■第一話


朝の通学。満員電車。
前に立っているおばさんの鞄にそっと手を入れ、財布を抜き取る。
少しの罪悪感とゾクゾクするくらいのスリル。

私はスリが得意な女子高生。

どうしても欲しい高い服があって、出来心でやったのが最初。
それ以来病みつきになってしまい、お金に困っていなくても週に1,2回やっている。

バレたら停学どころか退学は確実。警察沙汰にもなるだろう。
だからこそ味わえるスリル。退屈な毎日を送るだけだった私には欠かせない物になってしまった。

その日も、いつもの様に駅のホームで標的を決めて近くに寄った。
今日の獲物はコートを着た30歳くらいの男。
コートのポケットの膨らみが財布の場所を主張している。

電車が到着して人が乗り降りする。
私は上手く男の横に入り込むことの成功し、電車が発車する。
大きく動いて目立たないよう、少しずつ手を伸ばし、ポケットの財布を掴んだ。

(あとは引き抜くだけ・・・)
と、その時、ガタンと電車が大きく揺れた。
「うわっ」
少しよろけたけどスシ詰め状態の電車では転ぶことはまず無い。
落ち着いて顔を上げると・・・男と目が合った。
そして男の視線は私の顔から腕、そして男のポケットに入れられた手と、そこに握られた財布へ。
「あ・・・あの、」
言い訳しようとしても思いつかない。これはヤバイ。
しばらく固まったまま睨まれていたら電車が止まった。

「降りろ」
「えっ」
手を引っ張られて電車を降ろされる。私が降りるのはあと3駅先なのに。
(これじゃ遅刻しちゃうな。でもどうせ退学かな)
なんて事をぼんやり考えながら手を引かれて駅を出た。
(あれ? 駅員に突き出すんじゃないの?)
困惑しながら歩いて小さな公園につく。そしてそのまま男女共用トイレの個室に連れ込まれた。
(えええ??)

予想以上に危険な状況になっている事にようやく気付いた。


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