第二話


『ォォオオルォオオオ!』 「っ、く……」 パシャ!  道の脇にある古井戸。そこからお約束のように首吊り幽霊が現れる。  そう、それはお化け屋敷でのセオリー、今さらといっても良い表現である。しかし真由 は、その使い古されている仕掛けにすら驚いてしまう。  それもこれが最初ではない。最初の幽霊が現れた後、すでに先ほどの首吊り幽霊も含め、 五体の幽霊が現れている。それらは全てありきたりの物、小学生ですら怖がらないであろ うシチュエーションである。  しかし、それら全てに真由は過敏に反応していた。悲鳴こそあげないものの、その表情 は驚愕に歪み、身体を大きくひねってしまう。その度に彼女のスカートはめくれあがり、 上品な白の下着を晒してしまっていた。  無論、先ほどの首吊り幽霊の時も例外ではない。しかし、一つ違いがあった。それは、 めくれあがったスカートをすぐに手で押さえたという事である。 (やっぱり、スカートめくれていたのね……まさか、さっきから撮られている写真に……)  想像したくない事実に気づいた真由の頬は、一層赤みを増す。それは悔しそうな表情と あいまって、実に男を興奮させるものとなっていた。 (何を考えているの、ここのオーナーは!もし下着が写っていたら、セクハラじゃない!)  下着を見られていたかもしれないという羞恥を打ち消すため、真由は自らの意思で怒り の表情を浮かべる。しかし自分でも熱くなっているのが分かる頬の赤みが、怒りではなく 羞恥から生まれているものだと言う事は、真由自身がよく分かってしまっていた。                    ※ 「はは、気ぃ付いたみたいやなぁ。ま、どうにもならんけどな」  モニターに映る真由の表情からは、今までとは違う羞恥と怒りがにじみ出ている。陽は そんな表情の変化を楽しそうに眺めながら、今までに撮った写真をプリントした。 「ふん、えぇ出来やな」  撮られている写真は、一回につき三種類。それらは全身、上半身、そして下半身の写真 である。  全身を写したものは、まさに真由の驚く様の全てを写している。恐怖に歪む顔、縮こま らせた身体、そして大きくめくれあがり、意味を為さなくなってしまっているスカート。 それら全てが、彼女の驚愕を表していた。  陽は最後に撮られた写真に目を移す。それは首吊り幽霊の時の写真で、真由は意識的に スカートを手で押さえようとしている。しかしその努力は実を結ばず、結局下着は写され ている。しかも隠そうとしている分、下着を見られている事に気づき始めている彼女の恥 ずかしさを表現してしまっている。    そして上半身、下半身の写真は、それらの部分部分を強調している。  上半身の写真は、彼女の驚いている表情がアップになっている。しかし、この写真で最 も目に付くのは、彼女の胸の部分である。  全身の写真では遠くて分かりにくかったが、この写真では透けて見えるブラの様子がよ く分かる。彼女も透けた制服については、全く気づいていないのであろう。モニターに映 る真由は、模様まではっきりと観察できるほどにブラを見せながら、逆に胸を張って歩い ている。自分が怖がってなどいないという事を、自分自身に言い聞かせるためか。ともか く彼女の慎ましやかな胸は、ある意味直接胸を見せるよりも、いやらしい状態となってい た。    さらに下半身の写真である。それはまさに、大胆にめくれあがった彼女のスカートの内 部を写していた。  それは何も、かわいらしいショーツだけではない。胸と同じく、ほっそりとした脚も写 し出されている。  まだ脂肪の少ない、少女特有のみずみずしさを感じさせる彼女の脚は、毛や染みといっ たものは全く見当たらず、スカートの影の中、白く映えている。  そしてその表面には、玉のような汗が滴っている。あのサウナのような暑さの中にいる のだ。もちろん汗をかくだろうが、顔とは違い、スカートの中の汗をぬぐうわけにはいか ない。  それらの汗は滴り落ち、彼女の白い靴下を濡らしていく。後半の写真になれば、彼女の 靴下は色が変わるほどに濡れてしまっていた。  そしてそれは靴下だけではない。上品なショーツも、彼女の汗を吸収しているであろう。 さすがにまだ濡れているとまではいかないが、それでも写真からでもショーツの湿り気が 感じ取れる。おそらく、今そのショーツをはいている真由は、股間を襲うじっとりとした 不快感を感じている事であろう。  それらの写真を確認した後、陽は再びモニターを見る。そこには先ほどと同じ表情で、 慎重そうに歩を進める真由が映っていた。 「そろそろ一階は終わりやな。さて、最後の反応はどんなんやろな」                    ※  墓地内を歩く真由のスピードは、決して早くは無い。時折周囲を見渡しながら、何が来 ても驚かないように注意しながら進んでいく。  しかし首吊り幽霊の後、幽霊は全く現れる気配は無い。それでも真由は緊張を解かず、 あくまでも慎重に歩を進めていく。  と、道の奥の方に、受付で見たような扉があった。 (ひょっとして、あれが一階の終わり?)  真由の考えは当たっていた。その扉の奥には、一階と二階をつなぐ階段が設置されてい た。無論真由はそんな事は知らないが、この状況で扉が見えれば、それは間違いなく出口 だと思うであろう。彼女はその考えを確かめるため、若干足を速めて扉へと向かった。 (こんな所早く出て、文句でも言わないと!)  終わりが見えた事で、真由の思考の大半はこんなセクハラまがいの施設を作ったオーナ ーへの怒りで占められた。  その怒りにより冷静さが失われ、今まで保ってきた注意力が散漫になってしまった。急 いで出口へと向かう真由は、扉直前の草むらから聞こえたガサッという音に慌ててそちら に顔を向けた。 「え?」 『ウォォオオオオオオン!』 「っ!?」  今までと全く変わらない、ちゃちな仕掛け。真由はそれに驚きながらも、さすがに慣れ たのか身体はほとんど動かさない。わずかにスカートが浮き上がるが、口元に当てている 手で押さえなくとも下着が見えるほどではない。 (よかった……今度は下着は見えていないわよね)  安堵の表情を浮かべる真由。しかし、やはり驚いた事による動揺はあったのだろう。今 まで聞こえていたカメラのシャッター音が、今回は聞こえなかった事に気づけなかった。  ヒュオウ! 「え……きゃあああああああ!!」 パシャ!パシャパシャ!  直後、真由の足元から強風が吹き上げた。彼女のはいているスカートは、まるで地下鉄 の送風孔からの風を受けたように、今までよりもはるかに大きくめくれあがってしまって いる。  幽霊に驚き、さらに突然の風に戸惑った彼女の手は口元にそえられたままであり、スカ ートを押さえる事も忘れている。かわいいおへそが見えてしまうほどにスカートがめくれ あがっている彼女は、突然の事態に混乱し、堅く目を閉じて下着を丸出しにしたまま立ち 尽くすしかできなかった。  ヒュウゥゥゥ……  たっぷり10秒ほど経過しただろうか。ようやく真由の足元から巻き上がる風は収まり、 同時に彼女も瞳を開け、さっきの状況について考える。 (な、何なの、今の風は!?スカートをめくるためのものとしか考えられないじゃない!)  真由の表情は、激しい羞恥と怒りに染められていた。  今までは下着を撮られていたかもしれないという憶測だけであったが、今回は違う。あ れだけの強風の中、自分のスカートがめくれていたという事は間違いない。しかも今回の シャッター音は、周囲の数箇所から聞こえてきたのだ。驚いた表情など見えるはずも無い 後方からも。  先ほどまでは確信は持てなかったが、今の風は決定的な証拠といって良い。確かに驚い た事は驚いたが、それはホラーハウスでの脅かし方ではない。ならば、なぜあんな仕掛け を用意しているのか。その応えはもちろん1つである。 (やっぱりあのカメラ、私の下着を写すためのものだったのね……)  このホラーハウスのオーナーは、そんな真由の姿を見て笑っているであろう。  男嫌いとまではいかないが、周りにいる男子に興味は無く、また自身も性的な事に対す る興味が薄い真由は、見知らぬ男にいやらしい目で見られていたであろう事に、深い恥辱 を覚えた。  しばし俯いていた真由だったが、キッと顔を上げると、目の前にある扉を睨み付けた。 (見ていなさい、もう絶対に下着を見せたりしないから!そして、絶対に訴えてあげる!)  下着を写真に撮られ続けていたという恥ずかしさと、まだ見ぬこのホラーハウスのオー ナーへの怒りをあらわに、耳まで真っ赤に染めた少女は扉に手をかけ二階へと進んでいっ た。


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