最終話「ナディアVS紅乃衣」


 ああっ、今回もとんでもないトラブルに巻き込まれてしまった紅乃衣です。  それも今度は前のエリザベスよりも、さらにおかしな展開になっている ので、まいっちゃうよぉぉぉ〜  ロシア忍者だが何だか知らないけど、私とは全く無関係なんだからねっ!    とりあえず、これ以上の危機的な状況は避けなくちゃ。 「あのぉぉ..私を倒したところで何もならないと思うんですが..」 「ふふっ、何を言う。お前を倒した暁には、念願である忍者道場をシベリ アの極寒の地で着工できるのだぞ!そうすれば、わが道場には多くの門下 生が集い、未来永劫、潤い続けるだろう」 「その通りですぞ。お嬢」  いや、その通りじゃないでしょ!シベリアの極寒の地に建てる自体、間 違えてるわよっ!  断言してもいいわ。誰もこないわよっ。そんな道場に。 「ふっ、服部 紅乃衣。どうやら、お主のその疑いのまなこからすると道 場なんて建てられないと思っておるなっ!」  ぎくっ「いえ..そういう風には..」  どっちかと言うと、建てる以前の問題なんだけど.. 「この霧隠ナディア、いつでも道場建設に着手できるように、常に節約を 心掛けて資金をためておるのだ!見よ。この道場設立資金缶を!!」  って言うか。それってよくある**万円たまる缶じゃ..  私に向けて道場設立のお金が詰まった缶を見せつけてきたのだが、ちょ っとだけ気になる点があった。 「あ・あの..ちょっと聞いていいかしら..」 「なんだ?あまりの立派な計画ぶりに驚愕して、コツを教えて欲しいのか」 「いえ、そういうわけじゃなくて..その缶って一杯になってから開ける のよね?」 「そうだ!当たり前のことを聞くでない」 「えっと..その缶の底..テープみたいの貼ってあるんだけど」 「えっ?」  えっ?じゃないわよ。結構、その底に貼ってあるテープ、目立つんだけど..  けど、本当に気づいていなかったらしく、ナディアがテープを急いで剥 がしてきた。  ぴらぴらぴらぁぁぁぁ〜〜(千円札が1枚だけ落ちる音)  テープを剥がして底を開けると、何故か千円札が1枚だけしか落ちてこ なかった。  って言うのか、節約して道場設立資金を貯めてたんじゃないの?  たった1枚のお金を見て、しばらく呆然としていたナディアが突然、テ ントに戻って何かを一生懸命、探し始めてた。  5分後..何やら人形みたいのを1体持って戻ってきたけど、私の方に は目をくれず、セバ・スチャンに向かって言葉を出してきた。 「・・・セバ・スチャン、これは何だ..」 「はははっ、よくぞ聞いてくださいました!それはフィギュアというもの ですぞ」 「そうか..フィギュアか..で、これをどこで手に入れた?拾ったのか..」 「はははっ、まさか!これほどの至極の一品、拾えるわけありませんぞっ!」 「という事は買ったのか..このフィギュアを」 「はははっ、ワンフェスとやらで猛者どもを押し飛ばして手に入れました ぞ!そのRINAHOちゃんフィギュアは天才造形師KO-TE-殿の至極の作品でし て、これを手に入れるためなら誰もが金に糸目をつけませんぞ!」 「なるほど..私にはよく分からんが、すごく高いってことだな?」 「はははっ、これが手に入るのなら金額など一切気にしませんぞ!それを 手にしたい者は皆、全財産をつぎ込むつもりで挑むのですぞ!」 「つまり..つぎ込んだってことか」 「はははっ、そうかも知れませんな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・売れっ」 「はい?何と言いましたか。お嬢」「売れ」 「はははっ、冗談がキツイですぞ。お嬢」 「売れっ!売れ売れ売れ売れ売れぇぇぇぇーー!」  涙くんだ目で売れの言葉を連発するナディアに笑い飛ばすセバ・スチャン。  全財産をつぎこんで、そのRINAHOちゃんフィギュアを手に入れたってこ とだけど一体どれぐらいの金額なんだろ.. 「セバ・スチャン..私がどれだけ我慢して道場設立資金を貯めてたのを 知っているだろう..それをこんな無駄なものに使いおってぇぇぇーー」 「はははっ、これは有意義な買い物でしたぞ。無駄ではありませんでしたぞ」 「無駄だぁぁーー!大事な道場設立資金を無にしおってぇぇぇーー!」  口に出したら怒られそうだけど、一言言いたいかも。  道場を建てる方もかなりな無駄使いだと思うんだけど、違うかな。  むしろ、そっちの方がまだ売ってお金に戻せそうな気がしそう。  とりあえず、今ふと思ったことは1つ! (今なら逃げられそうかも!)  そぉぉっと足音を立てずにこの場から少しずつ離れていくが、ナディア は気づくことなくセバ・スチャンを責め立てている。  あとはある程度、離れたところでダッシュして逃げるしかない。 (そろそろ走って逃げても大丈夫かな..)  ナディアたちに気づかれないように再び草むらの中に隠れて、急いで4 つんばいで逃げたのだが、何か私の頭にぶつかってきた。 「?あ・足..女の子の足..」「うつけめ。そう簡単に逃げられると思 ったか」 「うそ..ナディア..」「資金まで失った上に、お前まで逃げられた日 にはロシア忍者の評判は失墜してしまうからな」  いや..その前に誰もロシア忍者の評判をしていませんから.. 「せめてもの、お前だけでも倒さなくてはな。覚悟するがいい、服部 紅 乃衣!」  うそぉぉぉ〜、何か状況が悪化してしまった感じだよぉぉぉぉぉーーー。  こんな本格的な忍術を使う子なんかと戦えるわけないじゃないっ。 「あ・あのぉ〜、本当に私、忍術なんて出来ないんだから..だから戦い なんて..」 「ふふっ、その手には乗らぬ。なるほど、忍術を出来ないフリをしてこの 私に隙を作らせるつもりか?」「いえ、別にそういう意味じゃ..」 「よく考えてみると全裸で私の前に現れたのも忍具を身に付けてませんと 言ってるようだが、このナディアの目は誤魔化されないぞ」 「誤魔化すつもりはないけど..」 「日本のくのいちは敵に身包みを剥がされたことを想定して忍具を女の 穴に隠してると聞いたことがある。つまり裸でいるのは様々な忍具をい つでも出せるようにしてるということか?」  ちょっと待て。私のおま●こは4次元ポケットか..忍具なんて隠せる わけないでしょ! 「お嬢、気をつけた方がよいですぞ。おそらく短刀や手裏剣を潜ませてお りますぞ!」 「それぐらい言われなくてもわかっておる。うかつに近づけば短刀や手裏 剣の他にも忍具百式を出して私を倒すつもりだろう」  おいっ!どこの世界にそんなに武器を隠せるおま●こがあるのよっ!ど う考えてもおかしいでしょ! 「服部 紅乃衣、どうやらお前には霧隠秘術、筋肉増幅術が通じないよう だな..先に術を見せたのが失敗だったな」「はぁ?」 「とぼけるとこを見ると、やはり私がこの術でくるのを狙っておったな。 なるほど..あの鳶加藤もそれで敗れたというわけか」  あのぉ〜。何かすごい勘違いしてるようなんだけど..。エリザベスと はただエロい勝負をしていただけなんですが.. 「ふふっ、どうやら服部 紅乃衣を倒すには純粋なる忍者勝負でいくしか なさそうだな」 「お嬢、それじゃあの禁断の対決で...」 「うむ、セバ・スチャン。準備を頼むぞ」 「御意!では早速、呼びますぞ」ピュゥゥゥーーーー♪  セバ・スチャンが突然、小さな笛を取り出して吹くと何と大きなセント ・バーナード犬が2匹ほどやってきた。 「この犬は私がロシアから連れてきた忍犬だ。女が身体を触れようとする と犯すように訓練されておる」  それって、ただ発情が納まらないだけじゃないの.. 「見ても分かるが、この2匹の身体は汚れておる。そう、今から行う忍者 勝負はこの忍犬をどちらか早く綺麗に洗い終えるかだ!どうだ、実に恐ろ しい勝負だろ?」  いや..それってただの犬の身体を洗うのを競うだけじゃ..何かいつ ものパタンに近づいてきた感じかも.. 「ふふっ、服部 紅乃衣よ。この忍犬を甘く見ない方がいいぞ。こやつ等 は隙あればイチモツを突っ込んでくるからな」 「わ・わかったわ。早く洗い終えればいいってことね」  ううっ、これで妥協するしかなさそうかも..  正直、真剣な忍術勝負なんて出来ない以上、この犬洗い勝負をやるしか ないのであった。  とりあえず要注意をして挑まないと..バージンをセント・バーナード 犬に取られたなんていったら一生、悔いに残るよぉぉぉーー  けど、勝負が始まるとあっけない幕切れとなってしまった。  忍犬なんて言うから、どれだけすごい犬かとハラハラしてたけど、ただ サカリのついたセント・バーナード犬にすぎないじゃない。  犬好きな私にとっては、犬洗いなんて慣れたもんよ♪ 「く・紅乃衣ぃぃ〜〜。貴様ぁぁ、どうしてそんなに手なずけるのだぁ〜」  ハァハァハァッ!「こ・こらぁぁー舐めるなぁぁ〜入れようとするなぁ」  どうやらこのセント・バーナード犬たちってナディアの順位を下に見て いるのかも..  完全に犬になめられているようであり、はたから見ると大型犬に犯され ようとなってるロシア少女にしか見えないわね。  さすがに目の前で獣姦なんかされたら目覚めが悪そうだから、私はナデ ィアの犬に声をかけて自分の所に呼び寄せることにした。 「そっちのワンちゃんもこっちにいらっしゃい。ちゃんと洗ってあげるか ら。ほらっ、早く来なさいっ!」  ナディアの犬が私が洗っている犬が気持ちよくなってるのを見て、素直 にこっちへやってきたのだ。 「よし、いい子ね。あなたもちゃんと洗ってあげるからね♪」  くぅぅ〜んん〜。(こっちのワンちゃんも全然大人しいじゃない) 「服部 紅乃衣っ。何故、2匹の忍犬を大人しく出来るのかぁぁぁー」 「元々、大人しいワンちゃんじゃない?ちゃんと洗ってあげれば可愛いも のよ。ねぇ〜、ワンちゃんたち」くぅ〜んん〜。くぅぅ〜んん〜。  ガァァァーーーンン。「すでに我が忍犬が敵の手に堕ちたというのかっ」 「いや、別に忍犬じゃないし..落としたわけでもないし」 「お・恐るべし..服部 紅乃衣っ!こうなったら2人で一気に忍犬を取 り返すぞ!セバ・スチャン準備はいいか?」 「あっ!そのセバ・スチャンって人、フィギュアを持って逃走していった わよ。知らなかったの?」「な・なんだとぉぉぉーーー!」  セバ・スチャンに逃げられたことを知ったナディアの顔が蒼白となり、 おかしなことを言い始めた。 「紅乃衣っ、これも貴様の仕業だなっ!セバ・スチャンを上手く誘導した のか..まさか、ここまでのつわものとは思ってもいなかったぞ」 「いや..別に誘導したわけじゃないし、私は逃げたのを見かけただけだし」 「その手には乗らんぞっ!こうしている間にも私をどうやって仕留めるか を耽々と策を練っているのだろ!」 「策なんて練ってないわよっ。何度もいうように私は忍者じゃないんだから」  と言っても余計に私のことを警戒してきてるわね.. (う〜ん、どうしようか..下手に刺激して攻められたら大変だし)  ここはナディアがイメージする忍者になり切るしかないのかも。 「ふふっ、さすがロシア忍者。私に近づくとこの忍犬が襲いかかるのを見 抜いたようね♪」「なっ、やはり忍犬を使うつもりだったか」 「悪いけど忍犬だけじゃないわ。周りの木々を見なさい。聞こえるでしょ? 我がしもべの牙を剥く音が」「なっ..木々に?」  ナディアが辺りを見渡すとあちこちに止まっているカラスの鳴き声が響 きだした。まあ、それを見ておかしな解釈をしてくると思うけど。 「ま・まさか忍鳥か!カラスどもを手なずけるとは..恐るべし」 「ふふっ、奴らの口ばしには毒を塗ってあるわ♪もはや勝負が見えている わよ。大人しく降参しなさいっ」「ぐっ、ここまでか..」 (ふぅ。何とかここまでは上手くいったけど、まだ油断は出来ないわね) 「ナディアとやら、今日の勝負は引き分けとしよう。今日は私の方が有利 すぎたようだ。今度はもっと公平な立場で戦うとしよう」 「!ぅぅ..引き分けだと..ロシア忍者を愚弄する気か..」 「愚弄ではないわ。忍犬も返すし、良かったらフィギュアを取り返す相談 に乗ってあげるわ」「ほ・本当かっ、けど..ロシア忍者として..」 (なかなか手強いわね..もしかしたら、あの手でも行けそうかも..) 「引き分けにしたら、食事に招待してもいいんだけど..」「!!!」  食事という言葉にものすごい反応を見せてきたナディア。  やはりテント生活をして自炊しているナディアにとっては食べ物が一番 つりやすいかも知れない。 「今ならデザートもつけるわよ♪」「!!!!」 「お腹いっぱいになるまでご馳走するわよ♪」「!!!!!」 「お土産にケーキセットつき♪」「!!!!!!」  私の言葉に必死に我慢してるけど、嬉しそうな笑顔で涎を垂らしてると こを見ると、もう大丈夫かもね。 「ちなみに勝敗をつけたいなら今のはなし。私のカラスたちに貴女という ご馳走をあげることになるわ」「ううっっ!!」  ここまで言えば落ちそうなんだけど、まあロシア忍者にこだわってるか ら、体裁を作る必要もあるのかな。 「私も本気のロシア忍者と戦うと他国の忍者との戦いに差し支えるのよ。 ひとまず休戦ということで手を打ってくれないかしら?」 「休戦..そっか、そういうわけでの和解案か。それなら問題ないだろう」  何か必死に自分を納得させて引き分けを受け入れようとしているのを見 ると、これでひと安心かも知れない。 「どう?どちらが決まった?」「今回は引き分けとしよう。ただロシア忍 者として、こちらもそれなりの対価を渡そうではないか」 (いや..別に対価なんていらないんだけど..大体、何を渡す気なのよ?) 「ふふ、疑っておるな。紅乃衣の言いたいことは分かるぞ。見ても分かる ように物を渡すほどのゆとりはない」「・・・・・」 「対価とは情報だ!この私が持っているお前の情報を提供しよう。それな ら構わんだろ?」「わ・わかったわ」  私の情報って..ただの女子高生に何の情報があるっていうのよっ! 「実は私同様にお前のことを狙っている忍びがいる。柳生、百地、猿飛に 気をつけよ」「はいっ?」  ちょっとちょっとぉぉぉーーー、柳生、百地、猿飛って何なのよぉぉぉ!  まだまだ変な勘違い忍者が襲ってくるというの?  ううぅ..どうやら、しばらくはおかしな闘いが続くのかも知れない。  私の恥芸帳はこれからが本番となるようであった。 「もう、いやっ!!」 <完>


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