第2話「イッターチーム出撃せよ!」


  広大な敷地を持つ棹止研究所、その敷地内にあるグラウンドに、三人の少女達の姿があった。  みな、体操服にブルマーというスタイルである。  敷地内にあるうっそうとした森の木々の間では、セミがやかましく鳴き交わしていた。 三人は、課題として  与えられた一日十キロのランニングを終え、汗まみれで息を整えている。  いきなりの合格発表から一週間、クラブの合宿のような雰囲気の中で、三人は基礎体力作りに励んでいた。  栄養管理の行き届いた食事と、各種トレーニング、始めに感じていた、何だか怪しい雰囲気は、最近感じなく  なっていた。  ごく真剣な、パイロットの訓練の様だった。  三人はロッカールームで汗に濡れた体操服を脱ぎ、シャワーを浴びてから予備の体操服に着替えて訓練室の前に  集合していた。 「今日から新しい訓練が追加されるって言ってたけど、どんなのかな?やっぱり、カプセルに入れられてがーって  回されるのかな?」  心配半分、期待半分の表情で緑が言う。陽気な彼女はチームのムードメーカーになっていた。 「ふっ、パイロットの訓練としては、まあ、そんな所だろうね」  壁にもたれて腕組みした葵がつまらなそうに言う。 「葵ちゃんはわくわくしない星人なの?」  緑はあおいの顔を覗き込みながら言った。 「何なの、その『〜星人』っていうのは?」  茜は数日前から気になっていた緑の口癖について質問していた。 「えっ!あたしの地元の学校だとよく言うんだけどな、『今日は疲れた星人』とか『腹へリラ−メーン食べたい星人』  とか・・・」 「はあ・・・わたしは初めて聞いたな」 「ふっ、一種の方言だよ」  相変わらずの姿勢を保ったまま、葵はクールな口調で言った。 「訓練の準備が出来た、訓練室に入りなさい」  スピーカーから棹止の声がした。 「おっ、本格的だ!」  部屋に入るなり、緑が嬉しそうに言う。  室内は、三機のシミュレーターが置かれていた。  戦闘機のコクピットをそのまま持ってきたような感じだが、内部は非常にシンプルな構造をしていた。  座席の前にジョイスティック型の操縦桿があり、足元にはペダルが二つ、後は数個のスイッチと、液晶モニターが  あるだけの何だか玩具っぽい構造だった。 「これがイットマシンの操縦シミュレーターだ。では、早速訓練を開始する。各自、所定のマシンに乗り込みなさい」  モニターをチェックしていた棹止の言葉に従い、三人はそれぞれの機体に乗り込んでいた。 「・・・今回は体操服スタイルで乗り込んでもらうが、実戦は違うぞ」 「ふっ、おそろいのパイロットスーツがあるんだね」 「・・・まあ、おそろいといえばおそろいなんだが・・・」  棹止は言葉を濁した。 「おっちゃん、安全ベルトとかしなくていいの?」  座席にシートベルトの類が一切無いのに気付いた緑が問う。 「シートベルトは必要無い。イッターのコクピットは完璧な耐衝撃性を持っている」 「ふうん、なんだかんだ言いながら、結構ハイテクなんだ」  茜は意外とまともなコクピットだったので安心していた。 「では、プロテクトヘルメットを被せるぞ」  棹止の声と同時に、フルフェイス型のヘルメットが頭上から降りてきて装着された。 「では、諸君、驚かずに訓練を受けてくれ、決してパニックに陥らないように」  棹止の言葉になにやら良からぬものを感じたと同時に、それは始まっていた。  のっぺりとした壁面から、ウナギ位の太さの触手がうねうねと生えてきた。触手は壁面と同じ色艶をしていたが、  くねくねと柔らかく蠢いている。 「やだ、気持ち悪ーい、おっちゃん、何なの、これ?」  次第に自分の身体に迫ってくる触手を見た緑が声を上げていた。 「それは、イッター線によって変質したコクピットの内壁だ。生物の生殖行為を模倣する性質がある」 「せ、せ、セイショクコーイ!!!」  そういう事への耐性が全く無い茜は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。  生殖行為の意味ぐらい、茜も知っているし、人間の場合、『エッチ』というのがそれにあたる事も知っている。  学校の性教育の時間で、自分も『エッチ』の結果生まれてきたのだという事を教えられてから数日間は、  親の顔を見るのさえ恥ずかしかった。 (いっその事、クローンとかアンドロイドの方が良かったのに・・・)  なんて思ったりした事もある。 「ちょっと、博士、それじゃあ私達、やばいんじゃないんですか!?」  葵が珍しく強い口調で言う。 「心配要らん!今回はイッター線の照射量をごく控えめにしてある。たいしたパワーもテクも無いよ」 「テクって・・・ひゃああ!」  茜は悲鳴をあげていた。伸びてきた触手の一本が、脇腹をつんつん突付いていた。 それが合図だったかのように、数本の触手が、色んな所をつんつんし始めた。  まだ発展途上の胸、きゅっと引き締まった太腿、脇腹、腰骨のあたり・・・。  それはただ、柔らかな突起で突付かれているだけに過ぎなかったが、恥ずかしがり屋の少女にとっては、  明確に『エッチな意思』を感じさせながら突付いてくる触手に激しい嫌悪を感じていた。 「やああっ!来ないでえええっ!」  茜が叫んだ途端、触手が何かに弾かれたように後退していた。 「おお、羞恥力フィールドが発生したぞ!しかもこの数値の高さ、やはり見込んだ通りの子だったな」  凄く嬉しそうな棹止の声がスピーカーから流れる。 「えっ?羞恥力フィールドって何ですか?いま、触手を弾き飛ばした力の事?」  触手が触れてこなくなった事で落ち着きを取り戻した茜は質問していた。 「そうだ。羞恥心で一種のバリアーを張る装置だよ。それで触手から身を守りながら、イッターは戦わねばならない。  そのバリアーがある限り、触手は君達に触れる事は出来ないんだよ」 「ねえ、おっちゃん、あたし達にはバリアー無いの?うひゅうううっ!」  触手に敏感なうなじをこちょこちょされて、緑は妙な声を上げていた。 「恥ずかしがるんだ!羞恥心が一定レベルを超えれば、羞恥力フィールドが発生する!」「ふっ、そういう事か、  しかし、この私をこの程度の触手で恥ずかしがらせる事など出来ひゃわわぁ!」  迫り来る触手を手刀でびしばし迎撃していた葵の隙を突いて、二本の触手が体操服のすそから潜り込んでいた。  脇腹を這い上がった触手はスポーツブラの上から、結構豊かな葵の胸を下から押し上げるようにして突付き始める。  体操服越しに、突き上げられてぐにぐにと動く胸がとっても卑猥だった。 「や、止めろっ!わはあっ!」  一本の触手が、葵のスポーツブラの下に潜り込んでいた。  乳房のラインに沿って這い登った触手が、小さな乳首を擦り上げる。  その刺激に乳首が硬く、大きくなるのを感じた葵の背を羞恥心が駆け抜ける。 「止めろおおおおおっ!」  葵が叫ぶと同時に、スポーンと、弾かれた触手が服の下から抜け出していた。 「おお、葵君の数値も予想以上だ!あれだけ密着していた触手を弾き飛ばすとは・・・」「はあ、はあ・・・ふっ、  こ、このぐらい、私なら出来て当然ですよ・・・」  羞恥に赤らんだ顔を少し引きつらせながら、葵は言った。 「お、おっちゃん、あたしだけちょっと変な事されてるよぉ!」  緑が泣きそうな声を出す。  彼女の言葉どおり、触手は足元に集中していた。  水泳で鍛えた緑の脚は、脚フェチなら思わずほお擦りしたくなるような脚線美を持っていた。  小麦色に日焼けし、すらりと長く引き締まった脚は、日本人とはとても思えなかった。 触手にもそれが判るのか、  脚ばかりを集中的に狙っている。かかとからふくらはぎにかけてをねっとりと舐めるようにしながら巻きつき、  ひざの方へと這い登っていく。  全ての触手がそうしているので、緑のひざから下は、触手でぐるぐる巻きにされていた。恥ずかしさよりも、  なんだか間抜けな感じがして嫌だった。 「緑君、恥ずかしがるんだ!」 「そ、そんな事言われても、この状況って、余り恥ずかしくないし・・・あ、ちょっと恥ずかしくなってきた」  触手はひざを越え、引き締まった腿に達しようとしていた。 「うう・・・ううううっ、恥ずかしビイイイイイイムッ!」  絹のように滑らかな内腿に触手が触れた瞬間に緑は叫んでいた。  一瞬で振り解かれた触手が、コクピット内を乱舞する。 「よしっ!大成功だぁ!」  ガッツポーズをする緑。 「酷いじゃないですか!こんな触手が出て来るなんて一言も言わずに!」  シミュレーターから出た茜は棹止に詰め寄っていた。 「言ったら君達は搭乗拒否をしただろう?」 「当たり前です!」  尚も叫ぶ茜を、少し悲しげに見ながら、棹止はぽつりと言う。 「爬虫人類にさらわれた女性達は、もっと恥ずかしい事をされているんだよ。彼らは、一部の人々には  『アバンダン=デロ』と呼ばれて恐れられる非常に好色な生物なのだ。・・・かつて、地上に一大文明を  築いていた彼らは、快楽を追及する余り、禁断の力、イッター線に手をつけた。無制限にイッター線を増幅し、  放射した結果、彼らは淫欲に支配され、数千万年の間、地下で乱交パーティーに耽ってきた。  しかし、さすがにそんなに永くやってると、刺激に乏しくなる。そこで、彼らは自分の相手を出来る高等生物を  狩る為に、地上に姿をあらわしたのだよ・・・って、聞いてないのか?」  茜は、『好色』とか、『淫欲』という言葉が出た時点で、自閉症モードに入ってしまっていた。  耳をふさぎ、目まで閉じて部屋の隅にうずくまっている。 「ふっ、私達は聞いてるよ、続けて」 「そうそう、『続きは有料です』とか言わないでよ」 「いや、それはさすがに言わないが・・・彼らは人間狩りの為に、組織的抵抗排除用の巨大兵器を送り込んできた。  それがエロザウルスなんだよ。そして、彼らに対抗できるのはイッターロボだけなのだ。明日から、少しずつ  イッター線を強めながら訓練を受けてもらう。イッター線が強まれば、それに比例して触手もより強力に、  淫蕩になってゆく、気を引き締めてかかってくれ!」 「・・・ちっ、とんだ貧乏くじだったみたいだね」  葵が舌打ちして言う。 「そんな事は無いぞ、君達は日本を守る為に選抜された恥辱のエリートなのだ!」 「おっちゃん、恥辱のエリートとか言われても誰も喜ばないよ」  緑の的確な指摘。 「・・・もう、いやらしい話は済んだ?」  ようやく茜が復帰してきた。 「ふっ、聞いてなかったあんたの為に要点だけ話してあげるよ。私達は、あの触手のエッチな攻撃に耐えながら  敵とも戦わなきゃいけないらしいよ・・・」           (2) 「いやああああああっ!」  茜の叫びとともに発生した羞恥力フィールドが、股間をまさぐろうとしていた触手を跳ね飛ばしていた。  あれから一週間、次第にいやらしく、執拗になってゆく触手を羞恥力フィールドで防ぎながら、飛行、合体、  戦闘までを行う一連のシミュレーションを、もう数百回、三人はこなしていた。  最も羞恥力の強い茜がリーダーとなって、使用頻度の最も高い空戦形態のイッター1のメインパイロットとなる。  クールで瞬間的な判断力に優れた葵が陸戦形態のイッター2、水泳が得意な緑が水中戦形態のイッター3の  メインパイロットになった。  その間に、三回、エロザウルスが日本各地に現れ、数百人の女性がさらわれていた。 「諸君、いよいよ実戦に出てもらう事になった。今までの訓練の成果を存分に発揮し、恥ずかしさを一瞬たりとも  忘れる事無く、戦ってもらいたい」  バスローブのような物を身にまとい、複雑な表情を浮かべて立っている三人の少女の前で、棹止は重々しい口調で  述べた。 「敵のデータを教えておこう、現在、東京に接近中の敵は三体。幸いにも移動速度に差が有る為、各個撃破が可能だ。  まず、真っ先に侵攻してくるのが、非行型のエロザウルス、コードネーム『ノゾ』、超高性能のスコープを搭載し、  獲物となる女性を探す偵察型の機体だ。次にやってくるのが陸上型のエロザウルス『クバ』こいつは背中が楔の  ように尖っているのが特徴だ。そして、最後に水中をやってくるのが『バイ』こいつは、恭子を・・・わしの娘を  陵辱した憎き奴だ。尻尾が強力なバイブになっている。気を付けたまえ」 「・・・なんだかロクでも無いのばっかり・・・」  茜はつぶやく。 「では、各自、イットマシンに乗り込んで待機、十五分後に発進する!」  三人は言われた通りに自分達のマシンに乗り込んでいた。  まだ、イッター線は照射されておらず、コクピットの壁面はのっぺりした金属のままだった。 「敵、飛行タイプが迎撃ラインに入った、イッターチーム、出撃せよ!」 「りょ、了解っ!」  半ばやけくそで叫んだ少女達は、次々と発進していった。 「うううっ、恥ずかしいよぉ・・・」  コクピット内で、茜は既に羞恥全開だった。  確かに棹止の言ったとおり、『おそろいの』恰好だったが・・・。 「裸だなんて思わなかったよぉ!」  叫びとともにさらに強まった羞恥力フィールドが、群がる触手を弾き飛ばす。  一応、視界は確保されているのだが、視界の隅ではうねうねと蠢く触手が、乙女の柔肌を嬲る機会を狙っている。 「よし、合体だ!訓練どおり落ち着いてやれば必ず性交・・・もとい成功する!」 「了解っ!チェインジイッター1、スイッチオン!」  大きな声で叫んで音声認識ロックを解除し、茜はフロントパネルの『1』と描かれたボタンを押した。 「ポチッとな」  ボタンが押された事を知らせる音声が流れる。なんだか凄く間抜けな確認音声だった。 合体が始まった。  まず、三号機と二号機が合体し、手足がにょきにょきと生えてくる。 その体勢で、前を飛ぶ一号機にぬるっ、  と突っ込み、合体成功!  機体が変形し、ポニーテールの長い髪が生えてくる。  スカートが風に翻った。  そこには、セーラー服姿の美少女ロボの飛行する姿があった。 「合体成功!敵を補足しました。これより戦闘に入ります!」  いきなり数と勢いを増した触手にちょっとビビりながらも、茜は気丈に振舞っていた。 前方に翼竜を思わせる  敵の姿。  ついに、イッターは爬虫人類との本格的な戦いに突入していった。 続く  次回予告:ついに始まった人類の反撃、イッターは三機のエロザウルスを見事撃破出来るのか?  次回、「激闘!三大エロザウルス」


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