第17話「羞恥のツイスター」


 男子社員へのワカメ酒が終わろうとしてた時、先輩OLが大きなマット を持ってきた。  マットには赤や青などの色の丸い円が描かれており、よく余興のゲーム で使うツイスターのマットであることは一目でわかった。  最後の1人が飲み終えると同時に先輩OLがカラオケのマイクを司会代 わりに使って何やら言って来たのであった。 「さあて、ごちそうも食べ終わった頃なので次はみんなで楽しいゲームを しましょう」 「おー待ってました」「ひゅー次は何を見せてくれるんだい?」  男性社員はすっかりワカメ酒で出来上がっており、会場はかなりの大盛 り上がりとなっていた。 「ではまずあれをご覧下さい。みなさんも良く知っているツイスターで使 うマットです。今からあれを使って楽しいゲームをしたいと思います」 「ツイスターか。誰がやるんだい?へへっ」 「もちろん決まってるよな。なあ?」 「いいえ、決まってないですよ。実は今回このゲームをやるにあたって部 長さん達、上の方々に賞品代をカンパしてもらってるんですよ」 「えー本当かよ?おい、かちょーいくらぐらい出したんだー」「まあ、か なり奮発したよ」 「そりゃ楽しみだぜ。で、どうすれば賞品がもらえるんだよ?」 「賞品は、このツイスターである一定の回数をクリアしてもらえればもら える事になってます。でもゲームですから負けたら罰ゲームをしてもらい ますが」 「なんだー、罰ゲームかよ?おれ1抜けたー」「おれもー」 「女子の方で誰かいませんか?豪華賞品よ。それも、たった1品の賞品だ けど」  マイクから聞えるそのおかしさに僕は気づいた。なぜ賞品が1品だけな のか?そんな僕の疑問に先輩が答えを出してきた。 「ふぅーまた始まったか。あの部長連中がカンパなんかするわけないだろ」 「先輩?何か知ってるんですか?もしかしてこれも?」 「豪華賞品につられた女子が恥をかく。下手なシナリオだな..」 「え?じゃあ、まさか渡部さんが...こ・この..」  僕が言ようとした同時に、女子社員の小さな声が聞え、それが渡部さん であることは間違いなかった。 「あのー新人の私が参加していいんでしょうか?」  台の上から顔を真っ赤にした渡部さんが弱弱しい声で言ってきた。 「おお、さすが期待の新人ですね。いいですよ。誰でも参加OKだから」 「じゃあ、喜んで参加します..」  渡部さんはその言うと、何とそのままの姿でツイスターが置かれている マットまで来たのである。  そんな渡部さんに向かって、司会のOLがわざとらしく質問してきた。 「渡部さん。1つ確認したいんですが、その格好でやるんですか?いいん ですか?」 「・・・はい。服はここに持ってきてないので...」 「ええ〜じゃあ、渡部さんって帰りはどうするの?」 「は・裸で会社に戻る予定でした..」 「おいおい。ついに露出狂宣言ってか?」 「襲われるとまずいから俺たちが送ってやるぜ。へへっ」  渡部さんの大胆発言で男子社員の歓声が大きく響いたのであった。 「意外に大胆ですね。じゃあそのままでいいんですね?」 「・・・はい。豪華賞品の為に全てを見せる覚悟です・・・」 「おお、結構意地汚い1面が見えましたね。でも負けたら罰ゲームですか らね」「はい..どんな罰ゲームでも受けます...」 「さすが新人、度胸がいいですね。じゃあ、負けたら裸踊りでもしてもら おうかしら?」 「はい..裸踊りをやらせていただきます..」 「素直な答えね..でもやっぱ、どうせなら、さっきのを繰り返すっての はどうかしら?」 「えっ?繰り返すって..さっきの?それってあの・・あの・・お酒です よね?」  さっきからあまり表情がなかった渡部さんが、急に慌てた表情を出して くる。  まるで打ち合わせとは違うというような表情にも見えてしまう。 「そうよ、ワカメ酒よ。とりあえずカンパした人にスペシャルなワカメ酒 を飲ますのってどうかしら?」 「スペシャル?何なのですか?それ?」 「あなたもウブじゃないんだからわかるでしょ?お酒をあなたのそこでく ぐらせて入れるのよ」 「え?あの、そんな事、私聞いてないんですが・・・ちょっと先輩」 「聞いてない?まるで私たちが芝居してるみたいじゃないの?変な事言わ ないでよ」 「先輩・・・そんなのって...裸踊りで最後って話しじゃ..」 「何を言ってるの?さあ、早く4つんばいとなってゲームを開始しましょ うね」「話しが違います..先輩!!」 「何、すごい顔してんのよ。豪華賞品を取ればいいんだから。ほら、早く マットにいきなさい」「・・・・わかりました」  渡部さんは何かをかみ締める様な表情でマットに行き4つばいの格好に なったのであった。  そんな渡部さんを見ていた先輩が気になることをいってきた。 「・・・彼女はすごいな..堕ちずに、もう自分を取り戻してきてるとは..」 「えっ?ど・どういう事ですか?」 「去年なら、そのまま堕ちてしまって素直に納得したままで、皆の前でよ がりまくったツイスターを見せたんだけどな..」 「そうなんですか?」 「ああ、そんな堕ちた彼女を皆がサポートして遊ぶ余興だったはずだが、 あんなにはっきりと精神を取り戻すなんて少し計算が違ってきてるな」 「でも..それじゃ渡部さんはここで負けて裸踊りを見せる気だったんで すか?」 「そうだろうな..これだけ痴態を晒したんだ。裸踊りで開放してくれる 約束なら引き受けるさ」 「そうなんですか..」 「ああ、去年の子はそんな約束を果たす前に快感に堕ちていたから、好き 放題できたが、これは久々の番狂わせってことか..」 「久々の?」 「過去にも1度、同じ状況があってな..まあ、それは後でゆっくり話し てやるよ」 「は・はい..」 「後は彼女がこのツイスターでどこまで行くかだ。ただのツイスターじゃ ないからな」 「ただのツイスターじゃないって..」 「見ればわかるさ。ほら」  僕は先輩に言われて、ツイスターのマットの方を見た。  ゲームは始まったが何か様子がおかしい風に見えて仕方ない。 「じゃあまず渡部さん。右足を赤、左足を青ね」 「え?先輩?矢印でそれを決めるんじゃないんですか?」  そうだ。渡部さんの言うとおり、僕が思った違和感とはツイスターのマ スを決めるルーレットがなかったのであった。  けど、ルーレットがないということはどうやってマスを決めるのだろうか。  僕や渡部さんが薄々気づいている事を司会者のOLが堂々と言ってきた。 「渡部さん?何言ってるの?豪華賞品がかかっているのよ。そんなランダ ムな方法で出来るわけないじゃない?」 「そんな・・・それじゃ作意的です..」 「大丈夫よ。ちゃんと複数のパタン用紙作ってそっから選んだんだから。 要はこの用紙に書かれたパタンを全部やればOKって事よ」 「・・・・・わかりました。右足を赤、左足を青ですね」  遠目から見てる僕にも..いいや渡部さんの近くで見ている男子社員た ちも気づいてきた。そう、パタンが進むにあたって次々と卑猥な格好を作 意的にやらされている事を。  どうやら渡部さんもだまされた事に怒ってる感じで先ほどとは違った真 剣な顔で次々とパタンをこなしていったのであった。  そしてマットを取り囲む様に男子社員は集まり、パタンをかえる度に下 品な掛け声を次々に浴びせ続けたのであった。 「渡部ちゃんー。綺麗ピンクだね」「その格好だと奥まで見えちゃうよ」 「ひゃぁぁーおま●こ丸見えだよーん」  さっきの渡部さんだとこんな掛け声に顔を真っ赤にして恥かしがってい たが、今はまるでどこを見られても平然としている様子であった。  そんな渡部さんを見て先輩が僕を納得させる答えを言ってくる。 「無駄だ。さっきあれ程、痴態を見せたんだ。今さら罵声など無意味な事だ」 「そうなんですか..」 「ああ、罵声もきかない上に彼女自身、さっきのでたまっていた欲求をほ どんど解消している。これぐらいの痴態じゃ動じはしない」  そう、先輩の言う通り男性社員たちの下品な声を無視しながら、何と渡 部さんはあと1つのパタンでクリアするとこまで続けたのだった。  だけど今のパタンがもっともひどいパタンになっており、足を極限まで 開かれた状態での仰向けブリッジとなっている。  それに加え男性社員の卑猥な声援も、ますますひどくなってきていた。 「渡部ちゃんー。お豆が見えてきてるよ」「お尻の放射線も可愛いよんー」  そんな渡部さんを遠目で見ていた先輩は僕に感心そうに言ってきた。 「けっこう、頑張るな。あそこまでいったのは久々だな」  僕はその時、ある事を思い出した。 「そうか。渡部さん。たしか昔新体操やってたって言ってた」 「!なるほど、そういう事か。意外にへたなシナリオどおりにはいかなか ったって事か」 「じゃあ、このままいけば渡部さんの勝ちなんですね」 「まあな、司会者の顔を見てもよくわかるぜ」  司会者の先輩OLも先ほどのゆとりの顔と違く悔しさがあちこちに現わ れ、もう打つ手が無いような顔をしていた。 「さあ、先輩、最後のパタンお願いします」辛いブリッジの状態で渡部さ んは先輩OLに屹然とした表情で言ってきた。 「・・・わかったわよ。じゃあ右足を・・・」  既に渡部さんに気負けした司会者があきらめて最後のパタンを言おうと した時、とんでもない助け舟がきてしまったのであった。 「あのー先輩♪そう言えばまだ豪華賞品の説明忘れてますよー」  いきなり別の先輩OLが大声を出し司会者の声を止めたのであった。 「!!そうね。ごめんなさい。説明がまだだったわね。えっと部長さんが 目録を持ってるんですよね?」 「!!おお、そうだ。そうだ。ちょっと渡部君。待ってくれよ。えっと目 録、目録」 「部長...早くお願いします。先輩、賞品は後でいいですから早く最後の」 「だめよ。あなただってここまで頑張ってるんだから。せっかくの賞品を 聞かなくちゃねー」  司会者の顔が先ほどとは違って元気を取り戻してしまったのであった。 「部長ー。早くー・・・・・」 「あっ!そうだ、そういえば課長、君にあずけたじゃないか?ほら、さっき?」 「!!そうですね。渡部くん。ちょっと待ってくれたまえ。目録・目録」 「課長...はやく...」 「あれ?よく考えたら係長、君に預かってくれって渡したよな?」 「!!あ、そうですね。えっと目録ですね...」  渡部さんの両手や両足はもう遠くから見てもわかるほど大きく震えてい たのであった。 「係・・・ちょ・・・ももう..」 「おお、渡部ちゃん。手足といっしょにここもぱくぱく動いてるよー」 「えさでも欲しがってるみたいだよー。えさやろうか?」  完全におもしろがってる男子社員の中、まるで全てを諦めたかの様につ いに渡部さんは床にくずれてしまった。 「あーあ、残念。あと最後の1つだったのに。そういえば思い出したわ。 結局、私が持ってたわ。ごめんなさいね」 「・・・・・」渡部さんはもう何も言わずそのままマットの上に疲れはて ていた。 「あら?疲れたのね?じゃあみんな罰ゲームを手伝ってあげてね」  渡部さんは先輩OL数人の手でまた例の台まで運ばれていってしまった。  そんな渡部さんの様子を先輩は悔しい表情で見ていた。 「ちっ..やはり相手の悪巧みの方が上手だった様だな。平ちゃん」 「渡部さん..」 「しかし、まずい事になってしまったな。平ちゃん」 「え?まさか先輩OLに逆らった事で何かあるんですか?」 「いや?それは問題ないだろう。あいつらだってそれぐらいわかってくれるさ」 「?じゃあ、何がまずいんですか?」 「部長の口を見な。下唇をやけに噛んでるだろ?あれはせっかくのゲーム を台無しになる1歩までされて怒っているんだよ」 「本当ですね。なんかまるで援交にだまされた中年親父みたいな感じですね」 「くくっ。平ちゃん。なかなかいいね。でもあの親父はもっと性質が悪いぜ」 「じゃあ、渡部さんに何かしてくるんですか?」 「間違いないな。きっと何かとんでもない手をしてくるはずだ」  僕は渡部さんをじっと見てる部長を見て恐さを感じた。  一体、これ以上何をしてくるのだろうと?


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