第8話「羞恥な撮り直し」


 衣愛代が熟睡している間に様々な羞恥な出来事が起こってしまった今回 の撮影だが、まだ全てが終わったわけではない。  これから、寝起きの撮り直しが開始されようとしていた。 「さあ、そろそろ撮り直しを始めましょう。今までの事は全て水に流して いきましょう」  本来なら一番怒る立場の作山が笑顔で声を掛けてくる。  そんな作山にプロデューサーが、衣愛代を起こしてない事に気付いて質 問をしてきた。 「作山さん。衣愛代ちゃんが、また寝てるけど起こさないんですか...」 「いや、今回は寝かしたままでいきましょう」 「えっ?寝かしたままで?」 「そうですね。どうせなら、少しお色気を出して撮り直してみませんか」 「お色気って?」 「この際、お尻を出すシーンまで再現してもらえませんか?そうだな。そ の後はプロデューサーがお尻が出た段階であわてて止める設定では?」  作山は何と自分からとんでもない提案をしてくる。  そんな提案に驚いてしまうプロデューサに作山が続けて、理由を上手い 具合に言ってくるのであった。 「衣愛代ちゃんも、そろそろイメージを変えていかないと言う時期なので 多少のお色気を出したいとこなんですよ」 「そうなんですか..けど、いいんですか?うちの様なバラエティでお尻 なんか出してしまって..」 「もちろん、派手に映されると困りますので、多少映る感じでお願いした いんですが」 「う〜ん、うちとしちゃそのアイデア、なかなか斬新的でいいんだけどい いんですか?本当にそこまでやって」 「大丈夫ですよ。今時のアイドルはそれぐらいしなくちゃ。それに早くし ないとうちの衣愛代ちゃん起きますよ」 「...わかった。それで行こう。学楽ばんびテイクすぐ取るから準備ね」  プロデューサが作山の提案を受けてテイク撮りに入る事になった。  こうして、学楽ばんびの2人のコントから撮り直しが始まり、コントの 終わった二人が衣愛代の寝室に入っていく。  寝室に入ると、そこには再び頭から布団を被っている衣愛代の姿が現れる。  二人は布団をかぶって足首だけ出してる衣愛代の姿を判断出来ない様な 演技を始める。  そしてカメラに向かって大声で喚くのだった。 「やいプロデューサー!俺達はそんなに馬鹿じゃないぞ!これはニセもん だろ!」 「そーだ、ニセもんだーニセもんだー」 「止めにかからないと凄いこと、やっちゃうぜー」 「そうだ。やっちゃうぞー、やっちゃうぞー」  2人はそう言うと、早速、衣愛代のベットに乗り、布団の上から軽く叩 くなどして、悪ふざけを始めてくる。  そして、いよいよ、下半身の部分だけ布団をめくるのである。  すると、そこには衣愛代の厚手のパジャマのズボン姿が露となってしまう。  この後は作山の提案したズボンおろしのシーンになるのだが、さっきと 違ってこれが本物の衣愛代だと知ってる二人はなかなか行動に移れず、ベ ットの周りを踊ったりして変な時間稼ぎを開始してきた。  実は内心では自分たちの馬鹿騒ぎに気付いて起きて欲しいという二人の 衣愛代を思いやる気遣いが出ていたのだ。  だが、結局は衣愛代は起きることなく、意を決した加山は下ろすことを 決めるしかなかった。 「こんなに起きねーなら、俺の狂犬ぶりをみせてやるぜぇぇー」 「おお、見せちゃえ。見せちゃえ」 「じゃあ、行くぜ。おらぁーー!!」ずりっ!!  加山はついに衣愛代のズボンをパンティと一緒にズリ下ろしてしまう。  再び、加山の手によってお尻が丸出しにされてしまった衣愛代。  さっきはこの後にお尻を叩いてた加山だったが、さすがに衣愛代とわか ってる為、そこまでは出来ず、代わりにある悪戯をしてからプロデューサ ーが止めに入ることになっていたのだ。  その悪戯を意を決して始めようとする加山が大声で喚く。 「お尻を出しても起きない奴は、こうしてやるぜぇぇーーー」  そう言ってポケットから何と油性マジックを取り出し、何と衣愛代のお 尻に堂々と”ケツ”の二文字を大きく書いてしまうのである。  だが、これだけでは終わらない。 「俺たちが書いた証拠を残してやるぜ。なぁ!」  加山がマジックを持って引き続きお尻の左側に自分のサインを書き始める。  プルプルと揺れる柔らかな弾力のお尻の上でマジックが上下左右に動く。  一見、楽しんで書いてそうに見える加山だが、実際は心臓の動悸が激し くてたまらない状態であった。  何故ならマジックの動きにあわせてお尻の肉が引っ張られ、時たま見て はいけないものが見えてしまうからである。  お尻の間から見える綺麗な縦筋の割れ目と肛門。  どちらも見事に整っており、ついつい見入ってしまうぐらいだ。 (やべー、早く書かねーと心臓がどーにかなりそうだ・・・)  見たい衝動を押さえながら、サインを書き続ける加山。  心臓が今すぐにでも破裂しそうなところで、ようやくサインが書き終わ り、声を上ずりながら、相方にマジックを渡したのだ。 「お・おい、おま・お前は右側に・・か・書いてやれ」 「お・OK、でっかく書いてやるぜ」  相方の藤本も加山同様に心臓の鼓動が激しく、息が上手くできないほど の荒れた呼吸の中でサインを書いたのだ。  こうして、お尻の左右の肉に2人のサインを書かれてしまう衣愛代。  何とも恥ずかしい状況になったところで、プロデューサーが慌てて止め に入る展開となり、撮り直しは衣愛代が寝てる間に無事に終わったのだ。  だが、まだ当の衣愛代は目が覚めず、結局、この後2時間を過ぎてから 目を覚ましたのである。  衣愛代は起きたとたん自分が本当に寝てしまった事に気づきあわてて時 計を見る。 「あ!!いけない撮影時間すぎてる...どーしよ..」  衣愛代が慌ててる中、近くの椅子に座っていた学楽ばんびが声を掛けて きた。 「おはよー衣愛代ちゃん、撮影は殆ど終わったよ。後は起きた後のコメン トだけだよ」 「ずい分、疲れてたんだね。もし良かったら顔を洗ってから撮らないかい」 「・・・い・いえっ..すいません..寝てしまって..」 (謝らなくちゃ・・・すぐに謝らなくちゃ・・)  学楽ばんびやスタッフを待たせてしまった事を謝ろうと、衣愛代は慌て てすぐにベットから出たのだか、その姿に何故か、学楽ばんびの方も慌て てしまう。 「い・衣愛代ちゃんっ!む・胸・・」 「お・おっぱいが・・・」 「えっ?胸?」  衣愛代は慌てる二人に言われて胸を見ると何と寝相が悪かったせいか、 左胸がぽろりと出ていたのである。  本来なら、ここですぐに隠したいと衣愛代だったが、待たせた事や寝て しまった事を謝る方が先決だと思い、何と隠さずに片ぱいを出したまま、 背筋をピンと伸ばしてきたのだ。  そして、背中を丸めずピンと伸ばした状態で腰を45度に曲げて謝罪を 始める。 「すいませんでした。以後、こういう事がないように気をつけます」  おっぱいを隠してから謝るのも出来たはずなのに、その恥ずかしさを捨 ててまで謝罪を第一に行った衣愛代にスタッフや学楽ばんびは感心をした。 「衣愛代ちゃん、俺らの方こそ謝るよ。なあ、藤本」 「ああ、すまない。衣愛代ちゃん」  今度は衣愛代の前で土下座をする学楽ばんびに衣愛代は驚いてしまうの だった。 「あ・あの・・・どういう事ですか?」 「それは・・その・・」 「実は・・・衣愛代ちゃんの・・」  なかなか言い出せない二人に作山が衣愛代のとこにやってきて説明を始 めてきたのである。 「実は衣愛代ちゃんに恥ずかしいことをしてしまったお詫びなんだよ」 「えっ?恥ずかしいことですか?」 「そのおかげで、番組的にはいいものが出来たんだけど、あとは衣愛代ち ゃんの判断待ちかな?」 「私の判断待ち?でも私、ただ寝てただけなのに上手くいったんですか?」 「ああ、上手くいったよ。説明してもいいかい?」 「はい..構いませんが..」 「実はね..」  作山は今までの流れを衣愛代に説明し始める。もちろん、それは撮り直 しの内容であって1番始めに起こった出来事ではない。 「という訳で、お尻が出ちゃったんだよ。衣愛代ちゃん」 「・・・うそ、そんな事になったんですか?」 「ああ、とりあえず実際にカメラで撮った内容を見てみるかい?」 「は・はい..」 「じゃあ、初めから見てみよう」  作山は衣愛代の前で撮り直した一部始終を全て見せることにしたのだ。  そこには確かにお尻を出されたシーンが映っているが、あんだけ騒いで 起きてこない自分に情けなさを感じる衣愛代であった。 (あんなに大声で踊りまわってるのに起きないなんて・・・脱がされても 仕方ないわね)  少し諦めて見ている衣愛代の前に次に油性マジックで書かれるシーンも この後、映っており衣愛代の顔は真っ赤となったのである。 (うそぉぉ・・・お尻に文字なんか書かれてる・・・これってまだお尻に サインが残ってるってこと・・ぁぁ)  顔を真っ赤にしながら衣愛代が全てを見た後で作山が再度、衣愛代に確 認をしてくる。 「こういう事なんだけど、どうする?これをTVで流してもいいかい?」 「・・・恥ずかしいんですが、私が悪いので流してもいいです」 「ありがとう、衣愛代ちゃん。この映像ではお尻は結構映ってるけど、実 際は出来る限りお尻のシーンは横向きのを多くするから安心していいよ」 「ほ・本当ですか?」 「ああ、だからそれほど恥ずかしがらなくていいよ。それなら構わないだろ?」 「はい、それでお願いします..」  衣愛代は自分が本当に寝てしまった負い目もあった事から結果として作 山を信じてそのシーンを流すのに承諾する。  承諾後は起きた後の衣愛代のコメント撮りを映して寝起きどっきりは全 て終わったのであるが、コメント撮りは始終、顔を真っ赤にしたままの衣 愛代だった。  その訳はズボンをパンティと一緒に脱がされた際、すぐにプロデューサ ーが慌てて止め、ズボンを穿かしてくれたのだが何とパンティを忘れてい たことなのだ。  つまり、撮影が終わるまでノーパン・ノーブラでいた衣愛代であった。  まあ、生地が厚いパジャマなので目立つことはないのだが恥ずかしいこ とには変わりはないだろう。  後はお尻に書かれた文字が気になった事も顔が赤かった原因である。  ちなみにお尻の文字は油性マジックだった為、1週間ほどは、そのまま 消えずに残っていたらしい。  こうして寝起きどっきりも無事?終わり、後日TVの放映をチェックし た所、作山の言う通り、例のシーンはそんなに出ておらず、出ていてもほ とんど横からでハイレグを着ていても同様なシーンが取れるレベルだった。  ただ脱がした数秒のシーンやマジックで書かれた数秒の時間は丸々見え てたがこれぐらいならしかたないと諦めるしかない。  今回、お尻を出して恥ずかしい目に遭ったが、また何故かこの後から学 楽ばんびがレギュラーでやっている2本の番組からレギュラー出演追加が 決まり衣愛代としては結果的には良いものとなった。  しかし、敏腕マネージャー作山にとってはまだ何かを考えている事を衣 愛代は知らなかったのであった。  そして今回の羞恥なハプニングがより大きなハプニングとかえってくる とは知る余地もないであろう。


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