第二話


「ハァ、ハァ……ン……」  あれから私達は、お互いに見つめあったまま時間を過ごしています。そしてその間、私 の身体と精神は消える事のない官能的な熱に蝕まれ続けました。  呼吸はどんどん荒くなり、時折悩ましい吐息が漏れてしまいます。口内には粘ついたヨ ダレがたまり、閉じる事のできない口からいつ垂れてきてもおかしくないほどです。  腰は乙女としての恥じらいを忘れたかのように激しくうごめき、それでも欲求を満たさ れない事への絶望が、心を支配していきます。 「ン……あ……あぁ」  もうダメ、本当に限界……。  そう感じた私は、ドロドロに蕩けた本能で理性を押し流し、決してしてはならない羞恥 のおねだりをするため口を開き始めてしまいました。  ですがその言葉がつむがれる直前、私の潤んだ瞳と敏感になりすぎた肌は、彼の動きを 伝えてくれました。彼の手が、私の両ヒザから離されたのです。  自由になった彼の手は、ゆっくりと、しかし確実に私の方に向かってきます。その目的 の箇所は、ビスチェに包まれた私の胸。ようやく彼は私の求めに応じてくれたのです。  その事に心底安堵してしまった私は、思わず彼の顔を見てしまいました。 「……ふっ」  そこで漏らされた笑みは、私が限界を向かえた事、それに彼が気付いた事、そしてわざ わざその時まで焦らしていた事を伝えてきます。  普通なら屈辱的とも取れるその笑みも、今の私には関係ありません。それよりも一刻も 早く胸を弄って欲しい、その激しい期待に、乳首を痛いほど硬くしてしまいます。もう彼 からも、私の乳首がいやらしく勃っているのが見えているでしょう。その事が、余計に私 の興奮を誘います。  ですが彼の手が私に触れようとした瞬間、その動きが止められてしまいました。 「あ、あぁ……どうして……?」  やっとこのもどかしさから解放される。その期待を裏切られた私は、自分でも情けなく 感じるほどに弱々しい声を出してしまいました。  彼は私の全身を舐めるように見つめ、そしていやらしく歪ませていた口を開きました。 「ふん、全くいやらしい女だ。手を離されたのにまだだらしなく脚を開き、今から触られ ようとしている胸は乳首を硬くし、まるで見せ付けるようにしているのだからな。それに なんだ、このいやらしいメスの香りは」 「あっ、やぁ……これは違います……」  とっさに否定はしたものの、彼の言う事は紛れもない事実です。  彼の手が離された脚は、私が危惧していたように閉じられる事はありません。むしろ私 に近づいてくる彼を迎え入れるように、より開いてしまっています。  胸は彼の指からの刺激を少しでも早く受け取れるように、突き出すような姿勢となって しまっています。ただでさえビスチェを押し上げてしまうほど硬くなった乳首は、ぷっく りと浮き出てしまっており、まるで痴女のようにその部分を見せ付けています。  そして私の全身からはべたついた汗が流れ、下着を湿らしてしまっています。その淫猥 な匂いが閉め切られた部屋の中にこもり、一層私と彼の欲情を誘います。それにショーツ には、もうこらえきれなくなった愛液も染み出しています。まだ汗に隠れて分からないで しょうが、いずれ気付かれることでしょう。  このようなはしたない姿を見られた事も、もちろん恥ずかしいかぎりです。ですがそれ よりも恥ずかしいのは、その事に気付きながらも、なお私はその姿勢を止めない事です。  いえ。それどころか彼の視線にさらされていると思うと、より大胆に脚を開き、より物 欲しそうに胸を突き出してしまうのです。そしてその事を恥ずかしいと思えば思うほど、 より快感が強くなっていってしまいます。 「ふふ、もう待ちきれないといったところか……。どうだ、魔女だと認めるか?」 「あふぅ……え?」  満たされない快楽に溺れかけていた私は、とっさに彼に言葉を理解することができませ んでした。 「今から俺がする事は、お前の身体にある印を見つける事。お前の望みが叶うことはある まい。だが自分が淫乱な魔女だと認めれば、最後の快楽としてお前を満足させてやろう。 どうだ、お前は魔女か?」 「そ、そんな……」  彼の言葉は、まるで本物の悪魔との取引のようなものでした。  たった一言、私が魔女だと告げたなら、この火照った身体を鎮めてくれるというのです。 しかしそれは全ての終わりと同意です。そのような事、口に出来るわけありません。 「あ、んぅ……ち、違います……私、魔女ではありません……」  私は残された理性をかき集め、途切れ途切れながらも魔女である事を否定します。  彼はその事に一瞬驚いたような顔を見せましたが、すぐにあの好色そうな笑みを浮かべ 直しました。 「そうか、強情な事だ。ならばたっぷりと調べさせてもらうぞ。お前の身体の隅々までな」 「あぁ……んぅ、あぁぁ!」  そう宣言した彼は、寸止めにしていた手を前に進め、とうとう私の胸に触れました。  それはビスチェの上から胸をなぞっただけの軽い愛撫。しかし私ははしたない叫びをあ げ、大きく背をのけぞらしてしまいました。焦らされ続けた私の胸は、そこまで敏感にな ってしまっていたのです。 「はくぅ、あぅ……ひあぁあ!! そ、そんなぁ……」  彼の指は、滑らかなビスチェの生地の上を流れるように動いていきます。胸を揉まれる でもなく、乳首を摘まれるでもない、ただそれだけの動き。しかし触れるか触れないかと いう絶妙のタッチで這い回る彼の指は、私を翻弄していきます。  確かに今の彼の指から与えられる快楽は、決して大きくありません。しかしいくら小さ な刺激とはいえ、それが絶え間なく続けば話は別です。  彼の指は止まる事無く動き続け、私をもてあそびます。しかも繊細かつ大胆な動きを見 せる彼の指は、胸だけではなく薄布に包まれたお腹やわき、背中も触ってきます。もっと 荒々しい責めならば次の刺激の予測もつきやすいのですが、今回はその正反対です。胸を 触られると思い警戒すると背中を触られ、反射的に背中を警戒してしまうと次はわきを撫 でられる。後はその繰り返し、私にはなす術もありません。  私はまるで彼に演奏されているかのように激しく身悶え、はしたない喘ぎ声をあげ続け るしかできませんでした。 「あっ、んぅ、くふぅうう! そ、そんなダメェ!!」 「全くここまで乱れるとはな。ふふ、なんだこの乳首は? よっぽど触って欲しいのか?」 「あ、あぁん! それはぁ……ん!」  いやらしい呟きの後、彼は私の乳輪をなぞるようにして乳首の周りを責めてきます。し かし決して、その中心の突起は触ってくれません。  それは今に始まった事ではなく、胸を弄り始めてからずっとです。私の乳首は周囲から 流れる快楽を間接的には受け取りながらも、直接的な刺激は一切受けていないのです。  おかげでじんじんとした疼きはおさまる事無く、膨らむ一方です。ビスチェに押さえつ けられているだけで感じてしまい、さらに大きさを増してしまいます。ひょっとしたら、 クリトリスよりも敏感になっているかもしれません。 「どうなんだ、乳首を弄ってほしいのか?」 「んぅっ、んぅううぅ!!」  そんな事を答える訳にはいかない私は、唇をかみ締めて首を振ります。そうしないと、 無意識的に口からおねだりの言葉が出てきてしまいそうだからです。 「ふふ……」  彼はしばらく私の乳輪を弄っていましたが、突然両手を私から離しました。一瞬、どう してそんな事をしたのか分かりませんでしたが、すぐに彼の思惑は分かりました。  彼の腕が離れた直後、私の胸を隠していたビスチェがハラリと落ちていったのです。 「やっ、やぁ!? なんで……?」 「なんだ、気付いていなかったのか。俺が脱がしていた事に」  恥ずかしい事に、先ほどまでの私は乳首への間接的な責めに全神経を集中させていまし た。ですから彼がもう一本の手を背中に回し、ビスチェの背部を開けていた事に全く気付 けなかったのです。 「かわいらしい胸だな。とても魔女の物とは思えん。乳首もいやらしく勃っているものの、 色はピンクだしな」 「そ、そんな事言わないでください……ン、はぁ……」  私の胸は同年代の少女と比べると、平均をやや下回る程度の大きさです。コンプレック スというほどではありませんが、できるなら指摘されたく事です。  しかし私の身体は、そのような嘲りの言葉すら悦びに変えてしまいます。  熱っぽい息を漏らしながら、解放された乳首を疼かせてしまいます。彼の手でやっと直 接触ってもらえる事を想うと、見られているだけで胸が熱くなってしまいます。 「ハァ、ハァ、ハァ……」  そんな期待を抱いているのに、いつまで待っても彼の手は動いてくれません。不思議に 思って彼の顔を見てみると、そこには冷笑が浮かんでいました。 「触ってもらえると思ったか?」 「……え?」 「勘違いするな。俺の目的は印を見つける事。お前を悦ばせる事ではない。先ほどは触れ て分かる印かどうか確かめるために触っていただけだ。それがないと分かった今、お前の 身体を触るつもりは無い」 「そ、そんな……」  それは私に絶望を与えるのに充分な言葉でした。  ようやく充分な刺激がもらえると期待していた胸は、もう痛いほどに痺れています。こ のまま放っておかれる事を考えると、恐怖すら抱いてしまいます。  私は自分の身体をコントロールする事もできず、そんな心情が素直に表情に出たのでし ょう。彼はからかうように口を開きました。 「何、心配するな。少なくとも見ることはしてやる、それもたっぷりとな。お前ならそれ でも感じられるだろう」  侮蔑とも受け取れる彼の言葉。ですがこの時の私は、それを否定できません。いえ、内 心では肯定してしまい、あまつさえ褒め言葉のように感じてしまっています。  触ってもらえないのなら、せめて舐めるように視姦してほしい。  そんな年頃の女の子として決して抱いてはいけない屈辱的な想い、そしてその想いを彼 に伝えるような淫らな表情を消す事ができないのです。  彼は、そんな惨めな期待を消す事ができない私を楽しそうに見つめながら、その顔を胸 に近づけてきました。


第三話へ