「羞恥都市・・・葉塚市おフェラハウス」


  その建物は、葉芽手川が海に流れ込む河口付近にあった。  横から見ると世界的に有名なオーストラリアの某オペラハウスに似ているのだが、正面入り口から見ると、  その姿は一変する。  真正面から見たその建造物は、女性の性器をデフォルメしたような形をしていた。  淡いピンク色に塗られた二枚の壁が緩やかなカーブを描いて上下で繋がっており、その一番下の部分にホール  への出入り口がぽっかりと開いていた。  壁の最上端部分、丁度女性の陰核がある部分には、ガラス造りのドーム状展望台が突き出している。ご丁寧  にも普段は電動式の布カバーで保護されていた。 「どうですか? なかなかエロチックな建物でしょう」  市の観光課の職員で、沙羅さんという名の女性が耳あたりのいい声で言った。  グレーのスーツを見事に着こなし、セミロングの髪をした、銀縁メガネの良く似合う色白で知的な美人である。 「え…ええ。そうですね、なかなか素晴らしいデザインです」  私は持ってきたデジカメで、建物の様子を撮影しながら言った。申し遅れたが、私の名は香家 泰三(かけ   たいぞう)写真家である。  二年程前に出した「建築のエロス」という写真集が幾つか賞をもらったりしたので、写真家の中ではちょっとは  名が売れている方だと自負している。  そろそろ次回作を…と、取材対象を物色していた私のところに一通のメールが来たのが数日前。  存在すら知らなかった、葉塚市という町の観光課からの招待メールだった。  私の写真集に市長が興味を持ち、市内に幾つもあるエロチックな建造物を次回作で使って欲しいというのである。  添付されていた数枚の写真を見た私は、即座にOKのメールを出し、溜まっていた仕事をやっつけてこの街へと  やってきたのだ。  ここはまさにエロチック建造物の宝庫だった。けっこうあからさまな格好のものが多いのだが、それが決して下品  に感じられない。いや、かえってこの都市の中にあっては強烈な美を発散していさえする。  私はこの街に魅せられていた。市内数箇所の建物を撮影し、そしてついに最大クラスの建造物を撮影するために  町外れにやってきたのだ。 「素晴らしいオペラハウスだ。胎内回帰願望を満たしながら聴く名演奏…まさに胎教音楽というべきでしょうね」  写真を撮りまくりながら言うわたしに。 「いえ、この建物は、オペラハウスではなく、おフェラハウスなんですよ」  沙羅さんがそう説明してくれた。 「はぁ?」  私は聴き間違いじゃないかと思い、ちょっと間の抜けた声を出していた。  銀縁メガネが良く似合う知的な美女が口にするには、露骨過ぎる言葉に思えたからだ。「ここで立ち話もなんです  から、中でお話しいたしますわ」  沙羅さんはそう言って色っぽい笑みを見せる。  私は彼女の後をついて行き、建物の中に足を踏み入れた。  内装は鮮やかなピンク色で統一されており、足元にはクッション性の高い、細かいひだのある絨毯がしいてある。  これも艶かしいピンク色だった。  玄関ホールを入ってすぐの所にビニールカーテンのようなものが張られていた。  塗装工事などに使われる、マスキング用のビニールシートのようなものが通路を塞ぐように張られている。 「これは? まだ中は工事中って事ですか?」  沙羅さんに尋ねると、彼女はにっこりと笑って。 「いいえ。これは、お客様へのおもてなしですわ。さあ、破ってあげてくださいな」  そう言われて、私は察していた。この建物は、外見だけではなく、内部まで女性器を模しているらしい。  つまり、これは処女膜なのだ。  私は奇妙な興奮を覚えながら足を進め、膜の真ん中に人差し指をあてがっていた。  ゆっくりと指の圧力を強めると、ビニールシートが伸び始め、指先に抵抗が伝わってくる。さらに指を付きこむ  ようにすると、ついに指先がプツリ、と音を立ててシートを突き破っていた。  言いようのない爽快感に身体が震える。  少し鼻息を荒げながら、指が開けた穴を破り広げ、引き裂いていく。本能のままに引き裂き、私は膜の向こう側  に強引に身体をねじ込んでいた。 「お気にめしましたかしら?」  私に続いて破られた膜をくぐってきた沙羅さんに、私はちょっと恥ずかしげに頷いて見せた。  少し恥ずかしい所を見られてしまったかもしれない。さっきの行動は、エロティシズムというより獣欲と呼んだ  ほうが良さそうな感じだったから…。  私と沙羅さんは、ホールの中に入っていた。 「さっきの幕、新作の処女公演の時には必ず張りますのよ。それで、演出家とか主演の俳優さんに破っていただき  ますの。一種の願掛けみたいなものですわね」 「そうなんですか、なんとも凝った趣向ですね…」  ホールの内装はやはり赤系統で統一されており、座席と座席の前後間隔がかなり大きく取ってあった。ちょっと  不自然に思えるほどのゆとりを持って作られている。  舞台もなかなか立派なつくりだった。 「さっきの言葉の意味、おわかりになりますわよね?」  沙羅さんがそう言いながら近付いてきた。 「え? ああ、この建物の名前ですね?」 「ええ。この建物の本来の目的は、こうすることですのよ」  優しく肩を押され、私は座席の一つに腰を降ろしていた。目の前ではさっきとうって変わって淫靡な笑みを浮かべた  沙羅さんの顔がある。 「ほら、聞こえるでしょ? 淫らな本能の音楽が…」  甘い吐息がかかるほどの距離で言われ、私は耳を澄ます。  かすかにキーンという甲高い音が聞こえたような気がした。 「ご奉仕、させてくださいね」  赤いルージュをひいた唇が、信じられない言葉を漏らし、私は黙って頷いていた。ここではそれが当然の行為のよう  に思えたからだ。  椅子にかけたわたしの前にひざまずいた沙羅さんが、すでに半ば勃起していたペニスを引っ張り出し、ためらう事  無く口に含んでいた。 「うわぁぁ!」  火傷しそうに熱く湿った口腔内に含まれる心地良さに、ちょっとなさけない声を上げてしまう。  彼女の口腔内で、わたしの恥知らずなムスコはあっという間に最大サイズにまで勃起していた。 「・…」  目だけで笑った沙羅さんは、本格的な愛撫を開始していた。ゆっくりと吸引が強まり、口腔内の粘膜がうねうねと  まとわりついてくる。  舌も動き始め、かすかにざらついた感触が、はちきれそうな先端部をソフトに這い回り、熱い唾液を塗り込めてくる。  生まれて初めて体験する濃厚で執拗な口唇愛撫だった。沙羅さんの少し苦しげな息遣いと、ぴちゃぴちゃという唾液  音が私の興奮をさらに高めていく。  その頃になってやっと、前後のシートの間隔がやたらと広かったことの意味に気づいていた。この建物はもともと  この行為のために設計されているのだろう。  一応、広くて立派な舞台もあるので、劇場としても十分すぎる機能は持っているのだろうが、ここは奉仕する者と  される者のための空間なのだ。  沙羅さんは巧みだった、すぐに絶頂に至ってしまうような強い刺激を避けながら、じっくりとわたしの快感を高めていく。  息遣い、舌なめずりの音、羞恥のためか、あるいは興奮しているのか、ほんのりと染まった目元の色っぽさ。わたしの  ものを柔らかく締め付けてくる赤いルージュを引いた唇の柔らかさ、まとわりついてくる舌のざらつきがわたしの快楽  神経をかき鳴らし、痺れるような快感が背筋を這い登ってくる。  膝がガクガクと震え始め、わたしの限界が近いことをさとった沙羅さんは、一旦口を離し、よだれと先走りに濡れ光る  胴の部分をてろてろと舐めながらしばらくクールダウンさせる。  銀縁メガネの奥でとろんと潤んだ瞳が素晴らしく綺麗だった。女性のこういう表情ばかり撮って見るのもいいかも  しれない…等と快楽にぼやけた頭の中で考えてしまったりもする。 「せっかくですからわたしのおっぱいでもご奉仕しますわ」  彼女は胸元をはだけ、ブラをずらして見事なバストを剥き出しにすると、それでわたしの勃起を挟み込んできた。  えもいわれぬ柔らかさに包み込まれ、思わずのけぞってしまう。 「パイずり…気持ちいいでしょう」  興奮にかすれた声で彼女は言うと、双乳の間に口元からトロトロと唾液を垂らしてローション代わりにすると、  クチュクチュと音を立ててこね回し始めた。  甘美な柔肉の嵐の中でわたしの勃起はもみくちゃにされ、谷間から時折顔をのぞかせる先端部を鮮紅色の舌が  チロチロと這い、むず痒い疼きを送り込んでくる。  あっという間に限界がやってきた。 「うううっ! 出るっ!」  少年のようにうめきながら大量に迸らせていた。脈動を始めてもなお揉みこねることをやめていない彼女の  美貌をわたしの放ったものが白く汚していく。  数回の放出分を顔で受け止めたあと、まだ放出を続ける先端部がくわえ込まれ、脈動にあわせて吸引される。  気が遠くなりそうな快感だった。私は迷う事無くその快感に身を委ねていた。  しばらく放心状態だったらしい。こんなに凄い絶頂感を味わったのは生まれて初めてだった。 「お粗末様でした…」  目の前で、私が放心しているうちに身づくろいを済ませたらしい沙羅さんが嫣然と微笑んでいた。 「…いや…」  何となく気恥ずかしくて、彼女の顔をまともに見れなかった。まるで少年の日に逆戻りしたみたいだ。 「いかがですか、この街、お気に召しまして?」 「ええ。もう離れたくない気分です…」  滞在先のホテルに向かう車の中で、そういう会話をしたような気がする。  翌日。  私は市の住宅供給公団が用意したアパートに引っ越していた。転入届はまだ出していないが、そんなものは  どうでもいいような気がしている。  恐らく私は行方不明者のリストに載ってしまうのだろう。  毎年何千人も発生する行方不明者の何割かは、こうして新たな楽園を手に入れているのではないかな…等と  最近は思うようになっていた。  高台にあるアパートの窓からは、あの「おフェラハウス」が見える。  明日はあそこで彼女と会う予定だ。


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