第3話「戦場にかける恥(後編)」


 「発進するのだ〜」  ミリーの元気な声とともに、四人を乗せた小型宇宙船、エロイサンダー号は中継ステーションを離れて  宇宙空間に飛び出していた。 「・・・今回の任務を説明しておくわ。ターゲットは、最近急激にその勢力を拡大してい謎の犯罪組織、  ラビアコネクションの幹部の一人が率いる戦闘部隊を撃滅し、その幹部を捕らえてお仕置きする事。  アンジェリーナはそう言いながら、コンソールを操作して幹部の顔写真を映し出した。「げっ!」  その写真を見たキッドが顔を引きつらせる。  写真には、一組の男女が写っていた。亀甲縛りにしたデブ男を、ボンテージスタイルの妖艶な美女が  いたぶっている写真だった。 「あの〜、写真、間違ってませんよね?」  キッドの問いに。 「ターゲットは女の方。ラビアコネクション第十七戦闘部隊の隊長、通称、レディS。Sが何を意味するのか、  判るわね?」 「ええ。嫌になるほどはっきりと・・・」 「で、男の方は、アステロイド資源調査委員会の副委員長。今ではすっかりレディSの下僕よ」  写真が切り替わった。 「うげぇぇ!」  キッドが再び死にそうな声を出す。  そこにはレディSの『聖水』を浴びて夢心地になっているデブ男の姿が映し出されていた。 「凄いですねぇ、こんな写真、よく撮れましたねぇ」  アユミが間延びした喋り方で賛辞を送る。 「ふっ、十五台の隠しカメラのおかげよ。レディSの悪事を暴いたら、これをネタに委員長からたんまり  口止め料をいただいて、それからこの映像に眼張りを入れてネットで流して・・・う〜ん、たっぷり  儲けられそうね・・・」  アンジェリーナは電卓モードに切り替えたPDAで何やら計算し始めた。 「・・・ちょーっといいですか?アタシ達って、正義の味方ですよね?」  キッドの問いに。 「ふっ・・・私達はお仕置きチームよ」  アンジェリーナは答える。 「だから、正義なんですよね?」 「だから・・・お仕置きチームなのよ・・・細かい事は言わないでね、キッドちゃん」  アンジェリーナの眼の奥にこわ〜い光を見たキッドはこの件について突っ込むのは止す事にした。 「で、話を戻しましょうか、レディSは、この先の暗礁空域で、対立する武装組織と戦闘準備中よ」 「それは好都合ですね。お互いを噛み合せて、戦力がボロボロになった所で一気に叩けばOKですからね」  そう言うキッドに。 「甘いわね。敵集団の中にも結構な数の賞金首が居るのよ。そいつらをむざむざと星の屑に変える事は無いわ。  みーんないただいちゃいましょう!」  アンジェリーナはそう言ってほくそえむ。 「す・・・凄い・・・宇宙最強クラスのがめつい奴・・・」 「はぁ?なんか言った?」 「い、いえ・・・凄い激戦になりそうだな・・・って」 「心配無いのだ〜、エロイガーは無敵なのだ〜」  ミリーが元気に言う。 「エロイガー?」 「そうよ。この宇宙船が変形して、巨大ロボットになるの」  アンジェリーナはそう言って胸を張る。 「巨大ロボットって・・・せいぜい二十メートルかそこらじゃないですか。宇宙突撃艇でもそのくらいのサイズ  はありますよ」  宇宙船のサイズを思い出しながらキッドは言う。  多少変形したぐらいでは、それ以上大型にはならないだろう。  小惑星運搬業者の使っている掘削ロボの方が大きいぐらいだった。 「もっと大きくなるのだ〜。宇宙戦艦並みのサイズなのだ〜」  操縦桿を握るミリーが振り向きながら言う。 「って、事は、追加パーツがどこかに用意されてるのね?」 「そんなもの無いのだ〜、巨大化するのだ〜」 「はぁ?」  キッドは、ミリーが実は電波系の人だったんじゃないかと思い始めていた。 「巨大化って、あんた、大昔のヒーロー番組じゃあるまいし・・・」 「本当なのよ。わたしの父親が、ある人と一緒に開発した勃起合金エレクターXがこの機体には使われてるのよ」 「ぼっ!勃起合金ですとぉ!?」  すっかり『驚きお姉さん』となってしまったキッドの裏返った声が船内に響く。 「ええ、人の絶頂感をエネルギーとして、質量を増大させる超合金。その強度はチタニウムの数百倍、理論上、  破壊不可能な金属なのよ」 「ちょっと待った!破壊不可能な金属をどうやって加工するんですか?」 「だから、普通の状態ではただの特殊合金だから、丈夫なのは確かだけど、普通の金属加工機で、十分に加工  出来るのよ。エレクターXは、女の子の絶頂エネルギーを与えられた時に始めてその真価を発揮するの」 「それでさっき、ミリーがあたしを・・・って、よく発見できましたね、そんな性質」  キッドの言葉を聞いたアンジェリーナはちょっと恥ずかしそうにしながら。 「そっ、それは、その・・・あれよ、偶然の発見ってやつよ・・・」 「そうなのだ〜、実験素材の置いてある倉庫の中で、アンジェがオナニーしてイっちゃったから偶然発見されたのだ〜」 「うわぁーっ!ミリー、あんなに内緒だって言ったのにぃ!」  耳まで真っ赤になって怒鳴るアンジェリーナの横で。 「ま、そういう事だろうとは思ったけどね・・・」  ポツリとキッドはつぶやく。 「コホン!・・・ま、まあ、そういう訳で、勃起合金の特性をフルに生かしたのがこのエロイサンダー号なのよ。  ただ、少々問題があってね、女の子の絶頂なんて、そうそう手軽には引き出せないでしょ。だから、実用化は  絶頂記憶合金アクメタルの開発まで待たなければならなかったの」 「ぜっ!絶頂記憶合金ですとぉ!」 「・・・お約束の驚きありがとう。・・・で、それを媒体に使ったのがあのベッドなのよ。アクメタルとエレクターX  の相乗効果で、エロイサンダーは何時でも望む時にアクメロイド形態であるエロイガーに変身できるの。  ね、凄いでしょ?」 「何が凄いって、ネーミングが一番凄いよ・・・」 「アンジェ、そろそろ現場に着くのだ〜。三次元スクリーンに現場の状況を表示するのだ〜」  ミリーの声とともに、球形の立体スクリーンに現場の様子が映る。 「げっ!旧式だけど、駆逐艦までいるじゃないの!あ、戦闘ポッドは結構新しいタイプが・・・両軍合わせて  二十機以上!アンジェ!これってあまりにも戦力でかすぎるよ!」  キッドがごくまともな意見を述べる。前方の暗礁空域でにらみ合っているのは、ちょっとした戦争規模の  兵器の群れだった。 「心配無いのだ〜」 「そう。キッド、あなたがしっかりやってくれれば心配無いわ」 「ほえ?それはどういう意味でしょう?」 「こういう意味なのだ〜、拘束フィールド作動なのだ〜」 「うわぁぁ!またこれかぁぁぁぁぁっ!」  あっという間にキッドは大の字に拘束されてしまう。 「で、これを被せてっ、と・・・よし、じゃあ、アクメロイド形態に変形するわよ」 「了解なのだ〜、快感情報リプレイ開始!」 「えっ!?・・・ふわぁぁぁんっ!あんっ!やぁ!つ、摘まれてるぅ!」  拘束されたままのキッドがいきなり艶かしい声を上げて身をくねらせ始めた。  さっきミリーにされたはずかしい行為の快感が、そっくりそのままキッドの体を襲っていた。否応無しに  絶頂への階段を上ってゆく自分の身体を、キッドは混乱しながら感じていた。 「あんっ、ふわぁ!」  クリトリスを執拗に擦る指の感触があった。先程と同じく、電撃を受けたように体がビクビクと痙攣する。 「感じながら聞きなさい。女の子の快感って言うのはかなりデリケートで、リラックスしてないとなかなか  イけないわよね。ましてや戦闘間近の状況では・・・そこで、あらかじめ記憶しておいた快感情報を  フィードバックして、イってもらうの。オルガロイドはエクスタシー状態の女の子と精神同調して変形するのよ。  凄いでしょ?」 「ひっ、あっ、あっ、すっ、すごいっ!あああんっ、そんなに擦らないでぇ!・・・」  キッドは聞いちゃいなかった。目の前が真っ白になる快感の激流に押し流され、絶頂という大滝に向かっていた。 「あ、撃って来たですぅ!」  甘い声で泣き乱れるキッドとレーダーを交互に見ていたアユミが叫ぶ。  本人は叫んでいるつもりなのだが、ホンワカした口調なので、緊張感が無い。  そうこうしている内に、数発のミサイルがエロイサンダーに迫っていた。 「回避するのだ〜」  ミリーが操縦桿を切り、回避運動を開始する。  信じ難い運動性と操縦テクニックで、全てのミサイルを回避していた。 「また来ますぅ!」  今度のミサイルは数がやたらと多かった。 「回避するのだ〜、避けて避けて避けまくるのだ〜」  普通の宇宙船ならバラバラになりそうな複雑な動きで、ミリーは数十発のミサイルを回避していた。 「回避完了なのだ〜」 「み、ミリー、よくやった・・・おげろげろげろ・・・」  誉めようとしたアンジェが激しく嘔吐していた。しっかりエチケット袋を持っている。  その横でアユミもダウンしていた。  ミリーの操縦テクニックは確かに素晴らしかったが、その動きに絶えられる人間はミリーだけだった。  ほんの一分足らずの回避運動で、アンジェとアユミは強烈な乗り物酔いでダウンしている。 「あれ、みんなどうしたのだ?」  ミリーは訳が判らずきょとんとしている。 「ふあぁぁぁ!イくっ・・・はぁぁぁんっ!イっちゃうううううっ!」  既に重力の感覚が失せていたキッドは、幸いにも乗り物酔いにかかっていなかった。  さっきの快感曲線を正確になぞって、キッドは真っ白な世界に飛び立っていた。 「おえぇぇぇ・・・変形、開始!」 「了解なのだ〜」  ミリーが変形レバーを操作すると同時にエロイサンダーが虹色の光に包まれる。 「イくのだ〜!エクスタシーマキシマム!アクメロイド、変形開始!」  虹色に輝くエロイサンダーは急速に巨大化し、人型に変形していった。  その姿は、ビサールファッションに身を包み、仮面をかぶった美女の姿をしている。 「ガンファイター形態への変形を確認!・・・きめ台詞、どうぞなのだ〜」 「うぇぇ・・・よしっ!」  ミリーの言葉に、アンジェは最後の気力を振り絞って叫ぶ。 「星の荒野に悪の花咲く時あらば、その花摘んで見せましょう!恥辱旋風エロイガー、悪を仕置きにただいま参上!  ・・・げろげろげろげぇ!」  最後はちょっとノイズが入ったが、きめ台詞とともに、そこには身長百メートルを越す巨大な人型戦闘メカが  出現していた。   続く  (次回予告)ついにその姿を現したエロイガー、その実力は?   次回、「第一次お仕置き大戦!」に、請うご期待!


第4話へ続く