第14話


 一方の絵美は、不気味な温もりを持った十本の触手に裸の背中を這い回られていた。
 生暖かい液体が、オジサンの指先の後ろにナメクジが這ったような痕跡を引き、絵美の裸体をくすぐっていく。
 (あん・・・)
 ツボか何かなんだろうか、時折、餌でも見つけたように移動を止めるとそこで力を込めて肌を押してくる。気持ちいいのか悪いのか分からない不思議な感覚に、絵美は下を向いて息を押し殺した。
 
 ツー・・・・
 
 オジサンの指先は絵美の背中のくびれを通過し、その下にあるお尻の膨らみへ向かう。
 (・・・!)
 絵美は身構えた。抵抗はしないと決めたが、やはりいざとなると身体が硬くなる。
 オジサンの指は、絵美の背中とお尻のさかい目あたりで一度侵略を止めると、グイッと強くそこを押した。
 「ん・・・ふぅ・・・」
 今のは予想外に気持ちが良い。旅の疲れがいやされる感覚に絵美は大きなため息をついた。
 「フフ」
 オジサンは絵美の反応に満足したようだ。そのまま指を動かし、お尻の山をのぼる。
 (え・・・どこまでいくのぉ・・・?)
 絵美は再び緊張したが、オジサンはお構いなしに絵美のお尻を裸の指で撫であげた。
 (い・・・やぁ!)
 真っ白なお尻の肌に左右五本ずつの触手の跡がテラテラと光る。
 「・・・フム」
 丘の頂点まで来てようやく外側に向きを変えた指先は、絵美の腰を両手で挟むようにして広がっていく。
 
 クニ・・・クニ・・・

 指先が不気味に動く。
 お尻の割れ目に侵入されなかったことに安堵していたが絵美は、骨盤のあたりをくすぐられているような感覚に思わず身体を小さく揺する。
 
 グッ!

 いきなりオジサンの指先に力が入った。
 「・・・ン」
 腰から力が抜けるような不思議な感じに絵美は僅かなうなり声を上げた。
 オジサンはなおも数回、場所を微妙に変えてお尻から骨盤のあたりを指で押した。
 (ン・・・確かに気持ち・・・ン・・・いいんだろうけど・・・)
 オジサンに裸のお尻を触られている状況ではそれどころではないし、どう反応していいかも分からない。絵美はただただ下を向いて目をつむっていた。
 
 ツー・・・

 触手は絵美の裸体の側面に沿って再び上へと向かってくる。
 脇腹を通過すると、ゾワァァァ、という感覚が絵美の全身を走った。
 (あぁぁ・・・)
 肋骨の波を越える頃には耐えられずに身を小さくよじる。
 (あん・・・ン)
 くすぐられ、押され、くすぐられ、押され・・・どこからが気持ちいいのか分からない波状攻撃が絵美の心をかき乱したが、次第にそれも不思議な脱力感の中に消えていった。
 「ふぅぅぅ・・・」
 首のあたりをマッサージされるときには絵美の気分もだいぶ落ち着いていた。
 「グッド?」
 オジサンはそれを見越したのかそう聞いてくる。
 「・・・イェス・・・」
 全裸で男と会話することにとまどいながらもそう答えて、絵美はもう一度自分に言い聞かせた。
 (そうよ・・・このまま早く終わらせてもらわないと)
 眼を閉じていてもガラスの向こうで自分の裸を眺めている男たちの姿が思い浮かぶ。さらに、すぐ頭上では島本が絵美の裸体を見下ろすように座っているはずだ。
 一刻も早く、終わらせるのだ。
 (これ以上いい思いさせてなんかあげないから!)
 絵美は自分を鼓舞するように頭の中でそう言うと、閉じた両脚にもう一度力を入れた。
 
 ツーーーーー

 十本の触手は滑らかな裸体の中心を、下半身に向けて長い移動を始めた。
 (んんっ・・・・・・抵抗・・・しないから・・・)
 再び、ゾワァァァという全身をかきむしる感覚に耐えて絵美は思った。
 (いい・・・から・・・早く終わらせて・・・)
 オジサンの指は絵美の小さなお尻を包み込むように移動して、一旦肌を離れて脇に置いておいた手桶へ向かう。どうやらローションを補給してから下半身にいくようだ。
 (ンッ・・・)
 脚にさらに力が入る。無抵抗の証に今度は最初から脚を交差するのもあきらめている、このオジサンに限って変なことはしないと思うが、万が一にも両脚をガバッと開かれたら・・・
 (・・・イヤ・・・)
 絵美の頭を一抹の不安がよぎった。

 「ァ・・・ァンッ・・・ンッ」
 その不安に追い打ちをかけるように隣から瞳の声が聞こえてきた。
 (声?)
 ただの声ではない。
 「ィ・・・ィ・・・ヤ・・・ァ」
 嗚咽にも似たとぎれとぎれの声・・・でもそれは・・・それは・・・
 (瞳ちゃん・・・?)
 絵美はおそるおそる顔を上げると、右を向けて隣のベッドを見た。
 (ちょっ!・・・瞳・・・ちゃん?)
 大きく開かれた股間の周辺を、内ももに沿って指先でもてあそばれる瞳の下半身が見えた
 「ンッ・・・」
 オジサンの両手が容赦なく瞳の一番恥ずかしいところ近くまで到達し、くぐもったあえぎ声が聞こえてくる。
 驚いた絵美が視線を動かすと、その瞳の恥態を下からのぞき込むように島本が座っているのが目に入る。
 「ンッ・・・ンンッ・・・」
 瞳の伸ばされた両脚の先がピクッピクッと動いた。
 (・・・ウソ・・・こんなのって・・・)
 絵美は愕然として瞳から目をそらした。
 
 「ァッ・・・」
 とたんにオジサンのローションまみれの両手を膝の裏あたりに感じた。
 
 ヌー・・・

 それはそのまま絵美の太ももを掴むようにしてのぼり、お尻の下までやってくる。
 (ぅぅ・・・・・)
 不気味な感触に耐えられず、絵美はチラリと自分の下半身に目をやった。
 (・・・!)
 こちらを向いたオジサンの顔が見える。作業に夢中のオジサンは下を向いてこちらの視線には気がつかないようだ。
 
 ムギュ・・・ツー・・・ムギュ・・・
 
 オジサンの手は、裸の太ももを、再び下から揉みながら登ってくる。
 (・・・イヤ・・・・・・)
 手と一緒にオジサンの視線も、絵美の両脚にそって、今度は下からのぞき込むように上へ向かってくる。
  
 ムギュ・・・

 オジサンの手はもう膝からかなり上に来ている。ミニスカートが苦手な絵美にとってはすでに秘密の領域と言っていい場所だ。
 
 ツー・・・ムギュ・・・

 (・・・・イ・・・ヤァ・・・・)
 二本の手はリズミカルに絵美の肌を滑ってゆく。
 
 ツー・・・ムギュ・・・

 (・・・ァァン!・・・)
 ピクッと絵美が小さく動いた。
 (お願い・・・見ないで・・・)
 全身が固まり、心臓だけが激しく動く。真っ赤に染まった顔を隠すように絵美は再び下を向くしかなかった。
 オジサンの両手は本来下着が隠していなければいけない線を越え、お尻の膨らみに遮られるようにして侵略をとめていた。
 (あぁ・・・・・・)
 股の間に手を入れられることこそ無かったが、揉んでいる部分の僅か先には絵美の、まだたった一人にしか見せたことのない秘所がある。オジサンの視線はそこをのぞき込むように止まっているはずだ。
 (見ないで・・・)
 絵美は下を向いたままで再び願った。自分の下半身を後ろからのぞき込んだことなど無いが、わからない分だけ、いったいどのように見えるのか不安でしょうがなかった。
 
 「オーケイ!」
 そのとき脚のもっと先の方で違うオジサンの声が聞こえた。
 絵美が赤い顔を僅かに向けて横目でそちらを見ると、胸を両手で隠した由美子がこちら向きに座っているのが見えた。
 (え・・・もう・・・?)
 どうやら由美子のマッサージが終わったらしい。オジサンが後片付けを始めている。
 (どうしよ・・・誰か来ちゃう)
 島本ともう一人に上下を挟まれ、横からはガラス越しの男たちの視線が集中する中、その男たちに自分の裸を提供せずに済むだろうか?
 「ォォォォォォォ・・・」
 外が騒がしい。台が一つ空くのが分かったのだろう。近づく身の危険をひしひしと感じながら、裸の絵美はなされるがままにこの恥辱の時間が通り過ぎるのを待つしかなかった。


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