第6話「広報部特殊課」


「本当に〜ほんとっっっ〜にぃ!もう変な男が出ないんですねっ!」 「これで五回目じゃが..何回答えを言えば気が済むのじゃ?」 未だ、全裸の二人が地下の13課に向かって、幾つかのエレベータを 経由しながら移動している。 樹結歌は違うエレベータに乗り換えるたびに、さっきの質問を繰り返して きていたのだ。 「安心しろ。男を引きずって何か出来ると思うか?」 「そうなんだけど..ぅぅ..」 よく見ると紗未留の手には樹結歌を襲った3人の崎長社員の最後の1人 を気絶させて引きずるように持っている。 「そういえば..紗未留さんって、凄く武芸が達者なんですね」 「そうか..まあ、棒術にかけては、それなりに腕はあるぞ」 「もしかしたら、社内1強いんじゃありませんか?」 「・・・・社内1か..それは世界一よりも困難な事だな..」 急に険しい顔をする紗未留。どうやら紗未留にとって思い出したくない事を引き出して しまった感じであった。 「へっ?世界一よりって..そんなに凄い人がいるんですか?もしかして13課の 人たちですか?」 「まあ、13課も闘いたくない相手じゃな..奴らは奇想天外なものばかりだからな・・」 「そ・そうですか..はは」(紗未留さんも奇想天外のような気もするけど..) 「あれっ、今の話しからすると13課以外にも凄い人がいるんですか?」 「・・・・幾人かは思い当たる奴がいる..いずれは闘う時もあるかも知れぬ」 「あるかもって..ここ会社ですよね?うぅ..何かえらいとこに入社したような..」 「まあ、お主の13課の役割は我の様な武力ではないから安心せよ」 「本当ですか..」 「ともかく、今は服を着ないとな。先に姫美のとこに寄っていって服でも貰おう」 「姫美さん?その人も13課の人ですか」 「ああ、この時間だとサウナ室で汗を流してるはずだからな」 「サウナ?仕事中にサウナですか?」 「ああ、一応仕事はしているがな..さて、そろそろ走る準備でもしなければな」 「走る準備?」 「この先は一般社員が働いてるとこを通り抜けることになるからな。自分の裸を 見られたくなかったら全力で走ることだ」 「うそ..そんな殺生です〜。第一、紗未留さんは男の人を持ったまま走るんですか?」 「これぐらい大したことではない。では、いくぞ」 ガチャ。紗未留さんが目の前の扉を開けるといろんな人の声が聞こえる。 そう、本気で普通の社員が働いてる職場の中を通り抜ける気だ。 私が戸惑ってる間にも、紗未留さんはすでに疾風の勢いで、あっという間に通り抜ける。 結局は私1人が恥を掻くことになってしまうのである。 すっぽんぽんで職場の中を通り抜ける私は完全に恥女扱いになっていた。 あちこちから私をあざ笑う卑猥な声が聞こえてくる。 どうして、こんなストリートキングみたいなことをしなきゃならないのよ〜〜〜 私がそんな恥を掻いてる中、屋上では不穏な動きが再び起きようとしている。 そう、紗未留さんは崎長社員以外の男はそのまま屋上で失神させたままに したのである。 そう、そんなボロボロにされた樹凌会の男達が数十分後、次々と失神から目を覚めていく。 「だ・大丈夫か、みんな・・・ちくしょ・・・あのガキめ・・・」 「何とか大丈夫だ。どうやら1人は、あのガキに連れて行かれたらしい」 「崎長の社員か..13課の目的は奴を捕まえることだから..仕方ないだろう」 「どうする?こうなったら反撃といこうじゃないか。このまま無様に負けて帰れるかよ」 「・・・そうだな..玉砕覚悟に一気に責めてやるか..」 男達は失神している者を起こしながら、再び13課への攻撃を考えていた。 がしかし、そんな彼らの前に屋上の階段の扉が開き、その奥から4人の女性が 現れたのである。 「ん?何だ、あいつらは?13課の奴らか?」 「いや、崎長のOLみたいだ..どうする?」 「奴らを人質にとって責めてみるか。それなら勝ち目があるかもな..」 「くくっ、なるほど。そりゃいい考えだ。じゃあ、まずはすっぽんぽんにでもすっか」 男達の新たなる企みが始まる。だが、そんな男達を目の前にしている女性たちは どこか様子が変である。 そう、男たちがイった異臭が立ち上る中で平然として辺りを確認している。 まだ失神している男たちも居るというのに、その姿に全く動ずる様子はないのである。 「課長、どうやら13課の監視は既に切れてますね」 「崎長の社員も連れて行かれた様で残りは樹凌会のみです」 「そう、ご苦労様。しかし..紗未留ほどの子が、こんな中途な手加減をするとは.. 13課は相変わらず、甘い課という事ですね」 「そうですね..かって広報部No1の腕を持ってたなんて信じられないですね」 どうやら彼女たちは崎長商事の広報部のOLであり、その中に広報部課長もいる。 そんな彼女らについに、樹凌会の男達が一斉に襲いかかってきたのだ。 「へへへっーーそこの馬鹿女たち、俺たちが剥いてやんぜーー」 「俺のビックなイチモツを味わってもらうぜ!」 卑猥な大声を出しながら彼女たちに飛びかかる男達だが、何と彼女らの前で、その動きが 全て止まってしまう。 いや、いつの間にか彼らの体には無数の縄が縛られており、動きを全て止められて いたのである。 「ご苦労様、斗里」 「いえ、ところで、こいつらをどうしますか」 「まずは、何か言いたいかも知れないので、それを聞いてから判断しましょう」 課長らしき女性が、にこやかな笑顔を見せながら男達に近づいていく。 「・・・て・てめーらは一体、何者だ。13課の連中か!」 「13課?あんな甘い課と一緒にしてもらっては困るわ。私たちは広報部特殊課」 「広報部だと?何だ宣伝の姉ちゃんたちか。13課じゃなければ怖くなんかねーぞ」 「ずい分、勘違いしているようだから少しだけ説明してあげるわ。基本的には13課と 同じ、私たち広報部特殊課も下衆な男を排除するために設立されてる課よ」 「そんな情報、聞いたことねーぞ。デマカセ言ってんじゃねー」 「・・・なるほど、崎長の事を少しは調べたようね。13課は捕らえた男たちを懲らしめて 改心させるのが目的だけど、私たちは多少違うのよ」 「どういうことだ・・・」 「私たちは男に邪な考えを二度と起こさないようにするスペシャリストであり、13課は ただの甘ちゃんの集まりに過ぎないという事よ」 「そうかい..だがな、そんな口を聞いていられるのも今の内だぜ、馬鹿女」 縄で身動き出来ないはずの男が笑みを浮かべる。 その余裕の笑みの真意は、女課長の背面にあるエレベータの入口にあった。 何と、先ほどまで閉まっていた扉が開いており、あの斧の大男が新しい巨大な斧を 持って課長の真後ろに立っていたのだ。 「おい、そこの縄使い、こいつらの縄を外せ。外さないと、この女がどうなるか責任は 持たぬぞ」 「斗里、縄を解く必要はないですよ♪たがが、あんな紗未留に負ける輩など、ただの ゴミなのですから」 「はい、わかってます。桧村課長」 「ふざけんなっ!わしの斧をなめると、どうなっても知らんぞ!」 「さっさと振り下しなさい。さあ、どうしたの?木偶のぼうさん」 「いいだろっ!病院で後悔するんだなぁぁーーー」 巨大な斧が轟音をたてながら桧村課長の方へ襲いかかってくるが、その斧が突然、 木っ端微塵に粉砕される。 よく見ると、いつの間にか桧村課長の手には、ボロボロになった傘の柄が握られていた。 「せっかく、雨が降ると思って買った折りたたみ傘が台無しになったじゃない♪」 折りたたみ傘と課長は言うが手には既に柄の部分が少ししか残っておらず、大半の部分が 瞬時に消えてしまったことになるだろう。 そんな課長を見てる斗里の後ろにいた残りの二人のOLが気になる事を話し始めた。 「薙奈、今の課長の連撃、何撃数えた?私は23撃と見たか..」 「加田菜さんは、そう見えましたか..私は24撃と見えましたわ」 「・・・二人とも外れよ♪25撃よ。間違えた罰として今日の残業はどうやら決まりね」 「ちっ..25か」「少し数え間違えましたわ」 そう、わずかの間に25撃の剣撃を大男に与えていたのだ。 この光景を見ていた縄に捕らわれてる男達の顔は青ざめていく。 それは言葉では言い表したくない大男の悲惨な姿が映っていたからだ。 「い・いったい・・・今何をやったんだ..何なんだ今のはぁぁ!」 「今のは桧村課長の居合術ですわ。あれが安物傘でなかったら、きっとあの大男は もっと大変な事になってたかも知れませんね」 「安物傘は余計よ。斗里」 「すいません、課長..ところで、いつまで捕縛を続ければいいんですか。そろそろ厭きて しまいそうなんですか」 「もう解いてもいいわよ。私はこれから打ち合わせがあるから、後は任せたわ♪ 5分だけ時間与えるから片付けなさい」 「はい」「了解〜」「二分で充分ですわ」 そう言うと1人、課長は屋上の扉から社に戻っていく。 後ろで男達の叫びが聞こえる中、中途な柄を捨てて階段を下りていく桧村 伊愛。 先ほどの回数当てを思い出しながら、ひとり呟く言葉を出す伊愛であった。   「紗未留なら当ててたわね..13課に行かせるには勿体無い子だったわ..」 特社13課と同じ活動をしている広報部特殊課。 だが、男性に対しての考えは大きく異なり、何れは対立する両者かも知れない。


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