第五話


(まさかちょっとアナル弄っただけで、あんな声出すとはな……くく、結構敏感やねんな)  ゆっくりとスカートの中に手を入れお尻に食い込んだ下着を直す真由の姿を見ながら、 陽は声を出さずに笑いを浮かべた。  受付で彼女に飲ませたジュースに、媚薬系の薬草は入れていない。にも関わらず、軽く 肛門を弄られただけで、真由は甘い声を漏らしてしまったのだ。それはすなわち、肛門を 触られて感じたような声を出したのは、真由が持っている感度のみからきているという事 である。 (せやけど、あの顔感じて恥ずかしがってる様には見えへんな。まさか、感じたいう事に も気づいてへんのか?)  真由の表情はもちろん恥らっているが、それはお尻の穴を触られた事、そして今の下着 の食い込みを直している姿に対するものだ。  そんな彼女の様子に、陽はやや上方を見上げ、少し考え込んだ。 (……ま、俺には関係ないか。それよか、もうちょい恥ずかしがってもらうか)  彼はこのホラーハウス内でのイタズラで、女の子をイかせようなどとは思っていない。 もちろんそういった姿を見るのは楽しいし、実際にイかせる事も嫌いでは無い。だが、こ のホラーハウス内の仕掛けや彼の行動は、あくまでも女の子を恥ずかしがらせるためのも のなのだ。感じさせる事が目的では無い。  そう判断した陽は再び笑いを浮かべながら、離していた両手を組み直し、それを顔の前 まで持っていった。                    ※ 「すんすん」 「っ!な、何、今の!?」  下着を直していた真由は、自分の右後ろから聞こえた音に反応し、慌てて声のした方向 を振り向く。だが顔だけ向けたためそちらには明かりはなく、何も見えない。それに気づ くと懐中電灯をそちらに向けるが、もはやそこには何も無かった。  しばらくその辺りに明かりを向けていたが、結局何も見つからない。音の主を見つける 事を諦めた真由は、再び前を向いて下着を直す。しかしその間も、さっき聞こえた音の事 を考えてしまう。 (なんだったのかしら、今の。なんだか、鼻を鳴らしていたような音だったけど……鼻!? まさか……)  最悪の予想が頭をよぎった。  恐らく今の音は、さっきから自分を辱めている、ここのオーナーがたてたものだろう。 ならばなぜ今まで物音一つたてず、気配すらうかがわせなかった彼があんな音をたてたの か。  それは今までの彼の行動を考えれば、一つの仮説がたてられる。いや、それ以外の可能 性は無いと言って良いだろう。だがそれは、少女にとって辛すぎる事実だった。 (私のお尻の穴を触った指の匂いを嗅いでいる……?)  今までこのホラーハウスのオーナーは、真由を恥ずかしがらせる仕掛けと行為を行って きた。それならば、さっきの音もそれが目的であろう。  その事とさっきの音を合わせて考えると、彼の行動は一つしか考えられない。少女とし て、いや、人間としても最も恥ずかしい部分を触られた匂いを嗅ぐ。まだそれが確かかど うかは分からないが、一度想像してしまうと、それ以外の考えは頭から消え去ってしまっ た。 (ウソ……そんな……)  スカートの中に手を入れたまま、真由は呆然と立ち尽くす。そんな彼女に追い討ちをか けるように、今度は真後ろから音が聞こえてきた。 「すんすん」 「ぅ……止めなさいよぉ!」  一瞬身体を震わせた後、真由は震える声で叫びながらそちらに懐中電灯を向ける。だが、 やはりそこには誰もいない。弱々しい明かりが闇を照らすだけである。  彼女の強気そうな瞳にはもう完全に涙が浮かび、今にも零れ落ちそうである。必死に泣く 事はこらえているが、彼女はその羞恥に歪んだ表情が、どれだけ男をそそらせるものなのか に気づいていない。もはやその表情から怒りは消え、ただ恥辱だけが感じられた。 「うっ!」  男の姿が捕らえられない事に、真由はかんしゃくを起こしたように手を振り回し、辺り 一面に明かりを向ける。それでも人影を捕らえる事はできず、彼女は十秒ほどそうした後 息を荒げながら下を向いた。 (ダメ、落ち着かなきゃ……こんな事してたら、また変な事されちゃう……)  さっき懐中電灯を振り回していた自分は、本当に隙だらけだった。またカンチョウをさ れていてもおかしくないほどに。もしそんな事をされていたら、彼女は間違いなく崩れ落 ちて泣きじゃくっていた事だろう。  そうされなかった事をありがたく思いながらも、彼女は冷静に考える。 (大丈夫……いくらお尻の穴を触られたっていっても、スカートと下着の上からだもの。 指に匂いなんてつくはずない……)  理性的に考えればその通りだ。だがそう考えたところで、羞恥心が消えるはずも無い。 いくら自分を納得させようとしても、恥ずかしさは消えるどころか、より燃え上がってい く。  それも当然だろう。いくら匂いは分からないとはいえ、確かに肛門に触れた指の匂いを 嗅がれたのだ。それも大きく鼻を鳴らしてである。少女の心がそれに耐え切れるはずも無 い。  そして、もし万が一匂いが指に付いていたら―― (っ、そんな訳ない!毎日ちゃんと洗っているし、今日はトイレにも行ってないし――)  そう考えたところで思考が止まる。ならば、もし今日トイレで用を足していたら? (うぅ……そんな事考えても意味ないでしょ!)  大きく頭を振り、その考えを振り払おうとする。だが頭から消そうとすればするほど、 その考えが思考を埋め尽くしていく。 (ダ、ダメ!落ち着かなきゃ!)  再びさっきのようにパニックに陥りかけたが、今度はすぐに顔をあげて周囲を警戒する。 先ほどは何もされなかったが、今度もそうとは限らないのだ。  そうして落ち着くと、下にあるラインを照らし進行方向を確かめる。と、一瞬彼女は身 体を震わせた。 (寒い……さっきまでは動いていたからそんなに感じなかったけど、止まっていたら結構 寒いわね)  カンチョウされた事による驚きと、その後のかんしゃくを起こしたような行動で身体は 温まっていたが、立ち止まっていると、再び汗が冷えてくる。一瞬軽く両手を身体を抱く ように回すと、彼女は出口に向かい進んでいった。 (どっちにしても、ここから出なくちゃ。そうすれば、警察に訴える事もできるんだから)                    ※ (さて、落ち着いたみたいやな。ちょっといぢめすぎてしもたかなぁ)  歩みを再開した真由を見つめ、陽は少し安心した様な笑みを浮かべる。  あそこで泣き崩れられていたら、陽としても困った事態になっていた。普段はここまで しないのだが、彼女の強気そうな顔を見ていると、ついいぢめたくなったのだ。 (俺って結構サディストなんかなぁ?)  第三者が聞けば当然だろうと答えるであろう事を考えながら、彼は自分の指を見つめる。  彼の嗅覚は一般人より遥かに鋭いが、それでも匂いはほとんど感じ取れなかった。若干 匂いはしたが、それは汗の匂いといった方がいい。 (まぁええわ。別に匂いが嗅ぎたかった訳やないからな)  あの行為の目的も、あくまで彼女に羞恥を与える事だ。そしてそれは十二分に成功した。 あの強気な顔が泣きそうなまでに羞恥に歪んだ様子は、目を閉じれば簡単に蘇る。  そんな事を思いながら、再び彼女の後をついていく。 (さて、もうちょいで二階も終わりやな。最後まで楽しませてや)


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