第15話


 由美子は精も根も尽き果てたという表情のまま、ぼんやりとした視線を瞳の方へ向けている。
 胸は両手で隠していたが、かろうじて乳首の周辺を隠しているだけで、もはや「どうでもいい」という感じさえする。
 (由美子・・・)
 絵美は隅々まで観察され、もてあそばれた全裸の由美子の姿を思い出し、自分の置かれた立場を忘れて心配そうな視線を彼女に向けていた。
 由美子の視線の先では、やはり全てを晒された瞳が辱めの時を迎えている。
 「・・・フゥゥ・・・」
 由美子はひとつ大きなため息をつくと、絵美の方へと視線を向けた。
 「(大丈夫?)」
 絵美はその視線を受けて、声を出さずに唇を動かした。
 コクリ、と由美子はうなずいて、絵美の裸の後ろ姿にチラリと視線を向けた。
 (・・・恥ずかしい)
 裸の股間を後ろからのぞかれている絵美には、親友の視線さえ不安に感じられる。
 (・・・)
 由美子は「かわいそうに」というように表情を曇らせ、ふたたび絵美の顔を見た。
 「プリーズ」
 由美子を陵辱したオジサンが台の掃除を始め、由美子に立つように促した。
 「あ・・・」
 ふくらはぎをまさぐられる絵美の姿を見ていた由美子は、あわてて立ち上がろうとしたが、何を思ったかもう一度腰を下ろした。
 「・・・?」
 オジサンは怪訝そうな顔で由美子を見る。
 「ン!・・・ン!」
 由美子は片手だけで乳房をかくし、空いた手を使って「立ち上がれない」とジェスチャーをした。
 (由美???力が入らないのかしら?)
 その様子を見た絵美がもう一度声を出さずに「(大丈夫?)」と尋ねたが、由美子は小さく二度ほどうなずいただけだった。
 「オールライ?」
 オジサンは由美子の裸の背中に手を回して、まるで抱きかかえるように起こそうとする。
 「ン!」
 由美子は再び腰を浮かせたものの、ガクリと膝から崩れ落ちた。
 「ヌウ!」
 オジサンはあわてて由美子を抱きかかえた。
 (・・・!)
 由美子も胸を押さえていた手をオジサンに回して身体を支える。
 「オケイ?」
 「・・・ノゥ」
 由美子はそう言うと、グラビアから抜け出したようなその見事な裸体を、白衣にしがみつくようにもたれかからせた。
 オジサンは毛むくじゃらの手を由美子の身体に回して体重を支える。
 (・・・由美子???)
 絵美は驚いてその様子を眺めた。身体を押し当てるようにする由美子の姿は、まるで誘惑しているようにさえ見える。
 オジサンは由美子の両手を自分の肩に回させ、まるで恋人がするように彼女の引き締まったお尻に手を回すと、ゆっくりと後ろに倒してもとの台に腰掛けさせた。
 (!)
 そのまま倒れ込みやしないかと不安になったが、さすがにそれはなさそうだ。だがその代わりに、前屈みになったオジサンの顔が由美子のむき出しの乳房をかすめんばかりに接近する。
 「ん・・・」
 由美子が小さな声を上げた。吐息がかかっただけでも反応するほど、彼女の乳首はまだ固く尖っていた。
 「フフ・・・」
 オジサンはそれを理解したのだろう、肩に回させた手をわざとゆっくり外させ、至近距離から由美子の胸を十分に楽しむと、事もあろうにその髭面で由美子の右の乳首に軽くほおずりしながら顔をあげた。
 
 ズリッ・・・
 
 真っ赤に色づいた蕾に不意の一撃を受け、由美子の身体がビクッと大きく揺れた。
 「ンンッ・・・」
 快感というより屈辱のためだろう、由美子は唇をキッと結んで、うなるような声を出しながら、再び乳房を両手で隠した。

 (ホントに大丈夫なの?)
 撫でられる足首のくすぐったさに耐えながら、絵美は由美子を不安そうに眺めた。
 由美子はそれに気づかずに、片手で胸を隠したまま、壁に掛けた水着を指で示した。
 「プリーズ」
 オジサンは一瞬躊躇したが、由美子の意図に気がついたのか、何度も振り返りながら壁に掛かった由美子の黒ビキニを取りに向かった。
 「?」
 オジサンはビキニを手に取ると、それを広げて由美子に示す。
 「ん」
 由美子はうなずいて、指先で「もってこい」と指示した。
 「オゥケェ・・・イ」
 苦笑いを浮かべ、広げたビキニを観察しながら由美子の方へ持ってくる。状況を知らなければまるで王女と召使いのようだ。
 「んー・・・」
 由美子は片手でビキニを受け取った。だが、それを着ようとする代わりにボトムをオジサンに差し出して、その手で足先を示す。
 「(はかせて)」
 そう言っているのだが、見ている絵美には彼女の様子がどうも不自然に見える。
 「(ねぇ、大丈夫?)」
 絵美はもう一度、尋ねた。
 「うん」
 うなずいた由美子の視線からは、陵辱されて尚消えない誇りと意志の力が感じられる。
 (・・・あ・・・もしかして・・・?)
 絵美はようやく気がついた。
 (時間稼ぎしてくれてるの?)
 そう考えると納得がいく。「自分がいなくなれば、また男が一人中に入れられ、絵美と瞳をイヤらしい視線で犯すに違いない」由美子はそう分かっているのだ。
 (由美、ありがとう・・・)
 絵美は親友の自己犠牲に涙が出そうだった。
 (あとは早く終わらせてくれれば・・・)
 由美子の行為を無駄にしないためには、とにかく三人がそろって終わりにできるように、抵抗せずにオジサンの優しさに期待するしかない。
 「ァン・・・」
 そんな絵美の気持ちを察したかのように、オジサンが足の裏をくすぐるようにツーッと指先を動かし、ツボを押す。
 (んん・・・がまん・・・がまん・・・)
 脚の指の間をなで回すようにローションを塗られ、ゾクゾクする戦慄に絵美はひたすら耐えた。
 「◎△×●※☆!」
 ふっと、絵美へのマッサージが止まったかと思うと、オジサンのなじるような声が聞こえた。
 「◎×▼」
 ビキニを手にしたオジサンが、しゃがんだままこちらに向けて返事をする。
 由美子は股間をオジサンの顔に向けてわざと開くようにして、台のはじに座っていた。
 (・・・きゃっ)
 顔から由美子の下のヘアまでは数センチ・・・絵美の角度から見ると淫らな想像を禁じ得ない構図だ。
 「◎×・・・」
 オジサンは名残惜しそうに由美子の秘部をもう一度じっくりと見ると、ビキニを手にしたまま立ち上がった。
 (・・・?)
 上を向いて羞恥に耐えていた由美子は、全裸のまま放置されていぶかしげに二人のオジサンを眺めた。
 「ウェイト」
 ビキニを台に置いたオジサンは、そのまま入り口のドアへと向かう。

 (あ・・・!?)
 (あぁん・・・!?)
 (いやぁ・・・!?)
 
 三人の娘の心の声は届かず、扉は再び淫らな獣たちに向けて開かれた
 
 ガチャリ・・・
 
 「ネクストプリーズ!」
 投げやりぎみなオジサンの声につづいて、「おおおおおぉおっ」という地響きのような男の歓声が開かれたドアを通って聞こえてくる。
 (いや・・・誰・・・?)
 絵美は不安に耐えられずに左を向いてガラスの向こうの様子を見た。
 (!)
 男たちはガラスに張り付くほど近くに並んで絵美の裸を眺めていた。
 (・・・もう・・・なんなのよぉ・・・)
 覚悟はしていたとはいえ、悔しくてたまらなかった。
 ・・・一人分、場所が空いている。そこにいた男が「待ちきれないぜ」とばかりにドアから首をのぞかせた。
 (イヤッ!)
 絵美は思わず脚を交差させそうになってオジサンに阻まれた。出てきたのは松山の、あのイヤらしい顔だった。


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