「羞恥都市・ケーキショップ」後編


「ん―――――――――ッ!!!」
 涙で潤んだ瞳を目隠しの下で見開き、椅子をガタつかせながら猿轡の下から悲鳴を迸らせる。なにせ、乳首は大きすぎる乳房と並んで春香のコンプレックスの最たるものだからだ。
 真っ白いふくらみの先端にあったのは、硬く尖った乳首ではない。ぷっくりと膨らんだその部分は、肌と乳輪の色の境が曖昧で、乳首があるべき部分には小さな縦筋が入っているだけだ。
『これはこれは、見事なまでの陥没乳首。当に興奮して勃起していてもおかしくないのに、いまだに完全に隠れてしまっているとは。実にお見事』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……ッ!!!」
 目隠しの下で恥ずかしさと悔しさとが混ざり合った涙が溢れ出る。この街で何度も男性に抱かれ、そのたびに嘲笑と弄ばれる対象とされてきただけに、コンプレックスは強くなっているほどだ。
 けれど、その先端の膨らみを指先でつつかれると、春香は頭を大きく後ろへ跳ね上げた。
「んんんゥ!」
 目隠しをされている分、敏感になっている……それでも信じられないぐらいに激しくて、けれど春香の強張りを甘く蕩かす快感が女性の指先から流れ込んでくる。縦筋をなぞられ、乳輪を中心にシロップを塗りこまれると、否応なしに甘さと困惑の交じり合った吐息がこぼれてしまい、埋もれた乳首にもズキンと重い疼きが沸き起こる。
「―――安心して。痛いようにはしないから……身体の力を抜いて……」
「んっ……ん………」
 男性の声を聞かされる通信機をつけられたのとは逆の耳に、優しい……どこかで聞いた覚えのある声で女性が囁いた。それが誰の声なのか……思い出す前に、女性はシロップにまみれた手の平を大きく使い、初めて春香の乳房をこね回しだしてきた。
「んっ……! んんゥ………!」
 ゆっくりと、春香が痛みを感じない強さを探るように女性の手に力が加えられていく。
 それがやがて強弱のリズムをつけ、つきたての餅をこねるように細い指を食い込ませて春香の乳房の丸みを歪にゆがめ、形をひずませ、丹念に揉みしだく。
「んムゥウぅぅぅ……!」
 今までに春香の乳房を揉みしだいた男たちの誰にも、この女性の手ほどに感じたことはない。今まで自分でも知らなかった乳房の感じるポイントが次々と掘り起こされ、さながら壊れたピアノを奏でるかのように女性の指先ひとつで押し殺されたふしだらな声がノドの奥から沸き起こる。
 そうして全身をヒク付かせながら声に鳴らない声を上げていると、春香の意識は女性の手指にのみ集中していく。シロップにまみれたロケットオッパイが刻々と形を変え、乳肉に埋もれた乳首を乳輪ごと絞り上げられて悶える様を黒山の人だかりの前で晒しているというのに、もう戸惑う事さえも忘れて快感に……今まで知ることの無かった身も心も委ねられる快感に悦び喘いでしまっていた。
「んっ、くフッ、んっ、んゥ、ん、ふゥ、んっ、んッ、ん…ッ〜〜〜!!!」
 乳輪から乳首の埋もれた縦筋へと指先がすべると、途端に春香の身体が跳ね上がり、張り詰めた膨らみが跳ね踊った。普段隠れている成果、クリトリス並みに敏感な乳首が、引きずり出されてもいないのに先端を覗かせていたせいだ。
「ッ………!」
 たっぷりのシロップローションという潤滑液があったとはいえ、自らの勃起だけで頭を出した乳首に、驚きと恥ずかしさを隠しきれない。しかも、春香の乳首勃起を助けるように女性の指先がピースで乳輪をはさむように添えられ、他の指も巧みに動かして内側から押し出すように力が加えられると、鼻を鳴らすような喘ぎ声を漏らしつつ、あまたの観客たちに向けて小指の先ほどもある大きな突端を、遂に“ぷりゅん”と突き出してしまった。
「んフゥうぅぅぅぅぅ……!」
『おお、これは大粒で見事なイチゴだ。噛り付いたらさぞかし美味しいでしょうなァ』
 無理やり引きずり出される事なく、陥没した乳首の全貌が露わにされると、女性の手指も少しの間だけその動きを止めていた。その間隙を埋めるように通信機から脂ぎった男の声が耳の奥へ流れ込んでくると、背骨に冷水が流し込まれたかのようなおぞましさに身を震わせつつ、春香の意識は一気に現実へ引き戻される。
『大勢のお客様が涎を垂らして見つめていますよ、あなたの素晴らしい“イチゴ”を。でも残念なことに二つしかない。下の分も含めて三つですか。これはお客様には順番に何度も召し上がっていただくしかありませんねェ』
 恥ずかしくも甘美な余韻の時間を突然中断された春香の脳裏に、好色さをイヤでも感じる脂ぎった声が響き渡り、自分の恥ずかしい乳首に突き刺さる何十もの視線のイメージが一気に溢れかえる。
「んっ!? んムっ、んんんんんんぅ!?」
 破裂寸前の水風船のようにパンパンに膨らみきった乳房に、姿を現せば他の人よりも明らかに大き過ぎる乳首。
 めったに目にできないドスケベボディではあるが、春香にとってはどうすることもできない二大汚点でしかない。圧力さえ伴いそうな多数の視線が自分の恥部に突き刺さるのを想像するほどに全身が萎縮し、半ば隠された表情にも緊張の色が浮かべて猿轡をキツく噛み締めてしまう。
 けれどそれとは真逆に、突出してしまった乳首には何度も重たい疼きが駆け巡っている。
 心臓を鷲掴みにされているような胸の苦しさが強くなるほどに、噛み締める唇の端からは涎が溢れ、全身にブルッと震えが走った。激しくなる心臓の鼓動にあわせ、イチゴと称されたピンク色の突端も痛いぐらいの脈動し、張り詰めた豊満バストをプルプルと震わせてしまう。
「んっ、んゥ……!」
 最悪の結末が訪れる可能性は十分にある。ここは羞恥都市。全ての女性は辱められるために存在し、男性たちのすることには逆らえず……そしてその先のことを考えただけで、開く事を強制されている春香のヴァギナはキュッと緊縮してしまっていた。
 ガラスの向こうから注がれる視線は春香の胸ばかりではなく、形よく盛り上がり、愛液を吸った水着を張り付かせている股間にも熱い視線が注がれている。
 片足を手すりに乗せられ、隠す事も許されない。
 そして椅子から滴り、床に水溜りを作るほどに溢れ出した愛液が、春香がどれほど欲情しきっているかを雄弁に物語っている。
 仮にこれが葉塚市に長年暮らしている女性なら、また反応は違っただろう。しかし春香は今年から葉塚市に移り住み、男性との経験もそう多くは無い。これから自分が男性たちに犯されるのだという恐怖が意識を埋め尽くすと、小さな震えが淫靡に濡れる身体に広がり始める。
 けれど、
『しかし、これほど美しく出来た極上のイチゴのケーキを、グチャグチャに食い散らかされてしまうのも惜しいですねェ』
 度重なる羞恥の連続に、通信機からの言葉にすら春香の理解が追いつかなくなっていた。
 そしてその間に、瑞々しい太股の上を滑った女性の指先が手すりに春香の右ひざを縛り付けていた拘束を解いてしまう。
「………?」
『黒い拘束具が白い肌に良く映えていたのですけどねぇ。ですが、座ったままではお客様に間近で見てもらう事もままなりませんし』
 膝に続いて、首の後ろで椅子の背もたれとつながれていた両手首も自由にされる。
 無理な体勢を取らされ続けた手足には力が入らない。両腕を肩からだらしなく垂れ下げ、痺れる右足を前に投げ出した春香はしばらくぶりの身の自由を感じながら、それでも自分の手足で身体を隠せない事にじれるような恥ずかしさが込み上がってくるのを押さえられない。
「ふっ……ぅ……」
 両腕が使えるようになったのだから、その気になれば猿轡も外せるはずだ。けれど唇を塞がれている息苦しさで思うように回復できず、酸欠になっているのか、靄がかかったように意識もぼんやりとしてしまっている。その中で視姦から逃れようと太股をすり合わせ、愛液にまみれた股間をすぼめるけれど、その恥らう仕草は逆に見ている人の興奮を煽り立てるものだという事にすら春香は気づけないでいた。
『なにをしているんです。お客様がもっと見たいとお待ちかねですよ』
「んんっ………んんぅ………」
 これ以上恥ずかしい思いをしたら死んじゃう……まるでそう駄々をこねるみたいに、クビを左右に揺らす。
 しかしだからと言って、ケーキ屋の主人も辱めの手を緩めるわけではない。
『では仕方がありませんね。当店の店員にお客様の前まで運ばせましょうか』
 その言葉に合わせ、唐突に春香の肩へ柔らかく、暖かい感触が押し付けられた。
「――――――ッ!?」
 シロップを塗り広げられた春香の肌に吸い付くような感触、それは同性の決め細やかな肌をした乳房のものだ。この場にいるのは春香と、春香にシロップを塗りたくっていた女性だけ。彼女もまた自分と同じように全裸であり、その彼女と身体を密着しているのだと気づくと、自分がどのような状況に置かれているのかも忘れ、背筋を震わせてしまう。
 それに押し付けられている膨らみは、春香に負けず見事なボリュームを誇っている。大きさでは敵わないものの、明らかにGカップ以上はありそうな大きさに加え、春香の身体を押しのけようとするかのような見事な弾力だ。指を食い込ませて揉みしだけば、さぞかし極上の感触を与えてくれる事だろう。
 そしてそんな見事な膨らみが、春香の肩に押しつぶされ、歪に、けれどいやらしく形をゆがめている。春香を椅子から立たせようと背中と胸の下に腕を回されてより身体を密着させ合えば、シロップをローション代わりにしてヌチャッとした音を響かせて肌と乳房とが艶かましく絡まりあう。
「…………ッ」
 外から見ている通行人たちには、ずっと全裸で巨乳の女子学生に蜜を滴らせていたこの美女のことも見えていたので、二倍に興奮を煽られていたわけだが、春香は別だ。突然の肌の密着に、羞恥心とは別の昂ぶりが大きな胸の奥から込み上がる。男性と身体を重ねるときに感じる嫌悪感や拒絶とはまるで違う感情の発露に困惑しながらも、まるで隣にいる彼女の身体からかもし出される甘い香りに虜にされたかのように、春香は促されるまま真に椅子から立ち上がり、ほんの一歩だけ前に踏み出してしまう。
「んんんゥ!!!」
 その瞬間、冷たい感触に触れた乳首から電流を流されたみたいな甘美な刺激が乳房を突き抜ける。
 前に突き出した豊満な乳房、そしてさらに前に突き出した大きな乳首が触れたものは、外と内とを隔てる分厚いガラスだ。うっすらと目隠し越しに見えていただけで距離感まで掴めていなかったため、唐突に敏感な場所に触れた硬いガラスの感触に、へたり込みそうなほどの衝撃を受ける。ましてや横の女性に意識を向けていればなおさらだ。
「んん…んうゥうぅぅぅ〜……!」
 目を前に向ければ、これまで黒くぼやけた輪郭でなかった人影に目鼻の位置まで見て取る事ができる。声も熱も届かないものの、よりはっきりとした視線を意識してしまうと、ヴァギナがキュッと緊縮し、反射的に後退さろうとしてしまう。
 だがそれは許されなかった。力の入らない右足では身体を支えるだけで精一杯であり、女性が春香の背後に回り、今度は背中に張りのあるバストを押し付けて春香をガラスへ優しく押し付けたからだ。
「んふゥ………!」
 陥没していた乳房の中から露わにされた乳首が、押し戻されるように膨らみがガラスに押しつぶされる。粘り気のあるシロップにまみれたバストは磨き抜かれたガラスにびったりと張り付き、まったいらに押しつぶされた突端を外にいる人々に見せ付けていた。
「んううぅ! んんっ、くゥウぅぅぅん!」
 ガラスに鼻先に触れそうな位置で、春香が悶え泣く。
 背後から抱きついてきた女性は、通信機の付いていないほうの春香の耳に舌を這わせながら、指先をツプリと春香の膣口に押し込んでいた。自分の身体も小刻みに上下に揺すって春香の背中に柔らかい膨らみと、その中にある小さな乳首とを擦りつけながら、しなやかな指先がヴァギナの浅い部分の硬さを揉み解すように掻き回していた。
「んゥ、んゥ、んゥ〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 ガラスに両手を突き、春香がその肢体をビクビクと戦慄かせる。
 濃厚な愛液にまみれた花びら一枚一枚にまで女性の指先は這い回り、奥まで肉壁を掻き分けられる。耳たぶをついばまれ、くすぐられ、そのままうなじに唇が滑り落ちていっても、前と後ろから身体を挟まれては逃げようが無い。10センチと離れていない至近距離から欲情した眼差しを浴びせられているというのに、グイグイと乳房を押し付けるようにしてガラスにシロップを塗りたくり、その中で乳首を転がし、視姦される羞恥と女性の手で導かれる官能の板ばさみで気が狂いそうになってしまう。
 もしこれがどちらか片方だけなら……人目に肌を晒されるか、女性の手で身体を弄ばれるだけならば、まだ羞恥心に飲み込まれるだけで済んでいたはずだ。しかし根本の部分は真逆。だから二つの羞恥心の狭間に置かれた春香の意識は矛盾の中で困惑する。
 「イヤ…」という感情と、
 「もっと…」という興奮とに。
「んぅううううううううゥ〜〜〜!!!」
 張り詰めた乳房がさらに押しつぶされて身体の横からはみ出すほどだ。小刻みに震える指先にクリトリスを転がされ、Gスポットを抉り抜かれると、弛緩する暇も与えられずに収縮するヴァギナから蜜液がポタポタ床に滴り落ちてしまう。けれどそれとは別に、春香が感じるほどに股間の奥で徐々に高まっていく圧力がある。
「んフゥ! ンンぅ! んィ、ンゥ――――――!!!」
 ガラス越しに乳首を叩かれるコツコツと言う音が聞こえてくる。
 ガラス越しに春香と口づけするように舌を這わせてくる。
 ガラス越しに春香のグチャグチャになった股間を覗きこんでくる。
 それら一つ一つの身の毛もよだつ辱めを前にして、それでも春香は女性の指先によって快感のスロープを駆け上らされていた。
 蜜と汗と涙と涎。そこには凛々しい女学生の姿はどこにもない。恥骨が跳ね、蜜壷が煮えたぎり、ガラスに蜜にまみれた裸身を擦りつけながら全身を波打たせる……そんなイヤらしい女に春香は成り下がっている。
 けれど自分の股間を責め立てる指を締め付けるのをやめられない。どんなに恥ずかしくても、この快感を振り払うことなんて出来はしない。蜜道が大きくうねり、一気に絶頂まで駆け上る……そう思っていたら、
「ンイィいいいいいいいいいいぃ〜〜〜〜ッ!!!」
 押し付けた乳房を春香の乳房に滑らせるようにしてその場にしゃがみこんだ女性が、春香のヒップを両手でグイッと割り開く。そして細く尖らせた舌先をドリルのようにして、キュッと窄まった蜜まみれのアナルにツプリと突き刺した。
「んウウウッ! ヒッ、んウぅ、んヒッ、イッ、ンッ、ンうゥ――――――!!!」
 頭の中が真っ赤になっていた。
 拘束前にお尻の穴も綺麗にさせられてはいたが、それでも自分の身体の仲で最も汚くて、他人に触れて欲しくない排泄のための穴だ。その場所に今、同性の舌先がねじ込まれ、さらには中指を根元まで押し込まれていた。どれほど春香が気丈であっても、猿轡を噛み締めながら真っ赤にした顔をイヤイヤと振りたくるほどの恥ずかしさに責め苛まれるのも仕方がないというものだ。
 だというのに……春香が最も恥ずかしさを感じているのは、お尻の穴を責められているのに、イヤなのに、やめて欲しいと思っているのに、ヴァギナを昇りつめる寸前にまで追い込んだ指先に直腸までもが感じてしまっているという現実にだった。指が引き抜かれるたびに排泄にも似た感覚が全身を襲い、ねじ込まれれば粘膜を擦り上げられる快感をむさぼるように直腸管を締め上げてしまう。
「ンウぅ、ヒウんゥ、んクゥウゥゥゥゥゥ!!!」
 挿れられているのは細い指が一本だけだというのに、かなりキツい。それなのに快感は容赦なく春香の神経を突き上げる。アナルを掻き回され、窄まりのシワにまで舌を這わされ、もう理性が保てなくなった春香は人が見ているのも意識しながらも、放置される羽目になってヒクヒクと狂おしく戦慄いている股間へ手を滑らせていた。
「んっ、んうゥ、んうゥ! んんっ、んイッ、ん、んん、ッ、―――――――――ッッッ!!!」
 直腸の中で腸液が奏でる卑猥な音を響いた瞬間、淫唇からは塊のようになった快感が一気に爆ぜていた。
 どれほど辱めを受けても必死に保とうとしていた理性が跡形もなく崩壊し、これまでの自分が、ずっと大切だと思ってきたものが、全て牝の快感という名の快感美に塗りつぶされる。
「んッ……! く……、〜〜〜〜〜〜………!!!」
 迸った絶頂液が、前後に跳ねる腰の動きに合わせて床に、ガラスに、そして後ろにいる女性に浴びせかけられる。やがて、快感の本流を全て迸らせた春香は、ガラスにすがるように、ゆっくりとその場に崩れ落ちていった。
 そして甘く優しい香りに包み込まれると、春香の意識はゆっくりと暗闇の中へと落ちていってしまう。
 最後に一言……「おつかれさま」と、耳元で囁かれながら―――
































 −*−


 春香は花粉症である。
 葉塚市では特に粘膜に対して花粉が作用してしまうため、いつも異常に過敏になってしまう。唯一とも言える対処法が同じ花粉症の男性の精液だけと言われ……前日のケーキショップでの辱めに続いて、春香は通学バスの中で頭の先からつま先に至るまでザーメンまみれにされて登校することとなってしまった。
 このような女生徒に対しては、一時限目に出席する代わりに、シャワー室を使用する事が認められている。
 本来ならば汚れた制服や下着に対しても、学園および市側からクリーニングのされた物を支給されるのだが、特待生である春香の制服は豊満なバストを強調し、よし大きく肌を露出させた特別仕様だ。
 普通の制服だと胸がキツすぎるための特注という理由もあるのだが、それゆえに学園に制服のストックがないという事態もたまに起きてしまう。
 そのような場合、全裸で授業を受けてもらうという案もあったのだが、今日に限っては授業に入っていない教師が制服問屋まで取りにいき、それを直接彼女にまで届ける事となった。
「―――間に合ってよかった。シャワー終わったところみたいね」
「あ……先生、すみません」
「渡会さんが謝ることじゃないわ。わたしが自分からとりにいくて言ったんだし」
 運動部などが使うシャワールームに隣接した更衣室で春香が身体を拭っているところに、新しい制服を手にした女教師がやってきた。
 名前は……よく知らない。彼女の受け持っている学年が春香とは違うからだ。
 ただ、彼女は学園はおろか、葉塚市内でも美人過ぎる女教師としてちょっとした有名人だ。だから顔ぐらいは知っているけれど、
「あの……昨日のことは気にしないほうがいいよ。今日のこともだけど……」
「ッ―――!」
「ごめんなさい。気を悪くされるかもしれないけれど……わたしには、こんな事しか言えないから……」
「………制服、その辺に置いといてください。急がないと、二時限目にも間に合わないんですけど」
「あ、そ、それもそうね。急いでいるところ邪魔をしちゃってごめんね。それじゃ」
 丁寧に折りたたまれた制服を手近な場所に置いた女教師は、慌てて踵を返して更衣室を後にする。
 扉が閉まりきる間際、「気づいてないみたい…」と安堵している姿が見えたが、春香は何も言わずに背を向けていた。
 そして扉が閉まり、更衣室に独りきりになると、
「気づかないはず……ないじゃない」
 ケーキショップで気を失った後、意識のない春香を部屋まで連れ帰ったのは女性だという。
 夜のニュースで、自分と一緒にいたのが普段は教師をしている女性だと知った。
 それに少しだけ囁きかけてくれたあの声を忘れられるはずがない
「名前ぐらい……聞いとけばよかった」
 女教師が胸に抱きしめていた新しい制服には、彼女の匂いが移っている。
 身体を拭い終え、下着とセットになった制服を手に取った春香は、熱を帯びた顔をそっと制服に押し付けていた―――


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