げて触れる事が出来る距離。  なのに中からの音は全然聞こえない。  無音…それが不安を掻き立てる……  そういえば遼子さんの部屋には入った事無いけど……  トントン 「遼子さん…遼子さん、いないんですか?」  トントン 「………………」  震える手で襖の表面をノックしても返事は無い。  動く気配も無い。  息を止めて耳を清ましても、なんの音も聞こえない。  ………ゴクッ  季節は夏と秋の境目だけれど、気温はそれほど高いわけじゃない。それどころか山に囲まれた旅館内の空気は とても涼しい。  それなのに、あたしを押しつぶそうと襲ってくる恐怖心で喉はカラカラに乾き、唾も湧かないのに喉だけは動 く……  呼吸はしているはずなのに胸が苦しく、息を吐き出す唇が細かく震える……吸いこむ息と一緒に震えは全身に 広がり、手に持つビール瓶がカタカタ音を鳴らし続けている……  勇気を出して、襖の取っ手に右手をかける。  あと少しだけ力を入れれば、あたしの目の前に遼子さんの部屋の光景が映る…筈……  て…手が…動かない……  手をかけたまま、何度深呼吸をしても指先の震えは止まらない。  どんなに力を入れようとしても、その力が上手く伝わらず、襖は開くことも無く、ただ、金具に時折爪が当た って、調子の外れた硬い音を奏でるだけだった……  も…もう…あたし……ダメ……  ついに恐怖心が限界にまで達したあたしは弾かれたように一歩下がると、足元にビール瓶の容器を落とすよう に置いた。 「遼子さん、ビールここに置いていきますね。じゃ!」  慌てて振り返り、扉の向こうに見える明るい世界へ帰ろうと――  ガタッ 「ひっ!?」  突然聞こえた音に足は止まり、背筋が一気に伸びあがる!  な…なに……今の音……後ろから聞こえてきた…… 「りょ…遼子…さん…?」  再び呼び掛けてみるけど、身体の方は動かない……固まったまま振り返る事もできず、息もできない。  遼子さんじゃ…ない…の?  ピンッと伸びた背筋に沿って冷たい汗が流れ落ちる。  はっ…あぁ……  一雫の汗が伝うにつれ、胸の鼓動が速くなる。  胸が震え…身体が震え…今すぐにここを逃げ出したいのに、ロングソックスに包まれた足は凍りついたように 動かない……  いったい…なにが………  ガタッ 「いっ!!」  いる…なにかいるぅ!!  空気の流れでなにかが動いた。さっきの音とあわせて考えれば襖が少しだけ開いた。さっきまでなんの反応も 見せなかった襖が……  隙間から感じるもの…あたしの背中を見つめる視線……  暗い…暗いその感覚には覚えがある。  布団部屋での…あの時の…………!! 「ぃ…っ…きゃ、きゃああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」  ガラッ!  あたしの喉から出せる限りの大きな悲鳴が迸ると同時に、襖が開き、中に潜んでいた物が襲いかかってくる! 「むぐぅ!!」  伸びてきた何かが逃げようとするあたしの口を塞ぎ、腕を掴み、身体を捕まえる。 「おい、早くドアを閉めて来い!」  あたしの横を何かが――違う、誰か、人が通りすぎ、闇の中に灯りを投げ掛けていた入り口の扉を閉めて鍵を かけてしまった。 「むぐぅ! むぅうううううううう!!」  叫ぶために開いていた口の中に布の塊を詰めこまれ、もがく間もなく後ろに引っ張られて身体が軽く宙に浮く。 「ふぐぅ!!」  床に倒れたあたしのお尻には畳みじゃなくて、布団の感触。少しだけ柔らかいとは言っても、勢いよくぶつけ た痛みに息だけが漏れ出る。 「おいっ、しっかり押さえとけよ」  突然の出来事にパニックになっていた頭が痛みで我に帰る。  でも既に逃げ出すには遅すぎ、布団の上にうつ伏せにされたあたしは頭を鷲掴みしてきた大きな手に抑えられ、 床に投げ出した両手首を掴まれると頭の上で紐のようなものでぐるぐると縛られてしまった。 「むぐぅ、むぐむぐぅぅぅ!!」 「邪魔だ、足も押さえろ!」 「分かってるよ!」  真っ暗で目が見えない分、音に鋭くなった耳には何人かの男の声が聞き取れる。  まさか…この前のレイプ犯!? やだ、話してよ、離してぇぇぇ〜〜〜〜〜!! 「んぐぅぅぅ〜〜〜〜!!!」  懸命に抵抗しても、あたしの力では上から圧し掛かってくる男の体重を押しのける事は出来ず、身体を下に向 けているから足で蹴る事も出来ずに、ぱりぱりのシーツの上で身をくねらせる事しか出来なかった。 「暴れんなよ。どうせもう逃げられないんだからよ」  あたしを押さえる男とは別の男の手が、暗闇の中で太股を触ってきた。両手で太股を乱暴に掴んだかと思うと、 そのまま上に移動して下着の上からさっき打ちつけた痛みの残る大きなお尻を鷲掴みにしてきた!  や…いやぁ、ダメ、いやあああ!!  必死に叫んだ声も、口に詰められた布のせいで呻き声にしかならない。力強い手に押さえつけられたあたしは、 為すがままにお尻の膨らみを乱暴に揉み回される! 「やっぱりな。思ってたとおり、デカくて柔らかいぜ。いつもこんな立派なのをフリフリさせて歩きやがってよ。 見るたびにムラムラさせてもらったからな、へへ……」 「おい、なに一人だけでなにやってんだよ!」 「いいじゃねぇか。あぁ、この触り心地たまんねぇ。これだけでチ○ポがギンギンになっちまった」  い…いやぁ…触らないで…やめてぇ……  無駄な抵抗を続けて力を使い果たしたあたしの目から涙がポロポロと零れ落ちる。 「お前だけにいい思いさせるかよ。おら、こっち向け!」 「んむぅ!?」  頭を掴んでいた手が急に離れると、震える肩を掴んであたしの身体をひっくり返す。それでお尻を触っていた 手から逃れる事はできたけれど、今度はブラウスの胸元に手をかけられ、力任せに左右に引っ張られる。 「んんんっ!!」  ブラウスを止めるボタンが一気に弾け飛び、暗闇の中で大きな乳肉を覆うブラジャーが露わになる。でも、男 の力はそれだけでは収まらず、スカートの中から引き出されたブラウスは完全に左右に広げられ、、襟を通って いた赤いリボンも音を立てて引き千切られ、喉元を飾るブローチも何処かに飛んでいってしまった。  そんな…あたし…このままこの人たちに…… 「へへ、それじゃ――」 「待てよ、お前らばっかり楽しんでんじゃねぇよ。俺の方が先に手をつけたんだぜ!」  大きな手がブラに支えられて上を向いている胸の膨らみに触れた瞬間、別の手がそれを払いのけて乳房を掴ん できた! 「んんっ!!」  痛っ! や、やだ、誰か助けて!! こんなのいやぁ〜〜〜〜〜!!  力の加減も遠慮もなく、下着の上から胸を掴んだ手は別の手に奪われまいとするかのように、中身がたっぷり と詰まった乳房にキツく指をつきたて、激しく揉みたてる!  なんで…なんであたしがこんな目に!!  上を向いた瞳から涙が顔を真横に流れ落ちていく。  胸に食いこむ痛み、なんの抵抗もできない悔しさ、こんな奴らに肌を触られるおぞましさ…そして、これから 自分の身に起こるであろう事への恐怖……  暗闇の中…口を塞がれ、手を縛られ……二日前の布団部屋での出来事とあまりにも似ている状況が、思い出し たくもない記憶を呼び起こしてしまう…… 「おい、何しやがる! こいつはお前だけのもんじゃないだろ!!」 「うるせぇ! 先に始めたのはお前らだろうが!」 「とにかくどけよ。まずは俺が楽しむんだからよ! お前も手をあげとけ!!」 「んグッ!!」  別の男が縛られたあたしの両手を頭の上に押さえつけ、触られていなかったもう片方の胸を揉み始めた。最初 に揉み始めた男よりも大きな手が五本の指を開いて乳首を中心に握り締め、それでも収まりきらない弾力のある 柔肉の形をメチャクチャに変えていく。  痛いっ! やめて、話してよぉ!! こんなのイヤァ…イヤァぁぁ〜〜〜!!!  いつもなら敏感に感じてしまうところをこれだけ乱暴にされると、身体を貫く痛みも半端じゃない。苛烈過ぎ る男たちの手の動きにブラの紐はすぐに切れ、あらわになった乳房をさらに責めたてられて、胸が根元から千切 れてしまうと思ってしまうほど痛みの電撃が身体中を駆け巡る!! 「ふグゥ! んんっ、んむっ、んぐうぅぅぅ!! んん、ふぐぅ、んんんん〜〜〜〜〜!!」  絶え間なく突き刺さる痛みから少しでも逃れようと首を振り、身体を跳ねさせるけど、上に乗る男二人の身体 を押しのける事はできない。ただ口の中の布を噛み締め、顔を歪ませるしか…… 「じゃあ、俺はこっちから頂くか」  胸を二人の男が取り合っているうちに三人目の男があたしの膝を抱え、両足の中に身体を割り込ませてきた。 そして…下着越しに硬いモノを押しつけて……  やだっ、本当にあたし…こんな奴らに…そんなの絶対いやぁ〜〜!!  下着に手が掛かるよりも早く腰を振り、何とか最後の一線だけは死守しようとするけれど、上半身に男二人の 体重が圧し掛かられて身体を大きく動かす事もできないし、下半身にも内太股の間にまで入られてしまっている からどんなにもがいても追い出す事もできず…スカートをめくりあげられ、ブラに続いて露わになったパンティ ーの左右の腰紐に…手が触れる……  や、やめてぇ〜〜!! 離して、こんなのイヤなんだから、やだぁぁぁ!! 「おら、なに先にヤろうとしてんだよ! 最初は俺だって決まってんだぜ!!」 「誰がお前のザー○ンにまみれたマ○コの後にヤるかってんだ!」 「とにかくどけ! 殺されたいか!!」  腰骨に男の手が触れた瞬間、喉を込み上がってくるおぞましさに目を閉じて我慢していると、運がいいのか… 一人で先にあたしの中に挿入しようとしていた男の行動を見咎めた二人の男が掴みかかり、やがて口論を始めだ した。  た…助かった…の?………そうだ、今のうちに!  い様に興奮しだした三人はあたしの事を置いておいて布団の上に立ちあがって、さらに口調をキツくして互い に相手を罵り合う。  ひょっとして、神様はあたしを見捨てていないんじゃないのかも…そう思えるほど、大ピンチにナイスなタイ ミングで起こったこのチャンスのうちに、身を捻って両肘を突いて身体を起こすと、足に力を入れて―― 「お前たち、いいかげんにしろ!」  ――四人目……まだ…いたの…!?  その声はあたしから少し離れたところ――ここは客室だから、たぶん窓の側辺りから聞こえてきた。そこには 外の風景をのんびり楽しむために小さなテーブルと一人用のソファーが二つ置いてある。  あたしが目を向けると、窓からの星明りでできた人型の影がそこに座っていた。  そして、その男が鋭く叫ぶと、今まさに殴り合いを始めようとしていた三人はぴたりと口を閉じてしまった。 「んっ!」  もうちょっと喧嘩していてくれれば!  三人が大人しくなったからって、あたしもこのまま犯される気は毛頭ない。暗闇の中で腰を上げ、足の指でシ ーツを踏みしめると、身を低くしたまま男たちの足元をすり抜けようと動き出した!  手を伸ばせば、すぐそこは襖。外に出て従業員室にいけば! 「ちっ! 逃がすかっ!!」 「んぐぅ!!」  けど…運動音痴なのだけは自慢できる(自慢する事じゃないけど…)あたしは、襖に手を振れた所で男の一人に 気付かれ、すぐに取り押さえられてしまった!  離してよ! 離してぇぇぇ!!! 「むぐぐぐ、むぐぅぅぅ〜〜!!!」 「このアマ、いいかげん大人しくしやがれ!!」  引きずられて逃げ道から離されていく間も必死に足をばたつかせて抵抗するあたしに、さっきまでの言い合い で溜まった怒りが再び湧きあがってきたのか、捕まえた男が大きな声を出す。  ! ぶたれる!!  いじめられっ娘の経験から、声の調子で男が手を振り上げたのに気付いたあたしは、布を噛み締めて首をすくめる!! 「乱暴はやめてください!!」  …………えっ?……こ、この声って……  この部屋の中にはあたし以外に四人の男がいると思っていた。そして五人目……その声は…思いも寄らなかっ た女性の声で…聞き覚えのある声だった……  そういえば…男たちの声も…… 「せっかくの新しい女なんだ。楽しむ前に傷物にすることもないだろ?」 「………ちっ!」  男があたしの側から離れ、代わりに、三人が獲物を取り囲むようにあたしの周りに集まる。  こいつらの声って…やっぱり!!  パチン 「んっ……」  男の一人が部屋の灯りをつけた。  暗闇になれていたあたしの目には突然の白い光はまぶしすぎ、反射的に両目を閉じる。  …誰も何も言わない時間が過ぎ…その間にあたしの目も光に慣れていく……最初に目に映ったのは……  やっぱり…あの三人!!  あたしを取り囲んでいるのは、トイレの前であたしに無理やりいたずらしようとした一階の宿泊客三人。  そして……あたしが押し倒された部屋の隣……その向こう側のベランダに座っていたのは…… 「ようこそ、相原たくや。待ってたよ」  この三人の上司、夏目の眼鏡をかけた笑み……そして…… 「………………」  綺麗な肌をした女性…彼の足元に全裸でひざまずく髪の長い女性…… 「遼子…さん……」 「たくやさん……ごめんなさい……」  その一言が…顔を俯かせ、こちらをを向かずに遼子さんが口にした一言が…今にも泣き出しそうに揺れる声が ……あたしの胸に鋭く、チクリと突き刺さった……


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