読切「中学3年の葉須香−修学旅行での罰−」


※中学3年生の修学旅行の話になります。

「葉須香っ、鞄と手提げ袋、置いてきちゃったの?」 「え?あっ、バスの中に忘れちゃったぁ」  中学3年の葉須香は今、東京から修学旅行で京都観光にきており、4、 5人のグループに分かれて市内バスで京都の名所を巡っていた。  どうやら葉須香はバスを降りた際に手荷物を全て忘れてしまったらしい。  一見、おっちょこちょいな女子中学生な失敗なのだが、葉須香の場合は 度を超していた。  もうすでに、あちこちで忘れ物をしており、鞄は本日5度目の置き忘れ だった。  そう、中学時代の葉須香も忘れ物がひどかったのだ。  だけど、鞄と手提げ袋はこのあとですぐに葉須香の手元に戻ることにな る。何と後から降りたクラスの男子たちが回収してくれたのだ。 「葉須香ちゃん。ダメだよ、また忘れてるぜ」 「絶対、こうなると思って気をつけてよかったよ」 「ありがとう!ごめんね。また迷惑かけちゃって」 「いいよ、いいよ。これぐらい大したことねーよ。なあ?」「ああ、気に すんな」  そう、修学旅行では男子たちが葉須香の忘れんぼフォローに徹しており、 今のところ、全ての忘れ物が無事、葉須香の手元に戻っていた。  男子たちは別グループなのだが、葉須香が居る女子グループと一緒に観 光していた。これから行く目的地は清水寺だった。  葉須香の親友の鳴長(なりなが)みもりが地図を広げて道順を説明した。 「清水寺はあの坂を登って、左に曲がったところね。清水の舞台は本堂の 前だから絶対に見て写真もたくさん撮ろうね」 「うん、でも、坂がきつそうだね。みもりん、大丈夫?」葉須香は体力が ない鳴長に声をかけた。 「これぐらいは平気、平気っ!って葉須香、あんた鞄持ってないじゃない」 「え?さっき途中の店で生八つ橋食べたときはあったのに」 「おーい!葉須香ちゃん。鞄忘れてたから俺たちが回収しておいたよ。つ いでに買ったお土産も」 「…葉須香、あんた買ったものも忘れたの」「ご、ごめん。安西くんたち、 ありがとう!」 「気にすんなよ、葉須香ちゃん!俺たちがちゃんとフォローするから」安 西たちは笑って言った。 「いやいや、安西たちは怒ったほうがいいよ。初日から忘れすぎだよ、葉 須香」 「ぅぅ..反省してます」 「まあいいじゃないか!それよりも早く先行こうぜ」  安西たちはどうやら葉須香に好意を持っていた。もちろん、葉須香は気 づいていなかった。 「じゃあ、早く行きますか」鳴長は坂を登り始め、葉須香と幾つかの男子 グループも後についていった。  清水寺を見学した後、葉須香たちは再び市内バスに乗って、次の目的地 である金閣寺に向かう。  金閣寺は、鹿苑寺とも呼ばれる、日本の代表的な寺院の一つであり、金 色に輝く三層の建物は、池に映る姿が美しくて、外国からも多くの観光客 が訪れていた。 「本当に金色だね、金閣寺って」葉須香は感嘆の声をあげて喜んでいたが、 また手には何も持っていなかった。 「…まあ、いっか」(もう、安西たちが回収してるようだし..っていう か後からついてくる男子グループ増えたな..葉須香の忘れ物を分担して 各々持ってるし、葉須香の執事かよっ) 「そーなんだ。へえー、金閣寺って、足利義満という武将が建てたんだっ て」葉須香は横で話していた外国人の会話を聞いて鳴長に教えた。 「いや、英会話わかるんかい!」(忘れ物はひどいのに頭は良いんだよな 〜。羨ましい) 「あの〜、足利義満って、どんな人だったんですか?」  いつの間にか仲良くなったキャシーに葉須香が英語で聞いた。 「足利義満さんは室町時代の将軍で、今で言うと総理だった人よ。金閣寺 は彼の別荘よ」「そうだったんだ」 「いや、葉須香英会話上手だなぁ〜。っていうかキャシーさんの方が良く 知ってんじゃん」 「じゃあ葉須香。またどこかで会えたら声かけてね」「うん」  笑顔のキャシーを見送った葉須香は男子グループに「みんな、ここで記 念写真を撮ろうよ」と声を掛けてきた。 「いいの、葉須香ちゃん」「やったー、これは旅の記念になるな!」 「先生もあそこにいるし、頼もうぜ」  男子グループは先生を見つけ、声をかけた。 「先生、すみません。俺たちの写真を撮っていいっすか」 「ああ、構わんよ。じゃあ須和さんは男子たちの真ん中で!」  先生はカメラを受け取って指示してきた。  安西たちのグループを撮ったあとも幾つかの男子グループが葉須香を真 ん中にして記念写真を撮った。 「お前ら、みんなすごく幸せそうだな〜。顔に出過ぎだろ」と先生はシャ ッターを切っていく。  男子グループの笑顔が、金閣寺とともに写真に収まったところで「俺も 1枚頼むっ!」「いや、お前もかよっ!」と葉須香と一緒の写真を頼んだ 先生に全員からの総ツッコミが入った。  金閣寺を観光したあとも幾つかの観光スポットを見てから、葉須香たち はまた市内バスに乗って、宿泊するホテルに戻った。ホテルは京都河原町 にあって、繁華街の中心に位置していた。  グループのリーダーたちはホテルのロビーで、先生から部屋の鍵を受け 取った。 「みんな、今日はお疲れさま。部屋は男女別になっているから、気をつけ てね。夕食は18時からよ。近くの錦市場に行ってもいいけど、夕食には戻 ってね。それまでは、自由時間よ」  先生は注意事項を伝えて、解散を宣言した。 「じゃあ、葉須香ちゃん、また夕食で。あと手荷物は部屋まで運んでおく から」  葉須香が各地で忘れたものを先に部屋まで運んでいく男子グループたち。 「私たちは近くのセリア寄ってから錦市場に行こ」「うん」  女子グループはどうやら夕食まで近くの錦市場で買い物をするらしい。  まあ言うまでもないが、それに同行する男子グループももちろん居た。 (今日はあちこちで忘れ物をしたから、ここでは絶対に置き忘れしないよ うにしなくちゃ!)  固く誓いながら夕食までの買い物に行く葉須香だが、人混みの多い錦市 場で忘れ物をしないというのは難しく、結局は男子グループたちの世話に なってしまった。  ちなみに中学時代は高校の時のような日々のわすれんぼの罰は無く、忘 れ物をしたからって罰がレベルアップするというわけでもなかった。  夕食の時間になり、各グループは2クラス毎に時間を分けながら大広間 に集って食事をすることになっていた。  大広間には、たくさんのテーブルと椅子が並んでいて、それぞれのテー ブルには、京都料理が盛り付けられ、京都の伝統的な食文化を反映し、素 材の味を生かした繊細で美しい料理だった。  葉須香たちは自分たちのテーブルに着席し、料理に舌鼓を打った。 「どれも美味しそう。こんなにたくさんの料理があるなんて。どれから食 べようかな」 「そうだね。葉須香。でも、まずは先生の乾杯の挨拶を聞こうよ」 「はい。みんな、静かに。今日は、京都の名所を見学して、楽しい一日だ ったね。みんなお疲れさま。これから、京都料理を美味しくいただきまし ょう。では、みんなで乾杯!」  先生はグラスを持って、挨拶をした。 「乾杯!」グループは先生に合わせて、みんなもグラスをあげた。もちろ ん、中学生なのでグラスには、お茶やジュースが入っていた。 「じゃあ、いただきます」「うーん、美味しいっ!」「うまっ!」  みんな美味しい料理に手を勢いよく食べていく。料理は、豆腐や湯葉や 野菜や魚や肉など、さまざまな種類があって、どれもおいしかった。みん な、料理を口にしながら、一日の思い出を話した。 「清水寺の清水の舞台は、マジ良かった。高さが13メートルだって」 「俺、高いところが苦手だから、ちょっとビビったよ」 「私は、金閣寺の金色がステキだったわ。池に映る姿もばえたし」 「まあ俺は、お宝の金閣寺の写真がうまく撮れて最高だ。先生に感謝だよ」 「って、お前もその写真かよ。まあ俺も同じだけどな」  男子たちは葉須香と一緒に写った写真を見ながら喜んでいた。  そして、料理を食べ終えた後、先生は食事後のオリエンテーションを始 めた。 「みんな、ごちそうさま。さて、これから食事後のオリエンテーションの 時間だ。それぞれのグループから最低1人は前に出てきて、得意なことを 言って、それを見せていこう」  先生が説明を終えると、各グループが得意なものを披露していく。  歌やダンス、コントやスピーチなど、様々なものが披露される中、葉須 香のグループからは鳴長みもりが黒い大きな箱を持ってステージにあがっ た。 「鳴長みのりです。えっと、今年も得意のマジックを披露します」 「うおおおっ!マジか!今年もそれをやるんだ!」「最高じゃん!」  実は、去年の移動教室でもマジックを披露しており、その時のマジック を男子たちがものすごく期待していたのだ。 「いやいや、そんなに期待されても困るんだけど、まあ、やることは去年 と同じだけどね」「うおおおおおおお!それはヤバいぞおおお」「ああ、 至極たまらんっ!」「神様、仏様、みのり様、サイコー!!」 「そんな大したもんじゃないけど、始めるね」  鳴長はステージの奥に立っていた先生の1人を指さした。 「先生、このホテルは完全禁煙ですよ。風紀委員として、これは没収して おきますね」と箱に手を入れるとタバコを取り出した。 「おいっ!それ俺がさっき買ってポケットに入れたやつ..あれ無いぞ」  そう、これはただ箱から色んなものを出す単純なマジックなのだが、や られた方はかなり驚いてしまう。 「うわっ!先生、演技うまっ」「いや、これはマジで!」「先生いいっす」 「あと、この高そうなライターも没収しておきますね」「うおっ!無いっ」  今さっきまで尻のポケットに入れてたライターが一瞬で消えたことに焦 る先生だが、周りの生徒は演技だと思って拍手を送るだけだった。 「えっと、次はそこの男子っ!さっきの自由時間で四条河原町店で買って きたのかな?これ没収ね」と信長書店で買った怪しいDVDを箱から出して きた。 「ふおぅっ!何でバレたあああ!いや、紙袋から出してないのに..マジ」 「いやいや、お前も演技上手だなっ!」「わざわざ仕込んだのかよ」 「いや違うって..」とこちらも周りからは演技と思われたようだった。 「って、そっちの君は..この赤いTENGAかな..」「やめてくれぇぇ〜」  こうして種も仕掛けもある?風紀取り締まりマジックが大盛況で終わり、 鳴長がステージを降りてテーブルに戻ると、今度は同じグループの葉須香 がステージへあがっていく。 「うおおっ!今年もやっぱこのパタンだった!いいぞおおお」「待ってま したああ」「これが見たかったんだ!」  どうやら、先ほどの大歓声は鳴長マジックの後で葉須香が出てくること を待望していたものだった。  ホテルの浴衣を着た葉須香がステージにあがると、まずは今日の反省を し始めた。 「須和 葉須香です。今日は色んな場所で忘れ物をしてしまい、みんなに 迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」と頭を深く下げた。 「あ、明日は忘れ物をしないように、事の大きさをこれから実感します」  発言したあとに目で鳴長に合図を送ると、鳴長がテーブルの下から赤い 箱を取り出してきた。 「えっと、こっちにも注目。これは反省箱で、もし、これ以上はやり過ぎ だと思ったらみんなでブーイングをお願いね。じゃあ、まずはこれからか な」  鳴長が赤い反省箱の穴に手を入れて、何かを掴んで取り出してきた。  それはブラジャーであり、ステージに居た葉須香の顔が真っ赤になった。 「うーん。やっぱ、これぐらいじゃ反省にはならないね」と今度は穴から ショーツを取り出してきた。  焦る葉須香の態度に男子たちはまさかという表情で、疑問を口に出して きた。 「いやいや、ステージからめちゃくちゃ離れてるよな。これも演技だよな」 「まあ実際に無くなったかどうか確かめるわけいかねーしな」「ああ」 「いやお前らは去年を知らないから、そう言えるんだよ」「これからがマ ジすげーぞ!」 「さて、ブーイングも無いし、これも没収かな」と今度は穴から浴衣の帯 を取り出すと、驚くことにステージで立っていた葉須香の帯も消えた。 「やっぱ今年も最後までブーイング無しか〜。じゃあ、これも没収ね」  最後に赤い反省箱の穴から出てきたのは浴衣であり、同時にステージで 立っていた葉須香の浴衣も一瞬で消えてしまった。 「うおおおおおお!マジすっぽんぽんだああ」「今年も全裸かよっ!」 「いやあああ〜!恥ずかしい!見ないでぇぇぇ〜」  咄嗟に胸と股間を手で隠して、何とか恥部を見られることを回避した葉 須香はその場でしゃがんで丸くうずくまった。  必死で裸を見せないようにする葉須香を見て、鳴長は新たなマジック道 具を鞄から出した。それはマリオネットだった。 「次は反省マリオネットマジックの開演〜。まずは起立をしましょうね」  鳴長が丸くうずくまったマリオネットを立たせると、何とステージ上の 葉須香も立ち上がり気を付けの姿勢となった。  両腕が下がった状態なので、言うまでもないが、おっぱいも股間も丸出 しの全裸直立だ。 「葉須香〜、あんたから頼んだことなんだから、しっかりしなさい!」 「ぅぅ..みのりんのイジワルぅぅ〜」  顔を真っ赤にしながらも覚悟を決めた葉須香はこう自分から説明した。 「みんな、こ、これは自分からお願いした罰であって強制はされていませ ん。こんな恥ずかしい姿を見せるほどの今日たくさんの迷惑をかけたこと を反省しています。もし、明日も懲りずに忘れ物をし続けたら..私、須 和葉須香は明日のオリエンテーションでも..ぜ、全裸直立をいたします」  5分ほどの短い時間だったが、葉須香は男子たちの前で全裸を見せたこ とになる。高校生のわすれんぼの罰でも全裸直立までは長い道のりだった のに、今回は何故、いきなり全裸の罰だったのだろう。  それには大きな理由がある。高校生の頃と違って、羞恥心よりも迷惑を かけた後悔の方が強く、裸で謝ることで忘れ物が激減するのなら、そっち の方が良いと本人が思っていたからだ。  現に去年の2泊3日の移動教室でも最終日の忘れ物がほとんど無かったら しい。でも良く考えると、2日連続で全裸を晒したことになる。  そう、中学生の葉須香にとっては大事な旅行を自分の忘れんぼで迷惑を かけたことに、裸を晒す以上に心底恥ずかしく思った。  男子グループがわざわざ自分が忘れたものを必死に回収してたことに深 く反省した。 「みんな、ごめんなさい。私の忘れ物で迷惑をかけたのは反省しています」  全裸での謝罪に葉須香の声は震えていた。このあとで男子たちから怒鳴 られたり、罵られたり、いやらしく言われることも覚悟していた。  しかし、葉須香の予想とは裏腹に、男子たちは謝罪に対して、怒るどこ ろか、目を潤わせて感動したのであった。 「葉須香ちゃん、そんなこと気にすんなよ!俺たちが好きでやってんだか ら」(いや、こんな美味しい目に遭うなら、もっと必死になるぜ) 「明日もどんどん忘れてもいいぜ!」(いや、マジそう願う!) 「そうだよ、明日は笑顔で軽く今日も忘れちゃいましたってノリで頼む」 (って言うか、俺たち明日もおっぱい見たいんだよっ!) 「そうだ!明日は忘れたら自分からストリップな!」「えええっ!」 「あはは!いいなそれ最高っ」「いや、そんなの先生が許すわけないし」 「問題ない!俺が許すっ!」「先生っ!」「あははは、先生のお墨付きだ」  場が一気に明るくなり男子たちは、次々と葉須香に声をかけた。  やましい気持ちもあったが、葉須香の本気の謝罪に、心を打たれたのだ。 「やっぱ真っ赤に照れる葉須香ちゃん、サイコーっす」「うん、同感」  男子たちは葉須香の可愛さや優しさや清楚さに惹かれており、再度、葉 須香に対して、拍手を送った。 「ちょ、ちょっと、そんなに拍手しないでぇぇ」  男子たちの拍手と声援が、大広間に響いた。葉須香は、男子たちの反応 に驚き、男子たちの優しさに感謝した。 (もう絶対に!絶対に!明日は忘れ物をしないと誓うんだからっ!)  これで明日は忘れ物が激減して問題ないと思うのだが、やはり、それで も忘れ物を多くしてしまうのが、わすれんぼの葉須香だった。  3泊4日の修学旅行はまだ続くのだが、2日目のオリエンテーションでは、 鳴長の反省マリオネットマジックの力を借りて、約束したストリップを披 露してしまったのであった。