終わり


「う〜〜んう〜〜んう〜〜〜ん」 「まったく…どうしてあんたはこんなに流されやすいのかなぁ……このバカたくや」 「う〜〜う〜〜う〜〜〜う〜〜〜〜〜」 不機嫌そうな明日香の声が耳に痛い。 あの後、お風呂場で気を失ったあたしは明日香の手で助けられたらしい。 気がつくと新しいパジャマを着て、シーツを替えられたお布団で眠っていた。当然ながら、裸であんな事やこんな事を されまくったんだから風邪は悪化。頭が痛くてフラフラするので布団から起き上がる事さえ出来ない。 なんと言っても、お尻にいつまでも何か入ってる感じがして、少し痛い。 初めてじゃないけどこの違和感は嫌だなぁ…広がったまま戻らなかったらどうしよう……弘二の奴…今度会ったら 覚えてなさいよ……明日香と二人で苛めてやるんだから…… 明日香は明日香で鍵を無くした(盗まれた)事に気がつき、探したけど見つからなかったので、自分の家においてある 合鍵(何時の間に)で入ってきた。で、現場に踏み込み、性犯罪者の後頭部に一撃くらわせたらしい。かわいそうに…… しかも……あたしが目を醒ますと…… 「たくや…これはなに?」 天使のような優しい笑顔で明日香があたしに突きつけたのは、部屋に放り出されていた写真集二冊、ビショビショに 濡れたシーツ、何故か脱衣所に置いてあった透け透けのネグリジェ、日本酒「美少年」、トドメに花梨。 結局全部ばらしちゃった。明日香のアレは恐いんだ……恐いんだよぅ……あぁ…あたしの写真集…… 「う〜〜う〜〜う〜〜」 「いいわね。今度からちゃんと誰か確認してからドアを開けるのよ」 「う〜ん……わ…分かりました……」 弘二の場合は鍵を盗まれた明日香が悪いような気がするんだけど……言う気力も無いし、そんな根性も無い…… 「さて、それじゃあ食事にしましょうか。たくや、起きれそう?」 「……無理そう」 「ちょっとの間これで我慢してくれる?さぁ」 明日香があたしの背中に手を回してゆっくりと上半身を起こしてくれる。そしてクッションを何枚かあたしの背中の 後ろにおいて、即席の座椅子を作る。 そして横においてあったお盆を取ると、冷ましてあるお粥をレンゲで掬ってあたしの口に運んでくれる。 「ほら、口開けて」 そっけなくあたしの顔の前にレンゲが差し出される。熱くは無さそうだけどかすかに湯気が立っていておいしそう…… 「うん…ア〜ン……もぐもぐもぐ……」 「……どう?」 すこし緊張した感じで明日香が感想を聞いてくる。 「もぐもぐ…ごくん………おいしい……」 「ほんと?」 「うん…カボチャとサツマイモの甘味がとってもおいしい……食べやすいようにすりつぶしてあるし……」 「……よかった」 そこでようやく明日香の顔が緩む。さっきまでは怒ったり、心配したり、緊張したりでこんな顔してくれなかったから…… 今ならいけるかな? 「ねぇ明日香……お願いがあるんだけど……」 「ん?なに、たくや?」 「口移しで食べさせて」 「なっ!」 明日香は急に顔を赤くしてあたしから距離を取る。 「なにを!そ…そんなの……」 あ…やっぱりダメ?まぁ、言ってみただけだし……明日香にこんなに素直に甘えられるのってそんなに無いのになぁ…… ちょっと残念。 「こ…今回…だけだからね」 不意に明日香が恥ずかしそうな声で喋る。 「ふぇ?なにが?」 「く…口移し……もう二度とはしないからね……」 「え?あ……明日香…さん?」 「それじゃあ…いくよ……」 う…嘘……明日香ってばあたしをからかって…… そんなあたしの想いとは裏腹に、明日香はレンゲで自分の口にお粥を運ぶと、口に含んだままあたしに近づいてきた。 「あ…明日香……」 「んん……」 口をつぐんだ明日香の顔が、ゆっくりとあたしの顔に、近づいて…… 「あ……」 「ん……」 二人とも自然と目を閉じて、少し開いたあたしの唇明日香の閉じた唇がゆっくりと触れあ…… ピンポーン♪ 「な!」 「んグ!…コフ!…ケホケホ……な…なによ!?」 後ほんの数ミリで触れ合うというところで、無遠慮に家のチャイムが鳴らされた。その音に驚いて明日香が口に含んだ お粥を飲み込み、咳き込んでいる。 「全く…こんな時間に誰よ!」 明日香が顔を赤らめて立ちあがった。 「あ……」 お粥を飲み込んでしまったらしい。せっかくいい雰囲気だったのに……シクシク…… ピンポーン♪ 「た…たくや、それじゃあちょっと見てくるから」 「う…うん。気をつけて……」 「その…あの…続きはまた……」 ピンポーン♪ ……最近、結構粘るわね。 「あぁぁ〜〜!もう!一体誰なのよ!」 「せんぱ〜い、風邪なんて天才科学者である私の作ったこの「スーパーヒーリング・エグザミネーション鉄甲型64式改」 にかかれば一発で直ります!万事このかわいい後輩にお任せください!」 「相原く〜ん、さっきはごめ〜ん、お詫びに先生連れてきたわよ〜〜」 「相原く〜〜ん、お薬持ってきたわよ〜〜♪私が身体の隅々まで診察してあげる♪今夜一晩かけてゆ〜っくり感じさせて ……じゃなくて、看病してあげるわよ〜〜♪」 「離せ〜〜!俺にはたくやちゃんの写真を取るという使命があるのだ〜〜!たくやちゃんの寝姿!汗で張りついた ネグリジェ!熱で苦しげに喘ぐ表情!おかゆをあ〜〜んする食事シーン!鼻歌歌うシャワーシーン!」 「いいかげんあきらめなさい!明日香に頼まれた以上、絶対そんな事させないんだから!とっとと帰りなさい、 この覗き魔!変態!」 「おねーさま〜〜!舞子やっぱりやっぱりとっても心配なんです〜〜〜!今度は色んな物もって来ましたから ぜ〜〜ったい風邪なんか治っちゃいますよ〜〜」 ――玄関からよく知っている人達の声が聞こえてくる……近所迷惑な……あんなのと会いたくないよう…… 「……うう…頭が痛い…熱出てきた……もう寝るぅ……明日香、後の事よろしく」 パフッ あたしはベッドにもぐりこむと頭の先まで覆い隠した。 「あ…こら、たくや!あたし一人にあんなのを押し付ける気?布団に潜り込んでないで起きなさい!お願いだから起きてぇ!」 「グ〜〜グ〜〜」 「こら〜〜!寝真似したってダメよ!起きろたくや!起きてってば〜〜!」 ちなみにその頃、近くのゴミ捨て場 「相原せんぱ〜い…片桐せんぱ〜い…もうしませ〜ん…ごめんなさ〜い…ハクション!…うぅ…助けて……寒いよう… 冷たいよう…死んじゃうよう……せんぱ〜〜い……」 白い雪の舞う中に、そこにはゴミ袋に詰められた馬鹿な男が一人捨てられていた。


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