第23話


 オジサンが白衣を脱ぐとびっしりと生えた体毛だらけの胸板があらわになった。顔だけ見ると結構な年齢に思えていたが、裸になると瞳のオジサンよりもむしろ若く見える・・・すくなくとも、精力は衰えていないのは一目瞭然だった。
 「オーケェイ!ユーレディ?」
 声まで若々しくなったかのように、ウキウキと弾んでいる。
 「ぁ・・・」
 対照的に絵美は消え入りそうな声で口ごもった。
 (ノットレディよ・・・あたりまえでしょ・・・)
 やっぱりやめさせてほしい、と許しを請うように視線を横に向けたが、瞳は乳房を存分に弄ばれて悶えているだけだ。

 「アッ・・・イン・・・ンッ!」
 
 絵美の顔の真横で、ビクッビクッと瞳の裸の足先が何度も動き、こらえきれないあえぎ声が途切れ途切れに聞こえてきた。
 (・・・・・・)
 絵美はあまりにも屈辱的なその光景に怖じ気づかざるを得なかった。
 (イヤ・・・)
 首を横に振りたいと本気で思ったが、瞳を裏切ることも出来ない・・・迷っているとオジサンが横に近づいてきてその顔をのぞき込む。
 (ヒッ・・・!)
 人類の進化の過程を逆行したかのような毛の生えた肉体と体臭、それがのしかかってくる感覚に絵美はおもわず悲鳴を上げそうになった。
 「レディ?」
 オジサンは見かけに似合わぬ声で優しく聞いてきた。
 
 (・・・・・・イヤァ・・・)
 
 怯えながら、しかし絵美はコクリと小さくうなずいた。しかたない、そうするより方法はないのだ。
 「オケイ!」
 オジサンはうれしそうに笑い、桶の中にお湯を足しに行った。
 
 絵美はあきらめきったというように、ゆっくりと目を閉じてため息をついた。
 (・・・ぜんぜんオケイじゃない・・・)
 
 オジサンは白衣のズボンは着ているはずだが、寝ていると裸の上半身しか見えない。もしもあの屈強そうな身体にそのままのしかかられたらと思うと背筋が凍る・・・
 (怖かった・・・)
 身の危険・・・裸にされた恥ずかしさとショックのせいだろうか、そのことにまで気が回らなくなっていたほうがむしろ不思議だ。
 着ている物を全て脱がされ、さらに身体の自由もうばわれつつある状況、しかも・・・と思いながら絵美はチラリと松山の「それ」に目をやった。

 (イヤァ・・・気持ち悪い!)
 
 むき出しにされた、猛り狂う男の生殖器。その持ち主が欲望でギラギラした視線を絵美の下半身に向け続けていた。

 (太一・・・助けて・・・)
 
 絵美は恋人の名前を心で呼んだ。
 ついさっき、ほんの数分前まで、裸を見るのも見せるのも彼だけだった。
 (ごめんね・・・)
 ヤキモチ焼きの恋人の顔を思い出すと、絵美はなにかとりかえしのつかない間違いをしているような気持ちになった。
 
 「オーケイ、キモチイイ!」
 絵美に思い直す間を与えないと言わんばかりに、オジサンがそそくさと戻ってきた。
 (またへんな日本語ばっかり・・・)
 複雑な作り笑顔を浮かべるのが精一杯だった。
 実際のところどう返していいのかわからない・・・松山の通訳と、なにより瞳による実演で、これから自分が何をされるのかぼんやりとはわかっている・・・それはおそらく「キモチイイ」ことだ。それも、いままでとはニュアンスの違った「キモチイイ」こと・・・。
 
 「ヒッ・・・イャッ・・・ヒヒィッ・・・アッ、アアァァッ!」

 これから自分の裸体に降りかかる辱めにまだ現実感がない絵美の目を覚ますように、瞳の悶え声が部屋中に響きわたった。
 (!)
 瞳への陵辱はついにもっとも恥ずかしい部分へ到達していた。両脚を大きく広げられ、陰毛のすぐ下あたりで細かく指先を動かしている。
 (そんな・・・そんなとこまで・・・!?)
 絵美からは見えないが、オジサンの指は明らかに股間の、それも一番感じる部分を直接刺激している。クリトリス・・・という名前こそ思い浮かべなかったが、絵美ももちろんそこに何があるかは知っていた。

 「ヒィッイッイイッ!」
 瞳の裸の上半身が激しく反り、ひねられ、けいれんするようにビクビクと動き、ふくよかな胸が堅く尖った乳首をのせたままブルンブルンと激しく揺れる。
 「アアッ!イヤアァァッ!」
 あどけなかった表情は影を潜めている。真っ赤になった顔は快楽にゆがみ、だらしなく開いた口からは男の欲望を加速させる淫らな叫びが絶えず漏れてきた。
 
 (そんな・・・)
 女の目から見てもあまりにも淫らな乱れっぷりに、絵美はますます不安になった。
 (もともと感じやすいの・・・?・・・それとも・・・)
 あいかわらず手足には力が入らないが、それに反して感覚だけがますます鋭敏になっている気がする。まるで一方通行になったかのように脳からの命令は無視され、刺激だけは普段以上に敏感に伝えられてくる・・・これがマッサージの効果なのだろうか?
 (まさか・・・)
 手のひらに当たる自分の乳首が、いつになく存在を主張しているのが不吉だった。
 (私も・・・?)
 自分の身体にも同じように変化があったとしたら・・・
 
 「アアアアアァッ!」
 瞳の裸体が激しく動いた。瞳と、彼女の下半身を慰み者にするオジサンと島本の姿。ここからみるとまるで三人とも丸裸で、異常で不道徳な性行為の真っ最中にしか見えない。
 (・・・おかしいょ・・・ぜったい・・・)
 その光景を見て、旅の恥なんて言葉ではすまされない状況にあらためて恐怖した。
 冷静になれば、複数の男の人の前で裸になるなんてことはふつうは生涯あり得ないことだ。いや、男の人に全裸を見せること自体そうだ、お医者さんでも全裸になることはないだろう。それは、特別な相手に対してだけのはずなのだ。
 (おかしいよぉ・・・)
 絵美の足下には松山がいる。状況は瞳と同じ・・・いや、外とのガラスに近い分だけ絵美の方が悪いかもしれない。
 「◎×▼」
 オジサンが松山たちの方へ何か言った。
 「□○×」
 「×□×●・・・フフフ」
 「ははは・・・」
 (・・・何よぉ?)
 絵美を無視した会話が飛び交ったあと、オジサンが絵美の頭上に回り、そこから手を伸ばしてきた。
 (来る・・・!)
 いよいよ始まる性のマッサージに耐えるべく唇を固く閉ざした絵美の顔の横を、ローションで光る手が通り抜け、そのまま細い肩に到達した。
 (!)
 ニヤリ・・・と絵美の顔の真上で笑うオジサンの口元が見えた。そして・・・無骨な指先は信じられないほどの繊細さで絵美の鎖骨にそって首筋までスーッっと動いていく。

 「はぁ・・・ぁ・・・」
 
 閉じていたはずの唇から思わず声が漏れた。
 (ちょ!・・・な!・・・・・・そんなぁ・・・)
 ちょっと撫でられただけなのに体中が総毛立つような快感が絵美の裸体を貫いた。 (だめよ・・・だめ・・・)
 あわてて気合いを入れ直そうとしたが、絶望感の方がずっと大きかった。
 
 「ふん・・・」
 絵美の喘ぎを聞き逃さなかった松山の勝ち誇ったような声が聞こえ、それが彼女をさらに絶望の淵へと追いやった。
 オジサンの指先は今度は首筋から肩へ向かい、そこからわきの下へと向かう。
 「ン・・・・・・」
 絵美はその侵略者が移動をする間、息を止めて耐え続けなければいけなかった。

 「アアアッ!イイッンッンンッ!」
 隣でまた瞳があられもない声を上げたが、もはや驚くことではない。肩を少し撫でられただけでこれなのだ、もしも・・・
 (もしも、体中がこんな状態だったら・・・)
 「ンッ・・・」
 指が脇をくすぐるように通過して、胸を隠す絵美の二の腕をツーッと撫でていく。顔の上にオジサンの毛むくじゃらの裸体がかぶさるようになり、至近距離の体臭が鼻をついた。
 (・・・!)
 絵美の脳裏に瞳と彼女を陵辱する二人の男の異常な光景が浮かんだ。
 (あんなの・・・イヤよ・・・)
 「ふふふ・・・」
 絶望に沈む絵美の耳に、松山の笑い声が不気味に響いた。。


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