■第九話


次の駅に着いたときも、手が固定されているせいで動けなかった。
降りようとしているおじさんに邪魔そうな顔をされた。
あまり派手に動くとコートがはだけてしまうのでビクビクしながら最小限の動きで人の波をやりすごす。

その間もローターとバイブは容赦なく私の中で動き続ける。
(もう・・・おかしくなりそう・・・)
乗ってくる人が少なかったので電車の中が少しすいてきた。

不意にローターとバイブの動きが止まる。
(・・・・・え?)
「それ二つともリモコン式なんだよ」
そう言って手に持ったリモコンを見せる。
「止められて物足りないか?」
図星だった。ずっと振動に晒された私の敏感な部分が切ない。
「・・・・いえ」
でも絶対に認めたくない。
「そうかそうか。まあ、さっきより強く動かす事も出来るから、いつでも言ってくれ」
さっきより強く・・・そんな事をされたらどうなってしまうか、想像するのも怖かった。
でも少し・・・ほんの少しだけ、それに期待してしまい自己嫌悪に陥る。

「さて、じゃあまた脚上げろ」
平然と命令してくる男。
「そんな・・・前が見えちゃう」
コートの前はボタンが無い。ただでさえ手が使えないのに、脚を上げたら開いてしまう。
「この位置なら駅に着くまで誰にも見られねえよ」
確かに、今いる位置はドアのすぐ前で、私の正面には誰もいない。
走っている電車の中を見ている人もそうそういないとは思うが・・・
「でも・・・・」
「しょうがねえな」
渋っていると男はポケットから安全ピンを出してコートの前を留めた。

「これで開かないだろ。脚上げろ。写真とビデオばら撒かれたいか」
やはり逆らえない。今度は何をされるのかビクビクしながらも言われた通りにするしかなかった。
すると男は再びポケットから中に手を入れ、足に紐を巻きつけた。
そしてそれを上に引っ張り、襟から出してつり革につなぐ。
「ううう・・・・」
私は片脚を持ち上げた状態でつり革に吊るされる形になった。
コートがめくれたらおま○こが丸見えになるだろう。
今は安全ピンがついているのでなんとか隠されている。

しばらくその体制で電車に乗り続け、私が降りる駅に到着した。
しかし拘束されたままで降りられない。
「あ、あの。降りるんですけど」
「降りればいいじゃないか」
乗り降りする人たちが横を通りながら怪訝な顔をする。

少し声のトーンを落として言う。
「はずしてください」
「んー・・・・・」
そうこうする内に発車ベルが鳴り出す。
「速くはずして・・・!」
「わかったわかった」
そう言って男は、コートの前を留めていた安全ピンをはずした。
「なっ・・・!」
電車のドアが閉まるのと同時に、コートの前がはらりと開いて、中が丸見えになる。
駅のホームにいた学生のグループが目を丸くしていた。
「いやぁっ」
すぐに男が前に立って視界を遮ったので見られたのは一瞬、それでも恥ずかしかった。
そうこうする内に扉が閉まり、電車が走り出す。

「あああ・・・」
降りるはずだった駅を乗り越し、絶望的な気分だった。
「なんだ? はずせって言ったのはお前だろ」
「そんなのっ」
抗議しようとして止める。何を言ってもどうにもならないし、大声も出せない。
男が飽きるのを待つしかない・・・

「いい格好だな。なかなか絵になる」
そういって鞄をチラチラと見せながら笑う。
鞄の隙間からはカメラのレンズが覗いていた。今までの電車内での痴態も全部撮られていたんだろう。

「テープも残り少ない。そろそろ終わろう」
またニヤリと笑って告げる。

このまま無事に終わるとは思えなかった。


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