]]]U.包囲


 ジャアァァァァ〜〜〜…キュッ 「はぁ…………もう、どうしよう……」  水を勢いよく出し続けていた蛇口を閉めた状態であたしは動きを止め、大きなため息をついた。それまで  絶え間なく水の弾ける音が響いていただけに、急のそれがなくなると、寂しさを感じるほどに静かに  思えてくる。  スカート……着替えなくちゃダメよね……  一階のトイレに慌てて駆け込んだまではよかったけど、そこでオシッコでびしょ濡れになったスカートを  綺麗にできる訳もなく、洗面所にはとりあえず水で洗ったスカートとロングソックスがクシャクシャに  なって丸められている。誰もいないっていっても、さすがにパンティまでは脱げず、股間を唯一隠して  くれている上品なクリーム色があたししかいないトイレの中に晒されている。  下半身を晒したまま従業員用の離れにあるシャワー室まで走って行くわけにもいかないので、濡れた下着  や内太股とかの肌は水で湿らせたトイレットペーパーで綺麗に拭いてある。下着のシルクにも負けない  ぐらいにすべすべな触り心地の肌の表面をうっすらと覆う水の幕が蒸発して行くたびに、身体がすぅ〜っ  とする寒さでゾクッと震えてしまう。 「このままじゃ風邪引いちゃうな……でも…ほんとどうしよう……」  まぁ、一応幸いな事と言えば、水の冷たさと下半身から込み上げてくる寒さで身体の火照りが収まった事だ。  で、それとは反対に不幸な事と言えば、そろそろ二十分経っちゃった事である。  特に問題がない限り、この旅館では夕食は宿泊客と従業員の全員が顔を合わせてから食べ始める事になって  いる。今日は一昨日と同様に隆幸さんが体調不良(あたしとあゆみさんのせい…)で欠席するだろうけど、  あたしまでいなかったら梅さんに後でどれだけ怒られる事やら……ただでさえ今日は不機嫌っぽいのに……  あたしは悪い事なんてしてないのに……ちゃんと仕事してるのに〜〜!! なんでいつも不幸の方からやって  きて、面倒ごとに巻き込まれるのよ〜〜!!  などと誰にも聞こえないように泣き事言っても仕方がない。とりあえずこの状況を何とかしないと……  慌てていたとは言っても一階のトイレに駆け込んだのはよかった。二階から離れのあたしの部屋に着替えへ  戻るよりはちょっとだけマシだし、少なくとも階段分ぐらい。後の問題は廊下で誰かに会わないかということ  だけかな……  あたしはもう一度大きなため息を肺の奥から吐き出すと、洗面所の中からスカートを拾い上げて、ぎゅぅぅ〜  〜っとか弱い力で搾って、水の冷たさを我慢しながら泣く泣く足を通した。  昼間はまだまだ暑いとは言っても、日も暮れると気温はずいぶんと下がってくる。ひんやりと冷えるトイレの  空気の中で濡れたスカートの布地が太股やお尻に貼りつく感触が背筋をぞぞぞ〜〜っと上ってくるのは、もう、  なんとも言えない……お腹が冷えてオシッコがしたくなってきちゃう……  とにかく、なるべく冷たい布地が肌に当たらないようにブラウスもウエストに詰め込んで、外見上はなんとか  なったあたしは女子トイレの入り口から頭だけ出し、左右をしっかりと確認する。  よし、誰もいない。ここから急いでいけば五分ぐらいで戻って来れるはず。そのぐらいなら――  見られてはいないとは言え、下半身が湿った状態で外に出るのはなんとなく気恥ずかしい。あたしは一歩目  だけそっと出すと、そのまま小走りで―― 「まったく、お前は用をたすのが長いんだよ。暇なうちに行っとけっての」 「いいじゃねえか。今日はヤってないから溜まってるんだよ」 「じゃあトイレでオナってたのか? 勘弁してくれよ」  ―――なんで女子トイレの隣は男子用トイレなのよぉ〜〜!! おまけになんでこんなに大勢出てくるか〜〜!! 「おっ? これはこれは、メイドさんじゃありませんか。もしかしておトイレですか〜?」  うっ……向こうも気付いた……や、ヤバい……  二歩目を踏み出したところでぞろぞろとトイレから出てきた一階男性客三人組が出てきた。それを見た瞬間、  あたしは足を止めてトイレの中に戻ろうとしたけど、それよりも早くその中の一人があたしに気付いて声を  かけてきた。 「なんだぁ? メイドもやっぱりトイレに来るのか? 俺はてっきり……おっ?」 「なんだなんだ〜〜、こいつ……へへへ……色っぽい足してるね〜〜」  この人達に会うたびに、ねっとりと嘗め回すかのようにイヤらしい視線を身体中に這いまわされるので、当然  すぐにあたしのスカートが濡れている事、そして太股にソックスを履かず素足になっていることに気付かれた。  そして三人の粘着質な視線があたしの下半身に集中する。 「やっ、見ないで!!」  顔ごと下に向けてじっくりとあたしの股間の辺りを見て回る視線に恥ずかしさが込み上げてきたあたしは、  手に丸めて持っていたエプロンやソックスを床に落とし、濡れて下腹や太股に貼りついているスカートを  三人に見られないようにと両手で押さえた。 「そんなに隠さなくてもいいじゃないか。どうしたんだい? そんなにスカートを濡らしちゃってさぁ……」 「スカートだけじゃないだろ? こいつ、下半身全部濡らしたんだぜ。きっとお漏らしでもしたんじゃない  のか?」 「違いない。かわいいメイドさんはトイレに行く時間もお仕事して、立ったままオシッコもしちゃうって訳だ。  いや〜〜、仕事熱心だねぇ。俺たちに前でも是非やって欲しいね」 「やっ……ち、近寄らないでよ……」  男達は口元に誰が見ても分かるほどイヤらしく、げひた笑みを浮かべながらあたしを取り囲むように近づいて  くる。とっさにトイレに飛び込もうとしたけれど、もしあたしが勢いよく動けばこいつらも襲いかかって来そう  で身がすくんでしまった……  あたしが下がった分だけ三人は前に進んでくる。逃げ道だった女性用トイレの入り口前には男の一人が立って  いる。そして、あたしの下がっている方向――こっちはトイレがあまり人目に付かないようにと細い袋小路に  なっていて、自販機などが置いてある行き止まり……つまりあたしが逃げるには目の前の三人を倒すか、すり  抜けるかしなければならないわけだけど……無理…よね……  ひとり小柄な男が混じってはいるけど、狭い通路は大人二人が並んで通るのがキツいぐらい。それに自慢じゃ  ないけど、あたしは喧嘩には勝った事が一度も無いんだから。  とん  あ…も、もう壁なの!?  出来るだけ時間を稼げば誰かきてくれるかもしれない……そう思ってなるべく喋らず、男達を刺激しないよう  にゆっくりと下がっていたけど、背中に感じた軽い衝撃がそれが限界である事をあたしに告げていた。 「もう逃げないのか? 俺たちは別にいいんだぜ、逃げてくれてもよ」 「どうする、ヤっちまうか? ちょうど誰も来そうにない良い場所が近くにあるしよ」 「飯なんかよりもこっちだよな。今まで散々お預け食ってきたんだ。タップリと楽しませてもらおうぜ」 「それよりもさ、晩飯の間こいつを何処かに閉じ込めておいて後でゆっくりってのはどうだ?」 「やなこった。お前は一度味わってるかもしれないけどな、俺だって早くこいつを食いたいんだよ」  じわじわと近づいてくる恐怖。手を伸ばせば触れそうなところにまでやってきたソレに対してあたしは身を  抱き、スカートを押さえ、ただそれだけしかできずに震えている事しかできないでいた……  どうしよう……そうだ、大声を出せばきっと誰かが! 「だれ――むぐぅ!?」 「おっと。あんまり女の子が大きな声を出しちゃダメだぜ」  あたしが口を開いた瞬間、男の手で何かがその中に押しこまれた。どうやらなにかの布切れ――それで湿って  いると言えば……あたしが床に落としたロングソックスの片方だった。 「むぐぅ、ぐぅぅ!!」 「しかしデカい胸だな。まだガキだって聞いてたけど、たまらねえな」 「んむぅぅ!!」  あたしの顔が痛みで歪む。  口を押さえ、頭を壁に押し付けてくる男の空いている手が、無遠慮にブラウスに包まれた胸を鷲掴みにする。  揉むと言うより握ると言う感じで、まだ張りの感触が残っている乳房の膨らみをブラウスごと乱暴に弄ぶ。 「お前が上なら俺は下だな。さっそくご拝見〜〜」  そして、他の男が肌に張り付くスカートの端に手をかける。  いやっ!! さわらないで、さわらないでぇ〜〜!! 「んんっ、んんん〜〜〜!!」  なんとかこの状況から逃げ出そうと、顔を押さえこむ男の手に両手をかけて引き剥がそうとするけど、あたし  の細腕じゃビクともせず、逆に胸に指が食い込む痛みと、嫌悪の対象でしかないような男にスカートをめくられ、  アソコに顔を近づけられることに対する屈辱と羞恥で、ギュッとつぶった目元から涙が零れ落ち始める。 「へぇ、パンツまでびっしょり濡れてやがるぜ。案外、他の男に犯された後なんじゃねえか? あのさえない  ご主人様とかよ、ひっひっひ」  み…見られてる……こんな…やっ…イヤァ!!  あたしの羞恥心を煽るかのようにゆっくりとスカートを捲り上げ、鼻先が触れ、息が太股に掛かるまで近づいて  きた男が、あまりにも無茶苦茶な事を言う。  まぁ…半分ほど当たってるけど…… 「なんだよ、処女じゃないとは聞いてたけど、ヤりマンか!? じゃあ、いきなりヤっちまっても大丈夫だな、  どうせ胸を揉まれて感じてるんだからよ」  そう言うと男の手があたしの胸から離れ、ようやく一息つける。しかしそんな暇も無く、男が浴衣の股間の  ところから出した勃起済みの男根を無理やり握りこまされる! 「んん〜〜〜〜!! んんんっ、んぐぅ!!」 「そんなに暴れるなよ、すぐにこいつで気持ちよくしてやるからよ。タップリ中に出してやるからな、へへへ……」  男は興奮した様子で、男根を握らされたあたしの手の上から自分の手を重ねて、あたしの意思を無視して無理  やり前後に擦り始めた。  こんなの、こんなの握らせないで!! 気持ち悪い!!  自分のものとか、隆幸さんや遙くんのも握った事はあるけど、これほど気持ち悪いと思った事は無かった。  あたしの小指がカリの辺りを通過する時、男は気持ちよさそうな顔をするけど、あたしはおぞましさに吐き  気さえ感じてしまう。 「にしても上等な下着だな。ま、すぐにザー○ンだらけになるけどな、ひひひ」  湿った太股の表面に男の鼻息が掛かる。その生暖かさに身体中に鳥肌が立つような感触が走り抜ける。  そして……パンティの腰紐に男の指が掛かる。  や…やめて……それだけは…それだけはイヤァ〜〜!!  最後の抵抗にあたしは腰をよじらせ、なんとか男の指から逃れようとしたけど、下着に引っかかった指は外れず、  それどころか少し脱げはじめてしまう。 「そんなに焦るなって。今すぐマ○コを出してやるからな……」 「早くしろよ。こいつの指、握られてるだけで気持ちいいから、イっちまいそうだ」 「馬鹿、それは早過ぎだろうが。イっちまったら俺が先に頂くからな」  やめて!! 触らないで!! いや…いやあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!  あたしの祈りは男達には聞こえず――聞こえていたとしてもやめるわけも無いが――虚しい心の叫びとは逆に  腰に触れる手の感触が脚の付け根を通って、徐々に下へと降りて―― 「ぎゃああぁぁぁぁ〜〜〜!! 痛ぇ、いてぇよぉ〜〜〜!!!」  な…何、今の声!?  突然響いた叫び声に男達の下着を下ろす手が、自分の男根を擦らせる手が動きを止めた。  た…助かったの? でも、今の声…… 「てめぇ、何しやがる!!」 「何をしてるかと言えば、あなたたちの方こそどうなの?」  こ、これってまさか!?  あたしは目を開き、逃げ道の方から聞こえてきた声の主を視界に収めた。  ま…松永先生!!  そう、そこには男達同様、モデルのようなナイスボディーを浴衣に包んだ松永先生が、見張りに立っていた  男の腕をねじ上げていた。 「よりにもよって、また相原くんを泣かせるなんて……当然…覚悟はできてるんでしょうね?」


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