第二話


 一度は抱いた解放への希望は裏切られ、状況はより過酷なものとなった。最後に残された下着までも剥ぎ取られる上に、それが競り落とされ、見知らぬ男の手に渡るのだ。
「なお、オークションの落札金額は全額アキ嬢への特別ボーナスとなります。皆様どうか奮ってご参加ください!」
 浪々と司会は続く。幾ばくかの、それこそ元値以上の金額が付くかも知れないが、下着を差し出し裸を晒す屈辱に耐えてまで金を得ようとは思わない。しかし彼女の胸の裡に秘めたそんな矜持とは関係なく競りは進められる。

「それではまずはブラジャーの方から参りましょうか、アキ嬢が今身に着けているこのブラジャー、1000円から!」
「1500円!」「2000!」「3000!」
 競りの開始と共にアキはステージの床に膝を付き、膝立ちで胸を反らせたポーズを取る、否、取らされる。そのまま両の手で、ブラに包まれた両胸を撫で回す。それに触発されたのか値は急ピッチで吊り上がって行く。
「8000!!」
「くそっ……9000!いや、9500!!」
「アキちゃーん!胸デカいねー、何カップー?」
「それは落札してのお楽しみと参りましょう。さて、現在の最高額は9500円!さぁ次の大台へ乗るや否や!」
 野次を捌きつつも司会が更なる煽ると共にアキは自らの胸をすくい上げるように揺らす。目を伏せ、唇を噛み締めながら。

「10000ッ!!」
 柔らかく弾む肉の果実、それの皮を剥いて果肉にかぶりつきたい。欲望に火の付いた男達が競り合う。自ら両の肩紐を摘んで持ち上げると、それに合わせて幾つもの視線が上下に揺れるのが分かる。ありもしない触感すら伴った視線に耐えかねて逸らした視線の外では、今も競りは続いている。

「一万かぁ……」「一万はなぁ……」
 5桁の大台に乗ったところで多くの参加者が諦める中、最後まで残ったのは二人。片方は学生風の若者グループの一人。仲間達に焚き付けられるままに有り金を注ぎ込み、ここまで勝ち残った。
 もう片方は中年男。仕事か余暇か、いかなる理由でこの地を訪れたかは知る由もないが、温泉街で羽を伸ばしたところを劇場の熱気に当てられてすっかり相好を崩し、普段の理知的であろう風貌は見る影もない。
「15000」
「15000っ!15000ッ!!これ以上は?」
 小刻みな勝負に焦れたのか、中年男が次の大台まで一気に吊り上げて学生達を振り切った。
「はい、15000円で落札です!それでは商品をお渡しいたしますのでどうぞステージへお越しください」
「チッ……あンのスダレハゲがぁ」
 悔しがる学生達や他の客の羨望の眼差しの中ステージに上がると、歓声と幾ばくかのやっかみ混じりの罵声が彼を出迎えた。司会と言葉を交わし、手早く落札額の支払いを済ますと、アキへと向き直った。粘り付く様な視線を向けながら男は司会に「私が脱がしてもいいのかな?」と問う。
「ええ、構いませんが……必要以上のタッチはご遠慮願います」
 司会の言葉に得心したような笑みを浮かべると、ステージ中央に跪く彼女へと歩み寄った。


 落札者が仕草で膝立ちの彼女に立つように促すと、アキは従順にそれに応じる。ライトに照らされた壇上からは影にしか見えない観客達、それが光の下に、人間の姿をとって現れたことが彼女にはたまらなく恐ろしい。慄きながらも男のエスコートを受けて舞台の最前へと歩み出る。手を前に組んで不安げに立ち尽くす彼女、その背後には彼女のブラジャーを落札した中年男。

「どうしたー!」「早く取れー」
 オークションの間焦らされ続けた観客から急き立てる声が上がる。

「聞こえますか」
 不意に男は彼女に囁きかける。おそらく彼女以外は男が口を開いたことすら気づかなかったかもしれない、だが彼女にだけははっきりと届いた声。
「皆があなたを見ています」
 彼女にそれを改めて意識させると身体に緊張が走る。こんな間近で、しかも身体のほとんどを露出した下着姿なら誤魔化しようもないその反応を確認すると、男は満足げに続ける。
「オークションに掛けられたあなたのブラジャーは私が落札しました。他の観客は私がそれをあなたから脱がすのを楽しみに待っています」
 触れるか触れないかの距離で肩のラインをなぞる。

「……い、や」
「いや、じゃない。契約は守ってもらわないとね」
 微かな拒絶を穏やかな、しかし有無を言わせない口調で跳ね除けて肩紐に手を掛けた。細い肩を紐が滑り降りる度に震えが走る。
「それ、もう一つ、と」
 両の肩紐が外れて出来た、胸を覆うカップとの隙間。そこを抉じ開けんばかりに視線が捻じ込まれる。その隙間を上から見下ろす云わば特等席から囁きは続く。
「大きな胸ですねぇ、今まで窮屈だったでしょう」
 肩から背へ、背に触れる後ろ髪を軽く梳きながら背筋を降り、指先にホックを捕らえて弄ぶ。
 背後の男の指の動き一つで下着は奪われ、胸は露になる。数瞬先への予感が彼女の身体を強張らせる。
「皆さんお待ちかねです。では頂きますよ」

 容易くホックを外すと支えを失ったブラは呆気なく滑り落ち、両の胸が露になった。待ちわびた光景に、場内は歓声を持って応じる。
「思ったとおりの綺麗な胸だ。ほら、皆さんもそう言っていますよ」
 男の手にも余るであろう大きさ、元々色白な彼女の更に日に晒さない場所である故の白さ、下着から開放されてもなお形を保つ張り。そして双丘の頂の慎ましい突起。男達はそれらを惜しみなく賛美する。
 視線をさえぎる事無く腰の前で重ねられた手、落札者はそこに引っ掛かったブラをさりげなく引き抜くとそれを懐に収めめ、軽く一例して舞台を降りた。


 第一の落札商品の引渡しもつつがなく終わり、その興奮も収まりかけた頃、司会の男が再びマイクを持つ。
「さて、続きましてはアキ嬢の身に着けた最後の一枚。このショーツをオークションしたいと思います。皆様奮ってご参加ください、では!1000円から!」
 遂に最後の一枚を奪い合う競りが始まった。なす術もなく衣服を奪われ肌を晒される諦念に目を閉じ、アキは操られるままに踊る。
 それを見ながら前回以上のハイペースで値が吊り上がる。ブラジャーの落札額15000の大台を突破し、2万円台へと届きそうな勢いだ。

「20000」
 先程の中年が半ば勝利への確信と共に大台を登る。前回よりも食い下がった他の参加者もここで断念すると思われたが、
「21000ッ!!」
 それに追いすがる者もいた。前回最後まで争った若者だ。客席の暗がりの中、競る男に仲間達から紙幣を渡される。
「2……25000」
「26000……26500ッ!」
 このまま青天井で続くかと思われた一騎打ちは、しかし25000を僅かに超えたところで唐突に決着した。前回の落札者の中年男が着席し、棄権の意を示したのだ。
「26500!現在26500、これ以上っこれ以上はありませんかっ?……26500で決定、落札です!」
「ぃよーしっ!!」
 司会が落札を宣言すると、若者達は喜びを露に、互いを称え合う。

「それでは落札者の方、ステージへどうぞ」
 先程とは打って変わったラフな格好の若者が壇上に姿を現した。仲間内から掻き集めて手に持ったままの紙幣の束を司会に手渡し、ついでに釣りを受け取ると取引は成立。
「さ、行こうかアキちゃん」
 なれなれしい態度で彼女の腕を取り、舞台中央からやや脇に逸れた、仲間達が陣取る席の正面へと連れ込んだ。
「こっち向いて……そう、素直じゃん。はいそのまま四つん這い」
 "後ろ向きで四つん這いになり、尻を高く上げろ" そんな屈辱的な命令にも彼女――の身体は従順に従ってしまう。
「それじゃ、アキちゃんのパンツ。頂きま〜す」
 そう宣言すると、突き上げられた尻を包むパステルブルーのショーツに手を伸ばす。両サイドに指を掛け、ゴムの伸縮を愉しむように引っ張ると仲間内から急かす声が飛ぶ。
 そうがっつくなよ、と、自らのオークションでの興奮振りを棚に上げてショーツの布地越しにアキの尻を撫で回す。

「えー、お客様、必要以上のタッチはご遠慮願いまーす」
 司会の注意に苦笑交じりに応じると、果実の皮を剥くようにショーツを引き降ろし始める。
「お、し、り〜が、見えちゃうっよ〜っと。うわ、アキちゃんの尻すげぇエロい」
 歌うような口調に乗せてゆっくりと露になっていく白く柔らかそうな尻肉。それが空気に、ライトに、視線に触れるたび、彼女の背中が震え、床に伏せた顔から吐息が漏れる。
「何お尻もじもじさせてんの?もしかして誘ってんの?」
「そ、そんなっ違……」
「ふ〜ん」
 やがてショーツが降り、ヒップが全て剥き出しになるとそこで手を休める。幾つもの視線が柔肉を刺し、震える彼女に第二の落札者が囁きかける。
「恥ずかしい?」
 顔を伏せたまま頷くアキに言葉にするように求める。
「は、恥ずかしい……です……」
「お尻見られるの、嫌?」
 声にならないのか、再び頷く彼女に
「じゃ、ポーズ変えよっか」

 浮いた腰に横から腕を差し入れて引き寄せると、アキの身体がくるりと男の手前側に反転する。
「きゃっ!?」
 そのまま抱きかかえると、舞台の縁に脚が掛かる位置に降ろし、両の手足を付いた仰向けの姿勢をとらせる。
「いやっ、嫌ですこんなのっ……」
「えー?お尻見られるのが嫌だったんでしょ?じゃあいいじゃん」
 自由を奪われた身体で口だけの拒絶。それを受け流して腰を、ポン、とごく軽く叩くと床に付いていた尻が浮き上がり、ショーツをギリギリの位置まで下ろした陰部を突き出すポーズを取ってしまう。
 脚を開き、身体で唯一隠された秘部すらも見えかけている。その余りの羞恥に身体を支える手足は震え、肌が赤く染まる。落札者はその姿を上から覗き込んで満足げに微笑むと、再びショーツへ手を伸ばした。
 軽く引くだけで、薄めのヘアが現れる。さりげなく生え際をなぞり「アキちゃん毛ぇ薄いんだねーお手入れしてるのかなー?」聞えよがしに感想を口に出して羞恥心を煽る。
 羞恥に耐えかねて背けた横顔からうなじに掛けてが赤く色付き、彼女の意図に反して見る者の情欲をそそる。
「いいねー、その表情。たまんねー」
 そのままショーツは浮いた腰から難なく引き降ろされ、慎ましい秘裂が露になる。が、脚の間の陰になり、また降りたショーツ自体が視界を遮り、未だ客席からは良く見えない。
「おっ……きれいじゃん、あんまり使ってないのかなぁ〜?」
 元より答えを期待しない問いかけ。時と場合が許せばじっくりと問い詰めたいところではあったが、残念ながら今は時間がない。
 待ちかねた観客からの不満の声を、一足先に目にする特権にほくそえみながら代弁する。
「ほらほら見える?あっちのお客さんのスッゲぇスケベ面、よっぽどアキちゃんのが視たいんだねぇー」
 屈辱的な状況に陥った彼女を更に言葉で嬲りながらじっくりと戦利品を剥ぎ取っていく。
「ほーら、もうすぐここの客全員に見えちゃうぞ〜、アキちゃんの綺麗なあそこ、みんなに見てもらおうね〜」
 嘯きながらもショーツを降ろし、足首まで達したそれを片脚を持ち上げて引き抜いた。その拍子に、バランスが崩れて彼女の尻が床に付く。
「お疲れさん、もうお尻付いていいよ。さぁて、それでは……」
 もう片方の脚を持ち上げるように促すと、ステージの縁からまっすぐ脚が伸ばされる。差し出された足首に絡んだショーツを客席に控えた落札者の仲間が受け取った。
「はいお待たせ」
「遅っせえよ!」
 資金を出し合った仲間と言葉を交わすと
「っと、独り占めは良くないよな、ホイっと」
 壇上の男に促されてアキの脚が目一杯左右に開く。観客の前に白くなだらかな下腹部も、淡い茂みも、薄い色合いの秘裂も全てが晒された。全てを目の当たりにした客席が沸き上がり、津波じみた歓声が押し寄せる。

 こうして、落札商品は落札者に引き渡され、オークションは終了した。


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