俺の妹が露出狂なわけがない 前編


 馬鹿兄(ばかにい)と数年呼ばれ続けて、最近ではそれが慣れてしまっ た俺。まあ、俺が馬鹿であることには変わらんし、妹の美緒が非凡すぎる のも素直に認めよう。  大体、平凡以下の俺に比べて妹は成績優秀、運動神経抜群、おまけに顔 やスタイルも良くて品行方正ときたもんだ。  逆に妹の方が俺のせいで迷惑しているのかも知れない。  まあ、兄妹として生まれた以上、仕方ないし、馬鹿兄程度の呼び方で許 して貰うしかないだろう。  最近じゃ、俺の両親も妹にしか期待を寄せてないが、俺にしては実に有 難い。厳格な両親の期待を背負うなんて俺には出来ないからだ。  特に真面目でネガティブA型代表の親父の期待なんか重すぎる。  毎朝、毎朝、鏡の前で髪の毛を必死に横に流すのは、いい加減やめてく れよ。どう隠してもハゲだろ?そんな不自然な髪型にしても正面しか隠せ ないカッパハゲなんだから諦めろよ。余計にハゲを強調しているようにし か見えない。  俺は馬鹿で結構っ!ほんと気軽だよ。馬鹿と言ったって、底辺を這って るわけではなく、赤点以上、平均点以下の馬鹿なんだから。  いつまでも、こんなお気軽な状況が続くと思ったが、ある出来事が起こ ってからは面倒な展開となってしまったのだ。  あれは俺が気分が悪くて高校を早退したときだった。そうそう、言うの を忘れてたが俺は高校2年で妹は1年で、我が妹様は校内では誰もが認める 天才美少女ぶりを発揮しているようだ。  まあ、校内では俺たちが兄妹であることはタブー?っていうか誰も兄妹 だと言っても信じてくれない間柄だ。  ガチャ。「ただいまぁ〜。って誰も居ないか..ん?俺宛に荷物?amoz on?アモゾンって..何だこのパクリ荷物は..」  俺の部屋の前に未開封の荷物が置かれている。いつも俺がネットで注文 したものをお袋が置くのだが、ここ最近は注文した覚えがないはずだが..  まあ、それよりもamazonに似せたこの怪しい荷物は一体何だ?  明からに何かを隠してるような..こういうのって中はとんでもないも のなんだろうな〜。 「やっぱり俺の名前に..住所も合ってるな..外にはamozonしか書かれ てないから開けないと返品できねーし。まあ、開けるぐらいなら..」  おそるおそる開けてみると3枚ほどのDVDが入っていた。 「DVD?何かの映画か、ドラマか?」が、タイトルを見た俺は思わず大声 で叫んでしまった。 「うおっ!AVかよぉぉ〜。それも何だよっ。露出女子高生の冒険って〜」  おいおい、何で俺のところにAVが送られてくるんだよ。これは返品す るにもどうしていいか分からないぞ。いや、その前にこれって誰が見ても 俺が注文したみたいじゃないかぁぁ〜。 「とりあえず落ち着け、俺っ!よく考えるんだ。これってカード支払いだ ろ?誰もが俺の名を騙って買えるわけないじゃないか!」  そう、後払いとか着払いなら他人が俺の名を使うことが出来るが、カー ドって身分証明がいるだろ?ましてや未成年の俺がカードなんて作れるわ けないし、デビットカードなら作れるが俺の名前の銀行口座を用意しない といけないし..これはいったいどういうことだ? 「っていうか、俺デビットカード持ってた記憶があるが..どこにいった んだって?まあ残高ゼロだったし、悪用されることはないと思うが..」  俺は現金主義なのでカードなんて外に持っていった記憶は無い。つまり は身内が俺の名を騙って買ったのか?AVを?露出狂DVDを?  親父か?いやネガティブA型代表な親父に性欲が残ってるとは思えない。  お袋か?いやいや自分で騙って買ったものを俺の部屋の前に置かないな。  ・・・まさか美緒?消去法で残ったとしても、絶対に有り得ないだろう。 「じゃあ〜。誰なんだよぉぉ〜!こんな俺がいかにも買いました的なもの 送りやがってぇぇ〜」  とりあえず、今は問題を先送りにしよう。これはひとまず隠して、少し ずつ手がかりを見つけることにしよう。 「まずはカードだな..」  その晩、家族で食事の際に俺はなるべくさり気無く、カードのことを聞 いてみた。 「そういや〜。俺ってデビットカード持ってた気がするんだけど..作っ たって?」「カード?そういや昔作ったかも知れないわね。まさか周一! あんた無くしたなんていう気なの?そうなったら大変よね。ねえお父さん?」 「そうだな。家の中で無くしたとしたも悪用される可能性も無きにしも非 ず!ちゃんと探して見つけるんだぞ」「はいはい..」 (この感じだと親父でもお袋でもないってことか..っていうことは)  俺の隣で箸をブルブルと震わしてる妹がいた。(おいおい..) 「どうしたの?美緒。食欲がないの」 「えっ?あ・あっ、そ・そうなの..ご、ご、ごちそうさまっ」  すごく気まずい顔をして急いで台所から逃げていく妹の美緒。  ちょっと待った..これって完全に黒ってことかぁぁ〜。  何か俺は相当不味い地雷を踏んでしまった気がするぞ..とりあえず、 否定をする方向で考えよう。うん、それが一番無難で今の状況を維持出来 る気がする。  食事のあと、俺はわざと大声で「そうだ。今日発売の週刊誌買んねーと」 と家を出て、家の外で真っ暗になってる俺の部屋がどうなるか観察するこ とにした。  美緒が黒だったら、この千載一遇のチャンスを逃すわけがないだろう。  俺としては正直なところ、何も起こらないで欲しい。そう願いたいとこ だったが、すぐに俺の部屋の明かりはつき、必死に家捜しをしているシル エットが映し出された。 「はぁぁ〜、まいったな。誰か俺に嘘だと言ってくれ..」  もうこうなったら仕方がない。兄として美緒に事の真実を聞くしかない だろう。  しかし..普通はこっそりと家捜しをすると思うんだが..美緒は思い 切り音を立て、俺の部屋にある物をあちこちに放り投げながら探していた。 「あの馬鹿兄っ!どこに隠したのよっ!マジムカツク!このこのこのぉ〜」  ポイッ!ポイポイッ!  俺が部屋のドアを開けたことにも気づかずに未だに俺の所有物をゴミの ように放り投げている。  って言うか、俺が帰って来た時にこの惨状をどうやって誤魔化すつもり だ.. 「・・・おい..おい美緒」「うるさいっ!声かけないでっ」ポイポイッ!  開き直りかよ?いや、いつもの美緒らしくない我を失った状態か.. 「美緒っ!俺の部屋だぞ!わかってるのか」「あっ!」  今さらながら俺が戻ってきたことに気づいた美緒だが、悪びれた様子も なく堂々と俺にこう言ってきた。 「ふんっ。辞書を借りにきただけよ。まったく、部屋が汚いから見つから ないじゃない。馬鹿兄!」  おいおい、俺は辞書をベットの下や押入れや本の裏にでも隠してると言 うのか?もっとマシな理由を言って欲しいものだが.. 「もういいわっ!馬鹿兄、そこどいて。辞書は諦めたから」 「おい美緒、まだ話はあるんだが..」「はあ?私は馬鹿兄と話す必要は ないんだけど」「・・・お前の探してる辞書って言うのはこれなんだろ?」  俺は服の中に隠していたDVDを美緒に見せてきた。普通ならここで驚く のだが、我が妹様はいきなり俺の頬にビンタしてきた。  バシィィーーン!「この変態馬鹿兄っ!これのどこか辞書なのよっ!妹 にそんなの見せて何が楽しいの?最低ぃぃっ〜」  おいおい..この状況でしらを通す気かよ..俺だったら絶対無理だ!  どんな名探偵でも、我が妹様を犯人にするなんて出来ねーんじゃないか? 「ぅぅぅ..馬鹿兄っ!馬鹿兄っ!馬鹿兄っ!馬鹿兄ぃぃっ!」はぁはぁ..  いや、ダメージは受けているのか?俺に弱みを握られたくないから我慢 しているってことか..  別に俺はどうするつもりでもないし、妹の弱みを握って何かをする目的 もないし、出来れば今回の件は見なかったことにしたいんだよ。  とりあえず、プルプル震えて困ってる美緒の誤解を解く方か先だな。 「・・・美緒、悪かったな。別に俺はお前を問い詰めるつもりはないから安 心しな。これはベットの下に入れて置くから好きにしてくれ」 「はあ?な、何で私が問い詰められるのよっ!ばっかじゃないの!そんな 露出女子高生、ドキドキ校内シリーズもん知らないわよっ」 「そうだな..」って言うか、内容知ってるじゃねーか..まあ、それは 聞かなかったことにしよう.. 「と、ところでさ〜..お、お、脅しなんて効かないわよ。馬鹿兄の言葉 なんて..誰も..誰もぉ..」 「おいおい、いつ誰が脅すなんて言った?大体、俺が妹を脅してどうする んだよ。冷蔵庫のアイスを寄こせとか、TVのチャンネル権を渡せとか言 うと思ったか?」 「はあ?アイス〜?TV〜?ばっかじゃないの!何、その小学生的な考え は?高校生にもなってそんなくだらないことしか思いつかないの?」 「悪かったな..ガキの考えで..まあ、お前の言いたいことも分かるけ ど、それこそ小説やドラマの話だ!世の中、あんな脅迫が通じると思うか?」 「・・・わ・分かってるじゃない!そ・そんな脅し通じないんだからぁ..」 「お前もしつこいな。俺はただ気味が悪かったから答えを知りたかっただ けで、事実が分かれば後はどうでもいいんだよ。それだけだ!」 「・・・ふーん、それじゃ..えっと例えばの話で..もしもってことよっ! もしも、私がエッチなものを買ってたら変だと思うでしょ?変よね!」 「いや..変じゃないと思うけど..」「はあ?私が変だから買ったって 言いたいのっ!」 「そうじゃねーよ。男も女もエッチなもの欲しがるのは健全ってことだよ。 それが露出だろうかSMだろうか、気にすることはねーと思う。お前はあ のネガ親父に影響を受けすぎだ。俺のクラスの女子なんて平然とエロ雑誌 見てんぜ」 「それは馬鹿兄のクラスだからでしょ!言っとくけど、少し興味があった だけなんだから..」「ああ、わかったわかった。もし、お前に露出癖が あったとしても何もする気はねーよ。逆にお前みたいな真面目な奴はそう いうことでストレス発散できればいいんじゃねーか?」 「!馬鹿兄っ。そ、そんなことでストレス発散できるわけないでしょ!も う私、戻るからね。いつまでも馬鹿に付き合ってやれないわ」 「はいはい。まあ俺は事実が分かればそれでいいや」  ふわぁぁ〜。何か俺としては少しホッとしたような..あのネガ親父み たいな馬鹿真面目な女にはなって欲しくなかったし、少しぐらいエッチの 方がいいんだよ。露出っていうのには驚いたが、何が好みかなんて個人の 自由だ。俺が口出すことじゃない。  とりあえず、俺は今回の件は一切知らなかったことにするから、後は上 手く誤魔化してやってくれよ。俺は馬鹿兄で結構なんだから。 「あっ、そういや本当に週刊誌買うの忘れてたな..まあいいかっ。明日 買えば..ふわぁぁぁ〜眠っ..」  一段落ついて、そのまま眠りについた俺なんだが、まさか強烈なビンタ で起こされることになるとは..  バシィィーーン!「馬鹿兄っ!いい加減起きなさいよっ!」 「???美緒?おい、何のつもりだ..今、何時だよ?」 「夜中の2時よ。だから起こしにきたのよっ」  何だなんだぁぁ〜。何で俺が夜中の2時に妹にビンタされて起こされな きゃいけないんだぁぁ〜!いったい、これはどういう展開だよっ! 「そ・相談があるの..私の部屋にちょっと来て」「相談?」  断るっ!と言いたいとこだが、断れば絶対もう1回ビンタが来るのは間 違いない!良く事情が分からんが、俺はフラフラしながら美緒の部屋に行 かなければいけないのだ。 「馬鹿兄!あんまり人の部屋見ると怒るからね」「はいはい..」  俺はいったい何をしてるんだ?何で夜中の2時に妹の部屋に居るんだ?  とりあえず、早く寝ないと明日絶対寝坊する。いや100%寝坊するっ! 「ところで相談って何だ?出来れば早く言って欲しいんだが..」 「・・・えっと..まずは確認だけど..わ、わ、私がエッチなもの..持 っても馬鹿兄としては変なことしないってことよね?」 「ああ、しねーよ。俺は近親相姦なんて興味ねーし、妹に欲情するほど、 欲求不満じゃねーよ」「そ・そうなんだ..嘘じゃないよね?」 「嘘じゃねーよ!」「嘘だったら、社会的抹殺してやるんだからっ!」  おいおい、実の兄貴を社会的抹殺って..どういう妹だ..  この雰囲気だと何かカミングアウトしたいってとこだな。仕方ねーな。 早く寝るには助け舟を出せってことか。 「美緒、何か俺に見せたいから、この時間に起こしたんだろ?ネガ親父に 見られたくないものぐらい、俺だって分かってる」 「・・・それなら..い、いいんだけど..えっと、見たほうが早いわね..」  美緒が鍵付きの洋服タンスをガチャガチャと開けると、意外な光景が俺 の前に広がった。 「!なっ、何だぁぁっ。そ、その洋服タンスの中身はぁぁぁ〜」  何と、洋服タンスの中には服が一切入っておらず、本やらDVDやら明ら かに女性が買うことがないエロだらけの秘密コレクションボックスになっ ていた。 「まあ..こういうことになったんだけど..えっと、やっぱ私のお薦め と言えば、この「沙智菜の高校日記」かな。女子高生の沙智菜ちゃんがド キドキハラハラな露出をするとこが気持ちいいかな〜。あと「露出女子高 生の冒険」も疼いちゃうの!こんなとこで裸になっていいのって叫びたく なっちゃうのよぉ〜。それから、こっちも・・・・・・」  えっと、妹が露出ものを明るく勧めてきた場合、兄貴の俺としてはどう したらいいんだ?  カミングアウトしてもいいと言ったが、ここまで開き直られると俺とし てはすごく困るんだが.. 「ところで美緒..これ全部お前が買ったのか?」「うん、そうだよ」 「うんって..こんなに小遣いないだろ?」「モデルのバイト代よ」  そうか..そういえば中学の時に街でスカウトされて、モデルのバイト やってたよな..って言うか、モデルのバイト代をエロに全投資かよっ!  まさか、ここまで俺の妹がエッチだとは思わなかったぞ..  もしかして俺は夢でも見てるのか?  どうしていいか分からない俺に気づいたのか、美緒がいつもの口調で俺 に忠告してきた。 「馬鹿兄、言っとくけど変な気を起こしたら警察呼ぶわよ!あと、私がこ ういう女だと思ったら大間違いなんだからねっ。そりゃ、こういう性癖も 潜んでもいると思うけど..絶対に変な女じゃないんだから!」 「・・・わかったよ。何度でも言うが、俺はお前がどんな性癖を持っていて も軽蔑はしない。普段のお前がしっかりしてればいいんじゃないか?」 「・・・い、意外にいいこと言うじゃない..そうよ。普段は露出癖なんて、 無いんだからっ!うん、そうよ!普段はしっかりしてるから..」 「ともかく、俺とお前はいつも通りってことでいいよな?まあ、困ったこ とが出来た際は兄貴として助けるから、それで勘弁してくれよ」  正直な話、これ以上踏み込んでいけない気がするぞ。俺は壁に思い切り 頭ぶつけてもいいぐらい、この記憶を全て失いたい。  何とか俺がこの場から早く逃げようとしたが、暴走妹はそれを許すはず はなかった。 「・・・言葉では何とでも言えるよね?困ったことがあるなら助けてくれる よね?なら態度で証明して」「態度?」 「そう..ちょっとでいいから手伝って欲しいの..」  そう言ってくる美緒の目つきが妖しく光る。俺はもうすでに大量の地雷 を踏んじゃったかも知れないぞ。


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